かわい子ちゃんの秘密?
1、初恋相手を忘れられずに今に至るせいで女性免疫なし。
2、同じく初恋相手が忘れられなくて婚約者などもなし。
3、見た目のせいで肉食系お姉様に狙われること多数。閨に引きずり込まれたこともあるそうな。(未遂)
特記、そのせいで女性不信にもなっている。
「以上、団長の経歴でございます」
箇条書きかなと思うほど淡々と教えてくれたシャーレ様。
リードのこと上司って言ってなかった?そんな人のプライベートなことを出会ってまもない人に話していいのかなと、震えていた子犬ちゃんを見ると相変わらず震えていた。
なんて可哀想に…と思わずなでなでしたい欲をが枠がそこはグッとこらえる。可愛くても年上、男性、慎み…よし。やっと自制心が働き出したわ。
「シャーーーーレーーーー!」
あっ違ったみたい。今度は怒りで震えていたみたい。
「おや団長、婚約者様に隠し事はなしですよ」
「ま、まだ婚約者と決まった訳では無い!」
「ほぅ団長はお嫌なのですか?」
「は?…確かに命令が下った時はなんだそれ知るか任意なんだろだったら無視だ無視!…とは思ったが…」
リード自身、この婚約に乗る気ではなかったんだ。2人の会話をこれ以上聞いていいのか悩ましかったが、目の前で会話しているんだ。別に構わないだろう。
チラリと目線がこちらに向く。黒いまん丸お目目がこちらを見ている。あら、よく見ると濃いブルーが混ざってるのね。神秘的だわ。プラス10点。
「今は…悪くないと思っている」
「それはそれは…部下が喜びますね」
「だってさあの魔法!見ただろうシャーレ!こんな機会絶対にないぞ?!」
あーあ、とシャーレ様の深いため息が聞こえる。ついでに後ろに控えているドロシーちゃんからも。
「魔法目当てでしたか…」
「も、もちろんそれだけでは無いが、仕方がないだろう。お前もそうだろう?気になるだろう?」
「まぁ…魔術騎士団なんかに入隊するぐらい魔法興味ありますし」
「だろう?複数の多魔法持ちで、闇魔法まで!」
「ええ、これは1度、全身くまなく検査して様々実験してみたいですよね…」
ニヤリと悪そうな笑みを浮かべるシャーレ様に、だろう!?とキラキラ瞳を輝かせているリード。
そんな2人から庇うようにドロシーちゃんが目の前に立ち塞がる。
思いっきり不審者を見る目をしている。
「…コホンっ、まぁそれだけじゃないですよ!…シャーレめ」
「…すみません、フォロー失敗ですね」
「クルーシャ様?もうここはお暇いたしませんか?」
コソコソと2人でやり取りしてるがドロシーちゃんの態度が軟化することはなかった。
魔法オタクなのかしらね。魔術騎士団って言うのは。
-いえ、魔法陣を作成したり新しい魔法陣を研究したり、戦いの場にも率先して出て立派に活躍を治めている素晴らしい組織…ですよ?
