【可哀想になりたいのです!】
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♂2:♀2:不問1
気怠げな幹部 ♂ セリフ数:8
チャラい幹部 ♂ セリフ数:5
組長の一人娘 ♀ セリフ数:8
妖艶な妻 ♀ セリフ数:4
ナレーション 不問 セリフ数:11
[あらすじ]《6分半程度》
お父様、お話があります。
まだ幼さの残る娘の言葉に意味もなく姿勢を正したのは巷では良い意味で有名な西堂組の組長。普段はあまり話し掛けてこない娘の次の言葉を待った―――。
【組長の一人娘】
お父様、私。
可哀想になりたいです。
【ナレーション】
淡々と。まるで、明日の天気は雨みたいです。なんて言うように。幹部や下っ端やらが集うこの大広間でそう宣ったのは西堂組組長の一人娘であった。
歳は11とまだまだガキんちょと呼ばれる部類だが、普段からヤクザに囲まれて暮らしているからか言動はとても大人びている。
そんな彼女から出た『可哀想になりたい』などという訳の分からぬ願いに組長である西堂 菅十郎は目眩を覚えた。
【気怠げな幹部】
組長、いくらお嬢の言葉があまりに現実味を帯びてないからって息止めないでください。
【チャラい幹部】
あ、あーっと・・・お嬢? どういう事ですかね? そもそも俺っち達にはお嬢がなんと言ったのか・・・
【気怠げな幹部】
あ、馬鹿―――…!
【組長の一人娘】
ですから、私。可哀想になりたいのです! お父様、私を可哀想にしてください!
【ナレーション】
娘の言葉は菅十郎の心にグサリと突き刺さり、チーンという効果音と共に彼の口から魂が抜き出る。
【チャラい幹部】
あ、あら・・・?
【気怠げな幹部】
あらじゃねぇよ。何、追ダメージ負わせてんの。・・・とりあえず組長は姐さんの所へ。・・・お嬢。俺とこちらへ。
【ナレーション】
組長が戦闘不能になり、騒然となる大広間で気怠げな青年は面倒そうにネクタイを緩めると娘の側へと跪く。
チャラいオジサマ系の幹部は意図せぬ追ダメージを組長に与えてしまい少しだけ反省する。
魂が抜け、動けない組長を担ぎ上げるとそそくさと大広間を出て行った。
(少し間を空ける)
所変わって静かな個室。
行儀宜しく正座をしている娘の向かいには先程の気怠そうな青年が。こう見えても西堂組の幹部を務める若きエリートである。
【気怠げな幹部】
お嬢。何も俺はお嬢を叱りつけたい訳ではありません。何故あんな事言ったのです。突然そんな事を言われては、いくら死線を潜り抜けてきた組長と言えど卒倒したくなりますよ。
【組長の一人娘】
・・・私、先程公園で遊んでいたのよ。
ヤクザの娘だけれど友達だって居るし。護衛なんて物騒な人も居ないし。
【気怠げな幹部】
そう、ですか・・・。
【ナレーション】
彼女の言葉に気怠げな青年は少し目を逸らしながら返事をする。彼女の死角にはいつも怖い顔をした護衛が居る事を彼は知っているからだ。
歯切れの悪い返事に気付いた様子もなく、娘は話を続ける。
【組長の一人娘】
・・・鬼ごっこをしていたの。
そうしたら、お友達の一人が転んじゃってね、遠くで見てたお友達のお父様が駆け寄ってきてお友達を抱き締めたの。
それで言ったのよ。
『可哀想にね〜』って。
【ナレーション】
気怠げな青年は天を仰ぐ。
この一人娘は外見こそ妖艶美妙な母親にそっくりだが、中身は寡黙で不器用な父親…西堂組組長にそっくりなのである。
時たま、同盟組織の末端より本当に組長の娘なのかという疑心をぶつけられる事もあるが、そんなものは話してみれば一目瞭然なので無視している。
と、まぁ。脱線はこの程度に収めて本題へ戻ろう。
どうやらこの一人娘は足元の不注意で転んだ友人に駆け寄ってきた父親が友人を抱き締めた事が羨ましいようだった。
【妖艶な妻】
馬鹿ね、馬鹿な子だわ。相変わらず。
【ナレーション】
個室の襖が開く。
着崩した着物を、それでも小綺麗に見えるよう着こなした女性が一人、後ろにあのチャラい幹部を連れて入ってきた。
彼女こそが西堂組組長の妻である。
【組長の一人娘】
馬鹿って、酷いです。お母様!
【妖艶な妻】
酷かないさね。
可哀想になってどうするつもり? あの組長に抱き締めてもらうの? そんなの、あの組長が可哀想よ。
【組長の一人娘】
可哀想・・・ですか・・・?
【妖艶な妻】
えぇ、そうよ。普通に『抱き締めて欲しい』って言えばいいじゃないか。そうしたらあの組長は喜んでお前を抱き締めるさ。みんなハッピーでめでたしめでたしよ。
でもどう? 反して可哀想になっちまったお前を抱き締める組長は。笑ってるかしら?
【ナレーション】
妻の言葉にハッとなる娘は目を数回パチパチと瞬いてウーンと考え込み始めた。
【チャラい幹部】
さ〜すがは姐さんだ。
俺っち達じゃ、あんな教え方は出来ねェ。
【気怠げな幹部】
・・・で、組長は?
【チャラい幹部】
目ェ回して寝込んでらァ。
姐さんは鼻で笑ってこっち来ちまったんで詳しい事はアニキ達に聞いてなァ。
【気怠げな幹部】
姐さんらしいと言えばらしいか。
【ナレーション】
考え込む娘を置いておいて幹部の二人は身を寄せ合って話し込む。組でも新参に入るこの二人は普段からも仕事でタッグを組むほどの仲である。
【組長の一人娘】
・・・・・・分かりましたわ、お母様・・・。
【ナレーション】
神妙な顔つきになった娘はそう言って膝の上で拳を作る。
【組長の一人娘】
つまり私は、お父様に抱き締めて欲しかったのですね!!
【ナレーション】
かくん、と転けなかった自分達を褒めたいと妻も幹部達も思った。
立ち上がってグッと拳を握り締める一人娘には悪いけれどそこからか・・・! と蹲りたい気持ちだった。
【妖艶な妻】
自分に無頓着なのか・・・無自覚が過ぎるのか・・・。内面もアタシに似りゃあ、ちっとは男の振り回し方ってのも教えられたんだけどね。
【気怠げな幹部】
いや、ある意味振り回されてますけどね。
【チャラい幹部】
内面が組長似だからこそのお嬢っすよ。
【ナレーション】
そんな会話をしながら一人、生き生きとする娘を見つめる三人。
余談だが、体調の戻った組長へ抱き締めて欲しいと素直に頼んだ娘を彼が抱き締めたかというのは・・・まぁ、言わずもがなと言ったところだろうか。
今日も西堂組は平和である。
STORY END.




