【色彩踊る巫女姫の舞】
声劇タイトルは
【しきさいおどるみこきのまい】と読みます。
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♂1:♀2:不問2
自信なさげな巫女 ♀ セリフ数:10
紅く煌めく美神 ♀ セリフ数:6
蒼く優しい幼神 ♂ セリフ数:5
両神を統べる村の神様 不問 セリフ数:12
ナレーション 不問 セリフ数:8
[あらすじ]《7分程度》
今日行われるのはその年一番大きく生った村特産の果実を村の神様に奉納する供えの儀式である。今年の巫女に選ばれた娘は村人が見守る中、足を一歩踏み出した―――。
【自信なさげな巫女】
今日…開かれます…し、神饌の巫女に…選ばれまして、誠に、…う、嬉しく思います。
我らが氏神様…わ、我らを見守りし…紅神様、蒼神様、お、お陰様で…今年も良い果実が実りました。
……な、中でも一等良いものを巫女の…、ま、舞と共に捧げま…す。
【ナレーション】
時折、噛みながらも最後まで口上を終え、娘はふぅ、と誰にも聞こえぬようにため息を吐く。
そうして娘には少し重いらしい特注の錫杖を両の手でしっかりと持ちシャンっと鳴らした。
それが合図だったように娘の背後で口上を聞いていた村人達が一斉にそれぞれ楽器を持ち、演奏を始めた。
娘は錫杖を傍に立て掛けてスイっと指先を空へ向けた。
【紅く煌めく美神】
おやまぁ、今年も始まったねぇ。
うんうん、この重苦しくも可憐な曲調。数千年前から何一つ変わっちゃいない。それにほうら、あの巫女だって昨年に比べれば断然上手く舞えてる。
おい、蒼神! こちらへ来て見てみなよッ!
【蒼く優しい幼神】
あれは ことしの みこ?
ずいぶん ふらふら してるけど だいじょうぶ? まぁ さくねんみたいに ずっこけて そなえまで だめに してしまう なんてことは なさそうだけど。
そういえば うじがみさまは?
またむらびと の さけでも ひっかけてるの?
【紅く煌めく美神】
あんれぇ? さっきまでここに居たんだけどな。まあいいさ。舞が終わる頃には戻るだろうさ。
毎年毎年ご苦労なこってな。村が豊かなのはアタシらのお陰だなんて馬鹿な人間達だ。
人間達の努力の結晶だろうに。
【蒼く優しい幼神】
かんちがい でも しんこうされれば ボクらは たもたれる。じっさいに すくわれてるのは ボクらの ほうだ。
それに どうしたって ボクらの こえは あちらには とどかない。
すうせんねんも このまま なんだから ほうっておけばいいよ。
【紅く煌めく美神】
まぁ確かにそうさねぇ。アタシらは氏神の眷属。信仰が無けりゃあ瞬く間に消えちまう。
しっかしなぁ、人間ほどじゃないが多少心が痛むのは避けられんなぁ。
【蒼く優しい幼神】
おまえは “あか” のくせに りちぎだね。
そろそろ まいが おわるよ。
うじがみさまを さがしてきて。
【紅く煌めく美神】
あいよッ!
【ナレーション】
人間達の遥か頭上で行われる神様達の会話は当然、人間達に聞こえるはずもなく、巫女の舞はそろそろ終盤に差し掛かろうとしていた。
とんとん、と簡易的に作った舞台の上で巫女が踏み踊る音が聞こえる。
そんな時だ。
びゅう、と風が吹いた。珍しい、と演奏中の村人達が目を瞑りながら思う。それは巫女も同じだった。
この辺りは冬の一時期しか強い風は吹かない。今は春で一番穏やかな気候のはずだった。
【両神を統べる村の神様】
やあ、愛い巫女よ。
ワタシの声が聞こえるかの?
【自信なさげな巫女】
え……ぇえっ!?
