7話・ファングの疑惑
「待ちなさい!そこの男!」
「、、、、」
あたしは先程の戦闘の後、ずっと男を追いかけている、何度も声を張り上げているが、まるっきり無視されている
「少しは答えたらどうなのよ!」
男は森の中へ走って行く、、、確か此処は半年前、アリスを取り逃がした場所だ
男はある木の根元に消えた
(!?あそこに何かがあるの?)
足音を立てない様に近付き、開いていた穴を覗きこんだ
根でテーブルやベットがある
男がちょうどアリスをベットに寝かしている所だった
「っ!?誰だ!?」
(、、え?今更気付くの?)
男は格闘系の戦い方をするらしい、手に鈎爪のグローブを着けている
あたしは穴の中に降りた
「くそっ!まさかつけられていたなんて!」
「ちょ!?あたし散々騒ぎながら来たわよ!気付かない方がおかしいでしょ!」
問答無用で攻撃を仕掛けてきた、ほぼ光速のクローが来る
慌てて回避に移るが、肩を掠る
走りながらアイテムで全回復していたライフが半分持っていかれた
(速い!?しかもこの威力、ありえない!!第一、デュエル以外ではダメージが入らない筈!?)
慌ててアイテムを取り出し
「『帰郷の翼』!」
(逃げるなんてあたしの性じゃないんだけどね!)
あたしの身体を光が包み込む、しかし、次の瞬間、光が拡散してしまった
(やっぱりこの男がウイルスを!?)
男はゆっくり近付いて来る、男の足音が、あたしにはそれが死へのカウントダウンに聞こえ、青ざめて尻餅をつく
後ろに下がりたいが、後ろは既に壁、上に出口があるが、足に力が入らない
男の鈎爪があたしの頭に振り下ろされーー
「ふああぁああ、、、」
「ふああぁああ、、、」
ボクは思い切り欠伸と背伸びをして物音のした方に振り向いた
一瞬、赤い何かが見えたが、すぐに見えなくなったので気のせいかと思い、ファングに声をかける
「何しているの?ファング?」
「、、、いや、何も、それより!大丈夫だったか!?」
ファングが顔がくっつきそうな程顔を近付けるので、のけ反ってしまった
「う、うん、大丈夫だよ、このゲームは怪我しても戦闘が終わる時に治るから、ダメージは残るけど」
因みにどうやら眠っている間に回復アイテムを使ってくれたらしい、ライフが全回復している
「そうか、ならいい、お前が眠っちまった後、何故かデュエルが中止されたから急いで逃げて来たんだ」
「ふうん、誰にもつけられていないよね」
「ああ、大丈夫だ」
それなら安心、と、ボクはまたベットに横になり、目を閉じた
「はぁ、はぁ、はぁ、こ、此処まで来れば大丈夫ね、あの男、一体何者よ」
広場では未だ口論が繰り広げられている、デュエルが起きそうな雰囲気だ
「、、、あの女がアリスとは別人だったら、ね、、、」
このゲームは一応、名前がダブる可能性がある、元々、このゲームは世界中に広める予定になっていたゲームだ、そうなるとどうしても名前に問題がでる、そこで同名に設定出来る様になっている
それに、アリスなら十分ダブる可能性がある
「アリスが違ったとして、あの男は何者よ」
ウイルスを操り、異様に強いあの男、しかもデュエル無しで攻撃を仕掛けてきた
このゲームはプレイヤーキラ(PK)は出来ない様になっている
そのうち出来る様になると噂があるが、実行されていないし、アリスに支配された後も出来なかった
(あれも恐らくウイルスを利用してるわね)
どうやってウイルスを使っているのかはわからない、だが、存在している
あの男は何者か、男の目的はなにか
「あーっ!!わっかんない!とりあえず明日からあの二人の情報を探すわよ!」
サラは未だ口論している野次馬に背を向けて歩きだした
「ふわああ〜、良く寝たぁ」
ボクは起き上がって欠伸と背伸びする、別のベットで眠っているファングをチラッと見ると、外に出た
枝を集めてファイアで火を起こす
ファングが買ってきたフライパンに卵を二つ割って入れ、目玉焼きを作りはじめた
フライパンを片手で持ち、片手で皿とパンとベーコン、レタスを取り出した
半年の間、修行の他にこんな事まで教え込まれてしまった、料理スキル無しで
料理スキルを使えばあっという間に出来るのだが、ファングが『女の子が台所でエプロンして料理する方が萌えるだろう!』というので、こんな子供に料理をやらせるのかと講義したが、聞く耳をもたず、料理スキル無しでやる事になってしまった
(あ、エプロン着け忘れた)
まあ、これぐらいを作るなら問題無いが
目玉焼きが二つ焼けたので、パンに載せ、ベーコンとレタスも載せ、パンで挟む、そしてまた、フライパンに卵を一つ載せ、焼きはじめる
