【HIGH & LOW case1】
声劇タイトルは
【ハイ アンド ロー ケースワン】と読みます。
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♂2:♀1:不問2
ツヴァイ ♂ セリフ数:31
〈冷酷な性格。勝つ為ならば手段を選ばない。父親を消す為にサードの〈数字の箱〉に入る。〉
サード ♂ セリフ数:33
〈元気な少年。生まれた時から自身に纏う『3』という数字が嫌いで仕方ない。今は敗戦続きで元気が無い。〉
エリザベス ♀ セリフ数:10
〈どの〈数字の箱〉にも所属していない野良。金さえ積めば手に入るHIGHだと有名。目つきの悪い男が好み。〉
リッパー 不問 セリフ数:7
〈よくHIGH & LOWで司会を務める『J』。とある〈数字の箱〉に所属していたが脱退している。〉
ナレーション 不問 セリフ数:29
[あらすじ]《30分程度》
数字の世界とは何と簡単で複雑か。……そうだ、この数字の世界を二つに割ろう。そんな事を言った偉人が居た。HIGH と LOWに分かれた世界で人々は何をもって生きるのだろう―――。
【サード】
はあ〜あ、暇だなァ。
なァんか面白い事でも起きねェかな〜。
【ナレーション】
閑散としたオフィス。
デスクに突っ伏す少年は、何気なくカレンダーを見た。
月末に付けられたバツ印。
政府が決めた『HIGH & LOWの日』。
サードにとってこの日は仲間が消えていく日だった。
【サード】
俺がもっと、デカい数字だったらなァ……。
【ナレーション】
彼の仲間は皆、自分達より数字の小さいサードを守ろうとして消えていった。先月、仲間の一人でサードの姉でもあったフィフネも消えた。
消えた数字はまた新たな数字となって転生する。
まあ言わば、生まれ変わりだ。前の数字の頃の記憶は無く、顔も性格も、性別すらも変わってしまう。
サードは誰も居なくなったオフィスで、誰の残り香も無いまま、自分も今月消えて無くなるのだろうと、またため息を吐いた、その時だった―――。
(ゆっくり読む)
オフィスのドアがゆっくりと開いた。
【ツヴァイ】
ここか、消え入りそうな〈数字の箱〉ってのは。
【サード】
アンタ、誰・・・?
【ツヴァイ】
俺はツヴァイ。今日からこの〈数字の箱〉に入る事になった。
お前は『3』のサードだろ?
まずは月末のハイローまでにお前の特性と秘術を―――
【サード】
ちょ、ちょっと待てよ!
いきなり入ってきて何なんだ! もうこんな惨めな〈数字の箱〉なんて放っといてくれよ・・・! もっと、強くて賢い〈数字の箱〉に入れば……! そうだ、アンタ数字は!? 数字次第ではどこへだって―――!
【ツヴァイ】
『2』だ。
【サード】
・・・へェっ?
【ツヴァイ】
俺はこの世界で最も小さく、最も弱い『2』。父親である『1』を消す為に入れる〈数字の箱〉を探したんだが……どこも『2』は要らないんだとよ。
俺はLOW側だから〈数字の箱〉を創る事も出来ねェ。だから惨めだろうが、何だろうが関係ねェ。あの父親と同じ舞台に立てる資格を得られるなら、どこだろうと勝ち上げる。
【ナレーション】
サードは唖然とした。
自分より小さい数字を見るのは初めてだったからだ。
『2』と言えば、いつだったか姉のフィフネが言っていた。生まれながらにしての負け組、どんな数字にも勝てない格好の餌食。
そんな数字が今目の前に居る。
だがサードは改めて彼を見る。
鋭い目つきに着慣れた様子の黒スーツ。無造作に後ろで結われた金髪もよく映えていた。
サードは、だけれど首を振る。
そうだ、訳ない。
この〈数字の箱〉で一番強かった『K』ですらLOWの札を突き付けられて消えたのだ。そこからこの〈数字の箱〉は負け通しなのだと。
【サード】
本当に、勝てんの……?
