【怜悧狡猾、狂言綺語】
声劇タイトルは
【れいりこうかつ、きょうげんきご】と読みます。
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♂2:♀1:不問2
寡黙な男 ♂ セリフ数:12
ニヤついた男 ♂ セリフ数:7
好奇心旺盛な女 ♀ セリフ数:6
仮面の調香師 不問 セリフ数:11
ナレーション 不問 セリフ数:11
[あらすじ]《9分半程度》
ここは寂れた遊園地のレストラン。一通の手紙によって集められた、出身も性格も様々な男女は、調香師の淹れた紅茶を飲みながら、自分達に共通点が無いかを話し始めた―――。
【仮面の調香師】
さて、ボクらはこうして集められた訳だけど。それぞれ手紙には、なんて書いてあったのかな。
【好奇心旺盛な女】
アタシはねぇ~! 『貴方に殺された私の子供を返してくれなきゃ貴方を殺す』って書かれてるよぉ~! 好奇心で殺しちゃったツケが、こぉんな所に回ってくるなんて新鮮で面白いねぇ!
【寡黙な男】
……俺は、これだ。
『お前の知らないお前の秘密をバラされたくなければ』と書いてある。
……全く、くだらない……。
【ニヤついた男】
(鼻で笑ってから)
ハッ! 脅し文句ばっかでつまらねぇな。オレのは『“アレ”が“コウ”なって“ソウ”なれば“ドウ”なるか』って書いてあるぜ。
訳わかんねえから、とりあえずココに来てみたってだけだァ!
【ナレーション】
寂れた遊園地のレストラン。客も疎らなその場所で、出身も性格も様々な男女四人が集まって、何やら時折物騒な言葉を零しながら話し合っていた。
仮面を付けた調香師らしい何かが淹れた紅茶は、それなりに美味のようだった。
【ニヤついた男】
おい、仮面野郎。お前はどうなんだよ。
お前も手紙を貰ったんだろ?
【仮面の調香師】
おや、野郎だなんてやめてくれよ。まぁ女でもないから何とでも呼んでくれていいんだけどさ。
ボクはね、『集められた者達を暴け』だってさ。暴くも何も君達そんなに変な子達じゃないでしょう?
【寡黙な男】
そこの女、人殺しだろう……?
【好奇心旺盛な女】
失礼だな! アタシは殺してって言われたから殺して“あげた”んだよ! これは所謂アレ! 『人助け』ってやつだよ!
【ナレーション】
寡黙な男に指を差された女は、テーブルをバンっと叩いて立ち上がった。大声を上げた女に、レストラン中の目がこちらを向いた。
調香師はふぅ、とため息を吐いてから女を宥める事にした。
【仮面の調香師】
まぁまぁ落ち着いてよ。ボクの紅茶はね、リラックス効果がある……って昔、誰かが言ってたからさ。
【ニヤついた男】
まぁそんな事どうだっていいけどな。
そもそもこの手紙、差出人は全員一緒かよ?
【寡黙な男】
『プラタナス』……。
花の名前だな。
【ナレーション】
『プラタナス』、それが手紙の差出人だった。寡黙な男は、紅茶を一啜りしてから呟くように言った。
【寡黙な男】
まずはそれぞれの境遇を話せるだけ話した方がいい。
【ニヤついた男】
まっ、その方が賢明か。
まずはオレから! 既婚済みの30代。職業は詐欺師でまぁまぁ有名だぜ。
人を殺したこたァねぇけど、殺しを促した事なら何回かあるなァ。
ちなみに子供は居たが殺されてる。仇討ちなんぞみっともねェマネはしねぇが、“偶然”にも見つけちまったら何するか分かんねぇな。
【好奇心旺盛な女】
はいはーい! 次はアタシね!
アタシはピッチピチの18歳! 本業は殺し屋だけど副業は猫カフェのバイト~! アタシってほら、こんなに好奇心旺盛だから、それを満たす為に色んな事にチャレンジしてるんだ~!
あとはねぇ、殺される事に興味津々だけどぉ、殺されちゃったら元も子もないってよく聞くしぃ~、今は大丈夫かな~?
あと聞きたいことあるぅ? あ、スリーサイズとかはNGだからねー?
