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1話 あなたはスポンサーなのですわ

「勇者様、あなたは勘違いしてらっしゃる」

「は、はぁ……」

「私はあなたに利益をもたらそうとしているのです」

「メイドカフェで……?」

「そう、メイドカフェで!!」


 リリアンナはきりりとした表情でどこからか眼鏡を取り出して装着し、きっぱりと言い切った。


「でも、ここ異世界だよ!? 秋葉原じゃないんだよ!」

「萌えの心は世界を超えるのです! 私はそれを証明して見せますわ。きっと、同じ日本から来たあなたになら! 分かるでしょう、メイドカフェの良さが!」

「……え、行った事ないけど……俺、高校生の時に転移したし、出身は富山やちゃ」

「なんて事!」


 ふらり、とリリアンナは額に手をやった。


「では、『めいどりあん』も知らないと!?」

「知らない」

「あの超人気地下アイドル、『めいどりあん』ですよ」

「地下アイドルならなおさら知らないよ!」

「うらるたんも……? 健康水うららかのCMにも出ていた兼作(かねさく)うらるですよ!」

「そんなん知らんちゃぁ!!」


 リリアンナに胸ぐらを掴まれたハルトは叫んだ。なんだ、この女は……。


「お父様にも、かつての婚約者の王子にも理解はされませんでした。でも、転移した勇者様なら分かってくれると思ったのに……」


 はらはらとリリアンナの目から涙がこぼれた。それを見てハルトはちょっとかわいそうかな、と思ってしまった。


「その、知らないけどメイドカフェとかアイドルって概念は知ってるし……そんな泣かないでくれよ」

「うっ、うっ、うっ。でも『めいどりあん』の素晴らしさを理解して貰えないのは悲しいです……」

「そんなに好きだったんだね」

「はい……ガチヲタでした……集めたグッズもいまや遠い時空の向こう……」

「そっか……」


 ハルトはちょっと同情した。その気持ちはハルトにも分かるのだ。読みかけの漫画もラノベもみんな置いて、ハルトはこの世界にやってきた。


「これを見てください……」

「ん?」


 リリアンナは持って来たポシェットから携帯用の絵入れを取りだした。


「この中央がうらるたん……メインボーカルです。それから万丈千鶴にゆきみかん、双葉きららとメ石嶋メロ……」

「どうしたのこれ……」


 それはメイド服に身を包んだ女の子達の絵だった。


「宮廷の絵師に描いて貰いました」

「まじかよ……」

「とにかく、『めいどりあん』のような女の子のかわいいを詰め込んだメイドカフェの経営を経営するために前世の私は働きづめだったのです」

「自分で働こうとか思わなかったの?」

「……前世の私には……そんな資格はありませんでした……可愛らしく、ふりふりのメイド服を着る権利は無かったのです……」


 また、リリアンナの目からは涙がこぼれ落ちた。忙しいなーとハルトはそれを見て思った。


「それでは、まず勇者様に『めいどりあん』の良さを知って貰いましょう!」

「えっ」

「楽団の皆さん! こちらへ!」


 パンパン! とリリアンナが手を叩くと、楽器を持った人達がぞろぞろと入ってきた。


「えっ、えっ、この人らなんね!?」

「それでは聞いて下さい。『キミオモイスイッチ』」

「はい!?」


 呆けているハルトを余所に、高らかにイントロがはじまった。すると、リリアンナは腰に手をやった。バッっとスカートを剥ぐと、その下はマイクロミニのフレアスカートにニーソックス。そして露わになる絶対領域! 


『オンとオフのサカイメに キミの笑顔 私のスイッチを押せるのはキミだけだよ

 いつも通り過ぎるだけなの でも見てるだけじゃツマラナイ よくばりな私だね

 私のスイッチ♡ 押してよキミが 大好きだよ(大好き) 大好きだよ(大好き) 大好きだから こっち(あっち) こっち(そっち) 来てよダーリン♪』 


 リリアンナは歌い踊った。ハルトは思わず手拍子を打っていた。


「……ありがとうございました!!」

「おおーっ」


 ハルトは圧巻のパフォーマンスを前に拍手をした。リリアンナのダンスはキレッキレであった。


「ちょっと間違えちゃいました」

「え、ぜんぜん分かんなかったよ」

「そうですかー?」


 えへへ、と笑うリリアンナには先程までの冷たい印象は無かった。


「いつもそうしてればいいのに」

「えっ」

「あっ、いやその……かわいかったです。はい」


 ハルトがそう言うと、リリアンナはポッと頬を赤らめた。


「でしょう! 『めいどりあん』のかわいさ! 分かって貰えましたか!?」

「……うん、まあ」


 そういう意味じゃないんだよなーっとハルトは思ったが、リリアンナの勢いに負けてついコクコクと頷いてしまった。


「この『萌え』を! 私はこの世界に広めて見せます!」


 ハルトの様子を見て、リリアンナはますます高らかにそう宣言したのだ。


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