みんなと仲良くって楽しいことなんですね
さて、馬車旅も3日目。最終日だ。
ドロシーちゃんとクルーシャの話によると夕刻のまでには領地の館にたどり着くそうだ。
-きっとおじい様が待ちわびてますよ。
ふふふと笑らうクルーシャはとても楽しそうだ。
-おじいさん、そんなに素敵な人なの?
-はい!おじい様は強くて、立派な方で、お優しくて、筋肉なんです!
-そっか、ルーシャ大好きなんだね…ってえ?筋肉?筋肉って言った?
-筋肉なんです!素敵な筋肉をお持ちです!
きっとりぃも好きになりますよ!ってクルーシャがマッスルフェチだと分かった瞬間だった。
「おーい、クルーシャ嬢様、そろそろ昼食の時間ですよー」
「はい、分かりました」
あれからジェイとは随分に仲良くなった。ジェイからするとお貴族さまと気軽に話せるなんて家族なんかが聞いたら驚くだろうなと笑っていた。
随分砕けた様子で喋るジェイに対して、ピーターはこの中で1番年上らしく丁寧な態度で接してくれている。でも嫌じゃなくって、人柄なのかな?話をしていると落ち着くんだよね。
「お疲れ様ですクルーシャ様、どうぞこちらにお座りください」
森の近くの広場に馬車を止め、敷物の上にランチセットを広げたドロシーちゃんが待っていた。
ちなみにドロシーちゃんの態度は相変わず。一見淡々としているようで気持ちが態度に出ちゃう。見てて可愛い。
「ありがとうドロシー。ジェイもありがとう」
ここまでエスコートしてくれたジェイにもお礼を伝える。
今日の昼食もドロシーちゃんお手製で私リクエストだ。
馬車生活も3日目になり三半規管が強くなったのか初日ほど酔わなくなり、昼食も案外食べれるようになっていた。
でも、重たいものを食べると気分が悪くなりそうなのは事実なので、塩ゆでしてもらった鶏肉を中心に野菜、フルーツが主なヘルシーご飯。
それとは別にちょっとだけお肉が並ぶ。
「おぉ!これは今日も美味そうですね!」
「当たり前です。わたくしめがクルーシャ様のためにお作りしたのですよ」
ふふんとピーター相手にドヤっと胸をを張るドロシーちゃんかわ。
そうそう、初日こそ別々で食べていたけど1人で食事も寂しいし、みんなに見られて食べるのも趣味じゃないしということで、わがままを言ってみんなで一緒に食べることになったんだ。
さすがに旅の間だけ、とドロシーちゃんに念押しされちゃったけど、仕方ない…のかな?
サラダを口に運びながらみんなの話題に耳をかたむける。
「よくお前フェルト様の訓練隊に入れることになったな」
「まぁ、才能…って訳でもないけど、努力しまくったんだよ」
「フェルト様は大変お厳しいお方ですので、その努力是非継続してくださいまし」
警護の任を終えたあと、ジェイはカルフェーネ家護衛を辞め、おじい様の訓練隊に入るんだって。
なんでも英雄でもあるおじい様の訓練隊は入隊条件も厳しく、日々の訓練は血反吐を吐くほど。その上卒業試験はさらに地獄を極めるらしい。
でも、卒業出来れば王都の騎士などに配属されることも決まっており、騎士を目指すものなら入隊を夢見るらしい。
でも、故郷を離れて寂しくないのだろうか?
「ねぇジェイ、家族は何も言わなかったんですか?」
「ええ、むしろ行ってこいって言われましてね。親父にはお前がどこまで出来るかやってこいって鼓舞されましたよ」
「では奥様とかは大丈夫でしたか?残されて寂しい思いをしているのでは?」
「…奥様…?」
私たちのやり取りを聞いていたドロシーちゃんとピーターがクスクスと笑いだした。
私ってば不味いこと言った?家族のこと聞いちゃダメなの?
多分戸惑っていたのが表情に出ていたのだろう、ジェイがフォローしてくれる。
「嬢様…奥様なんていませんよ。そもそも俺クルーシャ嬢様と年齢そんなにかわんねぇですよ?多分3つ上です」
「え」
嘘!あの義兄と同じぐらいだと思っていた。いや、だって見た目!
クルーシャと同じぐらいの高さに、鍛えられている身体のバランス。短髪って言うほど短くはないが焦げ茶の髪が輪郭を覆い、外見25ぐらいだと思ったよ!
人を見る目があると思っていたのに…結構ショックだ。
ハハハ!とピーターがお腹を抱えながら笑ってる。
「奥さんだって、それどころでもないのにな!」
「ピーター!余計なこと言うなよ?!」
「余計なことって?例えば随分前に振られてそこからずっと独り身だとか?本当にお前は可哀想なやつだよな」
「ピーター!お前!なんでいうかね?!」
「はは、雇い主が気にしているんだぞ?答えるに決まっているだろう」
「くっお前こそ!ドロシーさんに気があるのバレバレだぞ?!告白でもするのか?!」
「なっ!?私のドロシーちゃんに!?…コホン、私はそこまでの詳細は聞いていなかったんですけどね」
ピーターってば可愛い私のドロシーちゃんに惚れてるの?!
