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蛍雪

作者: ピコ太郎

青年と猫の異世界暮らし、其の二です。

ふわっと読めるように仕上がってればこれ幸い。

あぁ

何故腹とゆう物はこれ程主義主張が強いのか。



夜も深まり燃料も勿体ないから今晩は本を読むのも我慢して寝るつもりで、

団扇片手に風呂上がりの廊下をひたひた歩いていると、窓のむこうから胃を刺激する香りがする。



味噌?

いや、醤油か?



換気のために少し開けていた窓に近寄ると

門扉の向こう、

葉桜も散った寂しい桜の木の下に明かりが見えた。



「屋台か」



この辺りに屋台が来るのは初めてのことだった。

いつもは町に買い出しに行った時に見かけるくらいで、こんな辺鄙な所に来ることは無い。



ぐぅ



腹は食べたいと小さく主張する。



なんだお前食べたいのか?

僕もちょうど食べたいと思っていたんだ。



お互いの合意がとれたので玄関に向かう。

クツ箱に置いたままのガマ口を袖に忍ばせ

下駄に足を通す。



木戸を開けると今朝雪かきした小道が門扉まで延びている。



今日はけっこう暑かったのだから溶けてくれてもよさそうなものだが

なかなか頑固な雪らしい。

うちの桜に居を構えるメジロも迷惑していることだろう。



気がむかないと溶けもしない雪ってどうなんだ?



まぁ雪のおかげで外の方が涼しいのは有難い。



僕は下駄を鳴らしながら門扉を抜け屋台を目指す。

今日は晴れていて月も明るいので灯り無しでもさほど困らない。



昼間何か大きな物が通ったのか道の雪は押し退けられ脇に押し固められている。



ナメクジとかだったら嫌だなぁなんて思っているうちに小川にさしかかる。



川には石の橋がかけられていてその向こうの桜の木の下に屋台は明かりを灯していた。



ふわふわと辺りを飛び回る蛍の明かりが

川面と川沿いの雪を照らし明るい月夜を

柔らかく彩る。



正直この石橋を渡るのは怖かったりする。



だって尺一寸五分ぐらいしか幅がないし。

地味に川幅もあるから

落ちそうなのだ。



足元を見ながら恐る恐る橋を渡り顔をあげると鼻孔に家で嗅いだ匂いが風にのって運ばれてきた。



そのまま引き寄せられるように屋台に近づき

暖簾を捲る。



「やってますか?」



奥に座って煙をふかしていた主人が振り返った。



こくり。



声も出さずに頷く。

ってかしゃべれるのか?

猫だぞ。



店の主人は真っ黒な毛並みの猫だった。

背は僕より少し低いがうちの太郎さんに比べたら破格の大きさだし何より二本足で立っている。



作務衣着てるし頭に鉢巻き巻いてるけど

まごうことなく猫だった。



にゃ



黒猫は器用に水差しからコップに水を汲むと

カウンターの上に差し出してきた。



「ありがとう」



僕は木造の丸椅子をひいて座ると水を一口いただく。



黒猫は手?に持ったお玉をカウンターの上に下げられた板に向け、こんっと叩いた。



板には猫ラーメン500円とだけ書かれていた。



猫ラーメン?

猫で出汁とってんじゃないよな?

もしくはチャーシューが猫とかやめてくれよ。



いや、下手したら注文の多いレストラン方式もあるぞ。



黒猫は煙をくぶらせながらじっとこちらを見ている。



頼まないとゆう空気ではないな。



「じゃあ猫ラーメン1つ」



にゃっ



猫の癖に鳴き声が渋いな。



黒猫は咥えていた煙草を消すと調理にとりかかった。



待っている間も他の客が来る様子は無い。

やはりこんな場所に店だしてもダメだよなぁ。

暖簾越しに外を見回すが辺りにある家は我が家だけ。

妖怪やら動物が集まってくるような気配もない。



にゃぁ



黒猫の声に振り返るとカウンターにどんぶりが配膳されていた。



「あっありがとう。」



僕はどんぶりを手元に下ろす。



普通だ。



どんぶりの中には猫が入ってるわけでも

毛だらけだったりするわけでも

ましてやいつの間にか自分が具にされてるとゆう超展開もなく、ごく普通のラーメンが並々と満たしていた。



チャーシュー二枚

ナルト二枚

メンマ少々

ネギパッパってところ。



「いただきます。」



恐る恐るレンゲを手に取りスープをすくい

口に運ぶ。



えっ…うまっ…



カツオか?味付けは醤油?味噌も入ってる?



うまっ!



他はわからん!詳しくないから全然わからないけどうまっ!



僕は爆上がりしたテンションのまま箸をとり

麺をすする。



麺がきしめんみたいに平たいな。

ラーメンで腰あるって表現があうかわからないけど、これもスープにあうな!



チャーシューも巻きチャーシューでスゴく柔らかい!



そこからは完食まで一気だった。



うわぁ…幸せだ…

夢中でラーメン食べるとか初めてだ。



ふと気がつくと奥で煙草をふかす黒猫が

小皿を持ってこちらにやってきた。



なんだ?サービスの裏メニュー的なやつか?



そんな期待をしながら皿を目で追った先にはカウンターの上に寝そべる太郎さんがいた。



え?いつの間に?



にゃ

ニャァ



なんだか猫同士のコミュニケーションをとり始めた。



黒猫がちらりとこちらを見る。

何?

何そのニマニマ笑い。

ってか猫って笑顔とか出来るんだね。

うちの太郎さん笑ったりしないから知らなかったよ。



ちょっと怖い。

ってか太郎さん。

何話してるの?

僕の悪口?

ねぇ。



おろおろする僕に黒猫はため息っぽい顔をしながらメニューを叩く。



あっ!お会計ね。お会計最速するのねこの店。



僕はガマ口から千円取り出して渡す。



黒猫はお金を受けとるとまた太郎さんとの談笑?に戻る。



え?



「あの、お釣りは?」



僕の問いに太郎さんがにゃあと答えた。



あぁ太郎さんの分も僕が出すのね。

いや、まぁそうなるよね。

なんだか腑に落ちないけど。



「えっと…ごちそうさまでした。」



黒猫はまいど的に一声鳴く。



「太郎さんも遅くならないようにね。」



太郎さんも一声鳴いて返事したけど

きっとうるさい帰れくらいの気がする。



家主もラーメン代も僕だぞ馬鹿猫!





暖簾を潜り屋台から出るとまた少し雪がちらついていた。



「あれ?」



ちらつく雪に桃色が混じっている。

空を見上げると先ほどまで枝だけだった桜が満開に咲き誇っている。



「もぅ狂い咲きなんてものじゃないねこれは。」







粉雪と桜舞い散る中僕は満腹の幸せを感じながら家路につくのだった。







でもあのラーメンほんとに食べても大丈夫だったんだろうか…












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