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やっと、行動開始です

 



 今日もどうやら天気は晴れ。絶好の運動日和だろう。


 早朝はベッドから起き出して、今日はドロシーちゃんが来るのを待たずに自分で身支度をする。


 下着のような、肌着のような服の上に白いシャツを上に着て、ズボンも履く。さすが少しブカブカかなと思ったけど、ちょうど良かった。むしろ、ほんの少し、ほんのすこーしだけキツいわ...。

 そこにベルトを閉める。おっと…1番隅にあるホールでないと止められないみたいね。



 -ジェイと背丈似てるから行けると思ったけど本当に入ったわね。

 -...我ながらなんて言う大きな身体なんでしょう...。

 -あー、落ち込まない!身長高いからある程度は仕方ないのよ?それに今からそこを改善するために私が頑張るんだから!



 私は今日からダイエッターとなる!

 腰に手を当ててビシッと決めポーズ。モデル立ちも今はちょっと情けない感じになっちゃうね。



 これも昨日買った編み上げブーツに履き替え足音を立てないように外に出る。

 下働きの人たちは既に起きてるし起こしてしまうっていう問題はないけれど、クルーシャが1人で外に出ると誰か着いてきそうだし、それは迷惑になっちゃえよね。みんな朝は忙しい。



「まだ涼しいなー」



 むしろ少し肌寒いかもしれない。でも暑くなると熱中症やら日焼けやらで大変なことになるからこの時間帯が1番なんだよね。


 いちにいちにと心の中で唱えながら準備運動をする。

 敷物もドロシーちゃんから貰っているので、芝生の上に広げる。せっかく履いた靴だけどポイポイっと脱いでから身体を伸ばして柔軟体操、続いていつも通りヨガ。ちょっと難しいポーズもして足がもつれて倒れ込んだ。部屋だと音に気を使って出来なかったけど外だからね。ちょっと倒れたって気にしない。



「さて、やりますか!」

 -頑張って下さい!



 ここまでは準備運動。ここから痩せるための運動だ。と言っても嫌味かもしれないが前の世界では私は小さい頃から体型に関してカンペキでダイエットの必要はなかったんだよね。肌のコンディションと体調のために食事制限はして、運動も健康のためってやってただけだし。

 だからファッション誌やテレビで得た情報しかないから自己流っていうところが大きくなっちゃうんだけどね。



 とりあえず筋トレからかなーっと腹筋を始める。

 これからさらにきつい運動も考えているし、筋力を維持するために新陳代謝も良くなるしつけといて無駄なものじゃないでしょう。



 -私の腹筋も6つに割れますか?!



