表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/42

平和な一日だったんですけど..

 




 また近いうちに会いに来ると約束してジェイを寮へと送っていった。



「…普通は平民を馬車で送る貴族様居ないんだけどな…」



 まぁ…私自身貴族じゃないし、クルーシャも怪我人ですし友達ですから!と言っているので大丈夫だろう。



「おかえりなさいませ、クルーシャ様」

「ただいま…戻りました」



 エントランスの両開きのドアが開き4、5人の人に迎えられる。

 ただいまって言うのはあまりこちらでは言わないみたいで何とかクルーシャにフォローしてもらう。


 ちょっとづつ常識は覚えて言っているけれどもやはりあちらの世界の常識が抜けきらずにスっと出てしまうことがあるのは本当に注意して行かなければ。



「クルーシャ様、フェルト様が先にお戻りになられており夕食をご一緒したいと仰られております」



 昨日の夜美容話に1番食いついていたメイドのリリーがそう伝えてくれる。



 -おじい様、今日遅くなるって言ってなかった?

 -…言ってましたが、恐らく私と食事がしたいために抜け出したか放り出してきたかしていますね。



 まったく、孫大好きおじい様には困ったものだ。お仕事はちゃんとしてもらわないと困るのに。


 ドロシーちゃんに連れられ私室に戻り帽子やお出かけ用の靴から普段用の靴に履き替える。ドレスは…まぁこのままでいいでしょう、と着替えを断る。


「クルーシャおかえり!買い物は楽しかったかい?」

「はい!おじい様!とても楽しかったです!それに色々と購入いたしました。資金、ありがとうございます」

「クルーシャが楽しめたなら何よりだ!これからも好きに買い物に行き好きに買っていいからね」

「もう、おじい様ってば甘やかしすぎですよ?」

「いいんだ!わしぐらいクルーシャを甘やかしてやらんと!婆さんも…お前の母さんもそういうだろうて」



 グリグリと小さい子供にするよう頭を撫でられる。

 見下ろしているおじい様の瞳が悲しそうで思わず撫でている手を掴みぎゅっと握る。



「クルーシャ?...まぁ疲れたじゃろう?夕食にしよう」

「はい」



 ダイニングのテーブルにつくと食事が次々に運ばれてくる。

 出来たて運んでくれるの嬉しいな。それに今日の夕食から特別メニューだし。



「なぁクルーシャ…それで足りるのか?」

「もちろんです!」



 目の前に広げられたお皿の上にはサラダを前菜とし、たっぷりお野菜のスープに鳥ササミのソテー。あとは色とりどりのフルーツだ。



「パンは?食べんのか?」

「夜は穀類食べないことにしました」



 いただきますと心の中でクルーシャと合唱しサラダから手をつける。



「!まぁこのサラダドレッシングでしょうか?とても美味しいです」

「どれ?」



 お肉中心の別メニューが用意されているおじい様も興味津々でサラダから手をつけた。

 表情からは満足そうだ。よかった。お口にあったみたいだ。



「料理長がシンプルな料理だからこそそれぞれに手を尽くしたいと燃えていた結果です」



 コソッとドロシーちゃんが教えてくれた。

 だからだろう。スープだってただ鶏肉を炒めた料理だってなにか手が加えられていて凄く美味しい。

 鶏肉はなにかフルーツソースがかかっていてとても新鮮な味だった。



「とても満足しました」



 カトラリーを置いて口を拭う。見事に全て完食だ。



「それでお腹いっぱいになったのか?」

「お腹いっぱいではないですよ。腹八分目、ほどほどて良いのです。あまり沢山食べるとエネルギーになれなかった過多分がお肉になりますから」

「ハラハチブンメ…」



 ハラハチブンメというワードが後ろに控えているメイドさん達の間でも呪文のように呟かれている。ちょっと面白い。



「まぁクルーシャが満足したなら良かった。今日も色々動いて疲れただろう?ゆっくり休みなさい」

「はい。あっ、そうですおじい様。お風呂ってありますよね?」

「あるが…どうした?」

「疲れを取るにはゆっくりとお湯に浸かるのがよいとどこかで見たのですが、そのような事は可能ですか?」