【仮面の調香師】
じゃあ次はボクでいいかな。
まぁ察していたとは思うけれど、ボクは人間でも生き物でもないんだよね。まぁ、所謂…『死神』ってやつかな。悪魔と勘違いしてる人も居るんだけど、死神は嘘を吐けないからちゃんと話を聞いてれば聞き分けがつくと思うよ。
寿命を迎えた人を冥界へ案内した事はあるけど…これは人殺しになるのかな? まぁいいか。一先ず、宜しくね。
【ナレーション】
三人の紹介を終えた所で、遊園地のアナウンスが響く。どうやらそろそろ閉園時間のようだ。
しかし四人はそんな事気にも留めない。アナウンスが終わると同時に、寡黙な男へ目を向けた。
【寡黙な男】
名は無い。歳は20代前半だ。
探偵業で食い繋いでいるぐらいで、特別な事など何も無い。……ただ俺はココに俺達を集めたのがお前だと疑っている。
【ナレーション】
自らを探偵と名乗った男はス、と指を仮面の調香師へ向けた。指を向けられた調香師は少し驚いた風に肩を竦めた後で、ふふ、と笑った。
【仮面の調香師】
心外だなぁ。
ボクだってココに呼び出されて、ちょっと不愉快な思いをしてるって言うのに。
まぁ、いいよ。疑ってる理由を聞こうか。
【寡黙な男】
……最初にお前は言った。
『それぞれ手紙には何と書いてあったのか』と。どうして俺達の手紙に書いてある事がそれぞれ違うと知っていたんだ。
【ナレーション】
指摘された“間違い”に調香師は嗤った。しかしそれを悟られぬように、調香師は手元のカップを指ですり、と撫でた。
【仮面の調香師】
だってねぇ? 一目見ただけで『訳アリ』と分かるこの四人が同じような文句で集められるとは到底思えないんだよねぇ。
勿論、探偵さん。君の推理は素晴らしく、穴もなくて綺麗なものだけど、それだけでボクを“犯人”と疑うのは良くないんじゃない?
【寡黙な男】
………………………………それもそうだな。
【ナレーション】
歯切れの悪い返事をした寡黙な探偵は、調香師から目線を逸らして紅茶をもう一度、啜った。
【ニヤついた男】
共通点は何も無しかァ。
一人は人間でも無ェみたいだしなぁ。結局何でオレらは集められたんだ?
【好奇心旺盛な女】
そう言えばさぁ、手紙をもう一回見てたんだけど、封筒の中に何か書かれてるみたいだよ?
【ナレーション】
女の言葉にそれぞれが、手紙の入っていた封筒の中を覗く。すると突然、ニヤついていた男の表情が消え、封筒をテーブルへダンっと押し付けた。
【好奇心旺盛な女】
どうしたの~? 何か書いてあった~?
【ニヤついた男】
なるほどな、差出人がオレにこれを送った理由がやっとわかったぜ。……何でこの四人だったのかは未だに分からねェが…。
おい、女。お前……殺し屋って言ったな?
【好奇心旺盛な女】
うん、そうだよ! ああ~……そう言えばぁ~? 初めて殺したのはまだほんのちびっちゃーい子供だったようなぁ~……きゃんっ! 危なぁい。ふふ、それじゃあそろそろ解散だね! 閉園前に出た方がいいよぉ~。
【ニヤついた男】
待ておらっ! やっぱりてめえだったか!!
【ナレーション】
わざとらしく煽るように言った女に、テーブルに置いてあったカトラリーを投げ付ける男は、ささっと逃げていく女を追いかけて行った。
残された寡黙な男と調香師はと言えば……。
【仮面の調香師】
元気だねぇ、あの分じゃ寿命はまだまだ先みたいだ。……おや、君ももう行くのかい?
【寡黙な男】
……お前にいくつか聞きたい事がある。
【仮面の調香師】
いいよ、ボクに答えられる事なら。
【寡黙な男】
この封筒の中に書かれた『暴ける者を』とはお前の事だな。お前の手紙に書かれていた『集められた者達を暴け』とはお前自身の事だったか。
【仮面の調香師】
まぁ、もう隠す必要もないか。
降参だよ、名探偵さん。最近とてもヒマでねぇ、ボクの正体を暴いてくれる相手を探してたのさ。
ほら、ボクの封筒の中身は『賢い者を』ってなってるしね。
【寡黙な男】
……。
手紙を書いたのは本当にお前じゃないのか。
【仮面の調香師】
それは本当だよ。信じてくれないの?
【寡黙な男】
『悪魔』の言うことなど誰が信じる。
【仮面の調香師】
あははっ、あっちゃ~。
そこまで見抜いてたか~。人間ってのも案外…侮れないねぇ。
ふふ、手紙を書いたのはボクじゃなくて『プラタナス』さ。
それじゃあボクもそろそろ帰ろうかな。調香師として人間界に紛れるのも、ヒマつぶしになるしね。
ああ、そうだ。名探偵さん。
『プラタナス』の花言葉って知ってる?
【ナレーション】
去り際にそんな事を言われた探偵は、自分の答えを待たずに消えてしまった悪魔に失笑を零した。
【寡黙な男】
……なるほど。
……お前の“ソレ”は満たされたようだな。
【ナレーション】
寡黙な男もそう言って、レストランから出ていった。
寂れた遊園地のレストランの一角で繰り広げられた、読めない話し合いは幕を閉じた。
その話し合いの全てを知るのは…『プラタナス』だけなのかもしれない。
STORY END.
『プラタナス』の花言葉…[天才]、[好奇心]