何連敗してると思ってんの…この〈数字の箱〉……。
リーダーも、秘書も居ない…。そんな〈数字の箱〉で…。『2』のお前と『3』の俺が、どうやって勝つって言うんだよ……。
【ツヴァイ】
まずはその劣等感を捨てろ。『3』だから何だ。戦い方によっちゃあ、小さい数字が有利になる時もある。
特性や秘術を使えば勝利はどちらにも転がりうる。
優柔不断な女神様に、どちらへ勝利を捧げるべきか教えてやれ。
【ナレーション】
ツヴァイはそう言って、キィと油の足りない音を立てるイスへ優雅に座った。
サードはツヴァイの言葉に頷きはしなかった。だってサードは、そうやって大丈夫だと笑っていた仲間が消えてしまうのを知っているのだから……。
しかしツヴァイはサードの疑念が分かっていたようにまた言う。
【ツヴァイ】
俺は消えない。
『2』が弱いなんてどこの偉人が決めた。
【サード】
でも、だって……そうやって大丈夫って言って消えてった人達を俺は知ってる……。
【ツヴァイ】
そいつらは何の勝算も無しに大丈夫だなんて瞞しを言ったんだろう。
俺は違う。『大丈夫』なんて不確定な言葉を使うつもりはない。
『勝つ』んだ。勝って上へ行くだけだ。
ただ消えるのを待つよりずっと良い。
戦う気も勝つ気も無いならそれで良い。俺は勝手にやらせてもらう。
【サード】
…………。
本当に、勝てるのか……。
【ツヴァイ】
ああ。
【ナレーション】
即答したツヴァイにサードは唇を噛んだ。
もし本当に、ツヴァイの言う通り。
『3』である自分でも、勝つ事が出来るのなら。自分を守って消えていった仲間や姉に胸を張れる。
サードは後ろめたかった気持ちが晴れていくような気がした。突然やってきて、この敗北しか知らないような〈数字の箱〉を勝たせると言ってきた世界で最も弱い数字。
サードはこの数字に賭けてみる事にした。未だに本当に勝てるのかなんて分からない。分からないけれど、
【サード】
…………っ。
なら、ツヴァイ。
お前に、この〈数字の箱〉を託す。もちろん俺だって戦う。
だから―――、
【ツヴァイ】
その言葉、待ってた。
【ナレーション】
ゾクリ、と粟立つ。
ツヴァイがサードの言葉を遮った途端、空気が変わったのだ。
サードは思う。
こいつ、本当に『2』だろうかと。
【ツヴァイ】
なら、月末までに体制を整える必要がある。お前の特性と秘術、教えろ。
俺はお前よりもLOWだからな。リーダーにはなれねェ。お前には形式だけでもリーダーで居てもらうぞ。
【サード】
・・・ああっ、分かった!
【ナレーション】
負けしか知らない〈数字の箱〉でLOW達の下克上が始まる―――。
★
☆
★
【ナレーション】
今日は月末。
数字達が冷静に戦いを繰り広げるHIGH & LOWが行われる日だ。
サードは〈数字の箱〉のリーダーとして受付に並ぼうとして、とある人物に呼び止められた。
【エリザベス】
サードちゃん、元気してた?
今月始まってから、全然連絡来ないから心配してたのよん?
【サード】
エリザベスさん、久しぶり。
俺は元気だよ。今月は、ちょっと忙しくて連絡出来なかったんだ、ごめんね。
【エリザベス】
あら。……ふふふ。
【サード】
エリザベスさん?
【エリザベス】
いえね、ごめんなさい。
先月、フィフネちゃんが消えてからずっと元気ないみたいだったのに今日はいつもみたいに元気で可愛いサードちゃんだと思って。
何か良い事でもあった? それとも・・・
【ナレーション】
エリザベスは『Q』。
強く大きい数字にも関わらず、どの〈数字の箱〉にも所属していない、野良で活動する珍しいタイプだ。
サードの姉、フィフネととある〈数字の箱〉に居た過去から、サードとも仲良くしている。彼女は決して数字の大小で人を差別しない。
【サード】
自棄になってる訳じゃないんだ。
エリザベスさん、今日は戦うの?
【エリザベス】
いいえ、今日は観戦に来たのよ。ジャレドンから助っ人の依頼が来るかと思ったら来なかったし。
でもどうして? アタシへの依頼は事前申請じゃないと通らないわよ?