まぁ仕方ないか。可愛いし、お胸大きいし、気が利くし、スタイルいいし。
-ふふ、楽しいですね。
-うん、そうだね。
ワイワイ騒ぐみんなを見ながら、過去の私にも持っていなかった人間関係だなぁと思う。
芸能界に入り、味方がいなくなった状態でそれでも必死になって己を磨いて武器を鍛えた。
人間関係を作ってこなかったことにそこまで後悔はない。
でも、改めて目の前に広がる景色を見ると、ちょっとだけもう少し頑張ればよかったなと感じる。
「クルーシャ様?いかがいたしました?」
「いえ、楽しいな、と思いまして」
「!!そうですか!楽しいのはいいです!もっと楽しみましょう!」
「そうですよ!あっ!こっち食べてみてください!多分好みですよ!」
「いいや、こっちのが上手いです!お召し上がりください!」
賑やかなまま食事を終え、少しだけ食休み。ドロシーちゃんだけは休むことなく片付けと出発の準備を整えている。
この馬車での旅ももう間もなく終了になる。
-領地ってとこに行ったらピーター達とは会えなくなるのかな?
-配属にもよると思いますね。ただジェイさんはおじい様の元に向かうそうなのでなかなか会えなくなりますね。
-寂しいね。
-…はい。でも、会いに行けますよ!りぃ、一緒にジェイさんの様子見に行きましょう!お菓子沢山持って!
それはいい考えだ!きっとジェイは驚くし、多分喜んでくれるだろう!
「クルーシャ様!お早く馬車へ!」
突然、空気が変わった。
ジェイとピーターは瞬時に腰に提げていた剣を抜き構える。
なにごと?!
思わず足が固まり身動き出来なくなる。
そんな私に気づいたドロシーちゃんが私をカバーするように前に立つ。
-りぃ!魔物です!
森の中から数匹の犬のような姿の獣が出てきた。
低く唸りながらこちらとの距離を詰めようとしているようだ。
-あ、あれが魔物?!
-ヘルハウンドです!集団で行動します!多分もう囲まれています!
クルーシャの言う通りだった。
すでに4、5匹の魔物に囲まれていた。
ピーターが剣を振り下ろし威嚇するがあまり効果はない。
「こちらが気を引いてる隙にクルーシャ嬢様を馬車に!」
「だめです!馬車の間にも1匹回り込んでいます!」
「くっ!ではそいつをまずは討伐する!その後全員で馬車に移動、速攻逃げるぞ!」
そう言うとジェイが身を屈め素早い動きで馬車の近くにいる魔物に突撃する。
-!ダメです!
クルーシャの叫び声が聞こえたが私は固まったまま何も出来なかった。
次の瞬間、魔物はジェイ目掛けて一斉に飛びかかった。まるで囮に引っかかるのを待っていたように。
「ちっ!!」
剣で牙と爪を弾きながら躱す。ただ、最後の1匹の体当たりで地面に転がった。
「ジェイ!」
思わずかけよろうとするが必死のドロシーちゃんにとめられた。
でも!このまま見殺しには出来ないよ!
転んだ隙にさらに魔物に囲まれている。このままでは危ない!
-りぃ、よく聞いてください。ヘルハウンドは集団で行動し、大変狡猾です。でも、たった1匹でも攻撃されれば直ぐにこの場から逃げます。
さらに仲間を増やして戻ってくるために。
-うん、私はどうしたらいい?
-ヘルハウンドは火に弱い魔物です。りぃ、先日の火の玉を先程馬車の近くにいた魔物に向けて攻撃してください。それがこの集団の主です。
-わかった!
なんでクルーシャがそんなに知識があるかわかんないけどクルーシャが言うんだもの。信じるしかない!
「ドロシー、少し離れて!…魔法を使います」
「クルーシャ様!魔法は…」
「ジェイが危ないの!迷っている暇は無いのです!それにあの魔物は火に弱いらしいので、きっと上手くいく、お願い信じて!」
地面に座り込む体制のまま上に覆いかぶさり喉元を噛み破ろうとする魔物になんとか抵抗している。
「クルーシャ嬢様!馬車にお乗り下さい!」
隙をついたピーターが馬車を操縦してこちらに向かう。が、再び魔物が目の前に立ち塞がる。
先程の魔物だ。クルーシャ曰く、こいつがこの群れの主?
「ク、クルーシャ様、わたくしめが気を引きます。その隙になんとか!」
「だめ。大丈夫!私ならできる!」
だって私はひとりじゃない。
-りぃ!集中して、手のひらの上で火の玉をつくるイメージです!
大丈夫。教えてもらった日から身体を鍛えるトレーニングと一緒に魔力についても一緒に練習きたでしょ?
-ルーシャ、2人でみんなを助けよう!そのあとまたみんなでお茶にしましょう!
-はい!




