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我を忘れてしまうことってありますよね

 



 本日の天気は曇り。風も強く雨が降ってくるかもしれない。天気予報が見れないのって案外不便だね。


 それでも特に気にせず早朝に起きて準備を整え、今日もお庭にやって参りました。



 -むぅぅ眠いです…。

 -あー、ルーシャ朝弱いよね。ドロシーちゃんも前言ってたよね。寝れるなら寝てもいいよ?

 -いえ、寝れないと思いますので大丈夫です。今日も運動頑張ります…ふぁ。



 欠伸が噛み殺しきれずに漏れ出る。まぁ私が動いて居たら中のクルーシャと同じ感覚を味わってるみたいだし寝れないよね。

 ごめんよ、それでも私は走るけど。



 日課になりつつあるヨガも終え、続いて筋トレです。

 腹筋昨日は3回だったから今日は少しでも数増やすぞ!と意気込んで頑張るが筋肉痛が邪魔をする。


 いたたた…。くぅ筋肉痛を何度も乗り越えて筋肉が出来ると思えばなんとか耐えましょう…!


 痛みを堪えながらなんとか5回やってやったぜ!



 -ふぅ!どうよルーシャ!この調子で回数増やしていけば余裕で腹筋割れるかもよ?!



 ちょっとテンション上がって割る気もない腹筋についてクルーシャに話しかける。が、返事はない。


 -ルーシャー?るーしゃーちゃーん???



 やはり応答がない。何故?もしや緊急事態かと慌てて様子を伺う。



 -すぅすぅ…。

 -寝てる?!

 -はっ!?え?私今寝てましたか…って当然の腹痛!?これは一体?!

 -あぁ、その痛みは腹筋したからだね。ルーシャ、寝れたんだ…。

 -き、気づいたら寝てました…ね。今まではりぃと共に行動しないと寝れなかったのに、どうしてでしょう?



 朝の弱いクルーシャは今までにも何度か「眠いような気がするのに寝れない」とぴぃぴぃ嘆いていた。

 だから今、突然寝れていたことについてどうしてか分からなかった。分からないので考えるのを放棄することにした。



 -まぁ、良かったことじゃない?これで朝でも好きな時に寝られるよー。

 -それはそうかもしれませんが、私そんなに寝ませんよ?

 -そうかな?ルーシャ朝よわよわじゃない。今日も起きたばかりの時何言ってるのかわかんなかったよ?

 -あれは!りぃの世界を見てて、なにかすごく美味しそうなものを食べていたから気になっただけです!


 -りぃの世界…?それはなんの話?



 突然の第三者の声に声を挙げそうになるほどびっくりする。

 口から心臓飛び出すって表現が今だとよくわかる。確かに飛び出しそうなぐらいドキドキしてる。



「…おはようございます。リード様」

「おはようクルーシャ」



 今日も朝早くからいらっしゃたんですね、かわい子ちゃん。

 シャーレ様もご一緒ですねと朝の挨拶を交わす。本日もスカートじゃないので騎士団式ご挨拶。



「こんな朝早くから何をしているんだい?」

「見て分かりませんか?運動ですよ」

「それは、ただうつ伏せなだけでは?」



 確かに今は腕立て最中で一見何してるかわかんないでしょうけど私の腕には今物凄い負荷がかかっているのよ。

 何となく運動してハァハァと息を切らしているのを見られるのも嫌だったので少し早いが休憩にする。

 ドロシーちゃんが飲み物持ってくるまでちょっとのんびりしましょ。



「おや?もう辞めてしまうのかい?」

「…人に見られるの嫌なんです」

「そういうものなの?」

「女子ですから」



 くるりとシャーレ様を振り返り意見を求めているが、先程は木の影でこちらを見ないようにしていたシャーレ様からそういうものだと言われていた。

 必死な形相なんて見られたく無いものなのよ?その点シャーレ様は分かってる。目付き悪いけど多分モテるタイプね。



「いつも一緒の君の従者は?」

「質問が多いですね…。今は朝食の準備などをしていると思います。本来この時間私は運動しているはずですから」

「ふーん、ねぇ喉乾いたんじゃない?お茶入れようか?」



 お茶を入れできてくれるということかな?それならありがたいのでお願いする。



「おっけー、シャーレ悪いんだけどヤカンとかカップとか」

「ハイハイ。了解しました」



 シャーレ様が去った後、遠慮なく私の使っている敷物に座り込んできた。お目目がキラキラしてて可愛い…けど、こういう目をしている時は要注意だ。



 -それで、「りぃの世界」とは?



