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最強の仲間獲得ですね

 



「ドロシー!」



 淑女らしからぬ大きな音を立てて私室のドアを開く中はシーンと静まり返った無人だった。



 -あれ?いないよ?この部屋じゃなかったっけ?

 -りぃ、呼び鈴です。



 そんなシステムなの?部屋にいるって言われたのにね。

 使用人が留守の主人の部屋に用事なく入る訳には行かないらしく、隣りの使用人控え室みたいなのところに居るんだって。



 -友達なら勝手に家に上がって待っててって出来るのにね。

 -友達でもこちらではあまり一般的ではありませんよ、それ。



 呼び鈴に手を伸ばすとベルを鳴らす前に控えめなノックの音が聞こえた。



「失礼します、クルーシャ様。…先程のものすごく大きな音でお戻りが分かりましたので参じました」



 案にうるさかったですよ、ってことだね。ごめん、今後はドアの開閉に全力使うの控えるね。

 でもいまはお小言は一旦置いておいておくね。



「ジェイは?どうでしたか?」

「はい。お医者様に見てもらいましたが大事にはいたりませんでした。きちんと指先まで動くのをわたくしめも確認いたしました」

「そうですか!…良かった…」



 思わず床に座り混んでしまった。

 安心して力が抜けてしまったみたいだ。

 でも良かった。変に筋や大きな血管なんかが傷ついてなくて。深い傷だったから心配だったんだよね。

 でも、とドロシーちゃんは表情を緩めない。



「傷口が広かったので治るのには数日かかるようです」

「え…では、おじい様の訓練施設に入るのは?」

「…難しいですね…」



 ここに来る前に訓練施設に寄ったが怪我人とわかった途端、入団を断る。怪我が治ったら出直せと言われたらしい。


 そんな。ジェイは訓練施設に入るためにここまでやってきたのに。努力して入団許可が降りて、家族に応援されて、夢が叶う手前なのに。自身ではどうしようもない力でその夢が叶わないのは…辛い。



「…どうにかならないのかな…あっ!?」

「安心しなさい、クルーシャ。わしがちゃんと面倒を見てやるからの」



 後ろから身体を掴まれたと思った瞬間ふわりと浮く。

 クルーシャの身体を抱っこできる人物なんて決まってる。

 おじい様!いつの間にかそばに居るのやめて!



「そのジェイとやらはクルーシャの恩人のようなものじゃろ?だったらわしの恩人でもある。多少怪我をしておったって大丈夫!…聞こえておったの?直ぐに寮内に部屋を用意させろ。あと礼もしたいから呼んでくれ」



 おじい様が従者に指示を出すと控えめに頭を下げたあと物凄いスピードで去っていった。走っていないのが凄い。

 そんな職人技に思わず呆然と従者さんの姿が見えなくなるぐらい見ていたら、廊下から数人の足音が聞こえてきた。まさかと思ったが連行される様な形でジェイを引きづられ登場した。さっき伝えに行ったのにどんな方法でこんな直ぐに連れてこれるの?



「な、なんすか?!とりあえず、説明してくださいよ!」

「ジェイ!!!」

「クルーシャ嬢様!…っと!?え?!フェルト様!?」

「おお!君がジェイか!孫を救ってくれたそうじゃな。礼を言う」



 ジェイがアワアワと膝まづいて頭を垂れた。その顔色は驚くほど真っ青になっている。

 怪我悪化した?!あんな乱暴な方法で運んでくるから!



