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6話 ケチャップのないオムライスなんてありえませんわ

「あ、それとワーズの街の大通りの再開発も頼むな、ウルスラ」

「な!?」

「街一番の通りなのに水はけが良くない。あれじゃこの領地の一番の街なんて言えないよ」

「まったく! なんでもかんでも押しつけて!」


 ハルトが次に放った言葉はウルスラを激怒させたが、彼女の事だからしっかりやるだろう。


「建物や内装が出来るまで時間があるね」

「ええ、その間にメニューや人員を充実させなくてはなりませんわ」

「メニューちょっと見せてくれる?」

「ええ」


 リリアンナはメニュー表をハルトに渡した。そこに書かれていたのは、パスタにハンバーグ、それからオムライス、パフェにドリンクメニューっだった。


「アルコールもあるのか」

「日本のメイドカフェにも大概ありますのよ」

「そうなんだ」

「ただ……このメニューにはやっぱり問題があります」

「わかった、パフェだろ。アイスを作る機械がないもんな」


 ハルトは自信満々にリリアンナに答えた。すると、リリアンナはふるふると首を振った。


「実はアイスを作る機械は前世を思い出しながらもう作ってあります」


 リリアンナは使用人に声をかけると、小ぶりな持ち手のついた筒を持ってこさせた。


「へぇ」

「氷の魔法陣をこのように配置して、塩を入れたらここの持ち手を回して作るんです」

「よくアイスクリームの作り方とか知ってたね」

「確か夏休みの宿題でやった気がしたのですわ」

「どこで何が役に立つか分からないな。に、しても手作りアイスのパフェか。贅沢だね」

「でも保存する所がないのですよね」

「あ、冷蔵庫なら前にウルスラに作ってもらったよ。遠征で保存食ばっかりなのにうんざりして」

「あらあら」


 パフェの問題はあらかた解消した。冷蔵庫があるなら仕込みも前日に出来ていいかもしれない、とリリアンナは思った。


「ハルト様はウルスラさんに色々作って貰ったのですね」

「ああ、アイツの錬成釜は大概のものを作れるからな。醤油やソースにカレーも作って貰った」

「カレー! それ、メニューに入れたいですわ」

「俺もカレー食べたいな」


 一瞬盛り上がった二人だが、リリアンナはふっと暗い顔になる。


「どうしたの、リリアンナ」

「でも……大事なものがないのです……」


 リリアンナの青い眼が涙に濡れる。ハルトはそれを見てぎょっとした。それ程までにリリアンナを落胆させるものとはなんだろう?


「リリアンナ、何が無いんだい……?」

「……ケチャップです」

「ケチャップ」


 思わずハルトはオウム返しをしてしまった。


「そうか、それじゃあウルスラの錬成釜で……」

「それは材料が無くてもなんでも作れるものなのでしょうか?」

「あ、いや……さすがにそれは無理かな」

「私、なんとかケチャップを自作しようと使用人を市場に走らせました。でも……だれもトマトを見つける事が出来なかったのです」


 リリアンナはハンカチを取りだして、溢れる涙を拭った。


「ソースならあるんだけど、それじゃ駄目かい?」

「ハルト様、ソース味のオムライスで満足できますか?」

「いやー、うーん?」

「それにですね! メイドカフェにおけるオムライスとは! お絵かきでご主人様お嬢様とのコミュニケーションを図る大事なメニューなのですよ! それに! ソースって!」


 確かにそれではお好み焼きみたいだ、とハルトは思った。さて、どうしたものか……と思った時、現れたのはやはりウルスラだった。


「まーったく、泣いたりわめいたり忙しい奥様ね!」

「ウルスラ! ……お前トマトを知っているのか?」

「知らないわよ!」


 ハルトは博識なウルスラならこの世界のトマトのありかを知っているのではないかと期待した。しかしそれはすぐに裏切られた。


「でもね、ハルト。あんた言ってたじゃない。この世界の作物は前にいた世界のものとほとんど同じだって」

「たしか、言ったな」

「だったらあるはずよ、この世どこかに……そのトマトってやつが!」


 ウルスラはそう言うと、ハルトにびしっっと指を突きつけた。


「なるほど」

「しかし、どこを探せばいいのでしょう」

「……ふっふっふ。私に心当たりがあるわ」

「まぁ、どこですの?」


 リリアンナが小首を傾げてウルスラに聞くと、ウルスラはふんと鼻を鳴らした。


「簡単に教えると思うー? まぁ、若く美しき大天才ウルスラ様って呼ぶなら教えてやっても……」

「若く美しきウルスラ様」

「早い!」


 食い気味に答えたリリアンナにウルスラはずっこけた。


「で、どこなんだよ。そこは」


 ハルトは二人のやりとりに呆れながら聞いた。


「忘れたの? あそこよ。ハイエルフの里の薬草園。あそこはあらゆる植物を育てているわ」

「ああ、なるほど……」

「あんたはあそこを魔王軍の放った火の海から救った。あんたのお願いならきっと聞いてくれるはずよ」

「そうか……さすがウルスラ」

「ふふん」


 ウルスラは鼻高々に腕を組んだ。さすが勇者チームの知恵袋である。


「それじゃあ……行こうか、リリアンナ。トマトを探す旅に!」

「わ、私もですの……?」

「ああ!!」


 ハルトはリリアンナに手を伸ばした。リリアンナは怖々と、その手を取ったのである。


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