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五人用声劇台本  作者: SOUYA.(シメジ)
台本一覧
15/16

【HIGH & LOW case1】

声劇タイトルは

【ハイ アンド ロー ケースワン】と読みます。


※声劇台本検索サイト《ボイドラサーチ》様に登録している台本です。



台本ご利用前は必ず『利用規約』をお読み下さい。

『利用規約』を読まない/守らない方の台本利用は一切認めません。


※台本の利用規約は1ページ目にありますので、お手数ですが、『目次』をタップ/クリック下さい。

 ♂2:♀1:不問2


 ツヴァイ ♂ セリフ数:31

〈冷酷な性格。勝つ為ならば手段を選ばない。父親を消す為にサードの〈数字の箱(シュレガー)〉に入る。〉


 サード ♂ セリフ数:33

〈元気な少年。生まれた時から自身に(まと)う『3』という数字が嫌いで仕方ない。今は敗戦(はいせん)続きで元気が無い。〉


 エリザベス ♀ セリフ数:10

〈どの〈数字の箱(シュレガー)〉にも所属していない野良(のら)。金さえ()めば手に入るHIGH(ハイ)だと有名。目つきの悪い男が好み。〉


 リッパー 不問 セリフ数:7

〈よくHIGH & LOWで司会を務める『(ジャック)』。とある〈数字の箱(シュレガー)〉に所属していたが脱退(だったい)している。〉


 ナレーション 不問 セリフ数:29


[あらすじ]《30分程度》

 数字の世界とは何と簡単で複雑か。……そうだ、この数字の世界を二つに割ろう。そんな事を言った偉人が居た。HIGH(ハイ)LOW(ロー)に分かれた世界で人々は何をもって生きるのだろう―――。










【サード】

 はあ〜あ、(ひま)だなァ。

 なァんか面白い事でも起きねェかな〜。


【ナレーション】

 閑散(かんさん)としたオフィス。

 デスクに()()す少年は、何気(なにげ)なくカレンダーを見た。


 月末に付けられたバツ(じるし)

 政府が決めた『HIGH(ハイ) (アンド) LOW(ロー)の日』。

 サードにとってこの日は仲間が消えていく日だった。


【サード】

 俺がもっと、デカい数字だったらなァ……。


【ナレーション】

 彼の仲間は皆、自分達より数字の小さいサードを守ろうとして消えていった。先月、仲間の一人でサードの姉でもあったフィフネも消えた。


 消えた数字はまた新たな数字となって転生(てんせい)する。

 まあ言わば、生まれ変わりだ。前の数字の頃の記憶は無く、顔も性格も、性別すらも変わってしまう。


 サードは誰も居なくなったオフィスで、誰の(のこ)()も無いまま、自分も今月消えて無くなるのだろうと、またため息を()いた、その時だった―――。


(ゆっくり読む)

 オフィスのドアがゆっくりと開いた。


【ツヴァイ】

 ここか、消え()りそうな〈数字の箱(シュレガー)〉ってのは。


【サード】

 アンタ、誰・・・?


【ツヴァイ】

 俺はツヴァイ。今日からこの〈数字の箱(シュレガー)〉に入る事になった。

 お前は『3』のサードだろ?

 まずは月末のハイローまでにお前の特性(とくせい)秘術(ひじゅつ)を―――


【サード】

 ちょ、ちょっと待てよ!

 いきなり入ってきて何なんだ! もうこんな(みじ)めな〈数字の箱(シュレガー)〉なんて放っといてくれよ・・・! もっと、強くて(かしこ)い〈数字の箱(シュレガー)〉に入れば……! そうだ、アンタ数字は!? 数字次第ではどこへだって―――!


【ツヴァイ】

 『2』だ。


【サード】

 ・・・へェっ?