 やっぱり聞いて来ますよね。



 -私が生前暮らしていた世界のことです。

 -それはなんとなくわかってる。そうじゃなくて、なんでクルーシャが見たって言ったの?言ったよね?ね?クルーシャ?

 -うぅ…りぃ~。

 -まぁ、黙ってなきゃ駄目ってことも無いから喋ってもいいんじゃない?

 -そうだぞ?内緒話ダメ。



 なんだその可愛さわ!指でバッテン作って口元に持っていくんじゃない!


 クルーシャは何故か渋々夢で見ている内容を少し話した。

 眠っている時に私の過去が見れること。その間私は何も見ていない。

 過去は私の目線で進んでいること。恐らく私が印象深かったことが見れる。そのため時の流れはまちまちである。



 -なにそれ、超絶羨ましい…!俺も見たい!

 -ふふん、無理ですよ!私とりぃの間柄だから見れるのです!絆が違います!

 -ぐぬぬー!リイナ!俺の身体に入れないの?!



 そんな任意でポンポン行けません。そもそも私はただの人間で、闇魔法どころか魔法すら使えない一般人ですよー。



「…こほん、それで、リード様はなぜこちらに?」

「は?…あぁ、窓の外から婚約者候補が見えたから逢いに来たんだ、当然だよ」

「まぁわざわざありがとうございます」



 取ってつけたような会話をしていると、シャーレがリードの滞在先である館の方からメイドさんと共に戻ってきた。



「お楽しみ中に失礼します。団長、言われたものお持ちしましたよ」

「わざわざすまないな」



 メイドさんがカチャリカチャリと小さな音を立てながらカップなどを用意してくれる。

 でも、肝心のお茶は?

 ポットの中は空のようで湯気なども上がらず乾いた音を立てた。



 慣れた手つきでリードが懐から四つ折りされた紙を取り出した。

 それを広げ手をかざす。



 -火の魔法陣ですね。



 描かれている模様が薄らと輝き出した。その上に水の入ったヤカンを置く。これでお湯を沸かすらしい。



「…魔法陣、お高いとお聞きしましたがたかがお湯を沸かすだけで使用するのですか?」

「あぁ、これは私が個人的に作ったものだから別に構わないんだ」

 -それに魔法陣、自分の属性と異なる物は負荷がかかりやすく魔力も多く消耗しますよね?