 ワクワクして聞いてくるクルーシャちゃん。そんなクルーシャちゃんにうふふと笑いかける。



 -そこまで付けないよ?それはさすがに3ヶ月じゃ無理。あと私の理想的な身体じゃないからやりません。

 -そうですか...ちょっと残念です。



 そうね、クルーシャにとだて残念かもしれないけど諦めて貰いましょう。



「ぐぬぬ...っぬっ...!」



 べたんっ


 腹筋回数は3回でした。シックスパックなんて絶対無理だわー…。地面に仰向けで倒れ込んだ私はあまりの筋力の無さに遠い空を眺めた。


 こんなに出来ないかー。前の私は30回は軽く出来てたんだけどな。


 まぁ、始めたばかりだ、こんなものだろう。

 さすがにこのままでは駄目だろうと、限界3回からあと2回追加で腹筋して終了にしておく。

 ちょっとづつ回数増やしていこう…。



 その後のスクワット、フロントブリッジ、寝転んで足を上げてキープするレッグレイズも行うが散々な結果だった。



 -りぃ...お腹とか足とか痛いです...。

 -ね、ちょっとしか筋肉無いのに筋肉痛になるのね。



 ゆっくり身体を解して一旦休憩する。

 ちょうどいい頃合でドロシーちゃんがバスケットを抱えてこちらに来てくれたし。



「おはようございます、クルーシャ様。お飲み物です」

「おはようドロシー。わざわざ持ってきてくれてありがとう」

「いえ、...言われた通りレモン水に蜂蜜とお塩を混ぜてありますがよろしいんですか?」

「ええ、喉が渇いていたので助かります」



 コップに注がれた塩はちみつレモン水を頂く。ごくんっと喉を通ると爽やかな香りがして心地よい。



「ふぅ、美味しいです」

「...お飲み物にお塩なんていれるのですね...」

「えぇ、運動して汗で流れてしまった塩分を補給するためなんです」



 熱中症対策として塩は必要不可欠なのです!水ばかり飲んでると逆に中毒になっちゃうんだって。



 -りぃの世界は医学も発展してますよね。人間の身体の構造とか、あまり知られてないんですよ、こちらは。



 だからだろう、こちらの世界は短命が多いらしい。クルーシャのお母さんも風邪を拗らせてクルーシャが幼い頃に亡くなったと聞いた。



 -私が物心着く前に亡くなったのであまり悲しい気持ちは少ないんですけどね。



 そう、何事もないように語るクルーシャはいつも通りだった。

 でも、悲しい気持ちは少なくても寂しい思いは沢山したんだろうなと容易に想像がつく。

 大人っぽい言動の中にはちょっと甘えんぼうな面が見て取れるし、私には随分甘えているような気がするのもその影響かもしれない。

 まぁ私、こう見えてクルーシャよりお姉さんですし。できる限り甘やかしてあげましょう、と話を聞いた時に決意をした。



 -りぃりぃ!もう無理です!きっと、脇腹裂けます…!

 -こわっ!ランニングで脇腹裂けた人は居ないから大丈夫よ!



 でも今は甘やかしどきでは無い。容赦なくクルーシャの言葉はスルーします。



 今は敷地内にある、なだらかな林の中をゆっくりした速度で走っている。

 いや、傍から見たら走っている速度ではないだろう。山道の足場が不安定な中、バランスを取りながら歩くだけでも精一杯だ。

 クルーシャが泣き言言うのも分かる。

 でもランニングついでに体幹鍛えられるこのコースはいいね。おじい様に聞いてよかった。



 目標にしていた木々が少し抜けたところにある切り株を見つけ、そこに座り込む。本当はクールダウンとかした方がいいんだろうけどちょっと無理だな。ハァハァ息も絶え絶えにぐったりする。



 -ひぃひぃ…。

 -ルーシャも大丈夫?

 -大丈夫じゃないかもしれないですけど、平気です…。



 腰からぶら下げた小さなカバンから瓶に入った飲み物を取りだしごくごくと飲む。

 ただの水だけども美味しいー!


 プハッと飲み終えて何気なく空を見上げる。

 思った以上に時間が過ぎていたみたいで随分日が昇っている。

 でも、木陰の中を走ったせいでそこまで暑くはなっていないし、森林浴も出来て気分は爽快だ。



 -…いい風ですね。

 -うん、心地いいね。



 異世界だろうとも木陰で吹く風は心地いい。緑の香りと、花の香りも感じる。



 -こういうの、マイナスイオン…でしたっけ?ストレスにいいんですよね。

 -さすがルーシャ、そんなことまで覚えたの?

 -はい!覚えたってほどでは無いんですがテレビで見たので!



 少し褒めるとドヤっとするクルーシャかわいい。

 ってか、この子、文字とか映像とか記憶出来るっぽいんだよね。知識の量が膨大でも、映像として覚えていて、知りたい時にその記憶を読んで知識にしてるんだって。

 なにそれ天才のやつじゃんって思うよね。そもそもその説明から理解できない私がいる。



 帰りは歩きながらのんびりとクルーシャとおしゃべりしながら帰る。

 たわいのない、天気の話だったり、今日の献立の話だったり、ドロシーちゃんの事だったり。

 鳥がさえずり、落ち葉を踏みしめる音だけが鳴るこの時間は穏やかに過ぎていった。



「おかえりなさい」

「…おかえりなさいませ、クルーシャ様」



 ドロシーちゃんの待つ木陰へと戻ってきたら人が増えてた。

 黒い人だ。



「リード様、おはようございます…」



 今からドロシーちゃんの作った朝ごはんを食べようと思っていたのに!!!



