【DEATHTOPIA・EDEN III】
声劇タイトルは
【デストピア・エデン スリー】と読みます。
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♂2:♀1:不問2
笑えない少年 ♂ セリフ数:11
酒癖の悪い男 ♂ セリフ数:10
作家になれなかった女 ♀ セリフ数:12
塔の管理人 不問 セリフ数:5
ナレーション 不問 セリフ数:14
[あらすじ]《8分程度》
人間が残り少なくなった時代。宇宙から飛来してきた生命体は人間撲滅を目標に地球を駆け回っていた。…これは、そんな生命体に果敢に挑む戦士達の物語である―――。
【ナレーション】
お粥を食べ終えた少年は、部屋に戻ってしまった発明家の事を少し考えながら、いつの間にか隣へ来て酒を飲む男を見遣った。
【酒癖の悪い男】
あァ? どォした?
【笑えない少年】
僕のトビラってどれ?
【酒癖の悪い男】
あァー・・・。
【ナレーション】
歯切れの悪い男の返事に『あ、これは何も用意されてない』のだと察した少年は、ため息をつこうとして思い留まる。
男だって、自分を助ける為に外に出た訳ではないだろうし、ココに着いて、疲れで眠ってしまったのは自分だ。
少年は無意識に甘えきってしまいそうになった事を、密かに反省した。
【酒癖の悪い男】
お前一人にすっと面倒そうだからなァ。
管理人、俺の部屋にアレはまだあったかァ?
【塔の管理人】
エェ、ソノママ残シテアリマスヨ。
同室ニシマスカ? 五階ニハ、同ジ年頃ノ子供ガ居タト思イマスガ。
【酒癖の悪い男】
あんなもんと一緒にしたら、真っ先におかしくなっちまうのはコイツだ。慣れるまで俺の部屋でいい。
【ナレーション】
男と管理人の会話に、少年は自分には分からないと顔を逸らす。逸らした先で質素なトビラが一つ開いた。
【酒癖の悪い男】
今日は珍しい奴が多いな。
【作家になれなかった女】
おやまぁ、この時間は狩りではないのか。勇敢なる戦士様。・・・っと、その子は・・・隠し子か?
【酒癖の悪い男】
ンな訳あるかっ
【ナレーション】
質素なトビラから出てきたのは、茶色の長い髪を無造作に結わえた、色気のある女性だった。
女性の冗談めいた言葉に男は眉を寄せた。
その答に女性はクツクツと笑い、少年に近寄った。
【作家になれなかった女】
やあ、少年。初めまして。
私は作家になれずに、ただ揺蕩うように生きている役立たずさ。
作家は英語でWriter。ライと呼ぶ人間が多い。そう呼びなさい。
【笑えない少年】
ライ、・・・さん。
【ナレーション】
女性の自己紹介に少年は、少しだけ残念だと思った。自分を卑下してしまうのが。それを笑顔で、何ともないように。宣えてしまえるのが、少しだけ羨ましく思った。
【笑えない少年】
ライさんは・・・、作家になりたかったの?
【作家になれなかった女】
いンや。作家になろうなんぞ思ってなかった。しかし周りが私に期待した。その期待に少しでも応えたいと思うのは、人間の性だろう? しかし私はなれなかった。それだけだ。
【笑えない少年】
・・・ライさんは・・・、
【ナレーション】
少年は少しだけ言い淀んだ。
この言葉は、彼女を傷つけてしまう可能性が高い。少年だって無為に人を傷つけたいとは思わない。
しかし女性はそんな少年を促した。
【作家になれなかった女】
どうした、少年。言いたい事があるのだろう?
【笑えない少年】
貴方は、自分を・・・愚かだと思ってるの?
【作家になれなかった女】
……………………。
【ナレーション】
少年のたどたどしい言葉に、女性は目を瞠った。驚いたのだ。
大抵の人間は自分を叱る。そんな事を言ってはならないのだと。自分を責めてはならないのだと。
しかし女性は、自分の境遇を『そんな事』と分類された事に腹が立った。自分を責めてはいない事を理解してもらおうとしたが無理だった。
だけれど自分を紹介する言葉は一つ足りとも変えなかった。いつか、自分の欲しい言葉をくれる者を待つようになった。
…そうでなくとも、今までの愚者のような平凡な言葉以外の何かが欲しかったのだ。
だからこそ女性は驚いた。
こんな、まだ世間の物事を半分も理解していないような少年の口から。
自分が、一番欲しかった言葉が出てくるとは思わなかったのだ。
【作家になれなかった女】
しょ、少年・・・。一つ、聞きたいんだが。
【笑えない少年】
………………?
