【DEATHTOPIA・EDEN Ⅰ】
声劇タイトルは
【デストピア・エデン ワン】と読みます。
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♂3:♀0:不問2
笑えない少年 ♂ セリフ数:19
酒癖の悪い男 ♂ セリフ数:24
クールな男 ♂ セリフ数:8
塔の管理人 不問 セリフ数:7
ナレーション 不問 セリフ数:17
[あらすじ]《12分半程度》
人間が残り少なくなった時代。宇宙から飛来してきた生命体は、人間撲滅を目標に地球を駆け回っていた。…これは、そんな生命体に果敢に挑む戦士達の物語である―――。
【笑えない少年】
(薄暗い路地を一人で走っている)
はぁ、はぁ……ン、はぁ……っ!
笑えないよ、こんな世界…。
笑えるかよ、はぁ……こんな世界……!
【ナレーション】
走りながら恨み言を地面にぶつける少年は、ヒトともイキモノとも言えない生命体に追われていた。
少年の家族はもう居ない。
あの生命体に殺されたからだ。
少年は自分も殺されると思った。だからこそ、家族の遺体にすり寄ることも許されぬまま、家を飛び出して走り出したのだ。
【笑えない少年】
はぁはぁ、…はぁ、はぁ……っはぁ、
(走り疲れてその場に座り込んで空を見上げる)
笑って、死ねたら……幸せ、なのに…
【ナレーション】
走り疲れて座り込んでしまった少年は、皮肉にも綺麗に輝く星空に歯を食いしばった。笑えない。笑えないのだ。
絶望的な状況にヒトが陥ると自然と馬鹿のような笑いが込み上げてくるのだと、少年は漫画や小説でよく目にしたはずだ。自分の記憶を探って、やがて諦める。
座り込んだまま荒い息を零す少年の後ろからは、あの生命体がジリジリと近寄ってきていた。
少年はもうとっくに疲れ果てていて、なのにどうしてか笑えない。だからこそ笑って死ねたら、なんて願望を口にして、襲ってくるであろう苦しみに目を閉じた。
【酒癖の悪い男】
ちっとその夢、変更出来ねェか?
【笑えない少年】
え?
【ナレーション】
聞こえてきた明るい声に、少年が目を開けた時。彼の後ろにいた生命体は、気色の悪い鳴き声を上げて死んでいく所だった。
少年は、生命体から滲み出る血液らしい液体にうぇ、という声を出して立ち上がった。
【酒癖の悪い男】
よぉ、怪我してねェか。坊主。
【ナレーション】
無精髭を生やした酒臭い男が、見たことも無い武器を持って立っていた。見た目は槍のようなものだが、その先端は青白く光っていて、とても綺麗だった。
【笑えない少年】
た、助けてくれて…ありがとう、ございます…
【ナレーション】
酒臭かろうが、胡散臭かろうが、自分がこの男に助けて貰ったのは事実だと慌てて頭を下げた。その様子に、男はニヤリと満足そうにする。
【酒癖の悪い男】
礼の出来るガキは好みだ。
こんな世の中だ、どうせ家族も居ねェんだろ? 俺と一緒に来るか?
【笑えない少年】
……えっ、と…小さい男の子が好き……?
【酒癖の悪い男】
何でそうなるんだよっ…!
【ナレーション】
少年は男の『礼の出来るガキは――』の発言に、少し後退り、両手で自分の体を包み込んだ。
その態度に、男はどこでそんな知識を得たんだとでも言うように叫び、それから少しして微笑んだ。
【酒癖の悪い男】
まぁいい。こんなトコに居たって生命体に食い殺されるか、八つ裂きにされるかオモチャにされるな。
【笑えない少年】
つまり?
【酒癖の悪い男】
死ぬ。お前の家族も同じだろ。
押し問答を続ける気は無い。最後の問いかけだ、死ぬか?
【ナレーション】
男の問いに少年は、しかし首を振った。
生命体に襲われた時の絶望感は、もうあまり無かった。
【笑えない少年】
残念だけど、ボクの寿命、70歳なんだよね。
【酒癖の悪い男】
そりゃご長寿で結構。
ほら、行くぞ坊主。
【笑えない少年】
僕は坊主じゃ……!
【ナレーション】
坊主と呼ばれた少年は男に苦情を言う為に彼を見上げたがその口を慌てて閉じた。
男が険しい目をして路地の先を見つめていたからだ。
路地の先、大通りらしいそこでは先程少年に襲いかかった生命体に似たものがたくさん闊歩していた。
【笑えない少年】
な、何…これ…。
【酒癖の悪い男】
……。生命体はヒトよりも遥かに高い技術で生きている。仲間内で通信したりも日常茶飯事。俺がさっき殴り殺した生命体から異常な通信でも察知したんだろ。この路地から無闇に出れば…………分かるな?