【ツヴァイ】

 俺はこの世界で最も小さく、最も弱い『2』。父親である『1』を消す為に入れる〈数字の箱(シュレガー)〉を探したんだが……どこも『()』は()らないんだとよ。


 俺はLOW(ロー)側だから〈数字の箱(シュレガー)〉を(つく)る事も出来ねェ。だから(みじ)めだろうが、何だろうが関係ねェ。あの父親(クズ)と同じ舞台に立てる資格を()られるなら、どこだろうと勝ち上げる。


【ナレーション】

 サードは唖然(あぜん)とした。

 自分より小さい数字を見るのは初めてだったからだ。


 『2』と言えば、いつだったか姉のフィフネが言っていた。生まれながらにしての負け組、どんな数字にも勝てない格好(かっこう)餌食(えじき)


 そんな数字が今目の前に居る。

 だがサードは(あらた)めて彼を見る。

 鋭い目つきに着慣(きな)れた様子の黒スーツ。無造作(むぞうさ)に後ろで()われた金髪もよく()えていた。


 サードは、だけれど首を振る。


 そうだ、(わけ)ない。

 この〈数字の箱(シュレガー)〉で一番強かった『(キング)』ですらLOW(ロー)の札を突き付けられて消えたのだ。そこからこの〈数字の箱(シュレガー)〉は負け通しなのだと。


【サード】

 本当に、勝てんの……?

 (なん)連敗(れんぱい)してると思ってんの…この〈数字の箱(シュレガー)〉……。


 リーダーも、秘書(ひしょ)も居ない…。そんな〈数字の箱(シュレガー)〉で…。『2』のお前と『3』の俺が、どうやって勝つって言うんだよ……。


【ツヴァイ】

 まずはその劣等(れっとう)(かん)を捨てろ。『3』だから何だ。戦い方によっちゃあ、小さい数字が有利(ゆうり)になる時もある。

 特性や秘術を使えば勝利はどちらにも転がりうる。


 優柔(ゆうじゅう)不断(ふだん)な女神様に、どちらへ勝利を(ささ)げるべきか教えてやれ。


【ナレーション】

 ツヴァイはそう言って、キィと油の足りない音を立てるイスへ優雅(ゆうが)に座った。


 サードはツヴァイの言葉に(うなず)きはしなかった。だってサードは、そうやって大丈夫だと笑っていた仲間が消えてしまうのを知っているのだから……。

 しかしツヴァイはサードの疑念(ぎねん)が分かっていたようにまた言う。


【ツヴァイ】

 俺は消えない。

 『2』が弱いなんてどこの偉人が決めた。


【サード】

 でも、だって……そうやって大丈夫って言って消えてった人達を俺は知ってる……。


【ツヴァイ】

 そいつらは何の勝算(しょうさん)も無しに大丈夫だなんて(まやか)しを言ったんだろう。


 俺は違う。『大丈夫』なんて不確定な言葉を使うつもりはない。

 『勝つ』んだ。勝って上へ行くだけだ。

 ただ消えるのを待つよりずっと良い。

 戦う気も勝つ気も無いならそれで良い。俺は勝手にやらせてもらう。


【サード】

 …………。


 本当に、勝てるのか……。


【ツヴァイ】

 ああ。


【ナレーション】

 即答したツヴァイにサードは(くちびる)()んだ。


 もし本当に、ツヴァイの言う通り。

 『3』である自分でも、勝つ事が出来るのなら。自分を守って消えていった仲間や姉に胸を張れる。


 サードは後ろめたかった気持ちが晴れていくような気がした。突然やってきて、この敗北(はいぼく)しか知らないような〈数字の箱(シュレガー)〉を勝たせると言ってきた世界で最も弱い数字。


