よくわからないかわいこちゃんですね
さて、この扉の向こうにあの黒い人が待っているのか。
とりあえず午後からも予定ぎっしりだから早めに帰ってもらえるとありがたいなー。
あと、クルーシャがガチゴチに緊張してるし、ちょっと心配だ。
-私は大丈夫なのです…。でも言動変かもしれないのでりぃ頑張ってください…。
-任せて!でも何か変なこと言ったりしたらフォローだけよろしく!
コンコンっとノックをすると扉の向こうから聞き覚えのある声が入室許可の返事を出す。
ドロシーちゃんにドアを開けてもらいゆっくりと中に入る。
「お待たせいたしました、ソシリア様。クルーシャ・カルフェーネでございます」
スカートの裾をつまんでゆっくり頭を下げ、片方の膝を曲げ挨拶をする。
ふふふ、どう?クルーシャに教えてもらったカーテシー完璧じゃない?
「お呼び出しして申し訳ない。リード・ソシリアです」
ソファーから立ち上がりこちらまでわざわざ来て挨拶を返してくれるリードさん。
そしてそのまま自然と私の手を取りソファーまでエスコート。
うん、こちらの世界の男の人は紳士的な人が多いよね。
「ありがとうございます、ソシリア様」
「いえ」
お互い向かい合ってソファーに座るとテーブルにお茶を出してもらう。
朝飲んだものとは違う。深い香りの紅茶だ。リードさんも紅茶を口に運んでいる。
この人さ、所作が綺麗なんだよね…。あと、とんでもない美人…どっちかって言うとカワイイ系?
長いまつ毛で覆われた瞳は光を取り込みやすいのかキラキラ輝いていて、ぱっちり大きな瞳。顔を縁取る黒髪は濡れ羽色で艶めいている。身体もガッチリ、クルーシャ好みではないほっそりしていて、ベルトで閉めてある腰の細いこと…。
極めつけはこのアイドル顔だ。もしあっちの世界で芸能界とかに入ったら歌って踊るアイドルグループとかに居そうだわ。そして人気上位にいるタイプね。私が言うのだから間違いないわ。
「あの、早速ですかこちらから要件をお話してもよろしくでしょうか?」
「えぇもちろん」
おや、この人は回りくどくお話をしてくる他の人とは違うみたい。
こちらとしてはありがたい。回りくどい言葉に理解できないできない比喩も多くて毎回クルーシャに泣きつき教えてもらっていたのでその手間が省けるというものだ。
まぁ、理解できないおかげで学園を出る前とかあのお嬢様以外に声かけられてもほとんど理解できなかったんだけどね。
「まずは婚約破棄、心中お察しします」
「…はぁ」
おっと、公然の地雷みたいになっている話題から来たのね。
まぁ、クルーシャも今はだいぶ落ち着いているしいいんだけどさ。ん?落ち着いているというか、この子緊張のせいで固まってない?試しに少し話しかけたが全然反応なしだ。
こ、これは、やばくない?
「元々闇魔法保持者である貴女を保護する意味合いも大きくあった婚約関係でしたので、それが無くなってしまい国の上層部はちょっとした騒ぎになっていましたよ」
「…そうなんですか。でも私から破棄を申し出たわけではありませんのでそのように言われも困ります」
「あぁ、貴女を責めたい訳では無いんです。…少し愚痴のようなものです…」
ふぅと小さくため息をつく。あっこの人苦労する人だ。可愛い顔してるのに…。いや、憂いを帯びた表情も絵になるわ。
「クルーシャ様?」
「あっすみません、続けてください」
見つめすぎてたみたいだ。この前髪案外便利なのよね。隙間からそっと見てるだけだからよっぽどがない限り視線を気取られることないし。
「第1王子から命を受けまして、今後貴女の護衛のようなものを務めるとこになりました」
「ふふ、護衛だなんて…。監視って言ってもらって平気ですよ」
「…そうですね。私は貴女の動向を見張るために来ました」
この話の流れで護衛は無理があるよね。何となくリードさんは組織の上の立場みたいだし、一御令嬢を守るために3日もかけてここまでこないだろう。
闇魔法ってそんなに危険視されているのね…。あとでクルーシャから教えてもらおう。
…今は固まって一言も発せなくなってるし。
「申し遅れましたが私魔術騎士団団長も務めております。…同じ闇魔法保持者です」
「そ、そうなんですね!」
だから何さ?!重要そうに言われてもそれがどういうことかわかんないよ!?
