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まるでナイトとプリンセス

 




「クルーシャ様その目は如何しましたか?」

「あぁ...、昨晩ちょっと寝つきが悪くてそのせいですね」



 さすがドロシーちゃん、前髪の下に隠れた目が腫れていることに気づきましたね。

 適当な嘘に納得行かないけど納得せざるおえないドロシーちゃんは躊躇いながら、そうですかとだけ返事をした。


 あれから私までもらい泣きしてしまった結果、泣きながら寝るという失態をおかしてしまった上、朝寝坊しました。


 そのため現在慌てて日課をこなしている最中です。



「...28、29、30!腹筋終わり!」



 パッと立ち上がり屈伸をする。この後はランニングの予定だ。

 ああー、とりあえず座った状態からすぐに立ち上がれるの便利だ。今までは体重くて立ち上がるのもしんどかったですからね。



 -今日も順調だね!

 -...そう、ですね。



 んー、やっぱりまだクルーシャの元気がない。

 どうしたものかなー。



「では走りに行ってきます」



 飲み物を小さなカバンに詰め走り出す。

 この後ドロシーちゃんは朝ごはんの準備をして待っていてくれるんだ。



 -昨日の夜、少し雨が降ったみたいだね。ちょっと地面ぬかるんでるから気をつけないとね。

 -そうですね。



 整えられた庭を抜けいつもの林に入る。

 木々に残された雨粒が朝日に反射してキラキラ綺麗。あと雨上がりって空気澄んでて気持ちいいよね。

 ちょっとづつ上がる息をリズムを崩さないように気をつけながら走るスピードを少しだけ落とす。


 さすがに木の根っことか、濡れてると滑るから注意していこう。


 注意はしているものの頭の中の大半はクルーシャの事だった。


 どうしたものかな、そればかりが頭の中を閉めホンの一瞬気を抜いた。

 その瞬間、足元がズルっと滑る。

 慌てて体制を立て直そうとしたがもう反対の足がついてこない。


 ダメだ、転ぶ!



「ぐぇ」



 膝に強い衝撃は来たがそれ以外はない。そして今の音、声は?

 閉じていた瞳をそっと開けると目の前にはリードの顔があった。

 どうして?あぁでもなんできめ細かな肌だろう。陶磁器の肌というよりシルクのような滑らかそうな肌だ。

 それに瞳を縁取るまつ毛のなんで長いこと。近くでみれるおかげで下まつ毛まで長いことが分かったわ。

 あとはこのぷるんとした唇。思わず触れるとふにっと柔らかい。血色は薄く、淡いピンクの唇。全てがパーフェクトだわ。



 -りぃ、リード様が...。

 -ん?



「あぁ!?ごめんなさい!」



 よく確認すると私が地面にリードを押し倒しているような光景だった。これは人様に見られたらやばい。誤解を招く。

 上半身を起こし慌ててリードのご尊顔から距離をとる。...ちょっと離れ難いと思っているじぶんがいるなー。もっとあの美術品、観察したかった。



「いや、こちらこそ受け止めきれずにすまない」



 赤面したまま固まっていたリードがようやく起動した。いや、まだ赤いままだけどね。かわいい。



「それは全然いいんだけど、リードこそ怪我ない?思いっきり潰しちゃったでしょう?」



 -そ、そうです!私の重い身体の下敷きになってしまって!骨折とか!内臓破裂とか!!!



 クルーシャが大騒ぎしだしたのでそっとリードの身体に視線をうつす。

 とりあえず外傷はなさそう、かな?

 ガサッと葉を踏みしめる音の後、すぐに聞き覚えのある声が聞こえた。



「...クルーシャ様と我が団長様がそのような関係になられているなんて...」

「シャーレ?!」

「あぁ、いいのです。黙っています。誰にも言いません。ただ業務日報に書き綴ります」

「業務日報は団員全員が目を通すだろう?!じゃなくて!これはそういうのでは無い!」

「おやぁ?そういうのとは?どういうのです?団長、説明を」



 おぉ、こんなに見事にからかわれる人そんなに居ないだろうな。

 と、他人事のように聞いていたが、原因は私だ。

 ちゃんとフォローしましょう。

 馬乗りになっていた体制から立ち上がり、シャーレに朝の挨拶をする。



「おはようございます、シャーレ様。一応弁解ですがこれは私が転びそうになったのをリード様が助けてくださって、...あぁなっていたのです」

「おはようございます、クルーシャ様。存じておりますので大丈夫ですよ」



 聞くと一部始終どころか木陰から終始みていたシャーレ様。

 面白そうだったのでずっと観察してましたって、この人腹黒いー。

 見ていたのがバレたのか、にっこり笑顔でこちらに近づいてきた。

 なによ?内緒話?

