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異世界でメイドカフェを開くためなら何でもします。だから勇者様、私と結婚してください!  作者: 高井うしお


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13話 お帰りなさいませ、なのですわ

「ふふふふーん」

「奥様、お茶のお代わりは」

「いただくわ」


 朝からリリアンナはご機嫌である。理由は明白。教育すべきメイドさんがこの屋敷に来たからだ。


「さて……何から教えようかしら。やっぱりご挨拶よね、ハルト様」

「そうだね」


 ここからは手探りである。前提知識のない彼女達をどうメイドさんにまで育てることができるのか……。


「彼女たちはもう起きてるよね」

「はい、ご主人様。朝食もすでに」

「キチンと野菜と肉を中心に食べさせてちょうだい。顔色が悪ければ話になりませんもの」


 リリアンナはナプキンで口元を拭きながらエドモンドに言い加えた。


「それじゃあ、あの子達の所に行こう」


 そう言ってハルト達は屋敷の隅の部屋、メイド達の寮にしてある部屋のドアをあけた。


「あっ!」

「あ?」


 するとそこには驚くべき光景が広がっていた。女の子達は立て膝でカードを切っていたのである。当然おパンツも丸見えである。


「なんだ、開けるならノックだろ」


 不機嫌そうに立ち上がったのは金髪のクリスティーナだった。


「あ、あなたたちなにやってるんです……」

「賭けカードだよ。ヒマだったからさ」

「賭け……」

「もーう、クリスティーナ強い! あたし達すかんぴんだよぉ」


 そうわめいたのは双子のミッキとフィー。リリアンナの手がわなわなと震える。


「あ、リリアンナ。賭けっていってもほらお金じゃなくてボタンでやってるみたいだし……」

「いけませーーーーん!! メイドさんが賭け事なんてもってのほかです!」


 メイドさんの部屋にリリアンナの怒声が響き渡った。


「あなた達はもっとも身近なアイドルになるのです。そんな賭けカードで自分達の品性をおとしめてはいけません!」

「はい……」

「でもさぁ、こんな短いスカートはいて品性もなにもないと思うぜ」


 クリスティーナが面倒臭そうに答えた。


「あれだろ、このスカートで中身をチラチラすればスケベ親父が店に通うだろって魂胆なんだろ? あだっ」


 そう言ったクリスティーナの手をリリアンナの乗馬鞭がかすめた。


「そのような心持ちではあなたの元にはスケベ親父しか来ないでしょうね」

「む……」

「いいですか、皆さんのミニスカートは『かわいい』の象徴です。みなさんのかわいいを表現する為のものなのですよ。だから決しておパンツが見えるような事はあってはなりません」

「かわいい……?」

「クリスティーナ! そんな奥様……塾長に刃向かうようなことばかり言ってはだめよ!」


 年長のイルマがクリスティーナを止めた。しかし、リリアンナは微笑みながら女の子達を前にして言った。


「いいえ、そのツンツンした所も、あなたの『かわいい』です。良い方向に伸ばしていきましょう」

「はあ?」


 クリスティーナは首を傾げた。もちろんイルマも。


「例えばイルマ、あなたはそうね……みんなより落ち着いているし、お姉さんキャラ。他のメイドがぽかをしたら優しくしかる」


 くるり、とリリアンナは方向を変えた。


「今度はセシル。背が低いから妹っぽく見られがちだけど、本当はちゃんとレディとして扱って欲しい。それからミッキとフィーは双子っていうのは強いわね。自由きままな猫ちゃん、ってところかしら」


 ふふふ、と微笑むとリリアンナは女の子達を見回した。


「例えばこんな風に自分の『かわいい』を磨いて欲しいの。私の店で売るのは性ではなく『かわいい』なのですわ」


 そう言って、リリアンナはクリスティーナの元に跪いた。


「だから、自分を大切にして頂戴。いままで辛かったでしょうけど、ここにあなたを傷つける人はいないのよ」

「……塾長……」


 冷たい目つきをしていたクリスティーナの表情が和らいだ。ハルトはその人心掌握の術を舌を巻いてただ見ているだけだった。


「それじゃあ、今日は基本の基本。お客様が入ってきた時の挨拶の練習をしましょう」

「はい!」

「良い返事です」


 リリアンナはヒュッと音を鳴らして、乗馬鞭をふるった。


「ここからお客様が来たとします。そしたら『お帰りなさいませ、ご主人様』といいましょう。では、はい」

「お帰りなさいませ、ご主人様」

「声が小さい!」


 すると、イルマがそっと手を挙げた。


「なんでしょう」

「どうしていらっしゃいませではなくお帰りなさいなのですか?」

「良い質問です。私の店では、お客様は自分の屋敷に『帰宅』する、そしてあなたたちメイドのお給仕で癒やされる、というコンセプトなのですわ」


 へえ……と、女の子達は頷いた。この辺はおいおい体感して貰わないと分からないだろうな、とハルトは思った。そしてご挨拶の練習はなおも続く。


「お帰りなさいませ、ご主人様!」

「にっこり笑顔で!」

「お帰りなさいませ、ご主人様!」

「もっとかわいく!」

「お帰りなさいませ、ご主人様♡」


 リリアンナは乗馬鞭を取り落とすと、がむしゃらに拍手をし始めた。


「いいでしょう、素晴らしい、マーベラス!」

「はぁはぁはぁ……」


 女の子……メイド候補生達は息を切らせている。


「バテてる場合ではありませんよ。では、ここで問題です。さぁ女性のお客様が入ってきました。なんと言ってお迎えすれば良いでしょう」

「えーと、お帰りなさいませ、奥様……?」

「独身かもしれませんよ? メイドカフェではいかなる年齢の女性もすべてお嬢様、と呼称します。それでは私に続いて! お帰りなさいませ、お嬢様!」

「お帰りなさいませ、お嬢様!」


 その日、長いことお迎えのご挨拶をする声がハルトの屋敷には響き渡っていた。


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