ボクは一つで十分だが、恐らくファングは二つ必要だろう
「お、いいにおいがするな」
ファングが起きてきた、今日は起こす前に起きたらしい
「もうちょっとで出来るから待ってて」
「やっぱりエプロンした女の子が料理する姿は萌えるなぁ」
「ファングは朝ご飯いらないね」
「わっゴメン!許して」
そうこうしながら三つ目が焼け、朝食をとる
「ねえ、やっぱりもう町は危ないかなあ」
ファングは咀嚼していたパンを飲み込んだ
「だろうな、またしばらくは俺専用メイド生活に逆戻りだな」
「ファングのメイドになった覚えは無いよ」
そういいながらフライパンを振りかぶる
「わかった!謝るから許して!」
そんな話をしながら朝食を済ませ、いつも通り修行を開始する
ファングは少し離れた町まで買い物に行くらしく、今日はいない
いつもならどうでもいい事だが、今日は違った
「、、、町に行きたいな」
昨日、一度町に行ってしまったせいで、また行きたくなったのだ
「、、、バレないよね?」
こっそり身支度して黒いローブを着て町へ向かった
町に着いたボクは昨日の広場へ行ってみることにした
今日もまた何かあったらしく、広場には人が集まっていた
ボクはアリスとバレない様にと祈りながら一人に声をかけた
「何かあったんですか?」
「ああ、実はある男が人への攻撃が可能になったと言うんだ、それって、PKが出来る様になっちまったって事だろ?今まではデュエルでだけだったんだが、、、しかも、デュエルが出来なくなっているらしいぞ」
ボクは驚いて広場の中心に目を向ける
「ほらっ!デュエルが出来なくなっているし、人への攻撃が効いただろ!それも街中で!」
「そんな、、、」
(対人が可能になったって事は町も危険になったって事!?)
「みんな!覚えてるか!?昨日此処でアリスと女のデュエル!あれはルールでどちらかが死ななきゃ終わらない筈だった、なのに不自然に終わった!何故か?簡単だ!アリスがまた弄ったんだ!逃げる為に!」
(そんな!?ボクは何もしてないのに!)
周りの野次馬達はそうだー!と声を張り上げている、中には昨日ボクを可哀相と言っていた人もいた
「お嬢ちゃん、やっぱりアリスはあいつだったんだなあ、アリスが憎いと思わねえか?」
「、、、そうですね」
そう言い残して出来るだけ素早く路地裏に逃げ込んだ
「どうしよう、もう町に来れない」
ボクは出来るだけ路地裏を使いながら町を出ようとした、しかし、そこで悲鳴を聞いてしまった
「、、何かあったのかな?」
どうしても気になってしまい、悲鳴の元へ向かった
そこは更に暗く、行き止まりだった、そこで子供が不良にリンチされていた
「キミ!大丈夫!?」
ボクは思わず駆け寄ってしまった
「なんだてめえ!?」
「死にてえのか!?」
振り下ろされる剣を避け、呪文を唱え様とした
「ファイ、、!!」
しかし、頭の中に先程の言葉が浮かぶ
PK、プレイヤーキラ
それが可能になってしまっている
悩んでいる暇は無かった
「うらあ!動きが止まってんぞ!」
「死にやがれ!」
「ぐっ!?きゃあ!?」
腹部を殴られた後、肩を切り付けられた
「コイツ女だぜ!」
「ちっこいがまあいい、犯してやるぜ!」
魔法が駄目だと判断したボクは、格闘で追っ払う程度に痛み付ける事にした
ボクは不良の腹部を殴りつけた、しかし、此処で予想外な事が起きた
不良の残量ライフが一気に削れ、五分の一に減ってしまった
不良が弱すぎたのだ
しかも、殴った拍子にローブのフードが取れた
「ひい!?コイツアリスだ!?」
「た、たすけてくれ!?殺されちまう!?」
「うわあーーでたーー!!?」
不良達は一目散に逃げていく
「、、、えーと、、あ!そうだ!キミ、大丈夫!?」
しかし、子供も青ざめて震えている
「うわあーー助けてーー死にたくないよーー!!?」
子供も一目散に逃げ出した
そして直ぐに声が聞こえてきた
「こっちにアリスがいるんだな!探せ!」
「ヤバイ!見つかっちゃう!」
慌ててその場から逃げ出す、しかし、足音が聞こえてしまったのか
「おい!あっちだ!」
ボクは狭くて動きづらい路地裏から飛び出し、逃げる、周りから悲鳴が上がった
「きゃあ!?アリスよ!?」
「ひい!殺される!?」
大量の人数が後ろを追ってくる
ボクが角を曲がった時、腕を掴まれ、路地裏に引き込まれた
「うわっ!」
「静かにしてなさい!」
口を塞がれ、物影に隠れた
ボクを追っかけていた人々が通り過ぎていく
しばらくして足音が止み、ボクはホッとして振り向いた
「ふう、ありが、ああ!?」
「静かにしなさい!」
その人はサラだった
そしてボクの首に細剣がーーー