歩く ~楽しい~
歩くのが好きだ。
とにかく歩く。
公園を歩くのが好きだ。
毎回、同じルートで公園へ向かい、池の周りを一周する。
そして、来た時とは別のルートで自宅へ戻る。
こちらも毎回同じ道を選ぶ。
週に10キロは歩いているだろうか。
最近はジョギング中もほとんど歩いているので、そちらもカウントすると確実に10キロは歩いている。
歩くと、色々な考えが巡って、お話を考えやすくなる。
キャラクターも自由に動いてくれるので、自分で考えなくて済む。
歩くと、勝手に動いて、勝手に話が進んで、勝手に完結する。
もちろん、このままだとお話にならないので、後で文章を起こすときに整理する。
それでもうまくまとまらない時がある。
なので、やはりまた歩く。
歩いて、歩いて、歩き続けて、ストーリーがまとまるのを待つ。
書く。
歩く。
うまくまとまる。
まとまらなければ消してまた書く。
それでもだめならやはりまた歩く。
書く。
歩く……。
東京へ行って友達と会う時も歩く。
一度、新宿で映画を見た後、東京駅まで歩いたことがあった。
友達は自転車に乗っていたが、たらこは徒歩で移動した。
皇居を歩いた時はランナーがいっぱいいた。
まるで観光でもしている気分だった。
友達は東京生まれの東京育ち。
道に詳しいので絶対に迷わない。
だから安心して歩けた。
話し相手にもなってくれたので、とても楽しかった。
楽しく歩けた。
歩く。
話す。
歩きながら話す。
時折立ち止まって風景を眺める。
東京の風景は、たらこの住んでいる街とはずいぶんと違う。
見ていると楽しい。
歩きながら風景の変化を眺めるのも楽しい。
東京の裏路地が好きだ。
どこに繋がっているか分からない。
見知らぬ土地を延々と歩き続けるのは、まるで異世界に来たかのような気分。
歩くのは楽しい。
静かな住宅街を歩くのが楽しい。
オフィスビルの谷間を歩くのが楽しい。
高架下やトンネルを潜り抜けるのが楽しい。
東京は見たこともない道ばかりで、歩きがいがある。
また別の日に、別の友達と三人で、お茶の水から池袋まで歩いた。
東京生まれ東京育ちの友人に会うためだ。
電車を使えば30分もかからない距離。
数時間かけて歩く、歩く。
知らない道をスマホで現在地を確認しながら歩くのは楽しい。
ナビは使わない。
電池がもったいない。
意外と、東京の道は不便だったりする。
まっすぐに目的地まで歩いて行ける道がない。
そこがまた楽しい。
ショートカットしようと細い道へ入る。
別の大通りに続いていた。
そこからまた細い道へ。
三叉路、五差路、四ツ路。
いろんな道が交差する。
どちらへ行けばいいか、スマホを見ながら適当に決めて歩く。
二人の友達は文句を言いながらも、楽しそうに歩いていた。
歩くのが好きなたらこに付き合ってくれたのだ。
楽しく会話しながら池袋までたどり着いた。
東京生まれ東京育ちの友人に、風景の写真を送付して何処にいるのか当てさせるゲームをしたのが楽しかった。
歩くのは楽しい。
まだ学生だった頃、駅まで歩いて学校に通っていた。
高校生の頃、学校は最寄りの駅から片道徒歩30分の場所にあった。
道中には何もない。
本当に何もない。
コンビニもない。
公共施設もない。
それどころか家も、壁も防風林もない。
道の両脇は畑。
風が吹きつける日は砂が当たって辛かった。
寒い日や雨の日は、歩くのが大変だった。
同級生たちは駅前の預り所に自転車を置いておき、それにのって学校に通っていた。
それでも、たらこは一人で歩いて学校へ通った。
預り所を利用するお金がもったいないと思ったのだ。
だから三年間歩いて学校へ通った。
片道30分の何もない道を。
高校を卒業して入学した東京にある専門学校。
電車で片道1時間かかる。
その頃、祖母の家に下宿して学校へ通っていた。
駅まで歩いて1時間かかる。
やはり駅まで歩いて行った。
祖母の家は、それなりに都会(たらこの住んでいた街と比べたら)だったので、バスは毎日何本もある。
一本のバス、一本の電車を待つのに1時間もかかったりはしない。
それでも歩いた。
歩いて駅まで行った。
自転車を買えば、30分もかからない。
それでもたらこは歩いて駅まで行った。
毎日、毎日。
6時に起きて、6時半に家を出て、7時半に駅に着く。
毎朝1時間も歩いた。
帰宅時も1時間歩いた。
たまにバスも使った。
雨が降った時や、遅刻しそうな時だけ、特別に。
バス代に使ったお金で自転車を買えばよかったと、今では思う。
どうしてそんなに歩くのか。
それは歩くのが楽しいからだ。
では、なぜそんなに楽しく感じるのか。
それは多分、幼いころに母がよくたらこを歩かせてくれたからだと思う。
ぼんやりと、手をつないで母と歩いた時のことを思いだす。
母はたらこに歩幅を合わせ、一緒に歩いてくれた。
母と一緒に歩くのが好きだった。
近所を散歩するのが好きだった。
たらこは知らない所へ行くのが苦手だった。
同じ道、同じ場所、同じ範囲。
そこから外れて知らない領域へ足を踏み入れるのは、何故だかとても怖く感じた。
だから……母が一緒に歩いてくれると、何処までも世界が広がる気がした。
今では車やバイクに乗るので、一人で遠くまで行ける。
東京の友達にも車に乗って会いに行ける。
しかし、知らない道を運転するのは怖い。
首都高はとても緊張する。
何度か運転することで慣れたが……。
あの複雑な構造の道を運転するのは、あまり好きではない。
知らない土地へドライブに行くと、すぐに引き返したくなってしまう。
もうここまで来たからいいかと、すぐに元来た道を引き返してしまう。
目的が無いと遠くまで行けない。
歩く時に目的はいらない。
歩くこと自体が目的となる。
たらこは歩く。
車やバイクを運転するより、歩く方が好きだ。
毎日のように同じ道を歩く。
公園の周りを一周して自宅へ戻る。
歩く、歩く、歩く。
自宅に戻ってきたらPCを立ち上げてブラウザを開く。
小説家になろうにアクセスして、エッセイを書く。
今日も気分よくエッセイが書けた。
きっと歩いたからだろう。
明日も歩こう。
そしてまた、エッセイを書こう。
最近は歩くこと以外にも楽しみができた。
エッセイを書くのは歩くのと一緒だ。