 サードはこの数字に()けてみる事にした。(いま)だに本当に勝てるのかなんて分からない。分からないけれど、


【サード】

 …………っ。


 なら、ツヴァイ。

 お前に、この〈数字の箱(シュレガー)〉を(たく)す。もちろん俺だって戦う。


 だから―――、


【ツヴァイ】


 その言葉、待ってた。


【ナレーション】

 ゾクリ、と粟立(あわだ)つ。

 ツヴァイがサードの言葉を(さえぎ)った途端、空気が変わったのだ。


 サードは思う。

 こいつ、本当に『2』だろうかと。


【ツヴァイ】

 なら、月末までに体制(たいせい)を整える必要がある。お前の特性と秘術、教えろ。


 俺はお前よりもLOW(ロー)だからな。リーダーにはなれねェ。お前には形式だけでもリーダーで居てもらうぞ。


【サード】

 ・・・ああっ、分かった!


【ナレーション】

 負けしか知らない〈数字の箱(シュレガー)〉でLOW(ロー)達の下克上(げこくじょう)が始まる―――。







【ナレーション】

 今日は月末。

 数字達が冷静に戦いを()り広げるHIGH(ハイ) (アンド) LOW(ロー)(おこな)われる日だ。


 サードは〈数字の箱(シュレガー)〉のリーダーとして受付に(なら)ぼうとして、とある人物に呼び止められた。


【エリザベス】

 サードちゃん、元気してた?

 今月始まってから、全然ぜーんぜん連絡来ないから心配してたのよん?


【サード】

 エリザベスさん、久しぶり。

 俺は元気だよ。今月は、ちょっと(いそが)しくて連絡出来なかったんだ、ごめんね。


【エリザベス】

 あら。……ふふふ。


【サード】

 エリザベスさん?


【エリザベス】

 いえね、ごめんなさい。

 先月、フィフネちゃんが消えてからずっと元気ないみたいだったのに今日はいつもみたいに元気で可愛いサードちゃんだと思って。

 何か良い事でもあった? それとも・・・


【ナレーション】

 エリザベスは『(クイーン)』。

 強く大きい数字にも関わらず、どの〈数字の箱(シュレガー)〉にも所属していない、野良(のら)で活動する(めずら)しいタイプだ。

 サードの姉、フィフネととある〈数字の箱(シュレガー)〉に居た過去から、サードとも仲良くしている。彼女は決して数字の大小で人を差別しない。


【サード】

 自棄(じき)になってる訳じゃないんだ。

 エリザベスさん、今日は戦うの?


【エリザベス】

 いいえ、今日は観戦(かんせん)に来たのよ。ジャレドンから(すけ)()の依頼が来るかと思ったら来なかったし。

 でもどうして? アタシへの依頼は事前(じぜん)申請(しんせい)じゃないと通らないわよ?


【サード】

 依頼をしたいんじゃなくて、それはまた今度。俺の戦闘、見てて。


【エリザベス】

 また今度……って、まさか……。


【サード】

 今日は、消えに来たんじゃないよ。

 俺、勝ちに来たから。


【ナレーション】

 エリザベスは息を()む。

 先月見た、あの弱々しいサードではない。目の奥にキラリと闘争(とうそう)(しん)を燃やした一つの数字だった。


【エリザベス】

 サードちゃん…今日は、先月フィフネちゃんを消したイチマも居るのよ? それを勝つなんて……


【サード】

 イチマに勝つのはまだ無理……って言ってた。とりあえず一勝すれば俺も仲間も消えずに()む。だから俺の戦闘、ちゃんと見ててね。――――――勝つから。







【サード】

 って、エリザベスさんにハッタリに近い事してきたけど、これでいいの? 本当に勝てんの!?