 耳を貸せとジェスチャーされ少しだけよると、小声で楽しそうに一言だけ伝えに来た。



「あぁ、クルーシャ様が我が団長様のお顔を撫で回していたことは黙っていますね」



 そして私はそんな腹黒い人に弱みを握られたようです。あぁ、にっこり笑顔がこわい。




「ったく、シャーレは相変わらず嫌な奴だな...?!いたっ」

「リード?!」

「団長?!」

「いや、なんでもない」



 なんでも無くはないだろう。私が退いたので立ち上がろうとして痛みがあったんだ。



「足ですか?」

「あぁ...、悪いがシャーレ。屋敷から杖かなにか足を支えれるものを持ってきてくれないか?」

「えぇ、分かりました。ではその間ここでじっとしててくださいね」

「あぁ、子供じゃないんだ。留守番ぐらいできる」



 ぷぅと頬を少し膨らますリードにいつもなら心の中パラダイスで堪能しまくっているところだが、今はさすがに無理だ。


 私のせいで怪我をさせてしまった。



「ごめんなさい...」

「いや、俺が支えきれなかったから悪いんだ。だからクルーシャ、リイナは気にするな」

「ううん、私が余所事考えてなければ良かったんだよ。...一応痛いところ見せて?折れてたら固定しないと...」



 裾を捲ってもらい、痛みがあるという足首を見る。

 痛そうに、赤黒く腫れ上がっている。



「ちょっと触るね」

「わかった...いた」

「ごめん!でも、折れてないみたい。捻挫...かな」



 応急処置処置しなきゃ。でもここは林に入ってすぐの所で、包帯やら、冷やすための水なんかない。特に腫れてたから一刻も早く冷やしてあげないと。

 じっとリードを見る。平気そうな表情をしているがまたに眉をしかめているので、やはりここは早めの処置が必要だろう。

 そうなるとここでじっとしてられないよ。



「よし、たぶん、いける。リード、私に任せて」

「あぁ...ん?なにをだ?」



 膝をついて騎士のようにしゃがむと、片手はリードの脇の下に肩まで入れて、もう片手は太ももの裏辺りに入れ込む。

 そのままいつもの屈伸の容量で、持ち上げる。



「ぐぅ!...よし!何とか行ける!」

「はっ!?な、なにを?!」

「暴れないで!足痛めるでしょう!じっとしてなさい!!!」



 持ち上げた瞬間、手足をばたつかせようと認め強めに牽制する。安静に運ぼうと思っているのに、暴れられたら元も子もない。

 あと、軽いから問題ないけどバランス崩して落下させる、なんてことはあってはならない。相手は怪我人。



 -りぃ!凄いです!かっこいい!

 -でしょう?ちょっとしたコツがあるのよ。腰から立ち上がらずに膝から持ち上げるとか、あとは支える場所とか。

 -おい!こんな所で会話してないで、早く下ろしてくれ!

 -ダメ!あんな足元不安定な林にいたら良くない。屋敷まで届けるよ。



 足に振動を伝えないようにゆっくり目だがちゃんと運べれてるじゃないか。



「クルーシャ様!如何しましたか?!」

「あぁ怪我をされたので運んでおります」

「まぁ?リード様?お嬢様如何しましたか?」

「不慮な事故で足を痛めてしまったみたいなの」

「まぁ...なんて絵になるお姿でしょうか...」

「...分かります。リード様の可愛らしさとクルーシャお嬢様の凛々しさ...誰か画家呼んでくれないかしら...」



 ゆっくりのせいか色んな人に見つかり声をかけられる。

 仕方ない。人目に触れるのは仕方ないよ。色んな人にザワザワされてるけど諦めて。

 だからリードさん、腕の中で「いっそ殺せ」みたいな表情しないでよ。



「ブーッ!な、なんですか!?団長!?何されてるんですか!おもしろ!!!」



 杖や応急処置セットだろうものや、屋敷の従業員を数人引き連れたシャーレ様に吹き出された。



「シャーレ様、そんな息ができないぐらい笑うのは後にしてください。今は怪我人優先です」

「はぁはぁ、そ、そうですね...。屋敷まで運んで頂けますか...?」



 呼吸を整えていつもの調子で話ているけど、ちょっとまだ語尾笑ってるよ。そんなに面白いかな?