【サード】
依頼をしたいんじゃなくて、それはまた今度。俺の戦闘、見てて。
【エリザベス】
また今度……って、まさか……。
【サード】
今日は、消えに来たんじゃないよ。
俺、勝ちに来たから。
【ナレーション】
エリザベスは息を呑む。
先月見た、あの弱々しいサードではない。目の奥にキラリと闘争心を燃やした一つの数字だった。
【エリザベス】
サードちゃん…今日は、先月フィフネちゃんを消したイチマも居るのよ? それを勝つなんて……
【サード】
イチマに勝つのはまだ無理……って言ってた。とりあえず一勝すれば俺も仲間も消えずに済む。だから俺の戦闘、ちゃんと見ててね。――――――勝つから。
★
☆
★
【サード】
って、エリザベスさんにハッタリに近い事してきたけど、これでいいの? 本当に勝てんの!?
【ツヴァイ】
喧しい、そっちの焦りを持ち込むな。
いいか、サード。もう一度言うぞ。お前の特性は相手の特性を見抜く、普通に使えばハズレの特性だ。
だが俺は違う。勝つ為なら何だって利用してやる。勝つ為なら何だってこっちのものにする。
勝つか負けるか不安なら、黙って俺に利用されておけ。
【サード】
う、うん・・・。
でもツヴァイ…最初の相手は二つ名持ちの〈数字の箱〉だぜ? カードも秘術も何もかも上で―――
【ツヴァイ】
何度も言わせるな、サード。
俺は負ける為にここに来たんじゃない。勝つ為にここに居る。怖気づいたのか何かは知らないが、お前は何もしなくていい。
勝負を有利にするのも、相手を屈辱に染めるのも、全て俺がやる。分かったら静かにしてろ。
【サード】
・・・っう。
【ナレーション】
ギロリと睨みつけられて、サードは慌てて口を閉じた。
『2』だとは思えない風貌で、待合室のイスに座る彼を、周りの女性達は頬を染めて見つめる。
彼女らは彼が『2』だと分かれば幻滅するのだろうか。それともソレはソレ、コレはコレと割り切って熱を上げるのだろうか。
サードは戦闘には関係の無い事を考えて、首を横に振った。
★
☆
★
【リッパー】
さあ! 始まりました、月末対決HIGH & LOW!! 今回司会を務めさせて頂く、『J』のリッパーと申します!!
・・・いやはや、歓迎の拍手をありがとうございます、ありがとうございます!
それでは早速第一試合! 選手をご紹介させて・・・ん? おやおや、皆様。このリッパー、驚きに思わず司会を止めてしまいました。
申し訳ございませんっ、それでは皆様にもリッパーの驚きを分けて差し上げましょう!
第一試合の選手をご紹介致しましょう! 豪腕の末裔というアグレッシブな二つ名を持つ〈数字の箱〉より、
『K』のアレキサンダー、
『9』のナインククル、
『7』のラッシュ!
以上の三名です!
第一試合から本気のメンバーを揃えてきてますね〜! 恐ろしいぃ、私が相手なら棄権でもしたいですよ〜ふふ〜ん。
そんな彼等の対戦相手はこちらッ!
皆様もご存知とは思いますがご紹介を。
これがリッパーの驚きでございます! 先月姉のフィフネを失い、最早今日は消えるのを待つのみとなってしまった『3』のサードくん。
しかし何と奇妙な事でしょう。彼の〈数字の箱〉にもう一人戦力が増えています! これが吉と出るか凶と出るか・・・、リッパーの個人的見解を述べると…まぁ凶が出る気配しかしません!
二つ名無し、ただ消滅を待つ〈数字の箱〉より、
『3』のサード。そして彼が新メンバー!
『2』のツヴァイです!!
【ナレーション】
リッパーの長々しい司会の後には、必ず観客の歓声が聞こえてくる。はずだった。
しかし聞こえてくるのは、ざわめきとほんの少しの嘲笑。
サードは、隣で足を組むツヴァイを見た。余裕のある顔はいつ見ても崩れない。
観客の目が怖い。
こちらを見て笑っている。
今までは仲間が、姉が、
跳ね除けていてくれた
嘲笑うような目が、
怖くて、怖くて、仕方ない。
サードが顔を俯かせようとした時だった。
【ツヴァイ】
胸を張れ、サード。
お前はなんの為にここに居る。
【サード】
(震える声で)
・・・、か、・・・勝つ為に。
【ツヴァイ】
なら俯くな。前を見ろ。
お前が倒すべき相手を。お前が消すべき相手を。
・・・俺を、信じろ。
【ナレーション】
ツヴァイの言葉に、サードは歯を食い縛って前を向いた。もう半分以上投げやりなような前の向き方だ。
もしここに仲間が居たなら、姉が居たなら、笑われていたろうか。
【ツヴァイ】
サード。
【サード】
な、何。
【ツヴァイ】
どれを沈めたい?
