表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
五人用声劇台本  作者: SOUYA.(シメジ)
台本一覧
11/16

【可哀想になりたいのです!】

台本ご利用前は必ず『利用規約』をお読み下さい。

『利用規約』を読まない/守らない方の台本利用は一切認めません。


※台本の利用規約は1ページ目にありますので、お手数ですが、『目次』をタップ/クリック下さい。

 ♂2:♀2:不問1


 気怠(けだる)げな幹部 ♂ セリフ数:8


 チャラい幹部 ♂ セリフ数:5


 組長の一人娘 ♀ セリフ数:8


 妖艶(ようえん)な妻 ♀ セリフ数:4


 ナレーション 不問 セリフ数:11


[あらすじ]《6分半程度》

 お父様、お話があります。

 まだ幼さの残る娘の言葉に意味もなく姿勢を正したのは(ちまた)では良い意味で有名な西堂(せいどう)組の組長。普段はあまり話し掛けてこない娘の次の言葉を待った―――。







【組長の一人娘】

 お父様、(わたくし)


 可哀想(かわいそう)になりたいです。


【ナレーション】

 淡々(たんたん)と。まるで、明日の天気は雨みたいです。なんて言うように。幹部や下っ端やらが(つど)うこの大広間でそう(のたま)ったのは西堂(せいどう)組組長の一人娘であった。


 歳は11とまだまだガキんちょと呼ばれる部類だが、普段からヤクザに囲まれて暮らしているからか言動はとても大人びている。

 そんな彼女から出た『可哀想になりたい』などという訳の分からぬ願いに組長である西堂(せいどう) 菅十郎(かんじゅうろう)目眩(めまい)を覚えた。


【気怠げな幹部】

 組長、いくらお嬢の言葉があまりに現実味を()びてないからって息止めないでください。


【チャラい幹部】

 あ、あーっと・・・お嬢? どういう事ですかね? そもそも俺っち達にはお嬢がなんと言ったのか・・・


【気怠げな幹部】

 あ、馬鹿―――…!


【組長の一人娘】

 ですから、私。可哀想になりたいのです! お父様、私を可哀想にしてください!


【ナレーション】

 娘の言葉は菅十郎(かんじゅうろう)の心にグサリと突き刺さり、チーンという効果音と共に彼の口から(たましい)が抜き出る。


【チャラい幹部】

 あ、あら・・・?


【気怠げな幹部】

 あらじゃねぇよ。何、(つい)ダメージ負わせてんの。・・・とりあえず組長は(あね)さんの所へ。・・・お嬢。俺とこちらへ。


【ナレーション】

 組長が戦闘不能になり、騒然(そうぜん)となる大広間で気怠(けだる)げな青年は面倒そうにネクタイを(ゆる)めると娘の(そば)へと(ひざまづ)く。


 チャラいオジサマ系の幹部は意図(いと)せぬ(つい)ダメージを組長に与えてしまい少しだけ反省する。

 魂が抜け、動けない組長を(かつ)ぎ上げるとそそくさと大広間を出て行った。


(少し間を空ける)


 所変わって静かな個室。

 行儀(ぎょうぎ)(よろ)しく正座をしている娘の向かいには先程の気怠そうな青年が。こう見えても西堂(せいどう)組の幹部を務める若きエリートである。


【気怠げな幹部】

 お嬢。何も俺はお嬢を(しか)りつけたい訳ではありません。何故(なにゆえ)あんな事言ったのです。突然そんな事を言われては、いくら死線(しせん)(くぐ)り抜けてきた組長と言えど卒倒(そっとう)したくなりますよ。