「ジェイどうしました?!もしかして怪我、痛みますか?!」

「………い、え、だいじようぶでございませ、る…」

「ああ!やはり悪化しているのね?!誰か!ジェイをベッドへ!」



 しゃがみこみジェイの表情を見ると冷や汗だろう、ボタボタと雫が垂れている。

 早く処置を!と慌てて立ち上がるとドロシーちゃんにそっと肩を叩かれた。



「ドロシー?」

「…ジェイは大丈夫です。今はそっとしておきましょう」



 どうやら憧れでありこの国の英雄であるおじい様からお礼を言われたのが原因だったみたい。

 恐れ多くて逆に気分を悪くしてるそう。

 私なら憧れの人を目の前にしたらテンション上がるのになー。と思っていたら、クルーシャはジェイタイプらしくうんうん頷いていた。



「さぁて、時間も良いし夕飯にしようかの」



 あのあと、訓練所について従者さんから説明を受けてジェイは魂の抜けた様子で出ていってしまった。

 大丈夫かな?今度様子見に行こう。



 夕食ということでこれまた立派なダイニングに案内された。

 長いテーブルに真っ白なテーブルクロス。

 壁にはよくわかんない絵画が所狭しと飾られていた。


 燭台の上の蝋燭が綺麗に揺らめくなか、テーブルの上には大量のお肉料理がぎっしり並んでいた。



「クルーシャの好物ばかり作らせたぞ!さぁ沢山食べなさい!」



 はははとワイングラスを傾けながらおじい様はご機嫌だ。



 -お、お肉祭り、開催。

 -この量は凄いですね…。それに今は食事制限?をされているんですよね?大丈夫ですか?

 -出されたものは食べないと!でも、これはさすがに…。



 心配そうにドロシーちゃんがこちらの様子を伺いながら給仕してくれる。

 とりあえず取ってもらったローストビーフを口に運ぶ。



 -あー、美味しいんだよね!?どうしよ?!

 -ここはきちんとおじい様にお話した方がよろしいのでは?

 -やっぱりそうだよね!でも、言いづらい。ルーシャが喜んでくれるようにって準備してくれたのに。



「どうしたクルーシャ?お腹すいてなかったのか?」

「あ、あの、おじい様…」

「どうした?遠慮なくいいなさい」



 やっぱりいい人だ!優しい!

 でも今そんな笑顔を向けられて、言いたいこと言えなくなる。思わず開いていた口をつぐみニコリと微笑み返した。



「なんでもありま…」

「恐れ入ります。一侍女であるわたくしめに発言をお許し頂けますでしょうか?」

「よい、許す。クルーシャのことはお前の方がよく知っているしな」

「ありがとうございます」



 ドロシーちゃん!そっか、ドロシーちゃんは旅の間食事係でもあったから分かってくれているのね!そして言いづらそうにしている私のために発言を…!思わず感動で涙出そうになったわ。



「先日のことはフェルト様のお耳にも届いているかと思われます。その件でクルーシャ様は大変ショックを受け、少し味覚や性格が変わられてしまったようでございます…」

「そ、そうなのか!?」

「…はい。今はお野菜やフルーツなどを好んで召し上がったり、身体を動かしたいと申したり…」



 お可哀想に…と、途中から声が途切れハンカチで目元を抑えている。

 全くドロシーちゃんってば大袈裟な、と辺りを見ると周りの人もショックを受け、泣いている人もいた。


 嘘!?そんなに私の境遇可哀想だったの?!ただダイエットしたくて食事制限しただけなのにおおごとになってしまった!人を泣かせるつもりなんてなかったのよ!?



 パァンッ


「あの、クソガキは、そこまでのことを、クルーシャに…?」



 おじい様にいたっては俯いて固く握りこんだ両手の拳を机に乗せ細かく震えている。テーブルクロスが恐らくワインで汚れている。

 あれ?グラスは?と思いよく見るとおじい様の手の下にキラキラと欠片が飛び散っていた。

 さっきの物音、何かと思ったけどもしかしてワイングラス握り潰した…?

 そしてさっきも言っていたクソガキがようやく誰かわかりました!あの第3王子でしたか!?やばい!殺されてしまう!



