第1話 コマンドを最速で入力しろッ!
――RTAとは『リアルタイムアタック』の略で、ゲームスタートからクリアまでの実時間の短さを競う競技である。
「はいどーも! てっぺんとったるバベルです! おめーらテンションぶち上がってるか!? 今日も記録更新すっぞ!!」
毎晩欠かさずRTAを行ってきた俺は、いつものようにパソコンとゲーム機を繋げて目の前にセットし、コントローラーを左手で強く握った。
現在時刻は夜の9時。全世界のゲーム仲間たちに向けて生放送配信開始だ。
大人気ロールプレイングゲーム【ドラゴンスペクトル3】。
通称ドラスペ3のRTA世界記録保持者である俺は、日々の鍛錬の如く、何百何千回と繰り返し走ってきた。
RTAの競技者は『走者』呼ばれ、圧倒的使命感から最速でゲームをクリアすることに誇りを持っているのだ。
「っしゃ、見とけよ! 今日も余裕の1時間30分切り見せてやんよ!!」
『バベルさんぱねぇっす!』
『今日も気合い入ってるね』
『バベるんファイト!』
ゲーム機の電源に指をセットした俺は、スウッと深呼吸。
「電源投入後、タイマースタートだ。おめーらカウントダウンよろしくぅ!!」
――3!
――2!
――1!
「スタァァァァッットゥゥゥゥ!!!!」
――プツンッ。
その時、光に包まれたように目の前が真っ白になった。
「……」
ドラスペ3のオープニングBGMが、ギャンギャンに鳴り響いていた。徐々に視界が開けてくると、目の前に巨大な滝が、雲が、そして――
『名前を決めてください』
「……あ?」
これは、なに!? バカなの!?
嘘だろおい、まさかドラスペの世界か!?
『勇者あよ。あなたは世界を救うべく人々のうんたらかんたら――』
ふっざけんなぁぁ! VRって次元じゃねーぞ!?
前代未聞のハプニング到来だわ!!
「これはヤバい。圧倒的にヤバい」
天の声的なものは一切耳に入ってこなかった。もう目が腐るほど読んできたセリフだし。
そんなことより俺は一体どうなってしまったんだ?
視聴者のみんなは?
『――さぁ、あよ。お行きなさい。そして、目覚めるのです』
「やべっ、オープニング終わる」
――《ヴァルハランの町 勇者パパテロスの家》
「……あ……あや……ワタシのカワイイ坊や」
始まっちまった!! そして俺の視界の端でタイマーが動いてるだと!?
サァァと血の気が引いてはいたが、いかんせんこれはRTA。一刻の猶予もないはずだ。
「……あや、起きなさい」
不幸中の幸いか、RTA界隈では最適解である主人公の名前は『あ』になったらしい。
俺は急いで飛び起きると、ゲーム上の母親の話をガン無視しながらタンスを開けて薬草を取る。
大体、鎧っぽいの着たままベッドに横になってるのマジ頭おかしいって!!
「今日はアナタが16歳の誕生日。ちょっと王様に会ってアレしてきなさい――」
基本的に会話は長いので、話は最後まで聞かずにとにかく最適化。
家を飛び出し、町人を吹き飛ばしながら城まで一直線に猛ダッシュした。
「くそっ、こうなったらマジで走るしかねーなこりゃ!! やってやんよ!!」
会心のドタバタ劇が幕を開けた。
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