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閑話【1】

 



 ※※side



 月が登って幾許か経った頃、突然の来訪者に静寂は破られた。



「夜分遅くに失礼するよ。やっぱり部屋じゃなくこちらに来て正解だったな」



 挨拶もそこそこに、無駄足にならなくてすんだと突然やってきた来訪者はこちらが返事などせずとも勝手にテーブルについた。



「なぁ、言いたいことは色々あるけどまずは連れは?」

「あれ?どうしたんだろうね?」

「ったく、どうせどこかで巻いてきたんだろう。1人でウロウロできる身分じゃないだろう」

「まぁまぁ、とりあえずお茶でも飲んで落ち着こう」



 にっこりこちらを黙らせると机を長い指でコンコンと叩く。

 あー、左様ですか。俺が準備するのね。


 と、作業を一旦中止してお茶を入れに動く。

 確か茶葉は先日新しいのを買ってあったはず。お湯を沸かしている間に茶葉を用意し、お茶請けをふんぞりがえってるこちらを見ているやつの前に置く。



「悪いね、ありがとう」

「はぁ、悪いと思ってないだろ」

「いや、わざわざ私の好きな菓子を用意しておいてくれたんだろう?だったら礼ぐらいするさ」

「た、たまたまだ!」



 突然痛い所をつかれ慌てて沸かしているポットの前に立つ。

 魔法陣を用いて火を起こしそこで湯を沸かす。本来魔法陣は高価なもので湯を沸かす程度では利用できないが、そこは魔術師の自分の特権だろう。



「相変わらず手際がいいね」

「こうもしょっちゅう来客があるとある程度出来るようになるさ。で、今日はなんの要件だ?面倒ごとはごめんだぞ」



 用意したカップにお茶を注ぎ、自分も目の前の席に着く。

 ドライフルーツ入りのカップケーキを手でつまみパクッと1口で飲み込み、自信で入れたお茶で流し込む。行儀が悪くて他ではやらないがこいつ相手なら特に注意されることも無いので遠慮なく振る舞う。

 普段は部下がグチグチ言ってくるのでこんなことしない。



「私がここに一人で来たんだ。面倒事に決まっているだろう?」

「はぁ、やっぱりか」



 昼間、ちょっとした騒ぎがあったことは知っている。

 そのせいでこの目の前に座って楽しそうにこちらの様子を伺っているやつが巻き込まれているのも知っている。


 でも、俺が巻き込まれることは無いよな?



「うん、その様子なら大体のことは把握しているみたいだね。でも齟齬があってはいけないし簡単に説明だけするね」



 香りを楽しみながらお茶をすすり、適度な大きさに割ったカップケーキを口にして満足そうにこちらに向き直る。



「昼間学園内、衆人観衆のど真ん中で愚弟が婚約破棄をした。相手は子爵家ご令嬢。以前は神童とも呼ばれていた、君と同じ闇魔法の使い手だよ」



 神童、本来7歳の誕生日に発動する魔力が3歳で発動したって話題になっていた子。

 でも魔力などは並程度だった。闇魔法という特殊な能力でなければ俺は名前すら知らないんだろうな。



「ったく、なんで闇魔法保持者との縁を切るような真似をしたんだ?」

「愚弟だからこそ、といったところだろう。新しい婚約者の席に男爵家の令嬢を推薦してきたよ」

「まったくしらないな。なんだその相手は闇魔法保持者より貴重な存在か?」



 目の前の相手はさらに笑みを深くする。

『そんなのがいるわけないだろう』と瞳が雄弁に語っている。

 ってか、笑えば社交界、いやこの世界の女は全て虜に出来ると噂の微笑みを俺相手に炸裂させないで頂きたい。

 背筋にゾクリと寒気が走り思わず目をそらす。



「はぁ…それでお前は後始末のために東奔西走してるのか」

「そうだね、この件で王が大分…いや、完全にキレてね。愚弟の休暇は丸々幽閉されることになったよ」

「まあ、自業自得だな」



 ふぅふぅと冷ましながらお茶を飲むと相手も静かにお茶を含んだ。

 こんな世間話をしにここに来たんじゃないんだろう。

 現に外面用の笑みはまったく剥がれていない。何を言われるか分からないこの生殺し状態に痺れを切らし、この長年見てきたこの微笑みに質問する。



「愚痴を言いに忙しい中来たわけじゃないんだろう?要件はなんだ?」



 もし愚痴なら高い酒でも用意すれば聞いてやるぞと嫌味を言う。

 途端、人好きそうな笑みをニヤリと変えクツクツ笑う。



「本当に君のそう言う所好きだな」

「好きとか気持ち悪いこと言うな。嫁さんにだけ囁いておけ」

「私の可愛いお嫁さんには毎晩囁いているから心配ないよ」



 はぁそうですか。独り身のこちらにも少しは配慮しろよコノヤロー。新婚だとか知ったことか。



「ふふ、そんな顔するなら初恋の相手なんて諦めて君も婚約から始めようよ」

「は、ははははつこいって!!!!?」

「あれ?例の君を救ってくれたナイトをまだ想っているんだろう」

「ナイトってなんだ!?そんなわけない!」



 あっやばい。

 ニヤニヤしていた笑みがさらに邪悪身を帯びている。

 これは、もしかするとやられたかもしれない。

 どうする?敵前逃亡、全然ありだな。

 しかし、相手の方がこちらより断然上手だった。

 先程の笑みはなく、ピリッとした空気で辺りが張り詰める。

 思わず席を立ち、椅子に座る彼の前に跪き頭を垂れた。



「リード・ソシリア名誉公爵。第1王子ソフィリアス・シューネ・セイリンキースが命ずる。カルフェーネ子爵家令嬢クルーシャ・カルフェーネを監視、婚姻関係が結べるよう努めよ」

「--!?…はっ。承りました。」



 はい?!

