3話・服の問題と謎の変態男
「ふわあ〜ぁ」
根っこのベッドから起き上がり、背伸びした
そのせいで一昨日にはなかった筈の出っ張りと、何かが無い感触を感じた
「うひゃあ!!?」
寝ぼけていた頭がハッキリと冴え、昨日の事を鮮明に思い出した
「あ…そうだった、此処はゲームの中で、女の身体になっちゃったんだった」
ボクは早速昨日の疲れが押し寄せ、げんなりしながら辺りを見回す
少し狭いが、天井から生えた根っこの隙間から光が差し込んでいる、根っこは椅子やテーブルがわりになりそうな形をしている
入口を塞ぐ岩を退かして外に出てみる、朝日が少し高い所に昇っていて、ポカポカ暖かい
少し高い所なので風が涼しくて、花の香りがする
背伸びしながら欠伸して、入口を閉じて辺りを見渡してこの場所を覚えて朝飯を食べる為、食べられそうな物を探しに行った
幸いな事に近くに木の実と川を見つけた
木の実を平らげ、水を飲む、顔を洗って、『ベビーウルフの毛皮』を濡らして簡単に身体を拭く。胸とかも拭かなければいけなかったので、かなり恥ずかしかった
「はぁ、完全に女の子だよ」
精神は男でも、身体は背の低い金髪、金眼の少女である
いくらバグとはいえ、元々このゲームは性別は変更不可能である、しかも目立ったバグは発見されていなかった為、誰も信じてくれないだろう
「さて、と、修行を開始するか」
ボクはモンスターを求め、森に足を踏み入れた
「喰らえ!『ファイア』!!」
威力の増したファイアがベビーウルフを三体同時に仕留める、既にかなり強くなった。だが、まだまだ足りない、ボクより鍛えている人もいっぱいいる筈だし、もう一人のアリスはもっと強いだろう
おまけに自分もアリスなので、狙われてしまう、だから一度に沢山の敵と戦う事になる
ボクは家に帰る前に川で身体を洗う事にした、水はかなり冷たいが、仕方が無い
「あったあった」
ボクは服を脱いで、服も洗いながら、川に入って、身体を洗った
「あ、服が無い………」
服も洗ったせいで、着る服が無いので拾った大きな布を体に巻いて急いで家に帰ってきたアリスは(顔真っ赤)服を木の枝で室内に干した
「そっか、服の替えがないんだった」
できれば町で買いたいが、自分の事が噂になっている筈なので、かなり危険だ
とはいえ、毎回こんな帰り方はしたくない
やはり、他に服が必要だ、普通なら服はずっと着てても問題なかったが、現実に近く設定されたせいで汚れたり、黄ばんだりする
「どうしよう、ベビーウルフの毛皮で服を作れるかな」
しかし、縫い合わせるには、針とか道具が必要だ
スキルの中には、『裁縫』があり、それがあれば道具は要らないが、取得するには専用のアイテムを使用するか、何回か実際に縫わないといけない
そういえば今体に巻いている大きな布も、使えるかもしれない、でもなんだか心許ない
あ、そうか、この二つを組み合わせればいいんだ
確か草の種類に『ネバネバ草』っていうのがあった筈、何か接着剤の代わりに使えるらしい、でも、どんな草か解らないし、服を作る為に使えるかわからないが、どっちしろ、やるのは明日だ
まだ夕方だったが、寝てしまう事にした
根っこの隙間から差し込む朝日の光で目を覚ました
「んみゅ?」
しかし、おもいっきり寝ぼけていた
「何処?此処〜?」
普段絶対言わないような事を言いながらそのままふらふらと歩き回る
「んぎゃ!」
地面から生えた根っこに躓いて頭からテーブルがわりの根っこに激突した
「・・アテテ……?あれ?何してたっけ?ボク」
考えても思い出せず、諦めて干しっぱなしの服を着て顔を洗いに川へ向かった
「さて、それじゃあ早速、ネバネバ草を探しますか!」
顔を洗ったアリスは、ハイテンションになりながら森の中に入っていった
「ふむ、あれがあの赤い髪の女が言っていたアリスか、変な力を使うようだが、監視させて貰おう」
アリスは、前屈みで生えている草を引っこ抜いては名前を調べていた
「見つかんないな〜、何でないんだろ、やっぱり此処らへんには生えていないのかな」
思考がマイナスに働いているが、めげずに探し回る
ムニュ!
「あり?何だろ」
頭が何かにぶつかったので頭を上げる、そこにはかなりでっかい熊がいた
「ひあああああ!?」
思わず大声を上げてしまった
戦える事も忘れて逃げ出す
熊は腹が減っているのか、ものすごい速さで追いかけてくる
「グガガアァァァ!!」
「きゃあああぁぁぁ!?」
思わず女の子みたいな悲鳴を上げている事にも気付かず必死に逃げる(今は女の子だが)
しかし、直ぐに止まらざるを選なくなった
森を抜けたら崖だったのだ
(な、なんてベタな………)
しかしそんな事考えてる暇は無く、熊がすぐ後ろまで迫っていた
(ど、どうしよう・・・そ、そうだ!魔法!)
未だ混乱しているアリスは、まともに考える事が出来ず、ただ熊のいる方に連射した
「ファイアファイアファイアファイアファイアファイアファイアファイアファイアファイアファイアファイアファイアファイアファイアファイアファイアぁぁぁーー!!!?」
ソウルが尽きても熊が既に倒されてることに気付かず、ファイアを連呼していた
5分後
「よかったぁ〜助かったぁ〜」
しかし、ソウルが尽きても叫び続けていた事と、とっくに熊が死んでた事にも気付いたのか、真っ赤になった
「かわい過ぎる!!」
「え?」
いきなりの叫び声に、思わずそちらを向く、そこにはダッシュでアリスに抱き着こうとしてくる男
「うわぁ!?」
思わず避ける、すると見事なヘッドスライディングで男は危なく崖に落ちそうになった
「う、うわぁっ!?危なかたぁ!どうして避けるんですか!?」
「い、いや…どうしてといわれても……」
また近づいてくるので、後退る
「き、嫌われた…まだ何もしていないのに……」
する気満々だったとも取れる言葉を呟いてぶっ倒れた
「・・え?あ、ちょっと!大丈夫ですか!?」
近付いて男の体を揺する
「許してくれるのか!?」
と、いきなり肩を掴んできたので
「うひゃあああぁぁ!?」
と、叫んで急いで離れてしまった
するとまた「嫌われた、、やっぱり嫌われたんだ………」と、呟いてまた倒れてしまった
「・・え〜と、嫌いじゃないから起き「本当か!やったー!女の子に好かれた!」………」
何か勘違いしてそうだが、とりあえず
「貴方は誰ですか?」
すると男はガシッと肩を掴んできて
「すまなかった!自己紹介がまだだったな!私はファングという者だ!」
「ボクは………」
そこで迷った、自分が名乗れば襲ってくるかもしれない
しかし、迷う必要はなかった
「アリスだろう!?大丈夫!私は君が犯人とは思っていないからな!大体名前がダブる可能性くらいいくらでもあるさ!」
ボクは呆然とした、この人はボクが犯人かもしれなくても普通に接してくれるのか?
「いいの?ボクが犯人かもしれないのに」
「構わん!私は全ての女の子達の味方だ!」
その言葉にガクッときた
この人はただ、アリスが特別とかじゃなくて、可愛い女の子だったら誰でも良いのだ
でも嬉しいのは確かだったので、家に連れていく事にした
ネバネバ草の事をすっかり忘れて………