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旅立ちに出鼻をくじかなくてもいいんじゃないですか?

 



 ドロシーちゃんの手によりパサパサ髪の毛は編み込みされ、パッと見はマシになった。

 しかも、今回はいつもはしないそうだけどバレッタまで用意してくれていた。

 ブルーのガラスがはめ込んである、派手じゃなくシンプルで上品なデザイン。クルーシャの髪色に合っていて私は大満足だった。



「こちらも鏡と一緒に贈られてきたプレゼントのひとつですよ」



 と、ドロシーちゃん。

 ではこれもおじい様からの贈り物ってことだね。クルーシャの反応といい、おじい様はいい人かもしれない。



 さて、出発ということだが荷造りなどはしていない。

 どうするか聞いたらドロシーが準備するから問題ないので少し待つようにとのことだった。

 へー、そういうものなんだとちょっとびっくりしてしまった。



 -私は幼少期裕福とは言えない環境で育ってきたから、そこら辺の感覚が全く違うかも…。もし何変なことしたらルーシャ教えてね?

 -幼少…は、はい…。



 やっぱりクルーシャの様子変だよね…。なにかきになることでもあったのかな?



 -どうしたの?朝からちょっと様子変じゃない?

 -~!うう!すみません!りぃ!おそらくたぶん絶対なんですが、夢で幼い頃のりぃの記憶を覗いたかもしれません!

 -ふぇ?



 闇魔法のひとつに眠っている時、意図的に他人の夢に入り込み記憶を見たり、介入したり出来るらしい。

 昨晩眠りについたクルーシャは、魔法が発動出来ない状況にも関わらず私の記憶が見えたらしい。なにそれ凄い。



 -ひとつの体にふたつの魂があるからなんでしょうか、それとも私が闇魔法の保持者だからでしょうか。おそらく両方関わりがありそうですが、本当にすみません…。勝手に見る気はなかったのです。

 -ん?別に構わないよー。どんな感じに見えたの?

 -そうですね、断片的にですがりぃ視点で幼い頃の記録から見ている感じでしょうか。視覚聴覚なんかも共有出来ますが、りぃの考えなどはわかりませんでした。

 -私視点のビデオを見てる感じかな。じゃあ小さい頃の私を見たの?

 -はい!鏡に映った所を少し見た程度でしたが、大変可愛らしく天使かと思いました。



 天使て。

 まぁ、幼い頃から私は自他ともに認める愛らしさがあったらしいからね!あっでも幼い頃って言えば…。



 -ルーシャからすると、すごく貧乏ぐらしでびっくりしたんじゃない?

 -え!?…はい、すみません。正直にお話するとお食事にと、あの、草を食べていたりしていたのでちょっと驚きました。

 -ちょっと!?山の近くだったから家族で食べれる山菜とか拾ってきて食べてたからね!何でもかんでも拾ってむしって食べてたわけじゃないよ?!

 -あっはい!…ご両親共、お優しく綺麗な方でしたね…。

 -んー、ちなみにどこら辺まで見たの?

 -…お父様が…亡くなられた辺りまで…です。ごめんなさい。



 あぁ、だからクルーシャは朝からちょっと調子がおかしかったのか。

 事業に失敗したうちはあっという間に貧乏ぐらしに突入。母親は病弱でそんな生活に慣れずあっさり死んじゃって、父親はそんな母を死なせてしまった負い目からか失踪、見つかった時には死んじゃってたんだよね。



 -気にしなくていいよ。それに私も確か6歳とかそのくらいだったし、あんまり覚えてないし。

 -でも、こんな風に過去を暴かれるのは嫌ではありませんか?

 -そうだなー。他の人だったら嫌かな?とか思うかもだけど、ルーシャなら全然いいよ。



 出会った時から感じている愛情や親近感かにも似たなにかのせいか、過去を暴かれても気にならなかった。



 -わたしってば意外と波乱万丈に生きていたから楽しめるかもよ?

 -…本当によいのですか?

 -いいよ。それに勝手に見ちゃうって感じでしょ?もし嫌だって言っても仕方ないじゃない?ちょっとでも楽しめたらいいなー。



 あっでも、6歳まで見たってことは…。



 -ちなみに、早送り…任意で見るところを変えたりできるの?

 -出来ない感じでした。おそらくりぃの記憶がハッキリしているところを掻い摘んで見ているようです。

 -そっかー…。出来れば9歳頃のは見ないで欲しいんだけど出来なさそうだね。

 -す、すみません…。

 -いや、さっきも言った通り私自身は過去見られるのは構わないんだけど、その辺りはもしかするとルーシャに負担になるかもしれない…。

 -どういうことでしょうか?



