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第5話 美少女さん、こんにちは

 ガチャッ。ギィ……ぽすっ。


「ん……んぅ?」


 見慣れた天井、ベッド、枕元のスマホ。


(まだ、五時か……)


 早朝五時。太一は起床した。普段は一限から授業を入れてる日以外昼近くまで寝ている太一が、である。


 だが、当然だろう。先日あれだけの仮眠を取っておいて、プレゼントを渡すと消えてしまった幽霊のせいで、夜更かしすることなくまた寝てしまったのだから。むしろ寝すぎなくらいである。


「ふあぁ。なんか、物音したか?」


 そんな太一の眠りを覚ましたのは、少しの物音。何やら扉がゆっくり開けられ閉められる音や、小さな足音……そして、台所の方から聞こえた、ビニール袋の音。普段は目覚ましを死ぬほど鳴らしてようやく起きれるような太一だが、寝過ぎで眠りが浅めだった今朝に限っては、そんな物音を聞き逃さなかった。


「……はっ! もしかして!」


 音の正体に強烈な心当たりがある太一は静かに布団を跳ね除け、颯爽と台所へ走る。


 そして────


「幽霊さぁぁんっっ!!」


「ひゃぁぅっ!?」


 ゴミ箱に何かを捨て、その場を立ち去ろうとしていた幽霊と出会った。


「ゆ、ゆゆゆ幽霊さん、それっ!?」


「み、見ないでください! ちょっと、切りすぎちゃいましたから……」


 昨日までは自分の足で踏んでしまいそうなほどに長かった前髪は眉毛のあたりまでバッサリと切り落とされ、背中へと伸びていた後ろ髪や耳を完全に覆い尽くしていた横髪も、全てが標準サイズへと。ごく一般的な黒髪ロングをした美少女が、そこには立っていたのだ。


「か、可愛いです! しかも、俺があげたプレゼントまで身につけてくれてるッッ!!」


「違いますから! これはその、近くに丁度いいものが無かっただけですよ!」


 横に少し流れている左側の前髪にはヘアピンが三本、右手首には髪留め。どちらも気に入っていてこれからずっとつけようとしているくせに、幽霊は必死に言い訳を繰り返す。


 しかし太一には、もはやそれを付けている理由などどうでも良かった。大切なのは付けてくれているという事実。そして本当に髪を切ってくれたこと。そのどちらもが脳がパンクしてしまいそうなほどに嬉しいことで、もうその場で叫び出してしまいたいほどだった。


「髪を切った幽霊さん、やっぱりとっても可愛くて……ヘアピンも髪留めもよく似合ってます。こんなに可愛い幽霊さんを見られるなんて、俺感激でちょっと泣いちゃいそうです!」


「ふ、ふぅんそうですか。可愛い、ですか。……えへへ」


 素直に褒められて嬉しい気持ちが高まり、幽霊の口から最上級のデレ言葉が漏れ出す。だがその声量はあまりにも小さくて、太一には届かない。今太一の脳内リソースは視力に全振りされているので、そんな小さな言葉を拾っている余裕などないのだ。


 全視力を集中させて幽霊の新たな姿を凝視し続ける太一と、顔を少し赤らめて嬉しさに浸る幽霊。先に正気に戻り、言葉を発したのは幽霊の方であった。


「……って、ちょっとあなた見過ぎですよ。そんなに、怖い顔して見つめないでくださいっ」


 初めての、目が合った状態での自分へ向けられた幽霊の言葉。それは一瞬変な気を起こしかけた太一の心をすぐに正気に戻し、会話を成立させる。


「あっ、ごめんなさい。幽霊さんが可愛すぎて、つい」


 ふぅ、と小さく深呼吸をして、一度目を閉じて。もう一度改めて、その姿を見る。


 短くなった前髪のおかげで露出した完璧と言って差し支えないほどに整った顔に、三本綺麗に揃って付けられているプレゼントしたヘアピン。華奢で細身の身体をしていて身長だって小さめなのに、白装束の中からハッキリと主張するたわわ。


(やっぱり幽霊さん……めちゃくちゃ可愛い!)


 どこからどう見ても百点満点の美少女。完璧である。


「元の髪が長い時より、そっちの方が絶対良いですよ。そういえば、なんで幽霊さんはあんなに怖い見た目を?」


「えっ……そ、それは……」


 幽霊が、ホラー映画の幽霊のようなデフォルトの怖い見た目になっていた理由。

 


 事の発端は数ヶ月前。太一がこの部屋に引っ越して来た日へと遡る。

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