 監視は分かる。クルーシャ嬢は闇魔法の使い手だ。万が一他国などに渡ったら国際的な問題になりさらにパワーバランスが崩れるだろう。

 それには対処、対抗出来る同じ闇魔法、さらに彼女より魔力が上回っている自分が行うのが通りだろう。

 だけどさ、婚姻って!?

 なんだそりゃ?!



「ふふふ、いい表情だね!君のその顔見るとストレス…いやなんでもない。存分に務めを果たしたまえ」

「…お前ぇ!八つ当たりで俺に嫌がらせしてるのか?!」

「まさか!王から愚弟の代わりを見つけるようにと監視を怠るなと命じられ、なんで私が尻拭いをさせられなきゃならんのだとは思ったが、八つ当たりなんてとんでもない」



 あぁ、確信した。絶対八つ当たりだ。

 元々自由奔放、わがまま放題の腹違いの第3王子のヴィンセントを嫌っていたのは知っていたがその後始末をしろと言われて内心腹立たしかったんだろうな。


 でも、でもさ。俺に当たることないよな!?

 思わずお綺麗な顔を睨みつけると、眉が下がり目を伏せられた。



「君が怒るのも最もだ。すまないね。君にしかこんなこと頼めないんだ…」

「ソフィ…。ったく、分かったよ。ちゃんと命令には従う」

「私ほどではないがお前も世間で言う美形に当てはまるのに、初恋を拗らせて今まで女の影すらない。その歳になって婚約者すら居ないなんて、私の周りには…そうリード、お前しかいなかったんだ。許せ」

「今ので許せなくなったわ」



 はははって笑ってるがこちとら笑い事ではない。

 なんて失礼なやつなんだと憤慨する。

 でも、とため息をひとつ落とす。



 本当にこんなこと言えるやつが俺しかいないんだろうなと。

 第1王子という立場で軽口を叩くのも、冗談を言うのも。幼なじみの俺ぐらいなんだろうな。



「うん。心決めてくれてありがとう。やっぱり持つべきものは親友だね」

「はぁ…お前このことを言うために従者やら護衛やら巻いてきたのか?」

「彼らは君と話すと嫌な顔をするからね。ちょっと邪魔だったんだ」



 まぁ身分が違うからな。嫌な顔もしたくなるだろう。でも護衛は連れて歩けよ。万が一があるだろうが。



「では、随分夜も深くなってきたし、私はそろそろお暇するよ」

「へいへい」



 ご馳走様と礼儀を欠さず席を立ち、ドアへと向かう。

 耳をすませはまドアの向こうからソフィを呼ぶ気配がする。多分ここを嗅ぎ付けられたんだろう。結構優秀だな。いや、優秀な従者は巻かれたりしないな。

 飲み終わったカップや皿を片付けならがお互い苦労するな。と、従者に憐れみの念を感じた。



「あぁ、そうそう。明日から休暇のクルーシャ嬢は領地に帰るそうだ」

「…は?明日?領地?」

「そして君の任務は明日からだ」



 よろしくとドアの向こうに消えていく。

 よろしくじゃない!



「ちょっと!こっちの仕事は?!もうすぐ完成する魔術具や陣があるんだが!?」



 はははっとこちらを振り返ることもなく廊下に消えていくソフィ。

 ポツンと残された俺は頭を抱える。



「一体どうするんだよ」

「失礼します。リード様の代理等手続きはこちらで全て行っておきます。…ご迷惑おかけします」



 !?

 窓辺から突然人が現れた。黒い衣装に身を包んだ男が全てを知っているように静かにそう告げた。

 あぁ…。こいつソフィの護衛か。



「…あぁ、じゃあ頼むわ。…ちなみにいつからそこに?」

「ご挨拶もなく申し訳ございません。殿下と同時に控えさせていただいておりました」



 まったく気づかなかったわ。

 まぁ気づかれないように護衛が彼らの仕事だからな。

 気づかれないって言うのはソフィじゃなく、俺らのような相手側。ソフィはもちろん知っている。



「それでは失礼します。ご準備大変ですがよろしくお願いします」



 今度こそ1人きりになる。


 仕事は俺が居なくても部下達が何とかするだろう…。休め休めとうるさく言っていたやつもいたしな。確かに以前休んだのはいつだったか。



 それに、闇魔法者のクルーシャ嬢。

 いつかは確認しておこうと思っていた。ちょうどいい機会か。



 窓辺から高く登った月を見る。


 だいぶ昇ったな。


 静けさの中にしんしんと光を落とす月から視線を外し、今日は夜通し仕事を片付けて荷造りかとため息を零し、デスクの書類に向き直りペンを走らせ始めた。





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