「お、おじい様。私の中ではもう終わった事です…。だからそのように怒らないでください」

「でもなクルーシャ?!お前をそこまで傷つけたあやつをわしは許せそうにないぞ?!」

「大丈夫、許さなくていいです。私も許していませんから」

「クルーシャ?」

「醜いと罵られましたので、だから私逆に綺麗になって見返してやろうと思っています」



 そう、みんなの前でハッキリ宣言をする。

 クルーシャが引っ込み思案で引きこもりの卦があることはみんな知っている様子だった。

 そんな私が強気の発言をしたんだ。みんな唖然もするだろう。



「…そうか、そうか!見返す、か!いいぞクルーシャ!わしは応援するぞ!」

「おじい様!」

「わしはな、学園でお前が何をされてきたのかほんの一部じゃが知っている。婚約者であるアイツがなんとかするだろうと楽観しておったんじゃ」



 その王子は助けるどころか逆に窮地に立たせてくれましたがね。…クルーシャが絶望して死を望む程に。



「今回の件を聞いてな、わしは反逆罪になってでも斬り捨ててやろうと思っていたんだが、…そうか、クルーシャが…」



 新しいグラスにワインが注がれそれを一気に煽る。

 いつの間にかテーブルクロスは新しいものに取り替えられ割れた、いや砕かれたグラスも綺麗に片付いていた。



「お前の母さんもとびきりの美人じゃった…。クルーシャも母さんぐらい、いや、もっともっと美人になるぞ…!頑張れクルーシャ!」

「ありがとうございます!」



 クルーシャのお母さん。たしか亡くなっているだったよね。



 -お母様…。りぃ、おじい様の言う通り私のお母様は美しかったです。…私もなれるでしょうか…?あんな美人に…。

「もちろんだよ!絶対美人になるからまかせて!」

「!?」

「クルーシャ様!?」



 しまった。思わず声に出して叫んでしまった。

 立ち上がって握りこぶしを作っていた私はそっと音を立てず席に着いて、誤魔化すように笑うしか無かった。



「ははは!いいぞクルーシャその調子じゃ!さて!ではとりあえずこの食事は下げさせるかの」

「いえ!今日は食べます!…食べさせてください。せっかくおじい様が私のことを思って用意して下さったお食事ですもの。最後まで食べます」

「そうか…。優しい所も母さんそっくりだ。昔から変わらないな…」



 温かい優しい眼差し。きっとおじい様はお母さんのことも大切だったんだろうな。



「よし!わしもなんでも協力するぞ!」

「本当ですか!?1人でどうしようと思っていたところだったのです!協力いただけると嬉しいです!」

「もちろんだ!ここにいるみんな、お前の味方だ!一緒に頑張ってあのクソガキが死ぬほど後悔する程に見返してやろうな!」

「ふふ、おじい様、そういうのをざまぁって言うんですよ」

「ざまぁ?」

「えぇ、“ ざまあみやがれ”のざまぁです」

「ほう、それは面白いな。ざまぁ、だな?では当家はこれよりクルーシャざまぁ作戦に移行する!今日はその決起会のようなものだ!みなのもの!飲め!食べろ!今日は無礼講だ!命令だ!盛り上がれ!そして明日から皆で協力しようぞ!!」



 わあぁっと室内が盛り上がる。おじい様は英雄ってこともあるのか、味方を鼓舞するのも上手い。

 下働きだろうが執事だろうが構わず皆で飲み食いをする。

 従者やコックさんまでもお酒まで持ってきて大盛り上がりだ。



 うん、分かってる。私があまり食べなくてもいいように配慮してくれたんだね。



「おじい様、ありがとう」

「なんじゃ?まだなにもしとらん!わしに出来ること言ってくれ!」




 宴会の中、これからやりたいことや決まり事なんかも話し合った。





 ねぇクルーシャ、あなたこんなにも愛されているよ。



 いつの間に静かになっていたクルーシャにそっと囁いた。




いつもお読み頂きありがとうございます!


すみません!今回更新分ちょっと時間が無くて見返し甘かったりします!

後々修正するつもりです!誤字脱字すみません!

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