002話 逃走と闘争
一部訂正しました。
前よりは見やすいかと思います(2019.9.10)
『"神の剣"を捕捉した。
直ちに狩人は現場に集合せよ。
繰り返す。"神の剣"を捕捉した。
直ちに……』
アラームがビンビンとなり赤いランプは繰り返し回る。
真新しい黒い軍服姿に身を包んだ霧島勇吾は
早足で現場にある狩人へと急いでいた。
実験所のような無機質な白い天井壁床ではなく、
見慣れた石のレンガで出来た壁や床。
カツカツと鳴る靴に彼はあのときと
同じような罪悪感と興奮を一度に覚えていた。
『霧島さん!』
と言われその方向を振り向く。
先日俺のことを隊長だとか呼んでいた部下だ。
「どうした?」
「今回なんですが黒騎士の報告はないようです。
また追跡を掴めてるのはRとTだそうです。」
「……そうか。分かった報告ありがとう。」
いえ!と踵を返す。
(……RとT。)
"神の剣"……3つの剣のその内の2つ。
R…龍王星は大地を揺るがし、そしてT…天王星は天空を支配する。
別々の剣ではあるがどれも強力で知られていた。
また"神の剣"が逃げたと言うのには意味がありそれは狩人の実験による。
当時狩人を創設した創設者はある無人島で"神の剣"を発見したのだ。
だがその力は強く、人が触れたとき龍王星ならば土に、
天王星なら空気にそしてK……海王星ならば水に変えられたのである。
魔物がいる時代だ。
そういう力があっても可笑しくはないがあまりにも危険だったため
その島から"神の剣"を取り除いた……
が、その際、空にはうねった龍が舞い降りたという。
空にその龍は鳴いた。空気のように消え失せたと言うが、
取り除いた創設者だけがこの鳴き声の意味を理解した。
―――〔龍の嘶き〕と。
3つの神の剣を契約するものが現れたとき、1つに集約するため戦争が起こる。
またその合図こそ〔龍の嘶き〕であると。
創設者はそれを起こさせないためにも
"神の剣"を重々に管理する必要があった。
目に届く場所にあって、かつ封じること。
狩人は"神の剣"を人間の魂とを交換に、
その身体自体を"神の剣"に替える実験を行う。
死者は多く出て、一番入れやすかった赤子と
10才以下の子供が適任だった。
そしてある三兄妹がそれをクリアしたのである。
「神の剣の元は人間だ。
気を抜くなよ。
知性は我々以上と言っても過言ではない。
誰よりも"神の剣"を理解しているからな。」
姉が海の神の剣、"海王星"
次男が天の神の剣、"天王星"
三女が地の神の剣、"龍王星"
発見されたのは兄と三女か。
兄妹なら探すのはそう気が遠くなるようなものではないな。
「おい」
「はっ!」
と敬礼してなおる先ほど踵を返した部下に言った。
「狩人機関四天王クラスは呼ぶな。
万が一黒騎士が出たときにしろ。
RとTについては私が直接赴こう。」
「霧島さん自らがですか?!」
と部下の唖然気味にスルーして足を早めた。
右腰に構える刀をチャキッと音を鳴らすと
少し目を閉じながら先日の扉の闇の奥の先を思い出す。
(俺は……黒騎士に…負けた。)
黒騎士を前回逃したあのとき俺は奴を追い、
そして居場所を突き止めた。
気付かれぬように肉眼でギリギリ見えるくらいの射程で、
ゆっくりと刀を抜くと音を立てずに
そのときの居場所であった廃ビルの群れを駆け抜けて。
スッという音のみを残して驚くべき集中力のごとく、
風をかっ切る音以外の音を消し後ろから近付いた。
ビルの屋根にいるのは分かっていたから、その
ビルの階層を駆け抜ける。
颯爽に、立ち止まらずに。
気付けばもうあと少しの距離だった。
アイツは俺の少しの息遣いだけで居場所を察知し、
俺がやつの居たところに行けば
その周辺すべてがもぬけの殻だったのである。
いや。
そう思い込まされた。
(……どこだ……?!)
すると相手……黒騎士はスッと音を立てずに衝撃を加えた。
メキメキという音ともにそれを実感する。
死角…黒騎士はずっと背後にいたこと
そして肋骨がヤツの放つ刀によって
へし折られていることに。
屋上にあるその屋根と地面とでは十数階はある。
黒騎士はよろめく俺を足でスッと蹴り倒した。
(まだ……死ね、ない……!!)
黒騎士は俺を見下ろしながら徐々に
小さくなっていく姿に最後は蟻みたいになっていただろう。
だがそうなってでも逆に霧島もまた黒騎士を見ていた。
そして地面ギリギリの場所で黒騎士は霧島に魔法を使う。
簡単な魔法…あの学校に在籍していた時に学んだ―――"重力魔法"
自分の体重と同じ分の逆方向の重力を作る。
制限の時間はあっても地面ギリギリならば
どうってことはない。
(……はぁ……はぁ……)
『まだ立ち上がるのか……尊敬はしておこう。
二度目だね。き・り・し・ま……隊長殿?』
「黒騎士……貴様ァ!!!」
『でも見誤りはよくない。
刀だけ持っているから魔法が使えないって……だれが決めたんだい?