【笑えない少年】
それ、笑えないね。
【酒癖の悪い男】
ああ、最高の状況だ。
【ナレーション】
巫山戯た口調でそう言う男に少年は嫌な予感がしてその袖を少し掴む。
居なくなりそうだったのだ。死んでいきそうだったのだ。
会って数分。だけれどもうこの世界に生きている人間など両手で数えても余るかもしれないのだ。
ここで自分が男に庇われても自分に戦う力はない。助けられた命を無駄に散らすしかないのだ。
不安そうな少年に男は不安を吹き飛ばすように笑った。
【酒癖の悪い男】
心配すんな、坊主。
俺だって無謀がどういう意味か知ってるし、どういう行為かも知ってる。
それをわざわざこんな危機的状況で試すほど愉快犯でもない。
どうだ、坊主。俺の強運に命預けてみないか。
【笑えない少年】
……いいよ、僕一人が助かっても。きっと、すぐに死んじゃうから。
それに、……死ぬなら。笑ってるアナタとがいい。
【酒癖の悪い男】
…………、お前、大物になるぞ。
【ナレーション】
少年の答に乾いた笑いが出た男は段々それを大笑いに変えた。
そうして男は武器を出した。
だけれどそれは生命体の為に使われるものでは無い。
【笑えない少年】
どうするの。
【酒癖の悪い男】
実は武器、愛用してるやつじゃねぇんだ。戦友の形見なんだがな? もうほとんど機能しないってんで持ってきたんだよ。
戦友は最期…半狂乱になって自害しちまったけど戦友の武器は最期まで役に立ちそうだな。
【ナレーション】
惨い事を平気な顔して言う男に少年は少し呆れた顔をする。こんな世界になってしまったと言えど、今まで家族と暮らしてこれた少年にとって『生命体と戦う』というのはあまりに危険なことなのだと再確認も出来たけれど。
【笑えない少年】
ねえ、おじさん。死ぬ時は一緒でお願いね。
【酒癖の悪い男】
ハッ、俺は一度助けた命を簡単に散らすほど無能じゃねェよ。
【ナレーション】
男はそう言ってまた笑うと少年が何かを言う前に彼を担ぎ上げて手に持っていた武器を思い切り大通りへぶん投げた。
案の定、反応した生命体達が武器に寄っていく隙に男は大通りの端を通ってまた薄暗い路地へ入っていったのだった――。
*
【ナレーション】
長らく少年を担いで歩いていた男はやっとこさ足を止め、少年を地面に降ろす。
男の目の前には奇妙な模様が描かれたトビラがあった。少年は滲んだ汗を手で扇いで乾かす男を見上げる。
【笑えない少年】
ここ、…オジサンの家?
【酒癖の悪い男】
家っつーか、拠点だな。エデンの塔って呼ばれてらァ。ここからだと見えねェが、すげェ上まで続いてんだ。
坊主、このトビラの先に居るのは敵じゃねェ。ただ、味方として無条件に信用してもいけねェ。
さっき話したろ? 自害した戦友が居たって話。こんな世界になっちまって戦えはするが精神の安定してない奴らの方が多いんだ。
つまりな? 自分の事しか見てない奴ばっかなんだわ。
俺は勿論、まだ周りを見る余裕はあるし、自主的に外に出て戦える。
坊主、気ィ抜くなよ。
【ナレーション】
男は最後にそう言ってニヤリと笑うとこれまた奇妙な形をしたカギを取り出してトビラを開けた。
その先にはバーのような空間が広がっており、空間にはいくつものトビラがあった。
どうやらかなりの数の人間がここでは生活しているらしい。かなり、と言っても両手で数えて少し足りないくらいかもしれないけれど。
【塔の管理人】
オヤオヤ、遅カッタデスネ。
【酒癖の悪い男】
人命救助しててな。
坊主、この良くわかんねぇアンドロイドがこの塔の管理人だ。
【塔の管理人】
オヤ、子供トハ珍シイデスネ。
コンニチハ、小サナ人間サン。
私ハ、生キ残ッテイル人間達ニコノ塔ヲ住処トシテ貸シテイル機械デス。
性別ハアリマセンシ、名前モアリマセンノデ。管理人サントオ呼ビクダサイ。
元々ハ、私ヲ作ッタ主人ノ所有スル塔ダッタノデスガ…ソノ主人モ、アノ憎キ生命体ニ殺サレテシマイマシテネ…。
何ハトモアレ、元気ソウデ良カッタデス。小サナ人間サン。
ヨウコソ、『エデンの塔』ヘ。
【笑えない少年】
……僕、……ぼく、
【ナレーション】
塔の管理人だというアンドロイドらしいソレに微笑まれ少年は肩の力が抜けて座り込んだ。
塔の管理人はオヤオヤ、と人より少しだけイントネーションの違う喋りで少年の背を摩った。温もりのない手だったけれど、今の少年にとってはとても、とても温かいもののように思えた。
【クールな男】
管理人、湯冷ましに水貰え……ん?