クルーシャがフォローするけど語尾に自信がない。まぁね、この人たちを見てるとそうなるよね。
-ルーシャは魔術騎士団について詳しいのね。
-ええ、前に興味があって調べたことがあるんですよ。
「そうなの?じゃあ今度騎士団について詳しく説明するよ」
リードが突然会話に混ざってきた。
クルーシャは団長自ら話が聞けるなんてと嬉しそうな、私なんかにわざわざ説明なんて迷惑では無いでしょうかと不安だったり忙しそうだ。
でもリードさん?この場で会話に加わるのは…
「団長?突然なんですか?」
「え…あぁ、ひ、ひとりごと…?気にするな」
「…クルーシャ様に突然ひとりごとで話しかけるのはどうかと…」
「クルーシャ様?ここはやはり離れましょう」
ね?そうなるのよ。私とクルーシャの会話は普通聞こえないんだから混ざっちゃダメよ。
「あっここにいましたか。…どういう状況ですか?」
ピーター、このカオスの場にようこそ。
アワアワと慌てるかわい子ちゃん、やっちゃった(星)と悪びれもないシャーレ様、ふたりを冷たい眼差しで見つめるドロシーちゃん、そんなドロシーちゃんに守られてる私。
「あら?ピーターどうしましたか?」
「クルーシャ様にご来客ですので伝達出来たのですが…お困りですか?」
「いえ、楽しく会話をしていただけなので気にしないで」
実際に楽しいし、嘘ではない。
「もうそんなお時間でしたか…クルーシャ様恐らく湯場の業者のものです。すみません、無駄なことに時間を取られてお時間を失念しておりました」
「無駄って」
リードとシャーレ様の声がハモる。
普段目上の人や身分の上の人に対して礼節を忘れないドロシーちゃん、相当この婚約者候補御一行がお気に召さないのね。
でも、リードもシャーレ様もドロシーちゃんに対して不快感を抱いていないみたい。
身分違いの人にバカにされたら怒る人もいるだろうに、意外と楽しそうにドロシーちゃんを見ている2人。好感度上がりますね。
「ではリード様、シャーレ様。ここで私は失礼いたします」
「あぁ、また会いに行くよ」
立ち上がりカーテシーをしようとしたが、そういえばスカートじゃなかったね。
ちょっと思案して、片手胸にもう片手は後ろの腰に回し、以前見たピーターのしていた礼をする。
「ふふ、騎士団の礼だね」
同じようにリード様も挨拶を返してくれる。一つ一つの仕草が綺麗だ。頭を下げた際に編んである黒髪が揺れる。
「どうしました?」
「いえ、相変わらず綺麗ですね」
思わず本音がこぼれる。
だってツヤツヤの黒髪もキラキラ光を閉じ込める瞳も白磁のような肌も、全てが綺麗なんだもの。
婚約者候補がこんなに美人、いやかわい子ちゃんなら私はよりいっそ頑張ってクルーシャを綺麗にしてやる!
「クルーシャ様、片付け終わりました。…如何いたしました?」
ピーターに手伝ってもらって敷物などの簡易トレーニングセットを片付け終わったドロシーちゃんが声をかける。
「はは、気にしないでください。団長の病気みたいなものです。直ぐに照れるんですよー」
「…っ!で、ではまたな、クルーシャ!」
足で軽くシャーレを蹴りながらくるりと背を向け去っていく。
見ました?あの照れ顔。まじ可愛くて妖精さんかと思ったわ。
ね、ルーシャ?と話しかけて気づいた。
こちらも呆然としてる。
-ルーシャ?どうしたの?
-いえ、ちょっと感動しました。
どこに感動する要素が…?
ドロシーちゃんが誘導するのでその後に着いて行きながら、クルーシャの話を聞く。
-実は幼い頃、騎士団に憧れていたのです。それで、りぃが騎士団団長様と立派に挨拶をしていて、思わず夢が叶ったような感覚になりました。
-そうだったんだ!ルーシャが騎士団なんで意外だな。
-おじい様の影響が強かったんだと思います。幼い頃はどこへ行くのも一緒について行って、状況も分からず遠征について行ったこともあります。
ふふふと思い出し笑いをする。楽しい思い出なんだろう。
遠征っていうのが魔物退治や、敵国視察などもあったらしく今思うとよくおじい様連れていったなと思ったが…。
あの調子ではクルーシャにわがまま言われてデレデレと受け入れた気がしなくもない。親バカならぬ、祖父バカだし。
今日もそうだよね。
目の前で身体を固まらせ緊張している3名の前に立つ。
「初めまして、クルーシャ・カルフェーネと申します。此度は私のわがままでここまてまお越しいただきありがとうございます」
「いえ…」
そう、昨夜言っていたお風呂場の業者さん。専門ではなく普段はおうちを建てたりしている大工さんみたい。
ドロシーちゃんに指示を出し彼らの前にもお茶を入れてもらう。
「どうぞおかげになってください」
「いえ…」
「紅茶はお嫌いですか?ドロシー、なにか別のものを…」
「いえ…」
んー…会話が成り立たない。ドロシーちゃんが冷たい飲み物を差し出すが全くソファに座る様子はない。
-やはり、引きこもりの魔物姫ですからね…。会話したくないかもしれません。
-そんな………。
「あの、宜しければ場所を変えませんか?」
「いえ…、いや、わかりました」
ソファから立ち上がり、警戒心を抱かせないようニッコリ微笑んで彼らに提案する。
大丈夫よ、クルーシャ。りぃお姉さんが何とかしてあげるからね!