【サード】
え゛っ。
【ナレーション】
サードは愉しそうなツヴァイの様子に、嫌な予感がした。
おい待て、この月末を目指して調整した体制の中で、そんな話一度だってしてないじゃないか、と。
【サード】
・・・つ、つつつツヴァイさん??? 俺、トリアエズ一勝しなきゃいけないって言いましたヨネ? ソンナ、ゲームみたいな事してる暇無いんデスケド・・・?
っていうか、そんな事して負けたら分かってんだろうな・・・?
【ナレーション】
思わずカタコトになったサードに、ツヴァイはつまらんと言いたげな顔をして笑みを消した。この状況下で、そんな事を唐突に言うお前の方がつまらねェと言いたいが、言ったら何をされるか分からないので、口を噤む。
それに、彼がそうやってサードの緊張を解してくれたのだとサードは気が付いたのだ。
やり方はどうかと思うけれど。
【リッパー】
さてさて、異色の試合でございますねえ!
この世界において最も小さく最も弱い『2』をHIGH & LOWでお目にかかれるとは・・・! このリッパーいつもより興奮してどうにかなってしまいそうです!!
さて、第一試合。どうなってしまうのでしょうか! それでは各チームは五枚のカードをゲームマスターより引いてください!
【ナレーション】
リッパーの声に従ってサードとアレキサンダーが前に出る。
相手のアレキサンダーはサードに対して、もう勝った気でいるようなドヤ顔を決めているが、ツヴァイの数々の言葉のお陰で覚悟が出来たサードには、この程度の挑発は通じないらしい。
【サード】
せいぜい消えないように祈ってな。
【ナレーション】
サードの煽りにアレキサンダーは苛つくが、さっさとカードを五枚持って陣地に戻っていくサードに舌打ちだけを零した。
【リッパー】
それでは各チームがカードを並び替えている間に今更ですが、HIGH & LOWについてご説明致しましょう!
各チームが引いた五枚のカードにはそれぞれ数字と〈能力〉が描かれております。
その数字と〈能力〉を駆使して戦うのがHIGH & LOWです!
ですが、ゲームマスターより引くカードは自身の数字が大きければ大きいほど強いカードが。小さければ小さいほど弱いカード、つまり試合に不利なカードが出てきちゃいますので、カードを引く方は数字の大きい方が有利でございます!
〈能力〉の威力はカードの数字と自身の数字を掛けた答によって変わります! ・・・ので、数字がHIGHなほど有利なゲームでございます!!
勝敗をつける為には各チームの陣地にあります三本の大きな蝋燭の火を消せば良いのです!
ただ、蝋燭は大きいですからねえ。カードに描かれた〈能力〉と自身の持つ秘術を使わないと火は消えませんよ!
さあ、各チーム。カードが出揃ったようですので早速試合を始めていきましょう!!
【ナレーション】
リッパーの声に各チームは相手の出方に警戒を高める。とは言ってもツヴァイだけは棄権の際に提示するステッキをくるくるとつまらなさそうに回している。
【リッパー】
さあ、やっとこさ始まりましたァ!! 二つ名持ちの〈数字の箱〉に挑むのは異例の『2』を持つツヴァイという男が参加する消滅間近の〈数字の箱〉! 第一試合から目が離せません!!
おぉぉっと! 早速動きました、豪腕の末裔! 使うカードはまず一枚! 数字は・・・『8』! 〈能力〉は・・・〈渦紋〉! 一発目から出ました、蝋燭を消せる可能性の高い〈能力〉です!
一方、『2』の居る〈数字の箱〉は・・・えぇぇぇっっ!?!? 動いていない!?!?
【ナレーション】
リッパーの声に観客の目がツヴァイに向く。隣のサードはその目にビビりながらもツヴァイの指示に従って動かないままだ。
【リッパー】
これは一体・・・!? おっと、『2』のツヴァイが表明の提示ステッキだ! 試合中に三回、相手へ煽りでも命乞いでも・・・えぇ、まぁ告白でも出来るステッキでございます!! さあ、『2』のツヴァイは何を―――
【ツヴァイ】
〈渦紋〉? そんな軟弱な〈能力〉で俺の蝋燭が消せるとでも?
