009話 信念はあるか?
序盤に簡単にあらすじをまとめています。
「そういや育斗はチームの予定とかあるのか?」
「予定?」
昼飯調達も兼ねて守と校内図を確認したのち
守と育斗はワンモアワンというシステムを見に廊下に出ていた。
守が先導し育斗がその後ろについて行っている。
育斗は予定と訊かれて少し押し黙り考えた。
僕、草童歌育斗はこの学校、狩人研修専門学校に入る前の何か月か前に
黄泉月桜という"神の剣"をその身に閉じた少女と契約を交わした。
5つあるうちの一つ……彼女が持っていた剣は"地の神の剣"
僕はそれの所有者であり契約者……。
神の剣についての詳細はまだ教えてもらってないから分からないけど
問題はそこじゃない。
ここに来る前、僕は狩人である霧島勇吾さんに言われた。
―――誰も呼び起こさなければ最悪な事態には陥らなかったが、
契約したせいで最後の一人になるまで戦わなければいけないこととなった。
神の剣がどう作用するのかまたどれほどの力なのかは分からない。
でもあのとき霧島さんは確かに言った。
最悪な事態を避けたかったと。
神の剣については今後の身の上を心配するものでも知らなくちゃいけないものだ。
そのためにここに来たんだし……。
「……―――おーい?育斗さーん??」
「え?!ああ……ごめんねっ!ちょっと考え事してちゃった……」
「大丈夫かよ……それでチームの予定なんだけどさ、
俺作ろうと思うんだけど入らねぇ?」
「えっ……」
守はおう!と言って具体的な自分が作るチームについて語りだした。
ワンモアワンというシステムはチームに関わらない限り
あまり触れることはないモノ。
だがそれだけでチームを作るなんて……と育斗は考えたが
そんな心配はなさそうだった。
でも育斗は別に懸念するモノがある。
それこそ神の剣、黄泉月桜との関係だ。
先にも言った通り神の剣は5つあり、
契約した場合すべての契約者が最後の一人になるまで戦わなくてはいけない。
それに対抗する手段とするなら良いモノかもしれないだろう。
だが育斗はそう考えることはできなかった。
「―――だからさ、お互いの今後に関しても
良いアイデアなんじゃないかって……」
「ごめん!僕は遠慮しとくよ。
まだ……ちょっと……自分には無理っていうかその……」
育斗は言葉に詰まる。
霧島さんに神の剣についての詳細は他言無用でと頼まれていたからだ。
すると守はそんな育斗を見て初めは口を茫然と開けていたが
育斗には死角の位置で唇を噛みしめてから笑って応対する。
「そかそか。そうだもんなお前には立派な武器があるしな。
失敬失敬。俺が悪かったよ」
「そうなんだ……ってえっ……」
「えっ、ってなんだよ。
隠そうとしてるなら無駄だぜ、草童歌育斗。
―――"地の神の剣"の契約者さん?」
育斗はその言葉にドキッとして反論ができなくその場で硬直してしまう。
それもそのはず、言われるはずのないことを言われたからだった。
そんな硬直したまま動かない育斗を見ながら守は
薄く笑って後ろの育斗に一歩一歩
近づきながらその笑みを崩さない。
そんな守に育斗は攻撃を予測してか一定距離に達したとき
無意識のうちに後ろへ後ずさった。
それを見てか守は一瞬驚いてから小さめの拍手を叩く。
「すげぇすげぇ!それが【透視】か。
攻撃を予測して自動的に躱すっていう。」
育斗はまたしても硬直する。
それは神の剣に引き続いて自分の持つ能力について見抜かれた……いや
既に知ったような口で呟いたためだった。
「それでも硬直すんのかよ……笑えるぜぇ今のお前。
まぁ安心しなよ。そんじょそこらの素人みたいに急に襲ったり
いきなり友達ぶってカマかけたりしないからさ。」
「どういうこと……」
「やっぱりお前ずっと分からなくてドキマギしてたろ。
これは俺の予想だがもう校内中の全生徒がお前、
育斗が誰なのかって分からなくても神の剣と契約した少年ってことで
知られてるかもしれないぜ?