【ツヴァイ】

 (やかま)しい、そっちの(あせ)りを持ち込むな。

 いいか、サード。もう一度言うぞ。お前の特性は相手の特性を見抜く、普通に使えばハズレの特性だ。

 だが俺は違う。勝つ為なら何だって利用してやる。勝つ為なら何だってこっちのものにする。


 勝つか負けるか不安なら、黙って俺に利用されておけ。


【サード】

 う、うん・・・。

 でもツヴァイ…最初の相手は(ふた)()()ちの〈数字の箱(シュレガー)〉だぜ? カードも秘術も何もかも上で―――


【ツヴァイ】

 何度も言わせるな、サード。

 俺は負ける為にここに来たんじゃない。勝つ為にここに居る。怖気(おじけ)づいたのか何かは知らないが、お前は何もしなくていい。

 勝負を有利にするのも、相手を屈辱(くつじょく)に染めるのも、全て俺がやる。分かったら静かにしてろ。


【サード】

 ・・・っう。


【ナレーション】

 ギロリと(にら)みつけられて、サードは(あわ)てて口を閉じた。

 『2』だとは思えない風貌(ふうぼう)で、待合室のイスに座る彼を、周りの女性達は(ほほ)を染めて見つめる。

 彼女らは彼が『2』だと分かれば幻滅(げんめつ)するのだろうか。それともソレはソレ、コレはコレと()り切って熱を上げるのだろうか。

 サードは戦闘には関係の無い事を考えて、首を横に振った。







【リッパー】

 さあ! 始まりました、月末対決HIGH & LOW!! 今回司会を(つと)めさせて頂く、『(ジャック)』のリッパーと申します!!


 ・・・いやはや、歓迎(かんげい)の拍手をありがとうございます、ありがとうございます!


 それでは早速(さっそく)第一試合! 選手をご紹介させて・・・ん? おやおや、皆様。このリッパー、驚きに思わず司会を止めてしまいました。

 申し訳ございませんっ、それでは皆様にもリッパーの驚きを分けて()し上げましょう!


 第一試合の選手をご紹介致しましょう! 豪腕(ごうわん)末裔(まつえい)というアグレッシブな二つ名を持つ〈数字の箱(シュレガー)〉より、


 『(キング)』のアレキサンダー、

 『9』のナインククル、

 『7』のラッシュ!


 以上の三名です!

 第一試合から本気のメンバーを(そろ)えてきてますね〜! (おそ)ろしいぃ、私が相手なら棄権(きけん)でもしたいですよ〜ふふ〜ん。


 そんな彼等の対戦相手はこちらッ!

 皆様もご存知(ぞんじ)とは思いますがご紹介を。

 これがリッパーの驚きでございます! 先月姉のフィフネを失い、最早(もはや)今日は消えるのを待つのみとなってしまった『3』のサードくん。

 しかし何と奇妙(きみょう)な事でしょう。彼の〈数字の箱(シュレガー)〉にもう一人戦力が増えています! これが(きち)と出るか(きょう)と出るか・・・、リッパーの個人的見解(けんかい)()べると…まぁ凶が出る気配しかしません!


 二つ名無し、ただ消滅(しょうめつ)を待つ〈数字の箱(シュレガー)〉より、

 『3』のサード。そして彼が新メンバー!

 『2』のツヴァイです!!


【ナレーション】

 リッパーの長々しい司会の後には、必ず観客の歓声が聞こえてくる。はずだった。


 しかし聞こえてくるのは、ざわめきとほんの少しの嘲笑(ちょうしょう)

 サードは、隣で足を組むツヴァイを見た。余裕(よゆう)のある顔はいつ見ても(くず)れない。


 観客の目が怖い。

 こちらを見て笑っている。

 今までは仲間が、姉が、

 ()()けていてくれた

 嘲笑(あざわら)うような目が、


 怖くて、怖くて、仕方ない。

 サードが顔を(うつむ)かせようとした時だった。


【ツヴァイ】

 胸を張れ、サード。

 お前はなんの為にここに居る。


【サード】

(震える声で)

 ・・・、か、・・・勝つ為に。


【ツヴァイ】

 なら(うつむ)くな。前を見ろ。

 お前が倒すべき相手を。お前が消すべき相手を。


 ・・・俺を、信じろ。


【ナレーション】

 ツヴァイの言葉に、サードは歯を食い(しば)って前を向いた。もう半分以上投げやりなような前の向き方だ。

 もしここに仲間が居たなら、姉が居たなら、笑われていたろうか。


【ツヴァイ】

 サード。


【サード】

 な、何。


【ツヴァイ】

 どれを(しず)めたい?


