妹ってこんな感じですかね?
部屋まで戻りベッドに倒れ込む。
息が整わない。足が痛い。汗だくだく。
3階までダッシュしただけでこのレベル。確実に運動不足だ。
「はぁはぁ…く、くるーしゃ…もうちょっと運動…しておいてよ…」
-す、すみません…はぁ、中に私まで息苦しいのですね…。初めて…しりました…。
「はぁはぁマジ…?ごめん。…大丈夫?」
-大丈夫ですぅー…。
何か飲み物をと辺りを見渡し先程入れてもらったお茶の残りがあったから一気に仰ぐ。ついでにポットの中にあったお茶も全部いただく。冷めきっていたお茶が火照った身体ににちょうどよい。
「はぁ、ちょっと落ち着いた…」
-ですね。肉体は共通のようなので、恐らく痛覚や、味覚なんかも共有なんでしょうね。
「マジかー…下手なことしないように気をつけるね」
-いえ、好きなように扱って構いません。
まったく、この子ったら本当に自暴自棄みたいな言葉ばかり言って…。
と、少し天井を見上げる。先程の動揺はクルーシャと話していて気も紛れたのかだいぶ気配を無くしていた。
-…あの…モトミヤリイナ様?もう大丈夫なのですか?
恐る恐る声をかけるクルーシャ。多分この話題で私が傷つくことを恐れているんだ。
さっきは明らかに動揺しちゃったし。
「うん、ここまで戻ってきてクルーシャと話してたら少し楽になったよ。ってか、ごめんね?完璧に演技しようと思ってたのに…これじゃプロ失格だー」
女優業に転身する時に、先輩から「素を出すな。観ているものをガッカリさせるな。役になりきれ。演じるんじゃない、その役として生きろ」と素敵な名言まで頂いていたのに…。
今の場合、観客はクルーシャだけなんだけど。
でもさ、クルーシャってば私が演じてる時少し嬉しそうに、尊敬してるみたいな感じなんだもの。
私まで嬉しくって出来れば演技頑張りたいなって思う。
ここまで考えて思わずくすりと笑いがこぼれる。
死んだのに演技が出来る、しかもまだまだ私に出来ることは沢山ある。
あのまま、死んじゃわなくてよかった。
-モトミヤリイナ様?どうされたんですか?
「気になってたんだけどリイナって呼び捨てでいいよ」
-そんな!恐れ多いです!
「そんなことないよー。私もフルネームで呼ばれるの気になるし、クルーシャには名前で呼んで欲しい」
-うっ…。
「それに私もうクルーシャって呼んでるし。もし嫌ならクルーシャ様に変えようかな?それかフルネーム…なんだっけ、かる…かる…」
いかん、人の名前と顔を覚えるのは得意だけど色々あったせいでクルーシャのフルネーム出てこない。
かるかると連呼するの私を見かねたクルーシャがカルフェーネだと教えてくれた。
うん、忘れないようにしないと。一応今の私の名前でもあるし。
-お教えしましたがでも!私のことはこのままクルーシャとお呼びください!
「じゃあ私のこともリイナ、もしくはあだ名とかで」
-あ、あだ名!あのお友達同士で呼び合う通称みたいなものですね!
おっ突然キラキラオーラを感じる。多分ときめいているのかな?よしよし。
「ん?あだ名がいいの?じゃー…ルーシャって呼んでいい?」
-!…はいっ!!是非!嬉しいです!
「じゃあ私のことは?」
-え?!えっと…
悩み込むクルーシャが思わず可愛くてくすくす笑ってしまう。
こんな可愛い子なのに、どうして周りは分かってくれないんだろうね?
-うぅ~無理です!どうしましょう?あだ名で呼んでいただきたいのに!
「はははっじゃあリィって呼んでよ」
-リィ…さま?
「様いらなーい」
-え?!…りぃ…
「なぁに?ルーシャ?」
-!!!なんですか!?このむず痒い感じは?
本当にクルーシャの様子が面白い。
ほっこりとクルーシャとの会話を楽しんでいるとまたノックの音が響きドロシーが入室してきた。
大きな箱を抱えて、また部屋に入るなり辺りを視線を巡らせている。
ああ、そっか。私ってばまた声に出して会話してたよね…。ごめんね、ついつい喋っちゃうんだよ。
「クルーシャ様、お加減はいかがですか?もしお辛いのであれば仰ってくださいまし」
「ありがとう、今は随分良くなりました」
「左様でございますか。ただし、本日はお早めにお休みいただきたく存じます」
カーテンから零れる光は随分斜めから差し込んでいることからいまは夕方頃だろう。
確かになんだかんだあったお陰で精神的疲労はたっぷりだ。
今夜はゆっくり休みたい気持ちもある。でも、この世界のこと、クルーシャのこと、もっと知らなきゃいけないことも多く、寝る間も惜しんで覚える必要もある気がする。
どうしよう?ここはやっぱり寝る間も惜しんだ方がいいよね?
