【DEATHTOPIA・EDEN Ⅱ】
声劇タイトルは
【デストピア・エデン ツー】と読みます。
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♂2:♀1:不問2
笑えない少年 ♂ セリフ数:24
酒癖の悪い男 ♂ セリフ数:17
発明家の少女 ♀ セリフ数:16
塔の管理人 不問 セリフ数:6
ナレーション 不問 セリフ数:18
[あらすじ]《13分半程度》
人間が残り少なくなった時代。宇宙から飛来してきた生命体は人間撲滅を目標に地球を駆け回っていた。…これは、そんな生命体に果敢に挑む戦士達の物語である―――。
【笑えない少年】
・・・ん、
【酒癖の悪い男】
おっ。起きたか坊主。2時間くらい寝てやがったぞ。
【ナレーション】
周りの騒がしさに目を覚ました少年は一瞬そこがどこなのか混乱し、暫くして理解した。
そうだ、生命体に家族を殺され追われていた時、男に救われこの拠点に来たのだった。
少年は寝起きの頭で自分に遭った事を少しずつ思い出しながら声のした方を見た。
少年を助けた男が甘ったるい酒を飲みながらニヤリと笑っていた。
【笑えない少年】
お、はよう・・・。
【酒癖の悪い男】
おう。夢見はどうだ?
【笑えない少年】
ユメミ? ・・・ああ、夢なら見てないよ。
【酒癖の悪い男】
まっ、こんな状況じゃそうだよな。
【ナレーション】
少年は男の言う事が理解できない風だったが、寝起きに聞かれることなど一つきりだという結論に至り、答を零す。
男は分かりきっていたように満足気に笑う。少年は彼と出会ってまだそんなに経っていないけれどよく笑う男だと思った。
【塔の管理人】
オヤ、目ガ覚メマシタカ。
オ腹ハ空イテイマセンカ? 喉ハ渇イテマセンカ? 怪我ナドシテイマシタラ手当テヲシナケレバナリマセンネ。
【酒癖の悪い男】
管理人・・・、そう矢継ぎ早に質問してやるな、戸惑ってんだろ。
【塔の管理人】
・・・。失礼。子供トハ繭ヲ扱ウヨウニ接スルモノダト、ヨク主人ガ言ッテイマシタノデ。
【笑えない少年】
………お腹は空いてない…、少し、喉が渇いたかも。
【塔の管理人】
・・・! デハ、ホットミルクヲ作ッテキマスネ……!
【ナレーション】
嬉々とした様子でバーのようになっているカウンターの奥へ消えた管理人に男はハァとため息を吐く。
【酒癖の悪い男】
あんな奴だったかァ? 普段はもっとこう、機械らしく落ち着いてて読めねェ奴なんだがなァ。
【笑えない少年】
管理人…さん、って機械っていうかアンドロイドなんでしょ? 管理人さんを作った人は亡くなってるって言ってたけど誰が修理とかしてるの?
