表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

少年とお節介な死神の話

作者: 川城毒団子

 生まれ落ちた少年には幸という名前が付けられた。


親が幸せになって欲しいという思いでそう名付けた。


少年はすくすくと育っていった。


6歳のころ両親の期待を両肩に背負って小学校に入学。


親の期待通り、のびのびと自由に元気な子供に育っていった。


学力やスポーツ面で不安な所は一切なかった。


中学に入り、徐々にぼろが出始める。


いつも明るくて元気なのはいい事だったが、学力が低下し続けた。


両親は心配したが、向上することは無かった。


少年は期待に応えようとはしたが、答えることが出来ない。


両親の圧力は段々と重くなっていき、行き過ぎた教育へと発展していく。


体罰という名の教育。


少年は謝罪し続けた。


両親は言う事を聞かせるため力で服従させる。意見は聞かない。


少年が2年生の時、父親が死去。


母親は毎日少年に怒り、暴力を振るい、失望の表情を見せた。


少年は完全に委縮。元気も無くなり、威勢も無くなった。


少年はひたすら母親に謝り続けた。が、状況は悪化する一方。


まもなく、少年は家を追い出された。


少年は働いたことが無い。お金を稼ぐ事が出来ない。


その日は大雨だった。雨は少年から容赦なく体温を奪い去ってゆく。


少年は架橋の下で雨宿りする。


寒い、怖い、お腹が空いた。


少年は心の中で母親に何度も謝り続けた。


大雨の中、誰かが架橋の下に歩いてきた。


全身黒い服に身を包み大鎌を担いでいる。


それはいわゆる死神。


怯えている少年に目をつける。


少年は目を逸らして身を丸める。


死神は少年に近づき、契約を持ち掛ける。


魂と引き換えに願いを叶える、それが死神の仕事。


魂を取ったら新しい人間に乗り換える。


死神に寿命は無い。それ故にその死神は暇だった。


少年は何も喋らない。


しびれを切らした死神は脅迫という手段に走る。


嫌がる少年から願いを強引に聞き出す。


少年の願いは死神が傍に居ることだった。


死神は少年の欲のなさに呆れる。


だが、どんな願いでも叶えるのが掟だ。


死神は少年の手を引き、適当な空き家を見つけると強引に侵入した。


少年は止めたが、死神聞く耳持たず。


外は草ぼうぼう、中は床が腐り、雨漏りが酷かった。


死神が不思議な力を使うと新築同然となった。


少年、驚愕。開いた口が塞がらないとはこの事である。


少年のお腹が大きな音を立てる。


死神が食材を出し、自炊を始める。


さて、死神の料理力やいかに。


出来上がったのは悲惨なものだった。


不味くてとても食べられたものじゃない。


死神は怒りながら家を出て行った。


数分後、弁当を持った死神が返ってきた。


弁当を食べた少年は笑顔に。


死神は悔しかった。


弁当を食べ終えると、死神は魂をよこすように言った。


が、少年は否定。まだ、願いは叶っていないらしい。


死神は抗議したが少年は一歩も引かない。


死神は仕方なく待つことに。


少年からは初めに抱いていた恐怖心が消え去っていた。


その日は夜まで少年の世話をした。


つまらないと思ってもやるしかない。これは仕事だ。


次の日、少年は目が早く覚めた。


死神は隣で座り込んで寝ている。


少年が死神にちょっかいを掛けたところ、死神は激怒。


少年はそんな事お構いなしに大爆笑。


死神はリズムを崩される。


ご飯は全てコンビニ弁当。栄養などは気にしない。


お金は欲しいだけ作ることが出来る。生活には困らない。


午後になり、少年から再び笑顔が消える。


母親の事が気になる。


俯く少年に死神は優しく肩を置く。


少年から笑顔が戻る。


死神はこの瞬間初めて、ほほ笑んだ。


女の死神は整った顔立ちをしている。


少年が寝るまで死神は横で座っている。


少年が寝るのを確認すると、こっそり料理の練習をした。


何度も指を切り、投げだしそうになる。


だが、悔しさが簡単に諦めさせない。


次の日もその次の日も料理を練習した。


そして一週間後料理を少年に出す。


ものすごくソワソワする。


少年が笑顔になり、内心ほっとする。


もっと笑顔が見たい。


死神は少年に色々なことを教えた。


少年に色々なものを体験させた。


死神は良く笑うようになった。


少年に興味を持つようになった。


死神が笑うと少年が笑う。


少年が笑うと死神が笑う。


少年は色々なことを学んだ。


少年の飽くなき探求心がそれを可能にする。


少年は高校に通い始めた。


学力はトップクラスで、友達も大勢できた。


次第に少年は友達とよく遊ぶようになり、家に帰るのが遅くなった。


死神は契約者以外には見えない。


それでも死神は帰りを待ち続けた。


毎日遅くまで起きて待った。


少年との会話は次第に減っていった。


少年からは笑顔が増え、死神からは笑顔が消えた。


死神は以前のように笑わなくなった。


もう契約は成立している。


だが、今の少年の幸せを奪うことなどできない。


死神は悩んだ。


3年生になり、受験生となった少年は家にいることが多くなった。


死神に再び笑顔が戻った。


それもつかの間、少年は病に伏せた。


不治の病のようだ。


死神は再び笑顔を奪われた。


少年はどんどん衰弱していった。


死神は契約変更を思い立った。


だが、契約変更は違反に当たる。


これをすれば死神は消滅してしまう。


だが、こうするしかないと思った。


死神は消滅することを黙って少年に再契約を迫った。


少年はその契約を受諾した。


これでいい、後悔など無い。


死神は別れの言葉を言わずに病院を去った。


その後、少年の前に死神が現れることは無かった。


死神は魂の代わりに少年の中の自分といた記憶を消した。


少年は少し違和感を感じながらも勉学に励んだ。


少年は見事第一志望に合格。


少年は引っ越しのため荷造りをした。


冷蔵庫を開けると、奥に肉じゃがが残っていた。


少年は不思議に思って取り出し、一口。


少年は懐かしい気持ちになった。


何か忘れてはいけないものがある。


それはずっと傍にいた優しい誰か。


少年は泣いた。


懐かしい思いで泣いた。


そして感謝の言葉を一言。


ありがとう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