【作家になれなかった女】
……その、
人生二回目とかではないか?
【笑えない少年】
・・・。
【ナレーション】
一瞬の静寂。
少年は自分が何を言われたのか分からないのか、女性を見つめたまま黙り込んだ。
そんな少年を見つめて、女性がハッと我に返ると同時にカウンター席で酒を飲んでいた男がブハッと吹き出した。
【酒癖の悪い男】
何言ってんだお前。
【作家になれなかった女】
いや、あまりに聡慧なので…つい。
【酒癖の悪い男】
まっ、俺が気に入ったぐらいだ。
将来大物になりそうだろ?
【作家になれなかった女】
・・・まぁ、少なくとも。小物にはなれそうもないな。
【ナレーション】
そんな女性と男のやり取りを不思議そうに見つめる少年。彼は自分の問いに答えてもらっていない事に気付いていたが、調弄されたのだと思い込んで黙っている事にした。
そんな少年の思考には気付かず、女性は欲しかった言葉に疑問符が付いていたのを思い出して少年に向き直る。
【作家になれなかった女】
・・・ああ、そうだ。少年。
私は、優し過ぎたんだ。お人好し過ぎたんだ。それを止める奴も、咎める奴も居なかったからその優しさが愚かになったのだ。
私がそれに気付いたのはずっと先になってからで、もう取り返しはつかなくなっていた。だけれど、それを私以外の誰かに指摘して欲しかったのかもしれない。
ありがとう、少年。
私の欲しい言葉をくれて。
【ナレーション】
女性の言葉に少年は少しだけ首を傾けてそれからコクリと頷いた。
意図しない、傷付ける可能性の高い言葉が彼女の為となったのは偶然だろう。例えるならばそれはカチリと嵌ったパズルのピースのようで。
少年は自惚れそうになるのを必死で堪えながらため息を零した。
【塔の管理人】
ライ。何用デ出テキタンデスカ。イツモナラ、休日クライシカ出テコナイデショウ?
【作家になれなかった女】
ああ、メガネに塗り薬を頼んでたんだが予定の完成日はとっくに過ぎていてな。
幸い、アイツの部屋は私の向かい。どうせ嫁とやらに夢中なのだろうから催促しに行こうと思ってな。
【塔の管理人】
ナルホド。アァ、小サナ人間サン。コレヲ渡シテオキマショウ。
【笑えない少年】
これ、カギ?
【塔の管理人】
ハイ。彼ト同ジ部屋ノカギデス。
彼ハ戦士デスカラネ。昼間ハ狩リニ出テイルノデ、ソノ間部屋ニ入レナイノハ嫌デショウ?
【笑えない少年】
・・・そうだね、ありがとう。
【ナレーション】
少年は管理人から何の変哲もない普通の形のカギを受け取る。しかしそれは、家族の死体に寄り添う事も出来ず、身一つで逃げ出してきた少年にとって宝物のように輝いていた事だろう。
【笑えない少年】
・・・・・・ありがとう。
【ナレーション】
もう一度、噛み締めるように礼を言った少年に管理人はイエイエ、と応えた。
それを見た酒癖の悪い男はよっこらしょ、などとジジ臭い事を呟いて立ち上がる。
【酒癖の悪い男】
やっと落ち着いて話が出来ンなァ。
おい、坊主。行くぞォ。
【笑えない少年】
・・・う、うん・・・!
【ナレーション】
慌てた様子で男について行く少年。
それを見た女性はポツリと呟いた。
【作家になれなかった女】
なるほど、子連れオオカミ。
【塔の管理人】
アア、ナルホド。合点ガイキマシタ。
【酒癖の悪い男】
聞こえてんだよォ、クソ野郎共。
だァれが子連れオオカミだ。
【ナレーション】
そう言い残して男は真っ赤なトビラの先へ。
『エデンの塔』で一番と名高い戦士様は酒の匂いを漂わせながら小さなヒヨコと比喩されてもおかしくないか弱い少年を連れて行く。
それを見た女性と管理人は顔を見合わせておかしそうに肩を震わせたのだった。
STORY END.