【酒癖の悪い男】
何だお前。ちゃんと聞いてたのかよ。
【笑えない少年】
気を抜くなって言ったのは――
【酒癖の悪い男】
あー、はいはい。俺だ俺。
ったく・・・そういうトコが大物気質なんだっての。
管理人を修理してるのはあのピンクのトビラの向こうにいる発明家の女だ。歳はお前と近いし、会えば話が合うかもな。
【ナレーション】
男が指差したトビラは他のトビラより装飾が多く、女の子らしいものだった。
少年はそのトビラから順番に様々な形、模様、装飾の付いたトビラを見ていく。
中には生命体の機能停止済みの腕だったり、人間の頭部…に見せかけたマネキンなどが飾ってあるトビラもある。
少年はそれらの趣味が合わないトビラからそっと目を逸らした。
【笑えない少年】
……ここは、人間の最後の砦なんだね。
【ナレーション】
少年は突然にもそう言いたくなった。家族と家で、…閉鎖的な空間で、恐怖に脅えていた時はこんなに人間が生きているだなんて知らなかった。
ここは少年にとっても最後の砦になるんだろう、と。微かに思ったのだ。
しかし願望に男は首を振る。
【酒癖の悪い男】
さぁな。ココよりも最適な隠れ場所が世界のどっかにあるかもしれねェし、一概にココが『最後の砦』って言える訳じゃねェ…。でもここが『エデンの塔』なのは確かだなァ。
【塔の管理人】
エェ、ソウデス。
非弱ナ主人ガ、自分以外ノ人間ヲ守ル為ニ作ッタ、『エデンの塔』。“楽園”ト呼ブニハ少シ物騒ガ過ギマスガ…私ハ気ニ入ッテマス。
湯ヲ沸カスノニ手間取ッテシマイマシタ、ホットミルクヲドウゾ。
【笑えない少年】
あ、ありがとう…
【ナレーション】
男のセリフを受け継ぐように管理人は温かいホットミルクの入ったマグカップを少年に手渡しながらそう言った。
少年はそれを受け取りながら管理人が気分を害してないか気になったが、表情の読み取れない機械の顔面には何も映っていなかった。
【発明家の少女】
あ〜〜〜、また解析失敗〜。
アンちゃーん、温かいスープ作ってぇ。数字ばっかで頭おかしくなりそ〜。
【ナレーション】
そんな時だ。
男が先程指差したピンクのトビラが開いたのは。
中から出てきたのはドロドロに汚れた作業着を着た金髪の少女。短い髪はふわふわと可愛らしく跳ねており、化粧もマニキュアも、ピアスだってしている様子はないがとても可憐で素敵な子だと少年は思った。
【酒癖の悪い男】
おっ。噂をすれば何とやらだ。
よぉ、発明は進んでるかァ?
【発明家の少女】
あっれぇ〜〜〜? こんな時間に塔に居るなんてめっずらしいねぇ〜? そっちこそ人命救助はどったの〜・・・って、
きゃあああああッッ!!!!
【ナレーション】
男に話し掛けられた少女はまず男が居る事に驚いて男に近寄った。そうして男の陰に隠れて見えていなかった少年に嬉しそうな悲鳴を上げた。
男は咄嗟に少年の耳を塞いだが、少年は訳が分からぬ様子でホットミルクをちびちびと飲んでいた。こう見えて猫舌である。
【発明家の少女】
え、え、え〜〜〜!?!? 待って待って待って〜〜〜!?
こぉんなに可愛い子が居るなんて聞いてない〜〜!! え、知ってたらこんなボロボロの作業着じゃなくてクローゼットの奥に仕舞い込んだワンピースとか着たのに〜〜〜! あっっちょっと待って!? 油臭くない!? 一応、ここは共有スペースだし、香水は振ったんだけど〜! えぇええ〜聞いてないよぉ〜・・・。
【塔の管理人】
落チ着イテクダサイ。
【酒癖の悪い男】
落ち着け。
【発明家の少女】
落ち着けるか〜〜! あっっご、ごめんね煩いよねっ!? えっとえっと、えっとぉ〜・・・、少年ちゃん! お名前を聞くのはタブーだからどうしよう、えっとショタ君って呼んでいい〜〜? アタシは発明家さんでも発明家ちゃんでも何でも良いよぉ! 寧ろ何て呼ばれても返事するよ!?
【ナレーション】
発明家の少女は管理人と男の言葉を振り払い、未だ男に耳を塞がれたままの少年の前へシュバっと移動する。
男の手を少年に当たらないように押し退けてそう言う少女に少年は首を傾げる。
ああ、そうだ。と男は気付く。
この塔に連れて来てすぐ、少年が疲労で眠ってしまった為にこの塔の事をあまり説明出来ていないのだ。
この塔の外を闊歩する生命体のように通信をしてコミュニケーションをとる事は出来ない。
人間達が同じ空間で快適に暮らす為にはそれなりのルールが必要なのだ。
【酒癖の悪い男】
悪ィ、発明家。
まだ何も説明してねェんだわ。連れて来てまだ2時間も経ってねェし。
【発明家の少女】
つまりぃ〜〜! それってぇアタシの知識がこの子の糧になるって事〜〜〜?