 9歳。私にとって大きな事件と転機があった。

 記憶としてはショッキングかもしれなくてあまり見て欲しくないんだけどな…。



「お待たせいたしました。馬車の準備も整いました」



 タイミング良くか、悪くかドロシーちゃんの乱入でひとまずこの話は終わった。

 でもクルーシャが気にしている様子だから今日の寝る前とかにちょっと説明しておかなきゃな。



 -とりあえず、その話は置いておいてこっちに集中しよう!今日もよろしく!

 -…分かりました。昨日と同じように、ですね。

 -そうそう!ある程度私がアドリブとかでカバーするけどなにかあったらフォローお願い!



「では参りましょう」



 朝早いということもあってか寮の玄関前は準備を進める馬車は数台いたもののあまり人気はなかった。



「こちらです。お荷物等は既に荷馬車に詰め込んであります」

「ありがとう」



 馬がいる。しかも2頭もいる。

 馬を間近で見ることもない人生だったので思わずつい興味をそそられ馬車に繋いである2頭にふらりと近づく。



「うわー…お目目くりくりでかわいい…」

「は?!あ、ありがとうございます」



 しまった。思わず呟いた独り言を御者っていうんだっけ?わかんない、馬車の運転手さんが近くにいて聞かれてしまった。

 コホン、とひとつ咳払いをしてニッコリ愛想笑いを浮かべる。



「今日どうぞよろしくお願いしますね」



 そのまま踵を返しドロシーちゃん所まで戻ったけど、御者の視線はチラチラこちらを見ていた。

 不審に…思われたよねー。



 -し、失敗した…。

 -私こそ気づかずにすみませんでした…。馬を可愛いと思っているりぃが可愛らしくつい…。

 -なにそれ?



 ドロシーちゃんは荷馬車の方に乗るとの事で私は一人きりで馬車になることになった。

 貴族はあまり相乗りはしない、よし、覚えた。



 馬車についていた手すりを力いっぱい握り、何とか身体を持ち上げ馬車に乗り込む。ちょっと狭いけどなかなか綺麗だ。



 -私馬車初めて。超ドキドキする。

 -では以前は乗り物などに乗ることはなかったのですか?

 -小さい頃はどこも行けなかったけどある程度になったら車とか電車とか、そうだ飛行機にも乗ったよ!

 -知らない名前ばかりです。

 -飛行機は多分ルーシャびっくりするよ!楽しみにしてて!

 -はいっ!



 空を飛ぶなんてきっとこの世界にはないよね?しかも鉄の塊だし、大勢人を運ぶだなんてきっと驚くだろうなー。クルーシャの反応が楽しみだ!

 こう思うと過去を見られるのもいいかもしれない。楽しいこと共有出来るのっていいな。

 まぁ…嫌なことも共有しなきゃなんだけどね…。


 さてそろそろ出発といった頃、辺りが少しざわついた。



「あらクルーシャ様、こんな朝早くに出発ですか?」



 おほほほと、アニメか漫画でしか聞かない笑い声が聞こえて思わず馬車に備え付けられている小さな窓から外を見ると見覚えのある顔。



 -えっと…ま?み?みりー?んー…なんだっけ?