【組長の一人娘】

 ・・・私、先程公園で遊んでいたのよ。

 ヤクザの娘だけれど友達だって居るし。護衛(ごえい)なんて物騒な人も居ないし。


【気怠げな幹部】

 そう、ですか・・・。


【ナレーション】

 彼女の言葉に気怠げな青年は少し目を()らしながら返事をする。彼女の死角(しかく)にはいつも怖い顔をした護衛が居る事を彼は知っているからだ。

 歯切(はぎ)れの悪い返事に気付いた様子もなく、娘は話を続ける。


【組長の一人娘】

 ・・・鬼ごっこをしていたの。

 そうしたら、お友達の一人が転んじゃってね、遠くで見てたお友達のお父様が駆け寄ってきてお友達を抱き締めたの。

 それで言ったのよ。


『可哀想にね〜』って。


【ナレーション】

 気怠げな青年は(てん)(あお)ぐ。

 この一人娘は外見こそ妖艶美妙(ようえんびみょう)な母親にそっくりだが、中身は寡黙(かもく)で不器用な父親…西堂(せいどう)組組長にそっくりなのである。


 時たま、同盟組織の末端(まったん)より本当に組長の娘なのかという疑心(ぎしん)をぶつけられる事もあるが、そんなものは話してみれば一目瞭然(いちもくりょうぜん)なので無視している。


 と、まぁ。脱線(だっせん)はこの程度に収めて本題へ戻ろう。


 どうやらこの一人娘は足元の不注意で転んだ友人に駆け寄ってきた父親が友人を抱き締めた事が(うらや)ましいようだった。


【妖艶な妻】

 馬鹿ね、馬鹿な子だわ。相変わらず。


【ナレーション】

 個室の(ふすま)が開く。

 着崩(きくず)した着物を、それでも小綺麗に見えるよう着こなした女性が一人、後ろにあのチャラい幹部を連れて入ってきた。


 彼女こそが西堂(せいどう)組組長の妻である。


【組長の一人娘】

 馬鹿って、(ひど)いです。お母様!


【妖艶な妻】

 酷かないさね。

 可哀想になってどうするつもり? あの組長(おバカ)に抱き締めてもらうの? そんなの、あの組長(おバカ)が可哀想よ。


【組長の一人娘】

 可哀想・・・ですか・・・?


【妖艶な妻】

 えぇ、そうよ。普通に『抱き締めて欲しい』って言えばいいじゃないか。そうしたらあの組長(おバカ)は喜んでお前を抱き締めるさ。みんなハッピーでめでたしめでたしよ。

 でもどう? (はん)して可哀想になっちまったお前を抱き締める組長(おバカ)は。笑ってるかしら?


【ナレーション】

 妻の言葉にハッとなる娘は目を数回パチパチと(またた)いてウーンと考え込み始めた。


【チャラい幹部】

 さ〜すがは(あね)さんだ。

 俺っち達じゃ、あんな教え方は出来ねェ。


【気怠げな幹部】

 ・・・で、組長は?


【チャラい幹部】

 目ェ回して寝込(ねこ)んでらァ。

 (あね)さんは鼻で笑ってこっち来ちまったんで詳しい事はアニキ達に聞いてなァ。


【気怠げな幹部】

 (あね)さんらしいと言えばらしいか。


【ナレーション】

 考え込む娘を置いておいて幹部の二人は身を寄せ合って話し込む。組でも新参(しんざん)に入るこの二人は普段からも仕事でタッグを組むほどの仲である。


【組長の一人娘】

 ・・・・・・分かりましたわ、お母様・・・。


【ナレーション】

 神妙(しんみょう)な顔つきになった娘はそう言って(ひざ)の上で(こぶし)を作る。


【組長の一人娘】

 つまり私は、お父様に抱き締めて欲しかったのですね!!


【ナレーション】

 かくん、と()けなかった自分達を褒めたいと妻も幹部達も思った。

 立ち上がってグッと拳を握り締める一人娘には悪いけれどそこからか・・・! と(うずくま)りたい気持ちだった。


【妖艶な妻】

 自分に無頓着(むとんちゃく)なのか・・・無自覚が過ぎるのか・・・。内面もアタシに似りゃあ、ちっとは男の振り回し方ってのも教えられたんだけどね。


【気怠げな幹部】

 いや、ある意味振り回されてますけどね。


【チャラい幹部】

 内面が組長似だからこそのお嬢っすよ。


【ナレーション】

 そんな会話をしながら一人、生き生きとする娘を見つめる三人。


 余談(よだん)だが、体調の戻った組長へ抱き締めて欲しいと素直に頼んだ娘を彼が抱き締めたかというのは・・・まぁ、言わずもがなと言ったところだろうか。


 今日も西堂(せいどう)組は平和である。











STORY END.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