第5話 全員ぶん殴って船を手にいれろッ!
俺たちはバオー城での用件を済ませ、戦士の装備を全て売り払い、東の地を目指していた。
「あ殿、吾輩はこの姿でも役に立てるのであるか?」
「問題ない!!」
肌着、肌着、幽霊という異常な見た目のパーティーだが俺は一切気にしない。
全ては最速クリアのためだ。そのための犠牲はなんだって実行する。
「アンタそれでも勇者なの!? カイムさんをいきなり背後から――」
戦士はしっかり俺のダッシュについてきている。いや、憑いてきている。
「勇気出して斬っただろうが!! 黙って走れぇええ!!」
「勇者の意味ィィ!!」
――《シャンゼロの港町》
「ぜぇ……ぜぇ……」
「イルル殿、お疲れであるな」
いくつかある大陸のうち、なぜか港町はここだけに存在する。
青色が基調の美しい町だが、その余韻に浸る暇などない。
現在の所持金は3000ゴールド。
RTAにおける最大の難題が『いかに資金を調達・運用するか』である。
武器防具だけでなく聖水のようなアイテムや、時にはイベントでもお金が必要になるのだ。
「よし、防具屋に行くぞ!! 休んでる暇はねぇからな!!」
イルルは胸に手を当てドキッとした。
「も、もう売るものなんて身に着けてないわよ!?」
「吾輩は身が無いのであるな」
――《シャンゼロの港町 防具屋》
「おばちゃん、そこのホーリーローブくれ!! っあくしろ(早くしろの同義)!!」
ゴールドをカウンターに叩きつけて、魔法威力が高まる防具をすぐさまイルルに渡した。
「えっ、これ私に……?」
可愛いローブを両手で持って眺めるイルル。
「さっさと装備して道具屋にいくぞ!!」
勇者からの初めてのプレゼントに、僧侶イルルは頬を染めた。
「あ、ありがと……」
「あぁん!? あとで仲間にする奴に着回すから今だけだ!!」
いつかこの勇者をぶん殴ると、イルルは心に誓った。
――《シャンゼロの港町 道具屋》
「薬草5個と聖水7個ぉぉぉぉ!!!!」
「あ殿は異常なまでにせっかちであるな」
――《シャンゼロの港町 酒場》
昼間だというのに酒場には屈強そうな男たちで溢れていた。
ここではちょっとした強制イベントが発生する。
「おし、少し休んでいいぞ。ここは俺だけが参加するイベントだからな」
「み、水……」
イルルは酒場の椅子にぐったりと座った。真っ白に燃え尽きたかのようだ。
酒が飲みたいのか、カイムはふよふよと酒樽に向かった。
「いよう、ガキが何しにきたんだ?」
始まった。酔っ払い共に絡まれるイベント開始だ。
ここまでのRTAラップタイム(途中計測時間)は順調だな。
「……」
「この町では俺たち海賊に金を払わねぇとうんたらかんたら――」
ここでも細かなテクニックが光る。
「――さぁ、1000ゴールドだ。出すのか? 出さねえのか?」
「出そう!!」
イルルは飲んでた水を盛大に噴いた。
「ばっ……さっきの買い物で使いきったでしょ!?」
「うるせぇな、いいんだよこれで」
海賊の一人が俺に近づくと、金貨袋に触れてもいないのに発狂した。
「てめぇ、持ってねえじゃねえか!! おいおめえら、やっちまえ!!」
会話の短縮。『いいえ』と答えるとネチネチと迫る遅延行為をしてくる。
そして、即戦闘である。
「束になって掛かってこいやああああ!!!!」
「うおおおおお!!!!」
なぜかこのシーンだけ俺のソロバトルとなるが、僧侶抜きでも薬草があるので問題ない。
――《港町シャンゼロ 船着き場》
「ふうん。あたい、アンタみたいな強い男は好きだよ。さぁ、乗りな!!」
俺たちがこれから乗る船とは、海賊船。
なぜか船の速度がめちゃくちゃ早いのがポイントだ。
「チョロかったであるな」
「おめーは何もしてねえだろ!!」
幽霊戦士はとにかく暇そうだった。
【現在のタイム 0:34:13】
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