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43話 お姉ちゃんとお義姉ちゃん

43話 お姉ちゃんとお義姉ちゃん



「お、姉ちゃん……うぅ」


「まだまだ堅いな! もっと滑らかに、恥ずかしがらずに!!」


「あ、あの、これはいつまで……」


「幽霊ちゃんが私のことをキチンとお義姉ちゃんと呼べるようになるまでだ!!」


「何やってんだ馬鹿」


 ある程度話が落ち着き、少し席を離れてトイレに行った太一。彼が帰ってくると、目の前ですみれに幽霊がお義姉ちゃん呼びを強制されていた。


 酷い光景だ。自分の姉のこんな凶行は、見たくなかった。


「うぅ、私はなんでこんなことをさせられているのでしょうか。私、すみれさんの妹ではないのですが……」


「何を言う。君が私の義妹になる日はそう遠くはないからな。今のうちから練習しておかないと、その時自然にお義姉ちゃんと呼べないだろう?」


「え? わ、私すみれさんの妹になるんですか!? それはその、色々と困ります!!」


(多分、これ見事に会話が噛み合ってないな……)


 太一と幽霊を結婚させることで彼女を義妹としようとしているすみれと、そもそも結婚させようとするすみれの思惑すら知らない上に本当に妹にされると思っている幽霊。会話の微妙な差異は、この認識の違いから来ていた。


 普段の頭が切れるすみれなら、その事にも容易に気づけたはず。しかし興奮を抑えきれずに謎のアドレナリンがドパドパと出ている彼女の脳内IQは、今猛烈に低下している。


「姉ちゃん。幽霊さんは多分本当に血の繋がった妹にされると思ってるよ」


「? ああ、どうりで。さっきから話がよくズレると思っていた。……ん? だとしたら、ちょっと待てよ?」


 ピコンっ。何かを思いついたすみれの頭上に、電球が光る。


「私と本当の妹になっては困る。つまり、同時に太一と兄妹になるのも嫌だということ。イコール、幽霊ちゃんは兄妹ではなることができない、そういった関係性を太一と共に目指────」


「わーっ! わーっ!? 変な言いがかりはやめてくださいっ!! 何をとんでもないことを口走ろうとしてるんですか!!」


 初めはどうなることかと思ったが、意外に二人は仲良くなっている気がする。いじりいじられる関係性が確立されて、初めのような怯えが完全に消えた。まあ、いつ暴走してもおかしくないからいつまでも平穏というわけにもいかないだろうが。


 と、太一が少しほっとした様子で腰を下ろしたその時。


 ぐぅぅぅぅぅ。


 横から、可愛い腹の音が。その主は、いつも美味しそうにご飯を頬張ってくれる食いしん坊さんである。


「っぅぅ!?」


 言われてみれば、時刻はもう午後六時。いつもならご飯を作ってそろそろ完成という時間帯だ。ほぼ毎回のように台所に寄ってきて味見という名のつまみ食いをする彼女にとって、この時間に何も口に入れていないと言うのは苦痛だったのだろう。頭がそれを忘れていても、身体はしっかりと覚えていたらしい。


「おっほぉ。幽霊ちゃんはお腹の音も可愛いな。そのお腹なでなでしてもいいか?」


「や、やめてくださぃ」


 かぁっ、と頬を赤く染める幽霊は、逃げるように台所へと走って行った。おそらく、冷蔵庫の中にある魚肉ソーセージで一時的に空腹を凌ぐ算段なのだろう。


「全く、あの子は本当に可愛いな。太一、絶対にあの子を逃すなよ」


「怖いことを言うな。あと、今から晩ご飯作るから姉ちゃんも手伝ってくれ。宿代浮いたんだからさ」


「ヤダ。私は動きたくない」


「クソニートが……」


「失礼な。バリバリの社会人だぞ」


 そう言って寝転がり、完全にくつろぎ始めたすみれはもう一切動く気配を見せない。一度あの頭をどついてやろうかなんて考えた太一だったが、彼女が護身のためにと昔空手道場に通っていたことを思い出し、やめた。


(はぁ。仕方ない、か)


 


 これ以上ここでぐだぐだやっていると、冷蔵庫の中の魚肉ソーセージが空っぽになりかねない。姉を起こすことよりもそちらの保護を優先した太一は、ため息混じりに台所へと向かうのだった。

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