ああ、いいさ。消せると思うなら消せばいい。・・・消せると、思うならな?
【リッパー】
良い声ぇぇぇぇええええっっ!!! 良い声でそんな煽るような事を・・・っと、おおっと!? 豪腕の末裔がカードを捨てました! 豪腕の末裔が!! 〈渦紋〉を!! 捨てました! これは、一体、どういう事でしょうか!?!?!?
カードを捨てれば攻撃は出来ず、しかも相手が攻撃をするまで〈能力〉を使う事も出来ません!! 豪腕の末裔、一体何を考えているのでしょうか!!
【ナレーション】
ツヴァイの煽りに応えるように相手はカードを捨てた。その行動に観客も、サードすらも首を傾げる。しかしツヴァイだけはその唇に笑みを乗せた。
カードを捨てたのが誰の判断だったのか。相手チームに焦りが無いのを見るに三人の同意なのだろうが・・・、観客席に居るらしい豪腕の末裔のリーダーは眉を寄せ他のメンバーと話し込んでいる辺り、〈数字の箱〉の判断だとは思えない。
【ツヴァイ】
良かったな、サード。
攻撃のチャンスだ。
【サード】
(泣きそうな声で)
もう俺には何が起こってるか分かんねェよ・・・。
【ナレーション】
五枚のカードの前に立つサードは泣きそうな顔を隠すことなくツヴァイを見る。何故かご機嫌なツヴァイを恨めしく思うがサードは仕方なく五枚のカードを見つめた。
【サード】
・・・なあ、ツヴァイ。
【ツヴァイ】
何だ、サード。
【サード】
俺、このカードで勝てる気がしねェんだけど・・・。
【ツヴァイ】
驚くほどにカード運が無いな、お前は。
【サード】
お前にだけは言われたくねェっ!
【ナレーション】
どんぐりの背比べとはこの事だろう。世界で弱いと遠い目をされる『2』と『3』が相手の弱さに言及した所で『お前が言うな』案件である。
【サード】
どうすんだよぉ・・・マトモに攻撃出来るカードなんて無ェぞ・・・。
【ツヴァイ】
どうしてお前は弱いのに正面突破しようとする? だから負けるんだろうが。
【サード】
どうせ小細工する脳も持ち合わせてねェよ。
【ツヴァイ】
拗ねるな。
そうだな、俺ならこうする。
【サード】
え、ちょ、それって・・・!
【ナレーション】
ツヴァイは並べられた五枚のカードのうち、二枚を提示した。
サードは慌てる。
その二枚はサードが『マトモに攻撃出来そうにない』と切り捨てたカードだった。
カードは複数使って〈能力〉を組み合わせる事が出来るとは言え、その二枚はどうやって組み合わせても相手の陣地に届く前に消えてしまうような物だったからだ。
【ツヴァイ】
サード、HIGH & LOWは。時間を掛ければ掛けるほど負ける確率が高くなる。
だから一度目で決めろ。それで決められないなら秘術を使う。
それでも決められないならば棄権しろ。無理に挑んで消えるより不戦敗で屈辱を味わうほうがずっと良い。
【サード】
なあ・・・、ツヴァイはどうしてそんなに、HIGH & LOWについて―――
【ツヴァイ】
無駄話はアイツらの一人を消してからだ。
【リッパー】
さて長い話し合いの末、サードとツヴァイが出したカードは二枚! 一枚目の数字は『5』! おぉう・・・相変わらず同情も辞さない数字の弱さだァ! 〈能力〉は〜・・・? 〈手〉!? 威力は『15』ですから、成人男性三人分くらいの大きさですかね? で、では! 二枚目の数字は! 『3』! ・・・私がカードを引いてあげたいくらい可哀想です!! 〈能力〉は〜・・・〈移動〉? はてさて・・・彼ら二人が何をもってこのカードを出したのか私にはさっぱり分かりません! これには相手チームも苦笑です。・・・っと、ツヴァイが秘術ステッキを振りました! ゲームマスターが確認致します!
・・・な、なになに? ツヴァイが使ったのはサードの秘術! <意思の巨大化>! な、ななな何と! 〈手〉がこれ以上にないほど大きくなりました!! なるほど、サードの秘術は〈能力〉の威力を増幅させるものだったのですね!