助けてクルーシャー!
とりあえず曖昧に相槌をうっておく。
「また、魔術騎士団ということもあり魔術について研究をしていますが、クルーシャ様。貴女闇魔法以外にも魔術が利用できるのですね」
「そうですね」
それがなにか?!そんな脅すような目で見られてもそれがなにかとしか答えようがないよ!?
クルーシャー!!!…やっぱりダメだわ反応がない!!!どう切り抜けようかな!?
「もしや、貴女はこの重要性にお気づきでは無いのですか?」
「恐れながら…」
「魔力を持つ人間は少なく、そこから魔術を使える人間は更に少ない。そして1属性の魔術しか利用出来ないんです」
「…私、闇と、水と火、あと風が利用出来ますが…」
「はぁっ!?風も!?風もなんですか!?馬鹿じゃないのか?!」
ドンっと大きな音を立て拳をテーブルに振り下ろす。お茶がひっくり返ってしまったが気にする素振りはない。大きな目を更に開いて信じられないものを見るように凝視されてる。
い、言っちゃダメなやつだった?
でもリードさんの前で水の魔法使っているし、なんかだいぶ知られているっぽいし…。
それにしてもこの人ちょっと口悪くなかった?
「あぁ失礼。少し興奮しました…」
怖がらせてしまいすみませんと頭を下げてくれる。
謝ってるけど目の色がね、変わっていないのよね…。ギラギラ獲物を狙う目付き。
「多魔法持ちの件、どなたかご存知なのですか?」
「…お義兄様がご存知のはずです」
確かね?!そうよね?!クルーシャちゃん!?
「アルフレッド・カルフェーネ子爵様…ですか」
「そう、ですね…。あ、あの!この質問に何か?恐れ入りますが何用でお尋ね頂いたのですか?」
もう、この尋問みたいなの無理です!クルーシャが心配だし、早く帰ってもらいたいので要件をサクッと話してくださいな。もうお嬢様らしく穏やかに会話を進めるとか無理です。…いや、演技は続けるけどさ!そこはプライドが許せない。
「あぁ…。この領地でお世話になることと、…いや、その事と多魔法使いであれば大変貴重な研究…、貴重な存在ですので、色々お話伺いたいと思いまして」
「…研究と言いました?」
「いいえ。そのような事は全く」
なにしれっとしてるの?ちゃんと研究って聞こえましたけど?
「そうですか。では良かったです。もうご挨拶もすみましたし、魔法のこともお話しました。要件は以上ですね」
にっこりと微笑んでからすくっと席を立つ。
このままおさらばしましょ。
「いえ!まだ肝心なことが…!」
「なんですか?私忙しくてあまりお時間とれないんですが…」
午後からお買い物に行くんです。だから午前中から疲れることはしたくないんです。
「ではいつならお時間頂けますか?…出来れば人払いをしてお話をお伺いしたいのですが」
「はぁ…こちらに滞在します期間、日中は忙しくしておりますので…」
「そうですか、分かりました」
おっ、よく分からないがなんか帰ってくれるみたい。
零したお茶をメイドに謝罪し、席を立つ。
改めて目の前に立たれると目線の高さ違うな。クルーシャ目線だからだろうけど小柄で可愛い。
濡れ羽色の髪を揺らしながらゆっくり近づきクルーシャの手を取る。
あ、これ映画で見た事のあるやつじゃない?