【サード】

 え゛っ。


【ナレーション】

 サードは(たの)しそうなツヴァイの様子に、嫌な予感がした。

 おい待て、この月末を目指して調整した体制の中で、そんな話一度だってしてないじゃないか、と。


【サード】

 ・・・つ、つつつツヴァイさん??? 俺、トリアエズ一勝しなきゃいけないって言いましたヨネ? ソンナ、ゲームみたいな事してる(ひま)無いんデスケド・・・?

 っていうか、そんな事して負けたら分かってんだろうな・・・?


【ナレーション】

 思わずカタコトになったサードに、ツヴァイはつまらんと言いたげな顔をして笑みを消した。この状況下(じょうきょうか)で、そんな事を唐突(とうとつ)に言うお前の方がつまらねェと言いたいが、言ったら何をされるか分からないので、口をつぐむ。

 それに、彼がそうやってサードの緊張を(ほぐ)してくれたのだとサードは気が付いたのだ。


 やり方はどうかと思うけれど。


【リッパー】

 さてさて、異色(いしょく)の試合でございますねえ!

 この世界において最も小さく最も弱い『2』をHIGH & LOWでお目にかかれるとは・・・! このリッパーいつもより興奮してどうにかなってしまいそうです!!


 さて、第一試合。どうなってしまうのでしょうか! それでは(かく)チームは五枚のカードをゲームマスターより引いてください!


【ナレーション】

 リッパーの声に(したが)ってサードとアレキサンダーが前に出る。

 相手のアレキサンダーはサードに対して、もう勝った気でいるようなドヤ顔を決めているが、ツヴァイの数々の言葉のお(かげ)で覚悟が出来たサードには、この程度の挑発ちょうはつは通じないらしい。


【サード】

 せいぜい消えないように(いの)ってな。


【ナレーション】

 サードの(あお)りにアレキサンダーは(いら)つくが、さっさとカードを五枚持って陣地(じんち)に戻っていくサードに舌打ちだけを(こぼ)した。


【リッパー】

 それでは各チームがカードを(なら)び替えている間に今更(いまさら)ですが、HIGH & LOWについてご説明致しましょう!


 各チームが引いた五枚のカードにはそれぞれ数字と〈能力(スキル)〉が()かれております。

 その数字と〈能力(スキル)〉を駆使(くし)して戦うのがHIGH & LOWです!


 ですが、ゲームマスターより引くカードは自身の数字が大きければ大きいほど強いカードが。小さければ小さいほど弱いカード、つまり試合に不利(ふり)なカードが出てきちゃいますので、カードを引く方は数字の大きい方が有利でございます!


 〈能力(スキル)〉の威力(いりょく)はカードの数字と自身の数字を掛けた(こたえ)によって変わります! ・・・ので、数字がHIGH(ハイ)なほど有利なゲームでございます!!


 勝敗をつける為には各チームの陣地(じんち)にあります三本の大きな蝋燭(ろうそく)の火を消せば良いのです!

 ただ、蝋燭(ろうそく)は大きいですからねえ。カードに()かれた〈能力(スキル)〉と自身の持つ秘術を使わないと火は消えませんよ!


 さあ、各チーム。カードが出揃(でそろ)ったようですので早速(さっそく)試合を始めていきましょう!!


【ナレーション】

 リッパーの声に各チームは相手の出方(でかた)警戒(けいかい)を高める。とは言ってもツヴァイだけは棄権(きけん)の際に提示(ていじ)するステッキをくるくるとつまらなさそうに回している。


【リッパー】

 さあ、やっとこさ始まりましたァ!! 二つ名持ちの〈数字の箱(シュレガー)〉に(いど)むのは異例(いれい)の『2』を持つツヴァイという男が参加する消滅間近の〈数字の箱(シュレガー)〉! 第一試合から目が離せません!!