ついでになんの能力でどんな力を持つのかってこともさ。」
育斗は緊張を強める。
目の前の人は何を言っているんだ?と。
まったく意味が分からない話をしているからだ。
自分は霧島さんに言われた通り他言無用にしている。
この状況を知っている唯や桜だって言っていないはずだ。
「なんで知って……るの?」
「狩人は常に情報戦だ。
―――ってぬかしてる研修生もいるの知ってるか?
まぁ確かに情報戦ではあるんだよ。
希少な魔物がいてそいつ倒したら報酬やら
素材やら良いモノが手に入るとするだろ?
そうしたら誰が早く倒すかが肝心になる。
希少なんだから誰もが難関なことして手に入るわけじゃない。
そんなのは難関な依頼って判子を押せばいい。
希少なら手に入るやつは余程の強運か力自慢かそれ以外か……。
限られるわけだ。で、モノの例えだが今のお前はその希少な魔物。
誰もが欲しい人材だが全員がゲットできるわけじゃない。
じゃあどうするか?情報が肝心になるわけだ。
だってそうだろ?さっきの話もそうだが余程の強運持ってる奴なんて早々いないし、
余程の力自慢がいても見つからなければ無駄骨さ。
……言ってる意味OK?」
「……つまり口止めされてたことはほとんどバレていて
みんな僕や桜さんを狙っている?」
「そういうこと。
まぁ黄泉月さんのことなら心配はしないでおけ。
このことはもう木並さんは知ってるだろうしな。
事の重大さに気付いていなかったのは多分お前だけだろ。
現に俺が"チームを作る"っていう打開案を生み出したのに他のことを
考えてるわ、今後のこと考えて断るわ……聞いて呆れる。」
「……もしかして心配してたの?」
育斗が恐る恐る聞くと守は唖然としてその言葉に笑いを零した。
零したというよりは口から噴き出たというのが正しい。
「お前っどこまで甘ちゃんなんだか!!!
確かに心配はしてたさ。
初めてできた友達だし仲良くしたい。
でも俺だってお前見逃すほど馬鹿じゃないんだぜ?」
守は笑いを拭いその言葉を皮切りに真顔になって育斗を見つめてから
後ろを育斗の方を向きながら指差して呟いた。
「―――ワンモアワン。
やろうぜ?神の剣の契約者さんよ。」
・
「……」
行くことになったものの道中育斗は話さず守はそんな彼を見ながら悩んでいた。
「なぁ……思ったんだがどうしてお前そんなに卑屈なんだ?」
えっ……と言葉を漏らした育斗に守は若干イラつきを見せながらも呟く。
「そのままの意味だよ。
お前自分を卑しい人間だって自分自信を貶めてるじゃねぇか。」
「そんなことは……!ない……」
はずだ、と。
育斗はそれを口にしようかと考えたがすぐに言葉に詰まる。
じゃあそうだとすれば今のような状況にならなかったんじゃないか?
考えただけでもその考えは思ってはいけない、そう育斗は心の中で
必死にその考えに蓋をするが、逆に蓋をするならするで言われたことに
対してないと断言することができなかった。
「お前さ……自分が可哀そうな主人公とか自分で思ってるのか?」
「!……そんなことはない……そんなことは……!」
強く拒絶するが守はその態度を見透かす。
「自分自身を貶めることに対しては断言できないくせに
自分が主人公なのかって言われるとそう断言する辺り、
お前自分自身が可哀そうな人間だって周りに認められたいみたいだな。」
守の言葉にふと返す言葉が見当たらず青ざめそれでも心の中の意見に
蓋をする育斗に守はイラつき舌打ちをして遂にその怒りが沸点を迎えた。
「てめぇなめてんのか?
たったそれだけで神の剣に手を伸ばしたのか?
可哀そうな人間だって周りに認めて欲しかったから?
特別な人間だって認められたかったから?
自分は他の人とは違う人間だと思われたかったからか?