手の甲に口元を近づけキスをされる。
「あ、あの?!」
「これからどうぞよろしくお願いしますね、クルーシャ様」
上目遣いでにっこり微笑まれる。
ぐぅ!何この可愛いの!?別にタイプとかじゃないけど可愛いわ!天使とかじゃなくて、いたずらっ子みたいな、そんな笑顔に思わず後ろに下がってしまった。
「では私たちは失礼しますね」
呆然とした私をそのままに、あの目つきの悪い従者と部屋を去っていった。
「…なんだったのさ」
思わず素のトーンで言葉を漏らした。
もう、さっきのことは一旦忘れましょうと、部屋に戻りのんびりと昼食を口に運ぶ。
-本当にすみませんでした!
頭の中では絶賛謝罪中のクルーシャだ。
-いや、だから全然気にしてないよってば。
-でも!困っているりぃには気づいていたんです!でも思うように口が動かなくて…。助けられませんでした…。
-そんなに緊張してたの?まぁ見た目可愛い子ちゃんだったから上がっちゃうのも分かるけど…。
-いえ、確かに可愛らしい方でしたが、そうではなく…。あの人の前で話しては行けないような…そんな感じがしたんです。
どういうことだろう?詳しく聞いてみたがクルーシャも感覚的にとの事で具体的には分からなかった。
-もしかすると同じ闇魔法保持者だからかも知れませんね…。
-ねぇ、ルーシャ。改めて聞くけど闇魔法って何?
-あぁ、きちんとご説明していませんでしたね。以前魂抜けについては少しお話しましたよね?
-うん、私に初めて会ったときのやつだよね。
-そうです。魂だけの存在になった私、術者は直接ほかの魂に接触できます。
-だから私とも話が出来たの?
-いえ、あの世界では普通接触出来ません…。りぃは特別だったんです。あんなに強い光を放つ魂を初めて見ました。普段はこの世界の…生きている人に接触します。
そして魂、精神に入り込み直接影響を与えます。夢を見せたり見たりもできます。
-うん、それで何がそんなに危険なの?
-…例えばですが、この国の王の魂に接触して、戦争を行うように操作したら?他国の権力者にも同じようにしたら?
ここまで言われてようやく危険な力だと認識できた。ゾクリと背中に冷たいものが走る。
-闇魔法を打ち破るためにはまた闇魔法が必要です。そのため各国には最低でも1人は国で保護されている闇魔術師がいます。
-…ルーシャがあのバカ王子と婚約してきたのもそのせい?
-…それもあったと思います。でも、婚約が決まった時は違ったと思います。
クルーシャが7歳の頃顔合わせがあった。その際に向こうから一目惚れだとか、可愛い、好きだ、お嫁さんになって欲しいと言われたそうだ。
あのバカ王子のことだからどこまで本気だったか分からないけど、7歳の子供が国のためにと好きでもない子供と結婚したいというかなとは思う。
-それもたった数年の話でしたね。いつの間にか避けられ嫌われ、あの有様です。ふふ。
-うん、笑い事じゃないんだけどね。
-そうですね。婚約破棄を言い渡されたあの瞬間、確かに私の世界は絶望の名の元全て崩れ落ちました。
でも、りぃと出会って一緒になって、あの人だけが世界じゃないって知りました。だから今となって笑い事みたいなものです。
滑稽だった私に対して。そう語るクルーシャはあった時より随分しっかりしてきている。
いい傾向だ、と思う。でも根本はまだ解決してない。あの学園の様子などからすぐに容姿でイジメられるだろう。そうすればまた暗いクルーシャに逆戻りだ。そうならないよう私が頑張らないといけませんね!
「よぉし!お昼ご飯も沢山食べたし、腹ごなしも兼ねてたっぷりお買い物しましょう!」
-はい!
気合いを入れ直してお買い物するぞー!
いつも読んでくださりありがとうございます!
投稿開始から1ヶ月ほど経ちましたがなんとかやっていけいるのも読者様がいるからです…!
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