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異世界でメイドカフェを開くためなら何でもします。だから勇者様、私と結婚してください!  作者: 高井うしお


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43話 夢の劇場建設ですわ

「やあ……これは、勇者ハルト様に奥方のリリアンナ様……お会い出来て光栄です」


 現れたのは恰幅の良い紳士であった。


「まず、お座りください」


 ハルトがソファーを進めると、コルビュジエ男爵は腰をかけ話しはじめた。


「魔王を討伐するだけでなく、領地を栄えさせるとは……勇者様はやり手とお見受けしております」

「いえ、この領地の経営については妻のリリアンナの功績です」

「さようですか……」


 コルビュジエ男爵の視線がリリアンナに向いた。出しゃばりな妻とでも思われただろうか、そうリリアンナは身構えたが、男爵はリリアンナに微笑みかけた。


「それは頼もしい奥様をお持ちだ。……いや、なに。私も貴族の身で金儲けなどけしからんなどという羽虫に悩まされておりましてな。女性の立場ならなおさら苦労があったでしょう」

「そんな……苦労なんて」


 リリアンナはそう答えた。そしてそれは謙遜などではなく本心だった。そうした外野の声が気にならないほどハルトがこれまで手助けしてくれていたからだ。


「この度、伺ったのは手紙にも記しました通り、劇場の建設をこのワーズで行いたいという事です」

「ええ。なぜですの」

「理由は二つ。私の計画する劇場の用地を王都では確保できないのと、ここワーズが新しい芸術の都市として発展してきているからです。私は是非、その歴史に加えさせて貰いたいと思います」

「男爵の計画はそんな大がかりなものですの?」


 リリアンナは芝居小屋くらいのものを想像していたので驚いた。男爵はぴしゃりと額をはたいてリリアンナに答えた。


「これはいけない。これが劇場建設の企画の概要です」


 コルビュジエ男爵は書類と見取り図を広げた。その規模はちょっとした屋敷ほどで、収容人数はなんと1000人。


「まぁ……なんて……」

「王都の劇団3つに今話をつけております。人気役者を揃え、魔法を使った演出に、そして……この街で作られている本を原作とした脚本。必ず上手く行くと確信しております」


 男爵は少し興奮気味に熱弁した。


「もし、この劇場が出来たら王都からのお客様ももっと増えますわね」

「ええ。大型の乗り合い馬車の路線もついでに増やしたいところですな」

「……どうだい、リリアンナ」

「良いと思いますわハルト様。これだけキチンとした計画ならば」


 コルビュジエ男爵はすっと立ち上がると、リリアンナに向かって握手を求めた。


「よろしくお願いします、ミセス・サトウ」

「はい。こちらこそ」


 こうしてワーズの街の外れに新しい劇場の建設がはじまった。急ピッチで建設されていく劇場は街の噂になっていった。

 それは木製の360度舞台が見渡せる造りで、四方八方に光石が仕込まれて夜での営業も可能なもの。

 合わせて泊まり客を見込んで空き家を宿に改装する者も出来てきた。皆が劇場の完成を心待ちにしていた。


「……私の作品が劇になるのですか」


 めろでぃたいむのカウンターで呆然としているのはミゲルである。メイドカフェの似顔絵描きとして働いていた彼は今や人気作家の一人として独り立ちしていた。

 今日はリリアンナに呼び出されてお客としてやってきたのである。突然のリリアンナの言葉にミゲルはぽかんとしてしまった。


「ええ、今劇場を建設しているのは知っているでしょう?」

「はい、それはもう」

「そこのこけら落としに『勇者と剣』の舞台化を考えているのよ」

「私が……」


 ミゲルは思わず泣きそうになった。田舎から絵描きを志して王都を目指し、工房で何度も門前払いをくらっていた自分が……。


「私も劇になった自分の作品が見たいです……!」

「そう、なら決まりね」


 リリアンナが一番人気のマチルダの作品ではなくミゲルの作品を選んだのには訳があった。最初期に作られたミゲルの作品は王都でも広く流通している。王道のストーリーも万人向けする。劇場のこけら落としの作品にふさわしいとリリアンナは判断したのだ。


「リリアンナ様」

「なにかしらミゲル」

「できれば舞台化の脚本に、少し携わらせて貰えませんでしょうか」

「あら、やる気まんまんね」

「あれを描いた時には私はほとんど絵のことばかり考えてましたから……」


 リリアンナはミゲルの作家としての成長を頼もしく思った。


「いいわ、頼んでみるわ。ワーズの街を代表する作家としての腕を見せてちょうだい」


 エンターテイメント都市として歩みを進めるモンブロアのワーズの街。活気に溢れるその街の片隅に……とある人影があった。


「あ痛っ! こら気をつけろ!」

「……」


 その男は通りをふらふらと歩き、人にぶつかっても気にする様子もなかった。


「ここ……ここから……」


 その男が足を止めたのはめろでぃたいむの前である。黒いコートに顔が隠れるほど伸びた髪。男の表情は読めない。


「感じる……」


 男はそう呟くと、めろでぃたいむの扉を開いたのだった。


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