閑話【2】
リードside
結局徹夜した。無理だよな。絶対終わないんだよ。あの書類の山。
くぁっと欠伸を噛み締めて空を見上げる。太陽がのぼってしばらく経ってはいるものの、朝の時間帯。
こんな時間に追い出すとかマジで部下達酷くないか?
どうやってか事情を知った…いや、確実にヤツの根回しだろうが、部下数人が机に齧り付いていた俺を引き剥がし、本当にポイっと部屋の外へと追い出されたのだ。
「聞きましたよ!女性と会うのでしょう?!だったら身だしなみ整えてきてください!」
「王子からの命令ですよね?!だったらこんなところにいつまでいるんですか?!こっちは何とか出来ますのでお早く!」
「仕事なんて平気ですよ!隊長いなくたって何とかなります!でも女性は仕事ではなんとも出来ないんです!…お願いです!頑張ってきてください!!!」
帰ったら仕事色々命じよう。泣いても喚いても仕事させよう。
そんな優秀な部下達に見送られ、湯浴みやら着替えやらなんやらと身だしなみを整えてやってきたのは国立学園。
お貴族様の学校なんて正直来たくなかったが例のお嬢様がいるなら仕方がない。
少し重めなため息をつき大きく構える門をくぐる。すると、先に連絡をやっていたこともあり出迎えがいた。
「初めまして、ソシリア名誉公爵様。私は理事長を拝命しておりますバーリントと申します。こちはら副理事長のシュデールです」
「…初めまして」
「ご丁寧にご挨拶ありがとうございます。突然の訪問となりお手数お掛けしました」
「はぁ…本当ですな」
「シュデール…!」
どうやら副理事長は俺のことがお気に召さないらしい。
こういった相手も多くいる貴族社会だ。対して珍しくもなく気にもとめず、用件へ話を進める。
「カルフェーネ嬢であれば、この時間帯寮にいらっしゃると思いますよ」
「そうですか。立ち入っても可能ですか?」
「もちろんです。王子からの命じられておりますのでどうぞお入りください」
「学園長…!このようなヤツを学園に入れるなんて」
「シュデール!…名誉とはいえ公爵ですよ。言いたいことは分かりますが今は弁えなさい」
どうも両名から疎まれることがわかった。
名誉、一代のみに与えられる称号のことだ。元々俺が平民の出だと彼らは知っているのだろう。
「ではお忙しいところ失礼しました」
寮への道のりを教えてもらいサッサと立ち去る。
学園長がなにか言いたそうにこちらを見ていたが知ったことではない。
恐らく俺ではなく名誉公爵の位か、魔術騎士団隊長の名かに用があったのだろう。
寄付か、コネクションか…。確か学園から魔術騎士希望の生徒も多いと聞く。
こういう奴らが多いから、貴族関係には関わりたくないんだよな。
お嬢様がどんな性格なのか、あまり期待は出来ないだろうな。
さて、寮の前には着いた。本日から長期休暇ともあり朝から多くの生徒で賑わい出していた。
「しまった…」
クルーシャ嬢の容姿とか全く教えてもらってないんだが?!
キョロキョロ辺りを見渡すが探すものが分からなければ意味は無いだろう。ガックリと肩を落とす。
戻って先程の2人に詳細聞くのは嫌だ。正直もう関わりたくない。
適当に尋ねるか。
まずは生徒たちの使用人達に聞いたが分からないと言われ、仕方なく生徒たちに聞くことにする。
制服とはいえ魔術騎士団の真っ黒なコートを着てきたせいか、最初に声をかけるとたいがい怯えられる。
それでも気にせず数人に聞いて回ってみた。
結果、誰もクルーシャ嬢が今どこにいるか知らなかった。
そして容姿について併せて聞いたが、…酷いものだった。
こいつらは人を人だと思っていないのか?魔物と言われて喜ぶ人がどこにいる?
それを面白そうに話してくる。話しかけた全員が、だ。
どうなってるんだ、この学園は?!相手は17歳の少女だろう?!
終いには俺が制服を着ていたからだろう、魔術騎士団だとわかった奴からは、婚約破棄された魔物の退治にきたんですか?だと?!
これ以上不快な気持ちになりたくは無いが、誰も居場所を知らないのでは仕方がない。
これで最後にして、もし知らなければ日を改めよう。
そう気持ちを落ち着かせ玄関前で立ち尽くしていた女生徒達に声をかける。
キャイキャイと耳の痛くなる甲高い声だったが、クルーシャ嬢が既に学園を立っていた事を教えてもらった。
なんだそれ?!貴族ならのんびり昼頃に出発しろよ?!とんだ無駄足じゃないか!
今から追って追いつけるか?もう領地にいる所に会いに行けばいいんじゃないか?いや!その間に他国のヤツらに連れ出されたら厄介なことになる!
前に垂れてきた前髪をかきあげ気合いを入れる。
追いかけるしかない。
そうなればこんな不快な場所からとっととおさらばしよう。
よしそうしよう、さっきからこの擦り寄ろうとする娘が鬱陶しいし。なんだこの娘は?甘ったるい声出してこちらに身体ごと擦り寄ろうとしてくる。
はぁ、貞操概念とかないのか?この学園の教育は大丈夫なのか?
よく晩餐会なんかで擦り寄ってくる女性は多くいるが本当に勘弁して欲しい。好きでもない女にまとわりつかれても不快なだけだ。
さっとその場を適当にあしらい、学園をあとにする。
そのまま門外で待たせていた馬車へと飛び乗る。クルーシャ嬢とは領地に向う途中で会えるだろう。
「すまないがキルクル領まで向かってくれ」
「はっ畏まりました」
御者には領地に向かうことは伝えてあったのでやり取りは端的だ。
馬車の中には従者兼補佐が待ち構えていた。
ただ、こちらの様子から俺がクルーシャ嬢に会えなかった、空振りで終わったことを察した様子だった。何も言わず鞄から書類を取り出してくれた。
付き合いの長いことで助かるよ。
走る馬車の中で書類に目を通す。そんな時ぞくりと背中が震えた。
「如何致しました?」
「いや、特になにも」
「どうせ女性に色目でも遣われたのでしょう?」
「…相手は生徒だ。ただ、うん、いやな目つきだったな。二度と関わりたくない」
フルフルともう無いはずの視線を振り払う。
黒髪も揺れてふわりと元の場所に戻る。
「…貴方がそう魅力を放つからいけないのでは?」
「なに?」
「いえ、なんでもございません」
おかしなやつだ、言いたいことがあるならハッキリ言え。
黙り込んでしまった従者を放って再度書類に目を通しながら願う。
どうか、クルーシャ嬢があのような娘ではありませんように。
王子からの命令を破棄することの出来ない身として必死に祈ることしか出来ないリードを乗せて馬車は街を出立していった。
10話の投稿について時間通りにいかず申し訳ございませんでした!
原因は設定ミスでした。気をつけていきますが、今後もこういったミスも多くあるかもしれません。すみません…。
お詫びにはならないかもしれませんが、突発で閑話を書かせていただきました。また閑話2回目ということもあり、一回目の閑話の題名に【1】を足させて頂きました。
次回からはまた通常更新になるかと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
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