【酒癖の悪い男】
何て?
【発明家の少女】
分かったぁ、了解〜〜! 着替えてくるから少し待っててねぇ〜〜!
【酒癖の悪い男】
こっちは何も分かっちゃいねェんだが・・・おーい。……聞いちゃいねェ。
【ナレーション】
言いたい事だけ言って部屋に戻っていった発明家に男は頭を掻きながらため息を吐く。管理人は頼まれたスープを作りにまたカウンターの奥へ消えた為、展開についていけない少年はマグカップの半分ほどになったホットミルクをまた啜った。
そうしてから少年は少女の言った事で気になる事を隣で自棄の様に酒を飲む男に聞いてみる事にした。
【笑えない少年】
名前を言うのって駄目な事なの?
【酒癖の悪い男】
この塔ではソレは絶対的に厳禁だ。まァ、聞かれて答えたからつって罰則がある訳じゃねェが・・・。
名前なんてのは喪った時の枷にしかならねェ。俺はもう自分の名前なんて忘れちまったし、使わねェし。
お前が忘れたければ忘れればいいし、忘れたくねェなら覚えときゃあいい。
ただ、名乗るのはやめとけ。最初に言ったろ。ココには精神の安定していない奴らが多い。名前なんてモン与えたら何するか分かったもんじゃねェ。・・・あの発明家はマシな方だ。
【笑えない少年】
・・・本当に名前忘れたの?
【酒癖の悪い男】
ああ。俺は忘れっぽいんだよ。
【ナレーション】
投げやるように言った男に少年は黙り込む。確証は無いけれど少年は男の言葉をウソだと感じた。名前が無くても生きてはいけそうだけれど、少年にとってソレはあまり考えたくない事だからだ。
そんな事を考えながら飲んでいたホットミルクを見つめて少年はぽつりと言う。
【笑えない少年】
お腹空いた・・・。
【酒癖の悪い男】
お前さっきは空いてないって言ったじゃねェか。
【笑えない少年】
さっきは本当に空いてなかったんだよ。
【ナレーション】
と、少年が言うと同時にきゅるる、と可愛らしく彼の腹が鳴る。それが聞こえたのか男はクックックと笑うとソファから立ち上がった。
【酒癖の悪い男】
管理人に催促してくらァ。
この時間は誰も出てこねェし、降りてこねェ。もしかしたら狩りに出た戦士が帰ってくるかもだが、接触しなけりゃあ関わってこねェからな。
【笑えない少年】
・・・うん。
【ナレーション】
まるで聞き分けのない子に言い聞かせるように。お使いに行く子に再三確認を取るように言った男はそのままカウンターの奥へ消えた。
さっきまで知らぬ振りをしていた酒の匂いが鼻を突いた。
少年はハァとため息を零して膝を抱える。残り少ないホットミルクを飲み干してそっと傍らに置いた。
【笑えない少年】
・・・僕、“ハクジョー”なのかな・・・。
【発明家の少女】
お困りぃ〜〜〜〜?
【笑えない少年】
うわっ!
【発明家の少女】
あっはは! 驚かせてごめんねぇ〜〜〜?
発明家ちゃんです☆
【ナレーション】
声が聞こえ、少年は驚いて顔を上げた。
ドロドロに汚れた作業着から可愛らしいワンピースに着替えた発明家の少女がそこに居た。少しだけ化粧もしているようだ。
【発明家の少女】
それでそれでぇ? 何が“薄情”なのぉ〜〜〜?
【笑えない少年】
・・・家族、死んじゃったのに、泣けない。
【発明家の少女】
あ〜〜〜〜〜〜〜、なぁるほどねぇ〜〜〜。
つまりそれがショタ君の『出来ない事』な訳だっ!
【笑えない少年】
(少し戸惑いながら)
出来ない、事・・・?
