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56話 すみれの仕事ルーティーン

56話 すみれの仕事ルーティーン



「じゃあ、おやすみなさい幽霊さん。姉ちゃんも、仕事ほどほどにな」


「おやすみなさい太一さん。すみれさん、お仕事頑張ってください!」


 パチッ。リビングの電気が消え、太一と幽霊は布団をかぶって目を閉じる。それを小さく手を振りながら見届けたすみれは、台所にある机にパソコンを置いて座っている椅子の上で小さく深呼吸をする。


(兎にも角にも、まずは仕事を終わらせないとな。本番に行き着くことすらできなくなってしまう)


 パソコンの横に置いていたケースから眼鏡を取り出し、装着するすみれ。仕事モード突入だ。


 ちなみに、彼女は視力が悪いわけではない。ただ仕事の都合上パソコンを触る時間が長いため、ブルーライトカットの機能があるそれをつけるようにしているのだ。長方形のレンズに細い輪郭。すみれの顔に合わさると一気に仕事のできるお姉さん感が増して、雰囲気は先までと別物になっていく。


「……ああは言ったが。この量を数時間、か」


 すみれが残していた仕事。それは明日取引先へのプレゼンテーションを行うための資料の作成だった。


 発表の時全員の前にプロジェクターを使って表示する、グラフなども交えた見やすい画面。加えて、参加者全員に配る共通資料。その二つを今晩中に終わらせて、明日は取引先に向かう前にコンビニでその印刷をして完成だ。


 プレゼンテーションが始まるのは午後一時半。十時にはここを出て近くのコンビニで印刷、その後はそれを持って数キロ先の取引先へ電車で二駅揺られる。下調べ通りいけば、十二時までには他の同僚と目的地付近で合流して最終確認も兼ねたランチに迎えるだろう。


 だがこの予定は、そもそもの資料が間に合わなければ崩壊してしまう。共通資料の方は半分以上終わっておりあとは文体の確認と付け加えの文章を差し込んで終わりだが、発表画面の制作がまだ何も出来ていない。


……本当は本来眠っている時間にそんなものを作らなければならないというのは、苦痛でならないが。つべこべ言わずにやるしかない。それが社会人というやつだ。


「……よし。ドーピングするか」


 すみれはこのままシラフで行えば苦しむことになることを察し、立ち上がった。そして冷蔵庫を開き、ここに来た時に入れておいた二本の缶を手に取る。


 続いてキッチンからコップを一つ取り、そこに氷を入れてから、二つの缶を開けた。


 プシュッ! 心地よい音が鳴り、すみれは頰を緩めてそれらを半分ずつ、カップに流し込んでいく。


 一つは、エナジードリンク。カッコいいロゴが特徴的で、味の種類も豊富な大人気の「エイリアン」。徹夜といえばこれ。集中するといえばこれ。最高にハイになろうとするならこれ。何度も何度も学生時代からいろんな場面でお世話になった、親の顔と同じくらい見た最強の一品だ。


 そして二つ目は、アルコール飲料。名を「スーパーハイ」と言い、度数は九パーセントの少し強めのお酒。


 すみれは酒が強い方ではないが、人と付き合える程度には嗜んでいる。その中で一番気に入ったのがこのスーパーハイのレモン味。単体では少し味が濃く美味しくは感じなかったが、エイリアンと割ることで程よい味に落ち着く。おかげで最近はスーパーハイエイリアン割りを日常的に飲む習慣が出来上がっており、彼女はちょっとした中毒者になりつつもある。


「ふっふっふ。これさえあれば作業効率二倍。……勝ったな!」


 仕事仲間がこの光景を見たら、どう思うだろうか。取引先とのプレゼンの資料ともなれば、会社として今後を左右するほど大きなもの。すみれの手腕を信用して作成をお願いしたというのに、まさか前日の夜に酒とエナドリをキメながら作られるとは夢にも思うまい。


 だが、これまでにもすみれはこの戦法で何度も結果を残してきた。作業効率二倍、というのもされど妄言ではなく、資料を完成させる速度も、加えてその質も。普段よりも格段に上がっているのは、間違いのない事実だ。


「んっ……んんっ……ぷはぁ。元気、出てきたぉ!!」




 酔うまではいかず、ハイになって壊れるまではいかず。最強のバフを得て、すみれは一人タイピングを始めるのだった。

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