今まで誰もが・・・いや、本人ですら首を傾げ持て余してきた秘術を花開かせたのはもしや、最弱最小のツヴァイなのでしょうか!?
おおっと!? そんな事を言っている間にサードの秘術で巨大化した〈手〉が相手の陣地に〈移動〉していきます! 本来〈移動〉は自らが相手の陣地に入る為の〈能力〉ですが、巨大化した〈手〉を動かす為に使うとは・・・! 彼らがこの二枚をこのタイミングで出してきた事にこのリッパー! 感服致します!!!!
【ナレーション】
キィィィィンとハウリングするのも気にせずにリッパーはマイクに向かって叫ぶ。観客席は大荒れだ。
サードとツヴァイを応援する者、批難する者、面白いと眺める者、手に汗握り祈る者、豪腕の末裔の終わりを悟る者・・・。
皆それぞれ理由は違うけれど『この試合は何かを大きく変える』と。そう感じて止まない鼓動が聞こえた。
【ツヴァイ】
サード、笑え。
【サード】
・・・っへ、えっ・・・!?
【ツヴァイ】
勝利を確信して笑え。笑ってやれ、奴らを。散々お前を馬鹿にして笑ってきた奴らに、お前の勝利を教えてやれ。
【ナレーション】
自分に笑えと言いながらも仏頂面なツヴァイにサードは無理やり唇を上げる。
しかしそれは相手の陣地の蝋燭を自分の秘術で巨大化した〈手〉が消し去るうちに歪んでいった。
やっと、勝てる。
夢にまで見た勝利の道が、目の前に。
嬉しくて、嬉しくて。
豪腕の末裔の二つ名を持つ〈数字の箱〉。その陣地の蝋燭の火が全て消えた時、
サードの目から涙が零れ落ち、試合会場は誰が何を言っているかも分からない歓声に包まれた。
★
☆
★
【ナレーション】
キィと、やはり油の足りないらしいイスへ優雅に座るツヴァイ。その後ろでは怒涛の展開に疲れ果てたらしいサードが毛布に包まってソファで眠っていた。
HIGH & LOW、第一試合。
見事に勝利を収めた最弱〈数字の箱〉の二人は第二試合を棄権し、不戦敗した。
しかし第一試合に勝ったのは事実でそれに表立って文句を言おうとする輩も会場にはもう居なかった。
HIGH & LOWは敗者が消える戦いだ。消す相手をツヴァイはサードに決めさせた。ツヴァイが消したい相手はただ一人、優しいだけが取り柄の父親だからだ。
サードは迷いなく『K』のアレキサンダーを指差して彼が悲鳴を上げて消えていくのを黙って見送った。
そのすぐ後に緊張が解けて気を失ったサードを担いでオフィスに連れ帰ったのは他でもないツヴァイだ。
【ツヴァイ】
たった一試合で情けないことだ。
【ナレーション】
そうツヴァイが呟いた時、オフィスのドアが開いた。そこに居たのは『Q』のエリザベスだった。
【エリザベス】
貴方がツヴァイちゃん? 良い試合、見させてもらったわん。・・・サードちゃんはぁ〜・・・ふふ、寝ちゃってるのねんっ。
【ツヴァイ】
何の用だ、守銭奴のHIGH。ウチに金は無いぞ。
【エリザベス】
ふふ、お金なんて欲しくないわよ。
皆アタシの欲しい物が手に入れられないから仕方なくお金を持ってきて戦力になって下さいって頭を下げてくるの。
でもそんなのも、もうやーめ。
ねえ、ツヴァイちゃん。サードちゃんが形式上のリーダーなのは承知の上で貴方にお願いなんだけれどぉ。
【ツヴァイ】
何だ。
【エリザベス】
アタシを、この〈数字の箱〉に・・・入れてくれない? 戦力には絶対なるわよん?
【ツヴァイ】
・・・、なるほど。
お前、数字は?
【エリザベス】
アタシは『Q』。『12』よ。
貴方が創り上げる試合、もっと見たくなっちゃった。
アタシじゃあ、不満?
【ナレーション】
妖艶な雰囲気でそう問い掛けてくるエリザベスにツヴァイは笑う。
そうしてこう言ったのだ―――。
【ツヴァイ】
その言葉、待ってた。
【ナレーション】
(ゆっくりと)
―――下克上は終わらない。
STORY END.




