6 またもや神の声
「音寿よ」
と、太郎の声がしたので、俺はパッと目を開けた。
そこはおなじみの夢の世界で、目の前には太郎が居た。
俺が新しい電球を買って来てやったおかげか、背後の光のチカチカした点滅はなくなり、ちゃんとした神々しい光(まったく神々しくはないけど)が太郎の背後から放たれている。
その太郎は、ご機嫌な口調で言った。
「音寿よ、御主の供物、確かに受け取ったぞ。この電球、なかなかいい感じで我を照らしておる。これで我の神秘さも引き立てられるというものだ」
「そりゃあよかったな」
お前には神秘さのカケラもねぇけどな。
とは言わない事にした。
そんな中太郎は続ける。
「サーモンのお刺身もなかなかに美味であった。次はノルウエー産の、もっと高い値段のサーモンを捧げよ」
「贅沢なヤツだな!大体何でクマのぬいぐるみがサーモンなんか食べたがるんだよ⁉」
「愚か者!クマと言えばサーモンであろうが!アラスカの川でサーモンを狩るクマの雄姿を御主も見た事があろう⁉あの姿を見ると、我々クマのぬいぐるみは最高に血沸き肉躍るのだ!」
「クマのぬいぐるみでもそうなのかよ⁉」
「ウム、ぬいぐるみといえど、我らもクマの血が流れておるからな!」
「ぬいぐるみに血は流れてねぇだろ⁉」
「ならば我のこのたくましき二の腕に刃物で切りこみを入れてみるがよい!我の熱き血潮が噴き出す様を見せてやるわ!」
「噴き出すのは血潮じゃなくて綿だからな!そしてお前の二の腕は全くたくましくないからな!」
「ええい!イチイチ細かい事をネチネチ言うでない!そんな事だから成美にも逃げられるのだ!」
「う、うるせぇな!お前には関係ねぇだろ!」
「いいや!大いに、ある!我は成美に抱っこされるのが好きなのだ!あやつは美人ではないが愛嬌があるし、面倒見がよくて我を大事にしてくれるからな!どこぞのしょうもないダニのような男とは大違いだ」
「誰がしょうもないダニだよ⁉まあ、そう言われても仕方ねぇか、所詮俺はその程度の男だからな」
「ほら、そうやって都合が悪くなったらすぐスネる。それも御主の悪い所だ。悪い所は潔く認め、少しずつでもいいから改善していかなければ、成美は戻って来てはくれぬぞ?」
「いいよもう!成美との関係は終わったんだから、ほっといてくれよ!」
「ほっとけぬ!我は成美に抱っこされたいと言っておろうが!あやつはああ見えて意外と乳があるからな!あの乳がよいのだ!乳が!乳!」
「乳乳うるせぇよこのスケベクマが!結局お前は成美の乳がいいんだろうが!」
「いかにも!」
「うるせぇよ!堂々と認めるな!」
「お前はどうなのだ⁉お前もそうであろう⁉」
「つ、強く否定はできねぇけど、それだけじゃねぇよ!あいつは笑うと可愛いし・・・・・・」
「そして乳もでかい・・・・・・」
「何かと小言を言うけど、色々世話も焼いてくれるし・・・・・・」
「何かと乳で世話をしてくれる・・・・・・」
「何だかんだで、あいつと居る時が一番幸せだったし・・・・・・」
「何だかんだで乳のある時が一番幸せであった・・・・・・」
「お前首をもぎ取ってやろうか⁉人が真面目に話してる時に乳を挟みこんでくるんじゃねぇよ!」
「乳を挟むのではない!我は乳に挟まれたいのだ!」
「もう黙れよ!お前もうとにかく黙れよ!」
「いいや黙らぬ!我が神としてここに降臨した最大の理由は、御主が成美とヨリを戻す事を取り成す為なのだからな!」
「お前この前、当番で神様になったって言ってたじゃねぇか!」
「この時期に当番が回ってきた事も運命の内なのだ!とにかく音寿よ、成美とヨリを戻すのだ。今戻さなければ、成美は他の男に取られてしまい、あの乳もその男に弄ばれる事になるのだぞ⁉」
「乳の話はもういいよ!それに、俺はもう成美に捨てられたんだし、ヨリを戻すなんて無理な話だよ」
「この大バカ者が!一度出て行かれたくらいで弱気になってどうするか!もう一度成美と会い、ヨリを戻してもらうよう平身低頭お願いするのだ!そして御主はそのひねくれてやる気のない態度を改め、彼女の為に力を尽くして労働に勤しめ!さすれば彼女はいつまでも御主のそばに寄り添い、御主を心身ともに支えてくれるであろう!」
「ほ、本当に、成美がそこまでしてくれるのか?」
「成美はそれだけの器量を持った女だ!あんな女には今後一切出会えぬと思え!運命の出会いというものは、一生に一度あるかないかなのだ!その出会いに気付かぬ者も居る!出会っているのに自ら手放す阿呆も実に多い!よいか!これが最初で最後のチャンスである!それをモノにするかせぬかは御主次第だ!さあ選べ!御主はどうするのだ⁉」
「え、そ、そりゃあ、また成美に戻って来てもらえるなら、戻って来て欲しいけど、でも、キッカケがないしなぁ・・・・・・」
「キッカケなぞ我がいくらでも作ってやるわ!よいか!我が身を呈してキッカケを作ってやるから、御主は必ず成美とヨリを戻すのだぞ⁉よいな⁉しくじったら一生呪うからな!ぎっくり腰で半月は動けなくしてやる!」
・・・・・・そして俺は、目を覚ました。
「成美とヨリを戻す、か・・・・・・」
上半身を起こし、ポツリとつぶやく。
今更、そんな事ができるんだろうか?
俺が態度を改めて一生懸命働くようになったくらいで、成美はずっと俺のそばに居てくれるんだろうか?
太郎はそのキッカケを作ってくれるって言ってたけど、そんなキッカケなんてどうやって作るんだよ?
と思いながら、俺は隣で寝ている太郎に目をやった。
すると、太郎の右の二の腕の表面が思いっきり破れて、そこから綿が飛び出していた。
「た、太郎!」
思わず声を上げる俺。
何で⁉
夕べはこんなんじゃなかったのに!
まさか、俺が踏みつけちまったのか⁉
ど、どうしよう⁉
俺、裁縫なんか全然できねぇし、太郎を直してやる事なんてできねぇよ!
そ、そうだ、成美なら裁縫も得意だし、太郎を直してくれるかもしれない!
と、俺はここでハッと気が付いた。
まさかこれが、太郎の言っていたキッカケというやつじゃないのか?
ま、まあそんな事は今は置いといて、とにかく成美にお願いしてみよう。
どうせ他にこんな事を頼める相手は居ないしな。
俺は携帯電話を取り出し、成美にメールを打った。
『ぬいぐるみの腕が破れてしまいました。もし時間があれば、直しに来てもらえませんか?』
と。
しばらく待っても、成美から返事は来なかった。
まあ、そりゃあ、そうか。
何でもかんでも、そううまく行く訳がないよな・・・・・・。
俺は大きなため息をつき、バイトに出かけた。