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異世界でメイドカフェを開くためなら何でもします。だから勇者様、私と結婚してください!  作者: 高井うしお


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16話 猫耳メイドにゃのですわ

「わぁ、結構広いんだね」

「まだテーブルも入ってませんもの」


 この日、リリアンナとハルトはワーズの街の大通り、メイドカフェ開業の予定地に来ていた。大通りの水はけもウルスラのおかげで改善されて、以前より人通りも多くなった気がする。


「それにしても壁はピンクと白のストライプか……」

「かわいいでしょう?」

「かわいいけどさ、主要な客は男性客なんだろう? ちょっと入りにくくないか?」

「それは関係ありません。メイドカフェの内装はメイドさんの額縁のようなものですから」


 リリアンナはそう言いながら店の中央に立った。今日のリリアンナの装いは、薄いブルーの外出用ドレスで、ピンクの内装の中にいるとまるでお菓子のようだった。


「かわいいよ」

「そう! お客は全身をかわいいで包まれるのです! それが私の理想とするメイドカフェなのですわ」

「いや、そうじゃなくって……」


 またしてもハルトの愛の囁きはリリアンナに届かなかったようである。


「こちらにフカフカのソファー席、こっちはメイドさんと話しやすいカウンター席」


 リリアンナはまるで子供のようにまだ何もない店の中を歩き回った。


「改築も順調に進んでいて良かったな」

「ええ」


 現地視察を終えて、リリアンナとハルトが馬車に乗り込もうとした時だった。


「まてっ泥棒! そいつを捕まえてくれ!」

「何?」


 叫び声に釣られてハルトは勇者の力を発揮して、脇を駆け抜けた人物を捕まえた。


「はなせー!」

「おやおや……」


 それはパンを抱えた獣人の子供だった。


「この薄汚い獣人が……」

「パンなら俺が買い取るから勘弁してやってくれ」


 ハルトはぷんぷん怒っているパン屋の親父に金貨を握らせると、捕まえていた獣人の子供を放した。


「パン泥棒なんてするなよ」

「だって……お腹が空いたんだもの……」

「獣人だったらいくらでも仕事があるだろう?」


 この世界には人間に似たエルフや獣人といった種族がある。獣人は少々物事の理解力に乏しいが身体能力が高く、護衛や建築現場などで主に活躍していた。


「あたい……ハーフだもん……そんなに力も無いし……」


 どうやらこの獣人は獣人の悪い所ばかり受け継いでしまったようである。今まで盗みで食いつないできたのか、ひどく痩せていて体も小さい。


「あなた、いくつですの?」


 リリアンナはその獣人を怯えさせないように優しく聞いた。


「……十五」

「お名前は?」

「死に損ない」

「……え?」

「あたいみたいのはすぐ死ぬだろうって」

「まあ……」


 リリアンナはハルトを見上げた。ハルトはリリアンナが次に言うだろうという言葉を察知して、こくりと頷いた。


「この子をうちに連れて帰ろう」

「ええ。それから名前を……」

「そうだな、その子は猫の獣人みたいだから……タマ」

「それはあんまりですわ」


 リリアンナはハルトの提案にぷうとむくれた。


「じゃあ、うちで飼っていた猫の名前をあげるわ。モモっていうのよ」

「モモ……」


 そうしてリリアンナとハルトはモモを連れて領主館に戻った。


「お帰りなさいませ、ご主人様」

「ああ、エドモンド。この子を風呂に入れて着替えさせてくれ」


 エドモンドは内心の動揺を抑えながら、かしこまりましたと答えた。どうしてこの夫婦は街に行くたびに何かやらかしてくるのだろうと思いながら。




「まぁ、可愛らしい!」

「あたい……こんな立派な服着たことない」


 風呂に入れられ、メイド候補生のピンクのワンピースに着替えさせられたモモ。少し服が大きいようだったが見違えるように可愛らしくなった。


「ねぇ、モモ。今度、私達お店を開くんだけど良かったらそこで働かない?」

「寮もまかないもあるぞ」

「え、いいんですか?」


 モモは驚いた顔をしてリリアンナを見上げた。


「ええ、ただし条件があるの……」

「なんでしょう」

「語尾に『にゃ』をつけて欲しいの」

「にゃ……?」


 モモはしばらく固まった。リリアンナはにこにこしながら続けた。


「天然の猫耳メイドなんて予想外の掘り出し物ですわ。さぁ、返事をしてちょうだい」

「わ、わかったにゃ」

「うん、かわいい!」


 その様子をイルマ達メイド候補生たちは物陰に隠れながら覗いていた。


「ああ、新たな生け贄が……」

「あたし達は語尾までは決められねーで良かったな」

「「そうだね!」」


 こうしてメイド候補生に新たなメンバーが加わった。イルマはちょっと心配してモモに聞いた。


「モモ、その……語尾は無理しなくてもいいのよ? なんなら奥様に私が……」

「大丈夫にゃ、おいしいご飯の為なら語尾くらいいいのにゃ」

「でも……」

「それに、奥様はモモを『かわいい』って言ってくれたにゃ。モモはそんなの初めてだったのにゃ……」


 イルマは健気なモモを思わず抱きしめた。


「モモ、一緒に頑張りましょうね!」

「はいにゃ!」


 その姿をじっと見ていたクリスティーナがぼそっと呟いた。


「なんかイルマ、ちょっと塾長に似てきてないか」



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