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最終話 タイマーだけは慎重に止めろッ!



 俺たち4人は魔王を倒し、世界に平和をもたらした。

 淀んだ大地は美しく輝き、優しい風が吹いていた。



 ――《ヴァルハランの町》


 勇者の生まれた地、ヴァルハラン。

 移動魔法でヴァルハランの町へ戻ると、人々はどうやって知ったのかはわからないが、皆が平和を噛み締めるように喜び、泣いていた。


「あぁ、ワタシのカワイイ坊や……よく無事に帰ってきてくれましたね」


 母親が出迎えてくれた。

 カワイイとか坊やという言葉すら、仲間たちはノーリアクションで受け入れた。


 だがしかし――


「ただいま! また後でな!!」


 RTAはまだ終わっちゃいねぇ!!

 王に話し掛けてエンディングを眺めて、そしてENDの3文字を見るまでは!!


「ちょっと、まだ走るの!?」


 もはやここまで来たら仲間へ返事することすら惜しい。

 俺の視界の端に映るタイマーは未だ時間を刻んでいるのだった。



 ――《ヴァルハラン城 王の間》


 兵士たちがラッパを手に持ち、直立不動の花道を作っていたが、遠慮なく中央を突破して王へ話しかける。


「魔王を倒してきたぞ!!」


「はぁはぁ……あ様、はやすぎです……」


 仲間たちは限界が来ていた。何せ勇者と出会ってからは、ほぼずっと走っていたようなものだったからだ。


「よくぞ戻った、勇者あよ! そなたの父、パパテロスは……残念であったな」


 衝撃の一言だった。俺は知ってたけど。


「はて? あ殿のお父上には会った記憶がないであるな」


「あぁ、いたんだよ魔王城に。巨大モンスターの陰に。俺たちはその横を素通りしたけどな」


 なぜか王は、父のその後の顛末を知っているような口ぶりだった。


「しかし、息子であるそなたは立派に勇者としての務めを果たしてくれた! 皆の者よ、よく聴くのだ!! あは、魔王を打ち砕いた伝説の勇者と永遠に刻まれる!!」


 兵士たちが歓喜の声を上げると共に、ラッパ隊がファンファーレを盛大に奏でた。



『勇者あ!! 勇者あ!! 勇者あ!! 勇者あ!!』



 かつてなくダサいコールの中、俺たちは祝福された。


「なんか勇者だけが頑張ったみたいなムードね」


「吾輩たちも命を懸けたであるな」


 お前は本当に命で闘ったもんな。


「でも、あ様が祝福されているのは私も嬉しくなります」


 ミュミュは満面の笑みを浮かべている。


「肌着姿の変態が現れたと思ったら、あっという間に魔王倒しちゃうんだもんね。……ふふっ、確かに凄いひとよね」


 イルルも笑顔で俺の顔を見ている。


「吾輩、勇者にも魔王にも倒されたことを一生の誇りにするであるな」


 ふよふよと俺の周りを嬉しそうに飛び回るカイム。

 お前は結局最後までその姿のままだ、すまん。後で誰か教会へ連行して復活させてやってくれ。


「さて、ぱぱっと凱旋してエンドロール見るぞ」



 ――《エンディングムービー》


 ゲーム制作者の名前が雲のようにぷかぷかと浮かび上がっては消えていった。

 これは俺だけが見えているようだ。


 握手しまくったりイルルたちをそれぞれの町へ送ったり。

 自然と流れるように俺は一人になった。


 こうして俺の冒険は終わった。


「タイマーああぁぁ……」


 ENDの文字が一つずつ浮かび上がるタイミングを鬼の形相で視た。

 RTA最大のミスがあるとすれば、このストップのタイミングだ。速すぎると記録無しとなることもある緊張の一瞬である。


「ストッッップゥゥゥ!!!!」



【現在のタイム 1:28:30】



「う、うおおお!? 世界記録更新やったぜええええ!!」


 VRのような世界に来てしまったと絶望していたが、俺は今、最高の光を得た!


「……あよ、聴こえますか」


 気付けば俺は光の中にいた。


「……あよ、聴こえ――」


「聴こえる!! 聴こえるけど、ここはどこ!?」


 タイマーを止めた直後、天の声が響いた。


「闇の勢力は地下深くで未だ力を蓄えています。あなたの冒険はまだ終わってはいないのです」


 あっ。


「ちょっと待て、俺はいつもの魔王撃破レギュレーションをだな……」


「さぁ、お行きなさい、仲間たちが待っていますよ――」


 光に包まれた俺は、再びヴァルハランの地へと強制的に戻された。



 ――《ヴァルハランの町》


「待ってたわ! 私たちも聴いたよ、女神様の声!」


「あ殿! 吾輩、一生ついて行くであるな!」


「あ様、私、また頑張りますっ!」


 送ったはずの3人が元気な姿で俺の前にいた。

 俺は空いた口が塞がらない。


「は? 誰だENDの後にAボタン押したやつ」


 理解が追いついていなかった。


「あ様、大丈夫ですか?」


「ちょっと、早く地底世界へ行こうよ!」


 お、終わらなかった!! エンディング終わったのに!!

 タイマーストップしたのに!! ま、まさか――


「『裏ボス撃破レギュレーション』だったのかあああぁぁぁ!!!! やっちまったああああああ!!!!」


 記録無しである。


「嫌だああ現実世界に帰る!!」


「あ殿、ここは現実世界。異世界などではないのであるな」


 俺は無言で怒りと悲しみの一撃をカイムに放った。

 戦士は戦死した。





 俺たちの冒険はこれからだ!!!!



【現在のタイム 1:28:30 違反により記録無し】



 END


この物語はここでタイマーストップです。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。

何かを成すことに最速を求める人生も面白いと思っています。

貴方の人生のほんの少しでも役に立てたのなら、私も嬉しいです。


評価・感想・ブックマーク・レビューなど、皆さんの声をお待ちしています。

ありがとうございました!

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