【発明家の少女】
そうそう! あ、アタシがね。勝手にそうやって分類付けてるだけなんだけどぉ、ほらぁ〜〜いきなりこんなコトになっちゃったからぁ〜〜、前まで出来てたのに急に出来な〜〜いってなっちゃう事多いんだってぇ〜〜。
だからねぇ? さっきの戦士ちゃんみたいに戦えるヒトやアタシみたいにアンちゃん直したりぃ、するヒトぉ? あとはぁ、お医者さんとかぁ、シェフさんとかぁ?
まぁ、つまりぃ。塔の中でやる事があるヒト達はいいんだけどぉ、何も無いとさぁ…退屈でしょ〜〜? つまんないでしょ〜〜?
だから『出来ない事』がなぁんで出来ないのか考えるんだよぉ。
『出来ない事』って分類がついてたらさぁ、ちょっとだけ楽にならなぁい? 名前がついてないのってぇ、ちょっと鬱っちゃうよねぇ、ふふふ。
【笑えない少年】
・・・でも、皆それぞれ他の人の役に立ってるのに。
【発明家の少女】
分かるぅ、不安になっちゃうよねぇ〜〜。でもこのご時世さぁ、『生きてるだけで宝物』じゃなぁ〜い? それにショタ君ってばまだお子様だからぁ、そんな風に思わなくていいんだよぉ〜〜〜。
ま、偶にぃ、そういう風に『なんでお前だけ働いてないんだ』ぁ! とかぁ? 言われちゃうかもしれないけどぉ〜〜気にしなくていいからねぇ。
・・・自分の事に必死なの。自分を助ける事に必死になっちゃってるの。いつか周りを見れるようになるかって聞かれたら・・・まぁ、それはぁ〜〜・・・分かんないけどぉ。
そういう時はショタ君が大人んなったげて〜〜?
【笑えない少年】
・・・わかった。
【ナレーション】
発明家の言葉は少年にとって少しだけ難しかったけれど、いつか理解の出来る日が来るのだろうと頷くだけに終わらせた。
【塔の管理人】
オ待タセシマシタ。
発明家サンニハ、カボチャノスープヲ。
少年サンハ、オカユヲドウゾ。ウメボシハタベラレマスカ?
【笑えない少年】
うん、好きだよ。
【発明家の少女】
ショタ君、梅干し食べれるなんてすごいねぇ〜〜! あ、カボチャのスープありがと〜〜! アタシこれ好き〜〜!
【ナレーション】
発明家の話が終わった所で料理を作り終えたらしい管理人がカウンターに深いスープ皿と小さめのお椀を置いた。
発明家がそれに飛び付くと、少年は管理人がちょん、と梅干しをトッピングしたのを見てからカウンター席に座った。
少年は変わった形のスプーンを持って食べ始めようとした時、ふと横にいる発明家のスープが気になって覗いた。
【笑えない少年】
あれ。スープだけ? 具とか無いの?
【発明家の少女】
ふふ、コレねぇ。アタシの『出来ない事』なの。
【笑えない少年】
発明家さんの、『出来ない事』・・・?
【発明家の少女】
・・・固形物がね、食べれないの。柔らかくしてあるのもダメみたいでね、ここに来てからはずぅーっとスープとかジュースとかばっかりなんだよねぇ〜〜。
ふふふ、でもねアンちゃんが飽きないようにいっぱいねぇ、色々作ってくれるからぁ〜〜〜大丈夫っ!
【笑えない少年】
そ、なんだ・・・。・・・た、
【ナレーション】
大変だね。そう言おうとして少年は口を噤む。大変だなんて彼女が一番よく分かっている事で、一番何とかしたいと思っている事だろうから。
少年は少し黙った後でこう言った。
【笑えない少年】
・・・治ったら、教えてね。
【発明家の少女】
ふふふ、もっちろ〜ん!
【ナレーション】
笑ってそう言った発明家に少年の心もほんのちょっと軽くなった。カウンター席で仲良く食事をする二人を遠くから男と管理人が和やかそうに眺めていたのだった。
STORY END.