「はは、そんな嫌そうな顔しないで?あと、昨日みたいにリードって呼び捨てで構わないよ?」

「………」



 はぅっ!ドロシーちゃんの「どういうことです?」の眼差しが痛い!

 呼び捨ては2人きり、いや、3人の時だけってなってなかったかな?!



「ふふふ…そんな恐れ多いです。いつも通り、リード様、それともソシリア名誉公爵様とお呼びした方が?」

「あぁ…、2人っきりの時だけということか。理解したよ」



 全然理解してない。ドロシーちゃんの目ぇ見て?あんな強いまなざし見たことないよ?


 何を言っても揚げ足じゃないけど、負けると思い諦めて愛想笑いだけ浮かべて敷物の上に座る。



「ドロシー、飲み物頂ける?」

「かしこまりました。朝食もご準備してあります」



 バスケットの中には彩り取りな野菜が挟んであるサンドイッチが詰まっていた。これはシェフお手製ではなくドロシーちゃんお手製だ。



「わたくしめもクルーシャ様のお役に立ちたいです」の一心で様々サポートしてくれるドロシーちゃんは本当に助かる存在だ。



「美味しそうだね」

「…ドロシー、リード様にもお取りして差しあげて」

「………」



 渋々といった様子でサンドイッチを取り分けるドロシーちゃん。

 先日の命の恩人でもある彼なんだけど、それを凌駕するレベルで私の部屋への侵入が許せなかった様子。

 あと、知らない間に婚約者候補になっていた点もあり、すっかり敵認定だ。



「そういえば、婚約者候補とはなんですか?昨日おじい様から伺いそびれました」

「言葉のままだよ」



 可愛い見た目に関わらず大口を開いて、小ぶりのサンドイッチを二口位で食べていく。

 男らしい仕草でギャップえぐい。



「私は知らないんですが」

「第1王子からの命だからな」

「しかし…そもそもリード様は結構なご年齢ですよね?他に婚約者様やましてや奥様なんていらっしゃいませんか?」



 クルーシャの言葉にびっくりした。そうか、この世界一夫多妻オッケーなんだ。

 でも、大事なクルーシャが誰かの2番手なんて許せないよ?少なくとも私の目が黒いうちは許しませんよ!って、もう死んでるんだけどさ。



「ゴホッゴホッ!」

「リード様、こちらをお飲みください…」



 突然サンドイッチを喉に詰まらせたリードを見かねてドロシーちゃんが塩はちみつレモン水を渡す。



「ぷはぁ…、なにこれうま…。じゃなくて、私に婚約者等そのようなものは一切ないのでご安心下さい」

「その年齢で…?逆に心配になってきました…」



 この世界での結婚適齢期は若い。男は20歳、女は18歳と聞いた。

 だから小さな頃から婚約者がいて当然だとクルーシャは言っていた。

 そうなると何か彼に問題があるんじゃないだろうか…。



 思わず眉を寄せてじっとリードを見つめる。

 相変わらず可愛いお顔ですこと。日に当たっていないだろう肌も真っ白できめ細かい。何をしたらこんな美肌?天然物かな?唇も荒れなんてなく、ブルルンだ。



「んんっ、失礼ながら上司のメンツがございますので私から説明してもよろしいでしょうか?」



 木の影からのそっと人影が現れる。いや、元から居たんだろうが視界に入っていなかった。



「貴方は…」



 ここ数日で何度か見かけた目つきの悪い人。助けてくれて、馬車の従者も代わってくれた人。えっと名前…?



「申し遅れました、シャーレ・ゴルドーラと申します。魔術騎士団第4部隊隊長を任命しております…が、だいたいリード団長のお世話をしております」

「ゴルドーラ様ですね。改めてクルーシャ・カルフェーネと申します。先日はありがとうございました」

「ご丁寧にありがとうございます。ではそこで固まっている情けない上司に代わり私が説明致します」




 固まってるとは?

 思わずリードを見ると黒い髪から覗く細い首筋まで真っ赤にさせて子犬のようにフルフル震えていた。口はパクパクと動き、恥ずかしがっているみたい?



 なんで?なにがあったの?

 まぁ可愛いからいいけどさ。




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