 おぉぉっと! 早速動きました、豪腕(ごうわん)末裔(まつえい)! 使うカードはまず一枚! 数字は・・・『8』! 〈能力(スキル)〉は・・・〈渦紋(ヴィズベル)〉! 一発目から出ました、蝋燭(ろうそく)を消せる可能性の高い〈能力(スキル)〉です!


 一方、『2』の居る〈数字の箱(シュレガー)〉は・・・えぇぇぇっっ!?!? 動いていない!?!?


【ナレーション】

 リッパーの声に観客の目がツヴァイに向く。隣のサードはその目にビビりながらもツヴァイの指示に従って動かないままだ。


【リッパー】

 これは一体・・・!? おっと、『2』のツヴァイが表明(ひょうめい)提示(ていじ)ステッキだ! 試合中に三回、相手へ(あお)りでも命乞(いのちご)いでも・・・えぇ、まぁ告白でも出来るステッキでございます!! さあ、『2』のツヴァイは何を―――


【ツヴァイ】

 〈渦紋(ヴィズベル)〉? そんな軟弱(なんじゃく)な〈能力(スキル)〉で俺の蝋燭(ろうそく)が消せるとでも?


 ああ、いいさ。消せると思うなら消せばいい。・・・消せると、思うならな?


【リッパー】

 良い声ぇぇぇぇええええっっ!!! 良い声でそんな(あお)るような事を・・・っと、おおっと!? 豪腕(ごうわん)末裔(まつえい)がカードを捨てました! 豪腕(ごうわん)末裔(まつえい)が!! 〈渦紋(ヴィズベル)〉を!! 捨てました! これは、一体、どういう事でしょうか!?!?!?

 カードを捨てれば攻撃は出来ず、しかも相手が攻撃をするまで〈能力(スキル)〉を使う事も出来ません!! 豪腕(ごうわん)末裔(まつえい)、一体何を考えているのでしょうか!!


【ナレーション】

 ツヴァイの(あお)りに(こた)えるように相手はカードを捨てた。その行動に観客も、サードすらも首を(かし)げる。しかしツヴァイだけはその(くちびる)に笑みを乗せた。


 カードを捨てたのが誰の判断(はんだん)だったのか。相手チームに(あせ)りが無いのを見るに三人の同意なのだろうが・・・、観客席に居るらしい豪腕(ごうわん)末裔(まつえい)のリーダーは(まゆ)を寄せ他のメンバーと話し込んでいる辺り、〈数字の箱(シュレガー)〉の判断だとは思えない。


【ツヴァイ】

 良かったな、サード。

 攻撃のチャンスだ。


【サード】

(泣きそうな声で)

 もう俺には何が起こってるか分かんねェよ・・・。


【ナレーション】

 五枚のカードの前に立つサードは泣きそうな顔を隠すことなくツヴァイを見る。何故(なぜ)かご機嫌なツヴァイを(うら)めしく思うがサードは仕方なく五枚のカードを見つめた。


【サード】

 ・・・なあ、ツヴァイ。


【ツヴァイ】

 何だ、サード。


【サード】

 俺、このカードで勝てる気がしねェんだけど・・・。


【ツヴァイ】

 驚くほどにカード運が無いな、お前は。


【サード】

 お前にだけは言われたくねェっ!


【ナレーション】

 どんぐりの背比(せくら)べとはこの事だろう。世界で弱いと遠い目をされる『2』と『3』が相手の弱さに言及(げんきゅう)した所で『お前が言うな』案件(あんけん)である。


【サード】

 どうすんだよぉ・・・マトモに攻撃出来るカードなんて無ェぞ・・・。


【ツヴァイ】

 どうしてお前は弱いのに正面(しょうめん)突破(とっぱ)しようとする? だから負けるんだろうが。


【サード】

 どうせ小細工(こざいく)する脳も持ち合わせてねェよ。


【ツヴァイ】

 ()ねるな。

 そうだな、俺ならこうする。


【サード】

 え、ちょ、それって・・・!


