智也に立ちはだかる壁
『キーンコーンカーンコーン』
チャイムの音が鳴った。ここは心咲と智也の通っている高校の教室の中で、授業が終わり、みんなは昼休みにはいる。だがその中で、ひとりだけ昼休みになると必ず姿を消す。それが気になったひとりの少年は、姿を消そうとする少女のあとを追った。
少年が辿りついたのは、この学校の屋上だった。屋上は本当だったら封鎖され、誰も立ち入ることが出来ないようになっているはずだ。不思議に思った少年はこっそりそのドアを開けた。そのドアは少しだけ重く感じた。そこにいたのは少年が追ってきた少女とどこか見覚えのある顔をしたおじ...いや、先生だ。
「あいつ...呼び出しでもくらったのか??」
誰もいるはずのない屋上にいる2人の間の空気はどこか重く感じる。なぜか。少年は必死に考えた。しかし、すぐに思考が停止させられた。
「あれは持ってきたか」
「こういうのよくないと思うんだけど?」
「すぐに求めてくるのはお前だろ?」
「...でも教師と生徒だよ?? バレたらどうなるか...」
少年は必死に気持ちを沈め、冷静にこの状況を分析することを試みた。しかし、混乱して上手くできない。少年は謎の罪悪感に襲われた。ここで何をしているのか。あのふたりは何を言っているのか。わけがわからなくなった。
「...智也??」
聞き覚えのある声にはっとした。目の前にいたのは愛する彼女...心咲だった。
「こんな所で何してるの?? ...もしかして聞いちゃった?」
「...いや...お前こそここでなにやってんの」
今にも飛び出してしまいそうな怒りを必死に抑えつけ、あたかも冷静に。しかし頭の中はさらに混乱していた。見つかってしまったことよりも、そこにいたのが心咲だったことが信じられなかったのだ。
「先生とお話してたの。進路についてのね。」
「そうか。(なんの進路だよ...)
こんな所で話さなきゃいけないような話なのか?」
...隠しきれなかった怒りを少しずつぶつけていた。忘れてはいけないのは、ここが本来【立ち入り禁止】という事だ。
「...ごめんなさい。実はずっと話さなきゃいけないと思っていたことがあるの。実はね...」
張り詰めた空気に思わず息を飲んだ。
「私、異世界の住民なの。」
「...は??」
意味がわからない。異世界の住民だと?ふざけるな。ここに存在しているじゃないか。俺が愛している田辺心咲は。
「...ははw 何言ってんだよお前w」
「...信じられないよね。だって毎日智也のそばにいるんだもん。」
「あぁ。そうだな。」
「でもね、私ね、明後日には実家に帰ってお仕事しないといけなくなったの...」
「...はぁ。」
全く理解できない。目の前にいる少女はいったいなにをしゃべっているのか。これから何が起きるのか。
「だから、少しだけ遠距離恋愛になっちゃうけど、智也は私のこと待っててくれる??」
「俺は待つつもりはない。俺はここにいる。」
「...智也らしいやw」
笑みを浮かべながらも少し涙目の彼女は、今までにないくらい綺麗だった。
訳のわからないまま教室へ戻ってきた。いつも通りの教室。いつも通りのみんな。いつも通りの時間の流れ。何もかもいつも通りだった。しかし、そんないつも通りの時間も終わりを告げる時がきてしまったー