【塔の管理人】
少シ、オ待チクダサイ。
小サナ人間サン。コチラニ掛ケテ休ンデクダサイ。
【ナレーション】
数あるトビラの一つが少し乱暴に開き、入ってきたのは紺色の着物を来た落ち着いた雰囲気の男だった。
男はどうやら風呂上がりらしく湯冷ましの水を貰いにきたらしい。
そこで座り込んでいる少年に気付いたようだった。
【クールな男】
アンタ、また人を助けたのか。
…。俺の人命救助記録、とうとう抜かされたな。
【酒癖の悪い男】
お前だってその足の怪我さえ無けりゃあ、今頃西の方で人命救助してたんじゃねェか? まァ焦るなよ。怪我の具合もいいんだろ?
【クールな男】
医師によるとあと1週間は安静にだと。
少年、立てるか。
【笑えない少年】
あ、りがとう……ございま、す…。
【ナレーション】
男に手を貸してもらい、立ち上がる事の出来た少年はふらふらと覚束無い足取りで管理人が指定したソファに腰を降ろした。
ため息を吐いてその隣へ腰を降ろしたのは少年を助けた男だ。その手にはいつどこで手にしたのか小さな酒瓶が握られていた。
【酒癖の悪い男】
今の内に寝とけ、坊主。
【笑えない少年】
……気ィ抜くなってオジサンが、言ったん、じゃん…
【酒癖の悪い男】
もううつらうつらしてんじゃねェか。
今は管理人も居っし、俺もこのひょろ男も戦士だ。子供は寝るのが仕事なんだから…気ィ遣ってねェで寝ろ。
【笑えない少年】
・・・じゃあ、・・・おやすみなさい
【酒癖の悪い男】
おう。
*
【クールな男】
珍しいな、アンタが子供を助けるなんて。
【塔の管理人】
確カニ。イツモハ、生命力ノ低イ女性ヤ子供ヲ助ケルノ躊躇ッテマスヨネ?
【酒癖の悪い男】
ハッ、気まぐれだよ、気まぐれ。
大抵は助けても泣き叫んだりして敵に見つかって殺されちまうんだが・・・、コイツは、やけに落ち着いてた。
逃げてた様子からして家族も居ねェだろうに笑わねェし、泣かねェし。
まぁ、大物になるって思ったから連れてきた。塔の前では気ィ抜くななんて脅したがこんな世の中、子供は希少だ。宝だ。そうだろ?
【塔の管理人】
コチラトシテモ、塔ガ賑ヤカニナルノハ嬉シイデスガ。助ケタカラニハ、チャント面倒見ルンデスヨ。モチロン私共モオ手伝イハシマスガ。
【酒癖の悪い男】
ったりめェだろ。責任投げ出すようには出来てねェよ。
【クールな男】
では、俺も協力しよう。
ここには医師も多いし、幸いにも感染病なども無い。子供一人増えたところで食料難にもならないしな。
【塔の管理人】
デハ、小サナ人間サンガ起キタ時ノ為ニ、ホットミルクヲ用意シマショウ。
私トシテモ子供ヲ見ルノハ久シイノデ構イスギテウザガラレナイヨウニシナケレバ・・・
【ナレーション】
ぶつぶつと呟いて忙しなく動く管理人にクールな男と酒を飲む男は顔を見合わせて笑った。こんなに楽しそうな管理人は初めて見たのだ。
【クールな男】
アナタが喜ぶならもっと連れてくれば良かったか?
【酒癖の悪い男】
おいおい、冗談でも止せよ。
コイツは静かだが、普通のガキってのはもうちっと騒がしくてすぐに塔の存在なんてバレちまうぞ。
【クールな男】
おっと、それは困る。
【笑えない少年】
(寝言のように呟いて)
ぅ、ん・・・おじさ、・・・さけくさ・・・
【酒癖の悪い男】
・・・・・・・・・。
【クールな男】
・・・・・・・・・。
【塔の管理人】
・・・マズハ禁酒カラ始メテミマスカ?
【酒癖の悪い男】
・・・・・・善処する。
STORY END.