【ナレーション】

 ツヴァイは並べられた五枚のカードのうち、二枚を提示(ていじ)した。

 サードは(あわ)てる。

 その二枚はサードが『マトモに攻撃出来そうにない』と切り捨てたカードだった。

 カードは複数使って〈能力(スキル)〉を組み合わせる事が出来るとは言え、その二枚はどうやって組み合わせても相手の陣地(じんち)に届く前に消えてしまうような物だったからだ。


【ツヴァイ】

 サード、HIGH & LOWは。時間を掛ければ掛けるほど負ける確率が高くなる。

 だから一度目で決めろ。それで決められないなら秘術を使う。


 それでも決められないならば棄権(きけん)しろ。無理に(いど)んで消えるより不戦敗(ふせんはい)屈辱(くつじょく)(あじ)わうほうがずっと良い。


【サード】

 なあ・・・、ツヴァイはどうしてそんなに、HIGH & LOWについて―――


【ツヴァイ】

 無駄(むだ)話はアイツらの一人を消してからだ。


【リッパー】

 さて長い話し合いの(すえ)、サードとツヴァイが出したカードは二枚! 一枚目の数字は『5』! おぉう・・・相変わらず同情も()さない数字の弱さだァ! 〈能力(スキル)〉は〜・・・? 〈(ハンド)〉!? 威力は『15』ですから、成人男性三人分くらいの大きさですかね? で、では! 二枚目の数字は! 『3』! ・・・私がカードを引いてあげたいくらい可哀想(かわいそう)です!! 〈能力(スキル)〉は〜・・・〈移動(ムーブ)〉? はてさて・・・彼ら二人が何をもってこのカードを出したのか私にはさっぱり分かりません! これには相手チームも苦笑(くしょう)です。・・・っと、ツヴァイが秘術ステッキを振りました! ゲームマスターが確認致します!


 ・・・な、なになに? ツヴァイが使ったのはサードの秘術! <意思の巨大化(イベクショナリー)>! な、ななな何と! 〈(ハンド)〉がこれ以上にないほど大きくなりました!! なるほど、サードの秘術は〈能力(スキル)〉の威力(いりょく)増幅(ぞうふく)させるものだったのですね!

 今まで誰もが・・・いや、本人ですら首を(かし)げ持て(あま)してきた秘術を花開(はなひら)かせたのはもしや、最弱最小のツヴァイなのでしょうか!?


 おおっと!? そんな事を言っている間にサードの秘術で巨大化した〈(ハンド)〉が相手の陣地に〈移動(ムーブ)〉していきます! 本来(ほんらい)移動(ムーブ)〉は自らが相手の陣地に入る為の〈能力(スキル)〉ですが、巨大化した〈(ハンド)〉を動かす為に使うとは・・・! 彼らがこの二枚をこのタイミングで出してきた事にこのリッパー! 感服(かんぷく)致します!!!!


【ナレーション】

 キィィィィンとハウリングするのも気にせずにリッパーはマイクに向かって(さけ)ぶ。観客席は大荒(おおあ)れだ。


 サードとツヴァイを応援する者、批難(ひなん)する者、面白いと(なが)める者、手に(あせ)(にぎ)(いの)る者、豪腕(ごうわん)末裔(まつえい)の終わりを(さと)る者・・・。


 (みな)それぞれ理由は違うけれど『この試合は何かを大きく変える』と。そう感じて()まない鼓動(こどう)が聞こえた。


【ツヴァイ】

 サード、笑え。


【サード】

 ・・・っへ、えっ・・・!?


