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異世界でメイドカフェを開くためなら何でもします。だから勇者様、私と結婚してください!  作者: 高井うしお


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31話 女流漫画家、マチルダの活躍ですのよ

 ワーズの街にやってきたマチルダはきょろきょろと周りを見回している。その様子を見たリリアンナは苦笑しながらマチルダに聞いた。


「王都に比べたらささやかな街じゃなくって?」

「はいっ。あっ、そんな……」

「よくてよ。本当の事ですもの。でもいずれ王都に負けない都市になりますわ。マチルダ……あなたの働きがその一助になるのですわ」

「私の……」


 マチルダはごくりと唾を飲み込んだ。今は店屋が数件立ち並ぶだけのこの街が王都に匹敵する規模になるだなんて、マチルダにはにわかに信じがたかった。


「都市は生き物ですわ……それを造っていくのは人間ですもの。不思議な話じゃないわ」

「はぁ……私は絵を描ければそれで……」


 そうしてマチルダはリリアンナの支援の元、漫画制作をはじめた。はじめは人気の冒険活劇を真似して出版した。それは確かな画力でそこそこの人気を得た。


「マチルダ、あなたの本は今月の売り上げ3位でしてよ。新人としては異例ですわ」

「でも1位じゃないんですよね」


 そこからマチルダの負けず嫌いが火を噴いた。彼女は何冊もの漫画や小説を読み込んだ。これまで絵だけを描いてきた彼女に足りないストーリーを作り出す力を、マチルダは本能的に感じたのだ。

 そうして描かれた漫画のジャンルは冒険物だけではなく、コメディや、シリアスな人間ドラマもあり、細やかな心理描写が評判を呼んだ。


「マチルダの新刊でたよー!」


 りずむめいとの店員がそう告知すると、それらは飛ぶように売れた。中には女の描いたものだと倦厭するするものも居たが、それを覆す勢いでそれらは人気になった。


「マチルダ先生!」

「うわっ」


 そんな状況の中、自室のアトリエでせっせと続編を描いていたマチルダは急に声をかけられて驚いた。振り向くとそこには笑顔のリリアンナが立っていた。


「先生だなんて……」

「うふふ、いまや大人気の女流漫画家マチルダ先生ですもの」

「今日はどうしたんですか? 何か新刊に問題でも?」

「実はりずむめいとの営業終了後に打ち合わせがありますの。良かったら一緒に行かないかと思いまして」

「りずむめいとにですか」


 リリアンナは頷いた。


「そう、自分の本が並べられてる所をちゃんと見たことがなかったんじゃなくて?」

「そうですね……わかりました。行きます」


 リリアンナとマチルダは連れだってりずむめいとに向かった。


「ああ、お待ちしてましたよリリアンナ様……と、どなたですか?」


 リリアンナの後ろに控えているマチルダを見て、ラディ店長は首を傾げた。


「ふふ、ラディ。この方は今大人気の漫画家、マチルダ先生よ」

「えっ!」


 ラディはパッと顔をほころばせるとマチルダの手を強く掴んだ。


「いやあ、お会い出来て光栄です。僕も読んでます! 大ファンです!」

「あああ、ありがとうございます」


 マチルダは人懐っこい笑顔のラディに、面くらいながらなんとか返事をした。


「そうだ、折角だからサイン本を作って貰ったらどうですの」

「それはいい。これとこれにお願いします」

「ええ? サイン?」


 いきなりサインと言われて冷や汗をかきながらマチルダはサイン本を作る。その横でラディとリリアンナは二店舗目の出店計画を話し合っていた。


「真横に作っても意味ない気がしますね。それならば扱う本の種類を変えるとか……」

「なるほどね。そのうち三店舗目も計画するつもりですの」

「今の勢いならいけそうな気がしますね」


 ラディはいかに在庫を切らさないように工夫をしているとか、自分でも中身をチェックしておすすめの本をどう売るかしていると語り、リリアンナはその働きぶりに感心しながら頷いていた。


「ありがとう、ラディ。あなたのような人が居てくれて嬉しいわ」

「元々、本が好きですからね! これは天職だと思ってます」


 ラディは胸を張った。その後ろからマチルダがおずおずと声をかけた。


「あの、サイン本できました」

「ああ! ありがとうございます。それと……この一冊もいいですか」

「え?」

「……僕の私物です。へへへ……」


 ラディは頭をかきながらマチルダの本を差し出した。マチルダは真っ赤になってその本にサインをした。


「それじゃあ遅くまでありがとうね」

「リリアンナ様もお気を付けて帰ってくださいね」


 打ち合わせを終えたリリアンナとマチルダはりずむめいとを後にする。


「どうでした?」

「なんか、感動でした……。あんなに並んでるとは思ってなかったし、店長さんも……あんな笑顔で」

「本を買ったお客様も笑顔にしているのですわ」

「そっ、そうですよね!」


 この事はマチルダのモチベーション向上に多いに役に立ったようである。精力的に新作を発表する中で、ある日マチルダはリリアンナにこんな相談をした。


「リリアンナ様。私、どうしても描きたいものがあるんです」

「まぁ、どんな?」

「……恋を描きたいんです。美しいお姫様と王子様の物語……」

「王子ね……」


 実際の王子はそんな良い物ではないけど、と思いながらリリアンナはこれは少女漫画だ。と思った。


「分かりました。あなたの思うように描いてちょうだい。売るのはこちらにまかせてくださいまし」


 リリアンナは胸を張った。マチルダは力強く頷くと、早速筆をとった。


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