「あの、魔力は大丈夫ですか?」

「あぁ、それも大丈夫だ」

「おや?クルーシャ様はご存知ございませんでしたか?団長のはなし、一時期都では有名でしたよ」



 シャーレ様から驚いた様子で声をかけられたので知らない、と首を横に振る。

 だって、私こちらに来たばかりだし知らないよ。

 クルーシャに至っては引きこもってたしね。噂とか聞いてなさそう。



「団長の魔力は国随一の保持量なんです。だからこれくらいの魔法陣の稼働で使う魔力なんて大したことないんです」

「…どうしてお前が偉そうなんだ?」

「我が魔術騎士団の誇りですから」



 どうも、リードの魔力を使って騎士団では色々してるみたい。二人の会話からそんな感じを汲み取ったが…、この2人本当に仲良いな。

 軽口を言い合ってる2人を眺めぼんやりお湯が湧くのを見守る。

 やかんから湯気が立ち上り始め、お湯をカップとポットに注いでからお湯を捨てポットに茶葉を入れる。そこに少しだけ高い位置からお湯を注いで蒸らす。

 手馴れた様子でお茶の準備を進めるリード。



「リード様はよくお茶を入れられるんですか?随分手馴れたご様子ですね」

「えぇ、知り合いがよく訪ねて来るので必要に駆られてですが。ではこちらをどうぞ」



 カップに注がれた紅茶を差し出される。

 ありがとう、とお礼を述べてからゆっくり口に運ぶと優しいお茶の香りが口いっぱいに広がる。

 これは、ドロシーちゃんのお茶も美味しいけど、リードの入れるお茶も同じぐらい美味しいかもしれない。



「…美味しいです」

「それは良かった。飲みやすいように少しぬるめに入れてあるからお代わりしてもいいですよ」



 確かに熱々紅茶も美味しいけど、運動後で少し喉の渇いている私にとってちょうどいい温度だ。思わずマナーとか気にせずごくごく飲んでしまった。



「相変わらずお茶を入れるのは上手いですよね、団長」

「まぁ一時毎晩来客があったからな。毎日入れてれば上手くもなる」

「そうでしたね…あの時期は地獄でした…」

「そうだな、終わらない仕事。王子自ら追い立てに来るプレッシャー…今思ってもゾッとする」



 毎晩来客と聞いてクルーシャが少しぴくりと反応したが、どうも相手は仕事関係、しかも王子。

 なんか、大変そうですね。



「あっ、王子と言ってもバ…、いや、第3王子ではなく第1王子のソフィリアス王子だ。第3王子と関わりわない」

「いま、バカと言いかけました?」

「まさか。我が国の第3王子様にそんな、恐れ多い」

「ふふ、そうですか」



 しれっと返事をするリードが面白くてつい笑ってしまった。

 すると背後からどさりとなにかが落ちた音がした。


 何事かと慌てて振り返ると籠を抱えたドロシーちゃんが膝を着いて崩れ落ちていた。



「ドロシー!?どうかしましたか?!」

「…しめが…」

「どうしたんだ?何を言ってるか聞こえない…。大丈夫か?」

「わたくしめが!わたくしめがクルーシャ様にお茶をお出しするのです!なぜ貴方様がお入れになるのですか?!」



 涙を浮かべながらリードを糾弾し出すドロシーちゃん。怒っていたかと思えば次の瞬間には頭を垂れていじいじしだした。



「でも、いいんです…。クルーシャ様も美味しそうに飲んでおられましたし…どうせわたくしめのお茶でなくてもよろしいんでしょうに…」



 おおぅ、次は拗ねモードに移行ですか?しかも私が原因だ。



 -うんうん、愛されてるね、クルーシャ。

 -はい、嬉しいです。

 -おーい!喋ってないでなんとかしてくれ!泣かれるの困るんだが?!



 泣きそうな女子に拗ねながら責められるという経験ないことをされてたじたじのリードさん。

 かわい子ちゃんが困っているのを眺めるのもまた良いけどここはちゃんと助け舟を出しましょう。



「ねぇドロシー、リード様は喉が渇いていた私を見かねて入れてくれただけなんです。親切にしてもらったの」

「うぅ、左様ですか…それはそれは、わたくしめの主人がお世話になりましたぁ」

「それにドロシーも用意しているんでしょう?そちらも飲みたいから準備してもらえる?」

「…かしこまりました」



 ようやく地面から立ち上がり、お茶の用意をしてくれる。

 まだえぐえぐ言ってるけど。本当に泣きそうだったのね。



「こちらはクルーシャ様のお気に入りのカップです」

「ありがとう」

「茶葉は以前気に入ってくださったものを使っています」

「…ありがとう」



 ブルーの色合いと花の絵柄が好きなカップと爽やかめな香りのお茶を出してくれた。

 いちいちリードにマウントを取りながら。



「どうですか?わたくしめのお茶も美味しいですか?」

「えぇもちろんです」

「では、ソシリア様とどちらの方が美味しいですか?」

「え?どちらも、美味しかった、ですよ?」

「どちらも…ですか?わたくしめの方が美味しかったですよね?そうですよね?そうじゃないと、わたし、わたし…」



 どうしよう、何故かドロシーちゃんがめんどくさい彼女みたいになってる。



 -ルーシャー、ドロシーちゃん何とかしてー。

 -え、ちょっとお待ちください。いいですかリード様、りぃの世界のぱんけーきというものが大変美味らしいのですよ!

 -ほう、ぱんけーき!名前の響からじゃ全く想像つかないな。

 -とても甘いふわふわしたものらしいんです。私もりぃの世界を見ているだけなので味わったことは無いのですが、食べているりぃは大変幸せそうでした!



 ドロシーちゃんの対応を私に丸投げして2人でパンケーキについて話し合っているのね。なんで?!いつか食べてみたいですーじゃないのよ?!



 -ちょっとルーシャ!ドロシーちゃんマジで何とかしてよぅ!パンケーキなら何とかしてあげるから!

 -えっ!?パンケーキを何とかとは?!

 -多分作れるから!だから病み病みドロシーちゃんを助けてあげて!

 -了解です!

 -お、俺も食べたい!いいよな!?



 なぜリードにも?!とは思ったが交渉成立。

 そこからは私よりも年季の入ったドロシー遣いのクルーシャのターンで見事元のドロシーちゃんに戻りました。

 さすがです。あんな言い方があるなんて。あと巧みな話術、感服いたします。



 -りぃ!約束忘れないでくださいね!