 -いえ!全然です!凄くかっこいいです!素敵です!

 -だよね?

 -あぁ、私も1度お姫様抱っこしてみたいです!

 -されたいんじゃないんだ。またリードにお願いしたら?



 静かにいつも着ている黒いフードを顔の半ばまで隠してしまったリードに尋ねる。



 -...そんなに...したいのか?

 -はい!リード様!お願いします!

 -!ぐぅ...、じゃあするならこんな人目につかない所にしてくれ...。



 案外あっさり許可が降りた。

 クルーシャのキラキラオーラのお願いを断れるヤツは居ないよね。うんうん。



「こちらの長椅子に...」

「はい…よし、リード様、如何ですか?」

「...問題ない」



 リビングに置かれた長椅子にそっと下ろすことに成功した。

 あとは足の処置をしなくては!



「あの、包帯はありますか?」

「え?はい、ございますよ」

「ありがとうございます。リード様、足に力を入れないでくださいね」

「わかった」



 クルクルと足の甲、足首を垂直にしてから足首、そこから順番にグルグルと包帯で固定する。

 昔舞台で転んだ時に捻挫して処置してもらったこと、今回は覚えてて良かった。



「いい?絶対に動かしちゃダメです。あと、冷やさないと...」

「クルーシャ様、この皮袋に水が入っています」

「少し...温いけどないよりマシね。患部腫れてたから冷やすね?シャーレ様、冷やしすぎは良くないので30分に1度外して下さい」

「分かりました」



 応急処置としてはこんなものかな。

 ふぅ、と一息ついて周りを見る。そういえばリードが滞在してる屋敷、初めてはいるな。


 なんか色んなところに書類やら箱やらカバンやらが散らかってる。



「安静に...ですから、お仕事とか無理しないでくださいね」

「......」

「リード様?」

「善処はする...」



 まぁ、団長の立場でやらなきゃ行けないことはあるだろう。

 シャーレ様に向き直り、再度安静にさせる旨伝える。

 ここで判明したがシャーレ様は日頃から仕事しすぎとセーブをかけているが、ワーカホリックのリードが勝手に仕事しちゃうんだって。



「なので、良い機会です。手の届かないところに全て運んでしまいましょう」

「シャーレ?!」

「皆さーん、この辺りのもの全て書斎に運んでくださいー」



 号令のあと、優秀な従者はあっという間に書類の束など運んでいき、掃除まで済ませてしまう。

 あっこれは屋敷清掃したかったけど主の許可がなく触れなかったからフラストレーションが上がっていたのね。

 見違えるぐらい綺麗になったわ。



 リードいる長椅子の周りには小さな机のみ。飲み物と、花瓶に飾られた花が置いてある。



「ふふ、これで大人しくせざるを終えませんね」

「あぁ、...おい、シャーレ。今日までの仕事だけは後で持ってきてくれ」

「分かっています。最低限の仕事はちゃんと持ってきますよ」

「はぁ、退屈になりそうだな」



 確かに2、3日は安静だろうから暇になるよね。

 んー...私が怪我させてしまったし、協力せねば。



「リード様、私今日はほぼ予定ありませんので後でお見舞いの品を持って来ます」

「...いいのか?」

「はい、一応ドロシーの許可を得なければなりませんが問題ないかと。ああ、そうだ。その際に前言っていたパンケーキの材料も持ってきますのでキッチンを使わせて貰いますね」

「クルーシャ様は怪我の治療だけではなく、料理までなさるのですか?これは、いいお嫁様になりますね、リード様!」


 最後のキッチンの件はシャーレに向けて。快く貸してくれるそうだ。

 なんか余計なことも言われたが、まぁ、いいだろう。


 とりあえずドロシーちゃんと合流して、あとは運動したままだから、その辺も準備して。



 -よし!一旦戻ろうか!

 -はい。リード様には申し訳ないんですがまたりぃのパンケーキ食べれるの凄く嬉しいです。



 いつ間にクルーシャの機嫌も良くなってる。

 リードに会えたのが良かったのかもな。




「ではまた後で参りますね」



 さて、ドロシーちゃんになんて言おうかなー。




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