 -…マリー様です。



 そうだ、クルーシャの元友達で、婚約者を奪った多分性悪女。何となくこの子嫌いって私の本能が告げている。

 いや、クルーシャをいじめていたらしきヤツらはみんな嫌いなんだけどさ。



「おはようございます、マリー様」

「まぁまぁ、まるで逃げるようですわね?なにかありましたか?」



 くすくすと引き連れた取り巻きの女の子たちが笑いあってる。なにがそんなにおかしいのやら。



「マリー様こそ、こんな早くにいかがいたしましたか?」

「まぁ、わたくし達お友達でしたでしょう?こんな時ぐらいご挨拶に参りますよ」

「そうでしたか、ありがとうございます」

「…ヴィンセント様がご挨拶に参りたくないというんですもの、わたくしが代わりに伺うのは当然ですわ」



 にこりと笑うマリー。あぁ、朝っぱらから嫌がらせに来たのかと合点行く。

 なんて言う暇人だ。



「わざわざありがとうございます」

「ふふ、できる限り貴方と関わりたくないんですって。わがままで困ってしまうお方ですね」

「いえ、私こそお会いしたらどうしようかと思っておりましたので助かりました」



 出来ればあなたも見たくなかったんだけどね。

 ニヤニヤ笑うマリーは見てて不快な気分だ。



「マリー様、わたしもう行かなくてはなりませんの、時間が決まっておりますので申し訳ないのですが」

「まぁ!そうでしたか!お引き留めして申し訳ございません」



 朝から出発しようとしてるんだから少し考えたら分かるでしょうに。



「そうですわね、馬も大変重労働でしょうし、休憩しながらとなると、お時間かかってしまうでしょうし」

「はぁ」

「あら、大丈夫かしら?車輪が歪んでいるのではなくって?壊れないか心配ですわ」



 うん、太ってる私をからかいに来たのか。


 クルーシャが静かになっている。たぶん、普段から黙って耐えてるんだろうな。



「そうですわね、もし壊れてしまってはいけませんので早めに出発いたしますわ」

「え?…ええ、そうされた方がよろしいですわね」

「お気遣いありがとうございます。ではわたしは行きますわね。マリー様もお早くお部屋に戻られた方がよろしいですし」

「…は?」

「あら?気づいていらっしゃないのですか?…寝癖、酷いですわ。鳥の巣かと勘違いしそうになりました。それともそれがマリー様のおしゃれですか?」



 それでしたら無知で申し訳ございません。と呆然と立ちすくむマリー達御一行にニッコリ笑って手を振る。


 御者はこちらの話を伺っていたのか、絶妙なタイミングで出発してくれた。



 -りぃ?!

 -はぁー、ちょっとすっきりした。あの顔みて?笑えるわね。



 振り返ると髪を抑えながら大きな声で何かを騒ぐマリー達の姿。

 クルーシャに寝癖を指摘されて憤慨してるみたいね。



 -まぁ、当分会わないんでしょ?多少何か言っても問題ないし、寝癖が酷かったのは事実だし。

 -…確かにそうですね。

 -ね?



 くすくすとお互い笑い合う。

 私としてはまだまだ言い足りないことはいっぱいあるけど、今はまだこの辺りにしておこう。

 ダイエット成功してとびきり美人になったらまたクルーシャと一緒に笑いにこよう。


 馬車は大きな学園の門を越え、朝の喧騒に紛れながら走り出した。




 ■




 残されたマリーは玄関前で馬車が居なくなるのをただぼうと見送っていた。



「…なんなの?!あのクルーシャが反抗したの?!」

「マリー様大丈夫でしたか?」

「あなた達!?髪型について気づいていたなら声をかけてちょうだい?!」

「そんな…」



 マリーが憤慨しているのを周りの取り巻きは引き気味に見ていた。

 マリーの容姿を指摘した場合、感謝どこらか怒ってくるのにどうして言えようか?

 取り巻き3人娘は無言の同意により朝からスルーすることで満場一致していた。



「これも全てクルーシャのせいだわ…!」



 人混みの多い時間帯であれば昨日の再来では無いがまた貶めることはできたろうに。

 思わずぐっと歯を噛み締める。



「もういいですわ!戻ってきた時にもっと辛い思いをさせてやりますわ!」

「…取り込み中のところ失礼…」



 玄関に向かおうと脚を向けた際、背後から低めな声に呼び止められた。

 男の人?良くもまぁ王子の婚約者であるわたくしに声をかけましたわね。


 一言言ってやろうと振り返ると、長身で黒髪を編みサイドに垂らし、切れ長な黒の瞳が印象的な男性が立っていた。

 ヴィンセントで美男子に慣れているとはいえ、異なるタイプの美男子に声をかけられみるみる機嫌は上昇する。



「あら?いかがいたしましたか?なにかお困りですか?」

「少々人を探しておりまして」

「こほんっ…まぁ…でしたらわたくしがお力になりますわ」



 最初に返事をした取り巻きを押しのけマリーがいつものように甘えるような声で腕をとろうとする。

 それをするりと自然に避けられ、男性は言葉を続ける。



「でしたら、カルフェーネ嬢をご存知でしょうか?」

「はぁ?!カルフェーネ…クルーシャですか?!」



 先程のやり取りが思い出され思わず表情に現れる。

 怒りに震えているマリーの隙をついて取り巻きが男性と距離を詰める。



「あ、あの、クルーシャ様でしたらもう出発なされましたよ」

「なにかご用事でしたか?私たちクルーシャ様のお友達ですので代わりに伺いますわ!」

「もしよろしければエントランスのロビーでお茶でもいかがですか?」

「あぁ、既にいないのでしたら結構です。それに」



 興味無さそうな声色で艶やかな黒髪をなびかせながら踵を返し、途中で振り返りマリーを見つめる。正確に言うとマリーの頭で視線は止まっている。



「あまり長居しても失礼ですし」



 クスリと笑み、今度は振り返ることなく去っていった。



「ま、まぁ!マリー様になんて言い方なんでしょう?!」

「でも素敵な方でしたね」

「王立魔術騎士団の紋章をお付けになられていましたね。素敵…」



 きゃいきゃい騒ぐ中マリーは相変わらず震えていた。

 ただ、先程の怒りで震えるのではなく、歓喜であった。



「あのお方はどなたなの?ヴィンセント様とは異なる大人の魅力有り余るお方だわ…!わたくしの髪型のことを気遣ってくださるなんて、優しいお方なのですわね…!」



 マリーは寝癖頭のまま他の生徒が出立する時間までしばらく彼が立ち去った後を縋るように見ていた。






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