「…また、起きてお勉強でもなさろうと計画されておりますか?」
ギクリ
さっきまでの優しい声ではなく、少し怒っているような声色でズバリと指摘してくるドロシーちゃん。
「あのようなことがあった後です!今日ぐらいお勉強お休みしてゆっくり休んで頂きたいのです!恐れながらもドロシーからのお願いでございます!どうか!お願い致します!」
-…ドロシーそこまで私のことを…。
多分もう噂になっているのだろう。クルーシャがどのような目にあったか既に知っている様子だ。
だからだろう、ドロシーちゃんはクルーシャを気遣って強い口調だけどもしっかり提言してくれてる。優しい子だな。
「わかりました。本日はしっかりとお休みいただきます」
「ありがとう存じます!では本日は特別に入浴なさってスッキリいたしましょう!早速用意してまいります!」
「えぇ、よろしくお願いしま…す…」
張り切って入ってきたドアではなく、ベットの近くにあったドアへと姿を消すドロシーちゃん。
あっちのドアはクローゼット、ミニキッチンがあり、さらにその奥の部屋にドロシーの部屋があるんだって。
多分着替えとかを用意してくれるつもりなんだろうけど、ちょっと引っかかることがあった。
-…ねぇルーシャ?
-は、はい!!!なんでしょうか?り、りりり、リィ?!
-…特別に入浴とは?
-?入浴をご存知ではございませんか?
-いや、違う。特別にって?
-あぁそちらですか!それはですね…
あぁ、想定外だ。
「ではクルーシャ様、お湯をおかけしますね」
「…ええ、お願い」
まさかこの世界
「ではお背中お拭きいたします」
「…ええ、お願い」
お湯に浸かって、入浴するどころかお湯を身体に流すだけ。
「次は髪もお拭きいたします」
「…えぇ…」
お湯をかけるのも2日に1回だし、洗髪はさらに2回に1回の頻度。
普段は濡らしたタオルで身体を拭くのみだった。
ありえない!
ドロシーちゃんに完全介護状態で入浴…をさせて貰い、余計にぐったりとした私はソファーに沈み込み沈黙した。
-りぃの世界では毎日入浴は一般的でなおかつ、お湯に浸かっていたんですね!大変興味深いです!
そんな私に対して大興奮なクルーシャ。私があれこれと前の世界と比較しまくって絶望していたのに、その前世界の生活に大分興味をもったようだ。
「クルーシャ様申し訳ございませんでした。わたくしめが張り切って入浴などと申したばかりに余計にお疲れさせてしまい…」
「それはちがうわ…ごめんなさい、ドロシー。色々考えて気を使ってくれてたのに。これからもよろしくね」
「は、はいぃ!もったいないお言葉でございますぅ」
震える手で果実の飲み物を出してくれる。ちょっと酸味があって甘い。…ブドウみたいな味かな?
嫌いな味ではいのでごくごくと喉を潤し満足する。
あっそうだ、忘れないうちに聞かなきゃ!
「そうでした。ドロシー、鏡を用意できますか?」
「えぇ、もちろんでございますが…」
「では申し訳ないのですがお願いします」
「はい。ただ保管場所が別でして、明日の朝までにご準備させて頂いてもよろしいでしょうか?」
もちろんっと返事をする。
よしよし、鏡ゲット出来そうだ。
見返すためには現状把握、その中からクルーシャの魅力、改善する点などを探さなければいけないのだから、鏡は必須アイテム。これがなくっちゃね!
「クルーシャ様、そろそろお休みになって頂きたく。ただ、その前にお食事も軽く…と考えておりますがよろしいでしょうか?」
「えぇ、大丈夫ですよ」
「では先程アルフレッド様から頂いたものをお出しいたします」
慣れた手つきで紅茶の用意。
ドアの向こうからお皿やカトラリーを準備してもらう。
-寝る前に食事かー…、避けたいけどさすがに断れないね
-なぜ就寝前に食事をしてはダメなのですか?
-んー確か、食べ物の栄養素を利用できずに身体に吸収、脂肪になりやすいんだったはず
習慣になっていることを改めてなぜと聞かれると困るな…。
頭良くないから何となくで覚えている所もあるし。でも食事は就寝3時間前まで!とモデル時代に厳しく言われていたな。
「ご準備整いました。済まされた食器等はあとでわたくしめが片付けますのでそのままになさってご就寝ください」
「ありがとう」
ドロシーが去った後、とりあえず食べるかーとテーブルに着く。
香りの良い紅茶に添えられていたのはぎっしりお肉の詰まったミートパイのようなものでした。
「なんで?!」
お菓子とか軽食とかが普通じゃないの?それとも就寝前はミートパイっていう文化なの?!この世界は!?
-ルーシャ!ここの世界は就寝前にミートパイ、もしくはお茶請けにミートパイが普通なの?
-いえ、一般的には異なると思いますが、お義兄様がお持ちになるのはミートパイが多いですね。
キっと目付きが鋭くなる。
私、あのお義兄様嫌い!生理的に無理っぽいなーとは思ってたけど完全嫌い!!!
こんな肉汁たっぷり、パイにもバターたっぷりな食べ物を寄越すなんて!カロリー爆弾じゃない!
とりあえずドロシーちゃんに心配されちゃうから食べるけど、食べたら案外美味しくてパクパク食べちゃったけど、こんな食べ物を用意したお義兄様最低だ!
ペロリと用意されていたパイを食べ終え、疲れ果てた私はもうベッドに横になり、気絶するように眠りに落ちたのだった。