【ナレーション】
巫女は驚き、声を上げた。
しかし背後の演奏は止まっておらず、終盤の激しさのまま続いている。
巫女は思わず周りを見渡す。
演奏を続ける村人や、舞台を眺める村人、楽しそうに酒を飲み交わす村人が居た。
【自信なさげな巫女】
これは、いったい……。
【両神を統べる村の神様】
村の者からすれば其方は楽しげに踊っておるのだ。そう、警戒せずとも後には何も遺らん。心配もせんで良い。
【ナレーション】
巫女は頭に響く誰かの声に周りを見渡すのをやめる。そうして空を眺めてこう言ったのだ。
【自信なさげな巫女】
あ、あの……貴方様は…氏神様なのですか?
【両神を統べる村の神様】
左様。
今年の巫女に何やら懐かしい気配を感じての。様子だけ見るつもりが、ついつい会いに来てしもうた。すまんのぉ。
【自信なさげな巫女】
う、氏神様……。
本当に、ホンモノですか……?
【両神を統べる村の神様】
何だ、神を疑うのか? ワタシは正真正銘、この村の神様での。
【自信なさげな巫女】
非才の身が、も、申し訳ございません……!
【両神を統べる村の神様】
それよか其方、血縁に巫女の者は居らんか?
【ナレーション】
巫女の謝罪を受け流した氏神は彼女にそう聞いた。巫女はまずその質問に驚いてそれからウーンと悩み出す。
【自信なさげな巫女】
た、多分ですけど…私の……曾祖母…ではないでしょうか…。
祖母も母も私の事を曾祖母に似ていると…よ、よく言っています。
【両神を統べる村の神様】
なるほどのぉ。して、その曾祖母は?
【自信なさげな巫女】
えっと、私が生まれる少し前に…な、亡くなったと。
【両神を統べる村の神様】
……そうか、人は短命だの。
【ナレーション】
氏神はそう、悲しそうに呟いた。巫女は何と言えばいいか分からず俯いた。
【両神を統べる村の神様】
なぁに、そんな顔をするでない。
人は薄命で短命。分かっていた事だ。残念だがのぉ。
ではワタシはそろそろ行くとしよう。あまり下界に居ては世界の調和を崩しかねん。
【自信なさげな巫女】
あ、あの…あの、氏神様!
【両神を統べる村の神様】
何だ?
【自信なさげな巫女】
私、今日、貴方様にお会いできた事、生涯忘れません! 絶対! 絶対に!
【両神を統べる村の神様】
・・・・・・・・・。
そうか、ではワタシも暫しの間、其方を記憶に留めておこう。
【ナレーション】
ではさらばだ、と氏神が手を振った途端、周りの空気が戻る。
巫女は戸惑いながらも演奏に合わせ、舞った。その様子を眺めながら両神の待つ場まで戻った氏神は――。
【紅く煌めく美神】
何だい、氏神様! 小難しい顔してるね! あの巫女と何話してたんだい?
【蒼く優しい幼神】
あんまり ふみこんでは だめだよ あか。 うじがみさまは あのみこに みほれちゃったんだよ。
【両神を統べる村の神様】
紅! 蒼! 静かにしないか、演奏も舞もよく聞こえんし見えん! それにワタシが見惚れたのは舞の方だ! 言ったろう、懐かしい気配がすると……!
【紅く煌めく美神】
あんれぇ? その時の巫女にも同じ事言ってなかったぁ?
(わざとらしく演技がかった声で)
「懐かしい気配がしたもんでな、来てみたら随分愛い巫女が居たもんだ」
【蒼く優しい幼神】
うじがみさま ってば そんなに こわぁいかおして ほれっぽいんだから こまるよね。 まいとし まいとし おどってるみこに ほれては なつかしい だとか うい だとか いって あいにいっちゃうんだから。
【両神を統べる村の神様】
喧しいと言っておろう! 全くワタシの眷属はワタシを敬う気はないのか!?
【ナレーション】
儀式を楽しむ人間達には聞こえぬ神達の戯れ。氏神は意地悪な顔をした両神を叱りつけながら前より随分と清々しい表情をした巫女の舞を眺めていたのだった。
STORY END.




