第3話 僧侶を最速で仲間にしろッ!
――《平原 フィールド》
さぁ、ここからが本番だ!
俺はストーリー進行における攻略の順番をことごとく無視し、北西の方角へと猛ダッシュした。
道中、大きな城を横目にスルーして、森の中へと入って行く。
「流石にモンスターから逃げづらくなってきたな!」
ドドドドドド……
足音の数々が後方から鳴り響いていた。
モンスターの大群である。
オンラインゲームでは御法度の、モンスターを大量に引き連れる『トレイン』という悪質なプレイなのだが、所詮ローカルなゲームであるこの世界では一切気にする必要はない。
――《精霊の森》
「オラオラオラァァァ!!!!」
平原のモンスターごと森を疾走する。反時計回りにぐるりと奥へ進み、道中の宝箱を1つだけ開ける。
「シルバーソードかっけぇな!!」
宝箱からは必要なものだけを入手する。幾つもの宝箱があるとはいえ、中身がハズレでは開ける意味すらないのだ。
「ヴォオオオオ!!」
モンスターにまだまだ追われながらも、最奥の泉を目指して俺は走る。
――《精霊の森 シルフの泉》
俺は走りながら、道具袋から薬草を一つ取り出して、野球の遠投のように泉にそれを投げ込む。
「受け取れぇえい!!」
ポチャンッ、と泉に薬草が沈んでいった。
すると、泉の中からとても美しい精霊が姿を現した。
「あなたが落としたのは、このシルフの薬ですか?」
「ちがう、薬草!」
泉では定番の、金の斧銀の斧ゲームである。
「では、この毒草ですか?」
「薬草だっつってんだろこのタコすけ!!」
再び泉の中に潜った精霊は、最後に薬草を持って浮かんできた。
「それ!! 薬草!!」
「では、この薬草ですか?」
があああああああ!!!!!!!!!!
「薬草ぉぉ!!」
俺は酷い形相で両手を広げた。
「あなたはとても正直ですね。薬草とは別に、このシルフの薬も差しあげましょう」
どっちも薬だろうが! とツッコミを入れつつ、無事にイベントアイテムを入手。
用済みとなった精霊が泉に潜るより先に、俺は森を後にした。
――《ロッティオの町》
精霊の森を出て北へ向かうと、直ぐに見えてくるのがロッティオの町。
ここでは俺の仲間になる予定の僧侶の娘がいる。
俺はダッシュで教会の扉を開け、階段から2階へ駆け上がる。
そして奥から2番目の部屋へダイレクト入室。
「父さん……」
ベッドの上では、頭にタオルを乗せて苦しそうに息をする神官の男と、傍で介抱している桃色髪がキレイな神官の女の子がいる――のは、知っている!!
「喰らえッッ!!」
いきなり男の口にシルフの薬をぶち込んだ。
「ちょっ、アンタいきなり何すんのよ!?」
ん? 仲間とは普通に会話できるのか?
こんなセリフ初めて聞いたぞ。
「ほら、治ったぞ! これでお前は俺の仲間だ!」
「はぁっ!? どういう――」
ガバッと男が上体を起こす。頭に掛けられたタオルが床に落ちた。
「し、信じられん、全く苦しくない」
「と、父さん!? アンタ、本当に治してくれたの!?」
この娘の父が不治の病に侵されている、それを精霊の力で治す、娘が仲間になるって寸法だ。
「オヤジさん、彼女を少しだけお借りします!」
「き、君は……」
俺は僧侶ちゃんの手を引いて直ぐに部屋を飛び出した。
俺が勇者で魔王討伐の旅をしていることだけは走りながら説明した。
「何をそんなに急いでんのよ!?」
「最速で平和になったほうが良いだろ? 嫌だろ世界中モンスターだらけなんて!!」
とかなんとかカッコつけたけど、完全に己の都合だ。
「……っ!! 私はイルル。回復魔法が得意だけど……って、置いてかないでよっ!」
僧侶の勇者に対する忠誠心が少し上がった。
「話を聴けぇっ!!」
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