ふざけるなよ……良いか、教えてやる。
お前は無知だろうから分からないと思うがお前が伸ばした神の剣は
今のお前が手を差し伸べて良いモノじゃない。
あれは誰もが求め研究しその果てに多くの死者を生み出した最悪の代物だ。
だからこそ狩人機関は神の剣を破棄する予定だった。
なのに例の事件、神の剣が脱走してその先でお前がまんまと契約しちまった。
ここまでの話は狩人を目指すものなら当たり前に知ってる事実だ。
なのに……多くの死者を生贄に契約したのがお前みたいな屑なら
俺は認めない。でもここじゃ戦えない。それは俺も嫌気が差す。
正々堂々と戦ってお前をここからでも除け者にしてやる。
そんな生半可な勇気は誰もが持ってるだろうしな」
そう守は目の色を変えて育斗の眼前に迫り吐き捨てるように呟き終えると
そのまま背中を見せてワンモアワンのある中央広場へと向かう。
育斗は除け者と言われて一瞬守を疑うが守は振り返らず、
立ち止まる育斗に自分も立ち止まって呟く。
「ここで逃げるならもう一生誰もお前を支えない。
一生除け者だ。卑しいお前なんかについてくる人間はいないぜ。
覚悟見せろよ、俺に。
それにそんな生半可な勇気じゃいつか大事な場面で
大切な人を守れなくなるぞ……俺みたいにな。」
そう言って守はそれ以降は何も言わずそのまま歩き出す。
育斗はその守の態度に決心を改めてその一歩を踏み出した。
中央広場に着くともう誰かが使ったのか辺りに
数人が散らばっているのが確認できた。
育斗が到着するとチラホラと周囲の人らがひそひそと呟き始める。
どうやら気付かれたということにそれだけ自分が有名になっている事実に
改めて気付かされた。守は一度学校見学会で見たことがあると言って
薄緑の透明な箱の付近にあるタッチパネルに項目を設定していく。
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対戦ルール:片方のどちらかがもう片方の相手の背中を取る。
降参の有無:あり
時間設定:なし
属性壁:なし
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……など。
事細かに設定できるが育斗はふと疑問に思って守に質問しようとして
一瞬やめるが聞かないとまずいかも……と守にそうまた別な決意を固めて呟く。
「ねぇ、この属性壁ってのはなんなの?」
「ああ、それか。それはもしも属性持ちが攻撃したときその方の壁を
その属性持ちの属性に変化させるんだよ。
一度属性の攻撃を当てることで形勢逆転が狙えるシステムだな。
……よし。育斗はどうする?攻撃方法とか。」
「守は……どうするの?」
「俺は素手だ。生憎、俺は属性持ちでね。
その属性でお前にワンモアワンを仕掛けさせてもらう。
お前は何か得物とかいるか?
一応練習用の武器とかあるみたいだが……」
ここで神の剣はいるかどうかを聞かなかったのは
守の配慮なんだろう、と
咄嗟に感じたがそれが本当かどうかは分からない。
本当に信じていいのかもまったく今になっては不明だからだ。
「いや、良い。素手なら僕も素手だ。
正々堂々戦うって言ったのは守じゃないか。」
すると鳩が豆鉄砲を食らったように守はポカーンとしながら
真剣な眼差しのまま見つめる育斗に対して天然なんだな……と返しつつ
分かったと言ってその空間に足を延ばす。
ワンモアワンのフィールドは薄緑色の透明な箱のようなものだった。
何の素材かは分からないと言っていたがガラスのにコンコンという音を立て、
また守の説明で勢いよくぶつかるとある程度その衝撃を吸収するということが分かる。
大きさはテニスコート一個分くらいか、長方形の長い方の長さ×2の正方形の形だ。
守と育斗が入り終えると守が呟く。
そして同時に数字のカウントが薄緑のフィールドの上に表示される。
モニターの役割も兼ね備えているんだなと育斗は感じた。
「お前は俺を試してるんじゃないかと思うがそれは全く以て俺も同じ気持ちだ。
入学試験の時に見せた実力が本当かどうか、まだお互い未熟者だが
それでも本当にお前が所持者で良いのか、そして信じるに値するかどうか
試させてもらう。ルールは背中をとったら勝ちだ。
降参するならそう言ってくれ。
基本ワンモアワンには勝ち負けに対する報酬を用意するそうだが今回は無しだ。
ただし本気でぶつかってきてくれ、じゃないと
お前を試すことは出来ない。さぁ……始めよう。
一騎打ち(ワンモアワン)の開始だ。」
今開始のブザーが鳴る。
次回、ブザーが鳴った直後から物語は始まります。
序章パート、霧島さん以来の戦闘シーンです!(`・ω・´)