「湯に浸かる…。聞いたことの無い話だが出来んことはないだろう。だが、今は無理だろうな」



 まず湯船の置いてある部屋が防水ではない。まぁ御屋敷の中に防水の部屋なんてあるわけは無いよね。

 湯船いっぱいに水を井戸から汲むのも一苦労だが、お湯となると更に大変だ、ということだった。



「だから1から作った方が早かろう。明日業者を呼んでおくのでクルーシャの好きなようにしなさい」

「…マジか…」

「クルーシャ?」

「い、いえ!ありがとうございます、おじい様!!!」



 やばい、びっくりしすぎて普通に素だった。



 -小さい頃におままごとで遊ぶように小さなお家を庭に建ててくれたこともありましたね…。懐かしいです。



 クルーシャにとってはなんでもないことみたいだな。金持ちすげ。


 食事を終えたおじい様と一緒に食後のお茶を楽しみ、また明日とダイニングを後にする。



「うん!今日買ったオイル。オリーブオイルより良さそう!」



 部屋に戻る前にバスルームに行き、いつものようにドロシーちゃんに身体を拭われ髪も拭いてもらい今日買った植物性の油を髪に塗りこんである。

 あっ髪を拭うのは毎日してもらうことにした。

 汚れが気になるし、髪に悪いだろうからね。ドロシーちゃんには手間が増えちゃうけど気にしないでくださいと張り切っていた。



 -果実の種から絞った油でしたよね。ボタニカル…というものですかね?

 -ボタニカルっていう名前は聞いたことあるけど、それが何かわかんないや。ルーシャはなんで知ってるの?

 -え?りぃテレビで見てましたよ?



 ほんと?全然覚えてない。こういう所で頭の出来を感じるな…しょんぼりしちゃう。

 貧乏時代にお金をかけずに美容関係なにか出来ないか色々調べたことがあったけど、まさかそれが役に立つことになるなんて。



 のんびりと身体を解しながら寝る前の軽い運動を汗を流す直前までする。

 その後動かした筋肉含め解すようにセルライト撃退マッサージを施す。



 -これ、やっぱり、痛い、ですね…!

 -そうね!これだけ要らないものがくっついているのよ?!無くなればそこまで痛い事じゃないんだけどね!?

 -でも、この貰った香油…いい香りですね。



 そう、部屋に戻る前に突然声をかけられたとおもったら、あの美容大好きメイドのリリーがお気に入りだという香油をわざわざ用意してくれていた。

 甘い花の香りの香油はクルーシャによく合う香りで、買ってきた植物油に混ぜて今はマッサージ用オイルとして使っている。



 指の先までしっかりマッサージしてようやく一息着く。



 -ふぅ、色々やることが多くて大変ですね。

 -まぁ、美に対して貪欲になればなるほどやることは多くなるね。

 -まぁ、女性は何かと大変ですよね。

「そんな他人事のような!」



 クルーシャってば!お嬢様ってことや引きこもりだったことを加味しても女子力無さすぎだわ!


 肩口に落ちている髪束を摘みため息をつく。



「こんなにいい素材なのに手入れしないとか、美の神への冒涜よ...」

 -そんなに良いものでしょうか...人にそのように言われたことがなくて...。

「もちろん!この瞳の色だって初めて見た時鳥肌が立ったわ!羨ましい!」



「...何がそんなに羨ましいのでしょうか?」



 突然背後から声をかけられる。

 うわ、今日はやらかしてばかりだ。また声に出して喋っていたみたい。

 どうやって誤魔化そうと考えながら思い返す。


 今の誰の声?


 ドロシーちゃんでは無い。だって男の人の声だった。

 聞いたことのある声。でもおじい様の声ではない。


 では誰?と恐る恐る振り返ると、開けっ放しにしていた窓に人がいる。

 月の光に反射した黒髪のツヤツヤしい光が眩しい。マントが風に揺れ視界を奪う。



「...こんばんは、クルーシャ様。このような所から失礼」



 黒い人、アイドル美少年もとい、リード・ソシリアが昼間会った時と同じ微笑みで静かにこちらを見ていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