第9話 魔王を城ごと最速で崩壊させろッ!
ついに、魔王と戦う時が来た。
蘇った戦士カイムが装備した『エキスパートリング』は『HPが2以上の場合、ダメージを受けても必ず1残る』といった性能を持つ。
合わせてカイムの初期スキル『漢立ち』は『先制して仲間への攻撃を全て引き受ける』というもの。最強コンボ誕生である。
「ムフゥー! 痛みなど感じないであるな!」
「いいぞチョビヒゲ!」
魔王の放つ強烈な全体強攻撃魔法は全てカイムが受け止めた!
「お……おのれぇ!!」
「ミュミュ! アレの出番だ!!」
続いて、賢者ミュミュは杖を正面にクルクルと回しながら魔法を放つ。
「ストップタイム!」
完璧に決まった。
これは消費MPが特に激しいが、『時が止まり、ターン終了後、味方全員が再度行動可能になる』という最強の魔法である。
そして切り札として持たせた『ソウルオブウィザード』は、なんと『魔法の消費MPを全て1にする』という反則級アイテム。永久コンボの完成である。
そう、英知の塔で密かに入手した最強アイテムとは『エキスパートリング』と『ソウルオブウィザード』だ。
エンディング中に流れる隠しパスコードをメモしないと入手出来ないエンドコンテンツだが、ドラスペ3のRTAではこれの入手時点で勝利が約束されると言っても過言ではない。
「はあぁぁぁっ!!」
強烈な一撃を連発するイルル。俺たちの時間が止まっている今、彼女を止められるものはいない。
パターンにハメてしまえば魔王と言えどこんなもんよ。
「ミュミュ、補助魔法を途切れさせるなよ!! イルル! カイム! 総攻撃だ!!」
人生の全てをRTAに捧げてきた俺が、負けるはずなどないのだ!
「ぐっ……ぐぅぅ……」
ここまでが前半戦。
「見事だ人間よ……だが真の姿をうんたらかんたら――」
「あ殿、魔王の様子が変であるな!」
大丈夫、パンツ一丁で魔王に挑むお前の方が変だ!
そして壁が崩落し始める。
――《魔王城 崩落の王の間》
火の手が回り、城の崩壊が始まった。そして戦いは更に危険な領域へと突入する。
変身した魔王の真の姿は、とてもじゃないが食事中には見たくないレベルでキモい。
「クカカカ……キサマラハ……ココデシヌノダ」
「じゃあ、さっきと同じパターンでいくぞ。こいつ倒したらダッシュで城出るからな。外でねーと移動魔法使えねーんだわ」
魔王をガン無視して、後半戦が始まった。
「むおぉぉぉ漢立ち……ぬっ!? あ殿、吾輩いまHPが――」
魔王の闇魔法攻撃をまともに喰らい、戦士は戦死した。
前半戦と比べて変化点はそれだけだ。
「ストップタイム!」
「さらばだ魔王……断末魔とか要らないからな、あばよッ!!」
無念の魔王。城の崩壊は更に加速する。
――《魔王城 崩落の広間》
「やりました、私たちやりましたね!」
「魔王を倒したわ!」
「吾輩また死んだであるな」
「オラァ!! 走れ走れ、ラストランだぞ!!」
所々崩落した瓦礫で塞がれてしまった通路を、俺たちは全速力で走った。
「これで世界からモンスターがいなくなって平和になるのですね」
「いや、それは裏ボスいるし、まだだろ」
「え、裏ボス……?」
困惑するイルルは嫌な予感がしていた。
「な、なんの話をしているの?」
「魔王城が崩壊して大穴ができるんだ。そこから地底世界に……って、そこまでやらなくても形式上はクリアだし」
笑顔から一転、泣きそうな表情のミュミュも質問する。
「まだ……何か悪が存在するんですか?」
「いや気にすんな! 裏ボスとかどうでもいいだろ! はっはっは!!」
イルルとミュミュは冷や汗がドッと出て、目を丸くした。
「不安しかないであるな」
ふよふよと憑いてくるカイムがボソッと呟いた。
「さぁエンディングだ、俺たちの町へ帰るぞ!!」
【現在のタイム 1:17:31】
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