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異世界でメイドカフェを開くためなら何でもします。だから勇者様、私と結婚してください!  作者: 高井うしお


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29話 ちょっと一騒動ですのよ

「新刊でたよー! 『どくろ蛇と勇者』の新刊だよー」


 ベルを鳴らして『りずむめいと』の店員が客を呼び込んでいる。通りかかった男二人は足を止めた。


「あっ、買っていこう」

「俺はそれはあんま好きじゃないな。こう絵が恐ろしくてよ」

「このリアルさがいいんじゃないか」


 男は本を買いながら答えた。もう一人の男は別の本を手にとり、男に言い返す。


「俺はこの『ちび猫さんのお散歩日記』みたいのが好きなんだよ」

「それは来週新刊が出るよ」

「本当かっ、来週だな」


 リリアンナが思いつきで始めた出版事業とその販売だが、娯楽の少ない世界ではなかなかうまく行っていた。王都で類似の店が出たり、模造品が出回ったりしているとも聞いているが、内容や価格で『りずむめいと』のものには及ばないようである。


「うはうはだわ~」


 経理担当のウルスラは今月の売り上げをみてニヤニヤしている。


「着実に『萌え』が定着してますわ、この世界に」


 実務担当のリリアンナもまたニヤニヤしていた。


「君たち、順調なのは分かったけれどちゃんと休みの日は休めよ」


 ハルトはそんな二人を見て苦言を呈した。


「あら、キチンと休んでますわ。それに今が正念場なのですもの」

「なら良いんだけど……」

「……うっ」

「リリアンナ!?」


 その時、リリアンナが口を押さえて蹲った。


「大丈夫かっ!?」

「ちょっと眩暈と吐き気が……」

「すぐに医者を呼ぶ!」


 その時、ウルスラがハヤトの肩をちょんちょんと突いた。


「なんだよウルスラ」

「もしかしてコレなんじゃないの」


 そう言ってウルスラはお腹をさすった。


「お腹痛いのか?」

「馬鹿! 妊娠してるんじゃないかって言っているのよ」

「ええっ!?」


 それを聞いたハルトは固まってしまった。ウルスラはちょっと心配になって小声でハルトに聞く。


「ちなみに……身に覚えは?」

「あり、ます」

「良かった。とりあえず医者を呼びましょ。ハルトはリリアンナを寝室に寝かせて」

「あ、ああ……」


 ハルトはそっと壊れ物に触るようにリリアンナを抱き上げるとベッドに寝かせた。


「リリアンナ、よくやった。今お医者が来るから」

「ハルト様……」


しばらくしてウルスラが医者を呼んできたので、二人はそわそわしながら居間で待機していた。


「ちょっと落ち着きなさいよ」

「これが落ち着いていられるか!」

「しっかりしなさい。パパになるんでしょ」

「パ……! パパ!」


 ハルトはまたもフリーズした。


「なによ、うれしくないの?」

「そんな訳あるか! いやでも心の準備が……」


 ハルトがそうごにょごにょ言っていると医者がやってきた。


「あっ、どうでした?」

「その……残念ながら……」

「えっ!? 何か悪い病気ですか? 大変だ、ミケーレを呼ばなくちゃ!」

「妊娠ではありませんでした」

「ふぁっ!?」


 ハルトは膝から崩れ落ちた。その様子に医者は申し訳なさそうに付け加えた。


「ただの夏バテです。安静にしていてください」

「そうですか……」


 医者はそう言うと、そそくさと帰っていった。


「残念だったわね」

「ウルスラ! 元はと言えばお前が……」

「ふん。それよりリリアンナの所に行ってあげたら」

「そうだ!」


 ハルトは階段を駆け上がり、リリアンナの元に走った。


「ごめんなさい。妊娠ではなかったみたい」

「いいよいいよ。それよりしっかり休めよ」

「こんな時に……自分が情けないですわ」

「今までが忙しすぎたんだ。俺ももっと手伝うから」


 ハルトはリリアンナの手をそっと握った。


「そうね、そうしないと……」


 そう言ってリリアンナはそっと微笑む。


「本当に家族が増えた時に大変ですものね」

「……ああ!!」

「私、ちょっとうれしかったんですの。ハルト様が喜んでくれて」


 弱々しく微笑むリリアンナ。それを見たハルトは愛おしさがこみ上げてくるのを感じた。


「喜ばない訳がないだろ。俺とリリアンナの子供だよ」

「うふふ」

「さ、ちょっと眠った方がいい」


 ハルトはリリアンナにそう言うと、寝室を後にした。


「ウルスラ! 売り上げ表を見せてみろ!」

「はぁ!? 何急にやる気出してるのよ。あんたが見ても分からないわよ」


 ウルスラは至極迷惑そうに月の決算書に多い被さった。


「やってみなきゃわかんないだろ!」


 そんな騒がしい居間の片隅で、涙を堪えながらたたずむものが居た。エドモンドである。


「エドモンドはまだ諦めませんぞ……奥様にもっと滋養のあるものを召し上がって頂かなくては……!」


 そう呟いてそっと彼は厨房に指示を出しに向かった。


「……わからん!」

「だから言ったでしょ! この脳筋!」


 ちなみに決算書を見たハルトは五分でギブアップしていた。


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