「先程は失礼いたしました」



 我に返ったドロシーちゃんが用意してくれた朝食を用意してくれる。

 今日もヘルシーご飯でサラダフルーツ、あと少しだけパンがあるのみ。



「お食事、いつも健康に気を使っておられるのですね、素晴らしいです」



 あっ、病みドロシーちゃん化した時に何故か姿がなかったシャーレ様だ。何しれっとこの場に戻ってきたのさ。

 まぁ、あの場に居てもシャーレ様は役に立たなかったからいいけどね。



「ありがとうございます。身体が資本ですから食事は重要と考えているんです」

「聞きましたか団長。貴方も婚約者様に合わせて健康的に生きたらどうですか?」

「余計なお世話だ」

「まぁ、リード様お身体に気を使ってくださいね」



 バツの悪そうな顔をしてドロシーちゃんが持ってきてくれたお茶と軽いお菓子を食べてるリードを見つめる。

 部下にお小言言われるほど不健康な生活を送っているの?



「そうですよ。結局昨日も徹夜したんですよね?何日連続ですか?」

「…まぁ。移動中含めて3日目か?」

「はぁ、本当に不健康な極まりない…」

「お前らが、俺に仕事を振るから終わんねぇんだろうが!」

「だってね、そこは我が団の誇りの出番ですから」



 魔法陣や魔術具を作成して魔力量豊富なリードが実験係ということらしい。



 -まぁ!魔術騎士団はそのような部署もあるのですね!

 -あぁ、戦いや補助のため必要な魔法陣や、生活に便利な魔術具まで幅広く研究している。ご存知の通り反発する魔法陣だと半端な魔力量じゃやってられないから俺の出番ってとこ。

 -素晴らしいです!



 そうですか、素晴らしいですか。

 いやね、みんなのためにお仕事しているのは素晴らしいかもしれない。


 でもさ、徹夜って?

 3日目って??



 はぁ!?何それ何それ何それ何それ何それ何それ何それ???!!!



 今までに発揮したことの無い瞬発力で、がしりと音を立てる勢いで両手でリードの顔を挟む。



「!?なにを!?」

「…本当だ…クマが…、肌…少し乾燥気味…」



 両手は固定したまま顔を近づけ今にもぶつかりそうだかそれどころでは無い。


 この国宝級に可愛いお顔にクマですって?!


 触れた頬も少し水分が足りないみたいでかさついている。

 色白いお肌もより一層の青白くなっている。

 きゅるるんなお目目も充血しているじゃないか!信じられない!!!!



「く、クルーシャ様…それ以上は…」

「はぁ?!なんですか、シャーレ様?!今私忙しいんですけど!」

「いえ!す、すみません」

「いえ、ところでシャーレ様はリード様の部下なんですよね?」

「はい…」

「ではなぜこうなるまで放って置いたのですか!?見てください!このクマ!まつ毛の影かと思ってましたがこれは完全にクマ!」

「はぁ…」

「目も赤く充血してお肌も…!この玉のようなお肌が傷んでるんですよ!何ともかんじないんですか?!こんなの世界の損失です…」

「………あの…」

「綺麗な瞳も乾燥しがちで、本来はもっとうるうるでキラキラなんでしょう?こんなの…酷い…」



 思わず涙か出てきそうになる。

 だって、前世界含めてこんなに可愛い人を見かけたことないのに、そんなに逸材がただの不健康な生活と言うだけで崩れているなんて…。



「あの、クルーシャ様。色々分かりましたし、私も反省しましたのでそろそろお手を離して頂けませんか?」

「?」

「うちの上司、気ぃ失ってるんで…」

「え?!」



 顔に夢中になっていたが体の力は抜けぐったりしているリードは確かに気を失っていた。

 え?私のせい?!知らない間に強く引っ張ったのかな?!



「いえ、女性免疫の件です。ちょうどいいのでこのまま寝かせておきます」



 一回りほど体の大きなシャーレ様が軽々リードを抱きかかえる。

 この様子…、体重もあんまりないんじゃないの?っと、今はそれどころではない。



「あの、良ければタオルをお湯で温めて目の上に乗せてあげてください。…疲れ目によく効くので」

「お気遣いありがとうございます。上司の挨拶がなく無礼ですが、今日のところはここでお暇させてもらいます」



 なんか、悪いことしちゃったな。

 でもクマとか肌とか気になっちゃったんだもん。ごめんね!



 -リード様、大丈夫でしょうか?

 -…後でパンケーキ焼くつもりだし持っていってあげよう。



 あとついでに健康についての心得を書いてシャーレ様に渡そう。



 また私が暴走しかねないのでね。





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