【ツヴァイ】

 勝利を確信して笑え。笑ってやれ、奴らを。散々お前を馬鹿にして笑ってきた奴らに、お前の勝利を教えてやれ。


【ナレーション】

 自分に笑えと言いながらも仏頂面(ぶっちょうめん)なツヴァイにサードは無理やり(くちびる)を上げる。

 しかしそれは相手の陣地の蝋燭(ろうそく)を自分の秘術で巨大化した〈(ハンド)〉が消し()るうちに(ゆが)んでいった。


 やっと、勝てる。

 夢にまで見た勝利の道が、目の前に。


 嬉しくて、嬉しくて。


 豪腕(ごうわん)末裔(まつえい)の二つ名を持つ〈数字の箱(シュレガー)〉。その陣地の蝋燭(ろうそく)の火が全て消えた時、


 サードの目から涙が(こぼ)れ落ち、試合会場は誰が何を言っているかも分からない歓声に(つつ)まれた。





【ナレーション】

 キィと、やはり油の足りないらしいイスへ優雅(ゆうが)に座るツヴァイ。その後ろでは怒涛(どとう)展開(てんかい)(つか)()てたらしいサードが毛布に(くる)まってソファで眠っていた。


 HIGH & LOW、第一試合。

 見事に勝利を(おさ)めた最弱〈数字の箱(シュレガー)〉の二人は第二試合を棄権(きけん)し、不戦敗(ふせんはい)した。

 しかし第一試合に勝ったのは事実でそれに(おもて)()って文句を言おうとする(やから)も会場にはもう居なかった。


 HIGH & LOWは敗者(はいしゃ)が消える戦いだ。消す相手をツヴァイはサードに決めさせた。ツヴァイが消したい相手はただ一人、優しいだけが取り()の父親だからだ。


 サードは迷いなく『(キング)』のアレキサンダーを指差(ゆびさ)して彼が悲鳴を上げて消えていくのを黙って見送った。


 そのすぐ後に緊張が()けて気を失ったサードを(かつ)いでオフィスに連れ帰ったのは他でもないツヴァイだ。


【ツヴァイ】

 たった一試合で(なさ)けないことだ。


【ナレーション】

 そうツヴァイが(つぶや)いた時、オフィスのドアが開いた。そこに居たのは『(クイーン)』のエリザベスだった。


【エリザベス】

 貴方がツヴァイちゃん? 良い試合、見させてもらったわん。・・・サードちゃんはぁ〜・・・ふふ、寝ちゃってるのねんっ。


【ツヴァイ】

 何の用だ、守銭奴(しゅせんど)HIGH(ハイ)。ウチに金は無いぞ。


【エリザベス】

 ふふ、お金なんて欲しくないわよ。

 皆アタシの欲しい物が手に入れられないから仕方なくお金を持ってきて戦力(せんりょく)になって下さいって頭を下げてくるの。


 でもそんなのも、もうやーめ。

 ねえ、ツヴァイちゃん。サードちゃんが形式上のリーダーなのは承知(しょうち)(うえ)で貴方にお願いなんだけれどぉ。


【ツヴァイ】

 何だ。


【エリザベス】

 アタシを、この〈数字の箱(シュレガー)〉に・・・入れてくれない? 戦力には絶対なるわよん?


【ツヴァイ】

 ・・・、なるほど。

 お前、数字は?


【エリザベス】

 アタシは『(クイーン)』。『12』よ。

 貴方が(つく)り上げる試合、もっと見たくなっちゃった。


 アタシじゃあ、不満(ふまん)


【ナレーション】

 妖艶(ようえん)な雰囲気でそう問い掛けてくるエリザベスにツヴァイは笑う。

 そうしてこう言ったのだ―――。


【ツヴァイ】


 その言葉、待ってた。


【ナレーション】

(ゆっくりと)


 ―――下克上(げこくじょう)は終わらない。













STORY END.

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