教科書通りに物事やってたら僕みたいな不良には勝てないよ?
もっとルールを広く使わないと…ね?』
重力魔法の衝撃で気を失いそうになるなか
霧島は悶え苦しんだが必死に手を伸ばした。
だが手や腕さえも軽くあしらうように黒騎士は蹴り飛ばす。
『じゃあ、またね。』
そしてその後すぐに黒騎士は何もできないことを知ってか
霧島のもとから闇に紛れるように影のように消える。
そして霧島はいなくなったビルの一室で思う。
(ああ…負けた。
しかし…たかが神の剣と豪語しても所詮は子供。
考え付くことなどお見通しなんだよ。
この刀では黒騎士には勝てない。
さしずめあの龍王星、天王星といったどちらかだろうか。
そのどちらかを私が持てばいい。
どちらかを、……従えさせればいい。)
霧島はニヤッと笑い自分を侮辱した黒騎士の方向へ
憎しみのこもった表情で見つめる。
そしてその後解除された重力魔法から立ち上がりそのままビルを後にした。
……そして今、霧島は煙の舞う戦場へと踏み出していた。
昨日とは違う空気をすぅっと吸い込む。
我々は…狩人。
全世界における魔物と仇なす存在を滅却する者。
「―――この時代に金なんかいらない。
いるのは力だけだ。
さあ戦いを始めようか。」
霧島は刀に手をかけ、いつの間にか揃った
部下を従えてそこへ向かう。
部下らは殲滅のため……
霧島はギラッと光輝いた期待の眼差しで。
目的はただ一つ、神の剣を我が力のものとするために。
・
雨が降っている。
すごい曇天だ。
辺りに灰色以外の色はない。
チャプチャプと音を立て廃ビルから
零れ出す粒は地面を濡らしていた。
泥の地面なのかやけに靴につく。
『目標を発見しました。
狩人一番隊隊長、霧島勇吾に
目標の座標をお送りします。』
そう言うと装着した眼鏡のようなレンズに目標の座標と、
それがどこにいるのか図解もされていた。
(二人でああやって逃げるとは運がないな。)
と考えていると隊の部下が俺に報告をする。
「霧島隊長!各人員揃いました。」
それにご苦労とだけ応え重く腰掛けてた
椅子から立ち上がる。
「これより、龍王星また天王星の討伐を行う。
黒騎士がもし現れた場合は報告をしろ。
出撃………開始だ。」
武器を天高く上げる部下に背を向け、
霧島は刀身をギラリと見せつけるように歩み始めた。
場面は変わりある兄妹はあまり整備されていない
その道筋を傷だらけになってしまった裸足で
懸命に走っていく。
泥と粉塵とその霞が顔や目に入って涙が出るも
それで立ち止まるわけにはいかなかった。
そんな理由がその兄妹には存在している。
「……はぁ……はぁ……お、兄ちゃん……
どこに向かえばいいの?」
「あの"黒騎士"のところだ。
姉ちゃんが一緒にいるらしい。」
そう黄泉月桜とその兄、鷂は
ただまっすぐ走っていた。
泥と傷にまみれた足はひりひりしてて痒いのか
痛いのかそれとも……それは分からない。
ただその足で地面を走っているせいで
皮膚は爛れたり剥けたりしている。
するとその足の傷を考慮しないまま鷂は足をブレーキのようにかけ
立ち止まった。
目の先には見たことのない人型のような、
だが決して人間ではない"ナニカ"がこちらを見つめ
歯のようなものを見せつけ襲い掛かる。
鷂は桜に耳打ちをした。
(―――刀は出すな、ここは躱して逃げるぞ)
(うんっ、分かった)
そしてその"ナニカ"は二人の間の奥を突進する。
後ろには何もないが石だらけの道に顔を埋め込む様にブレーキをかけ止まり
左右に避けた二人を振り向返りながらニィッと笑う。
そしてナニカから見て右に避けた鷂に鋭く尖った右腕を素早い斬撃のような
掻っ切る音とともに切り裂く。
鷂は少し苦しんだ顔で足に続きガードした両腕までもが
肉が飛び散る始末となってしまう。
それに桜は愛称で呼び心配するがその声が仇となり
ナニカは左側の桜の方に振り向きニタァと笑って飛びつく。
そしてそのナニカの顔は第三者の攻撃によって身体ごと吹き飛ぶこととなった。
「……!」
「お兄……ちゃん?」
栗色髪の短髪に少し自分の血のりがついた鷂に、
薄いピンクの長い髪が揺れる桜は問いかけた。
鷂は攻撃した"第三者"がいる方向を見つめた。
「……桜。先行ってろ。」
「え?」
何も無いはずの空間は鷂が手を刀に変えた瞬間、ずれた。
そしてそのずれた空間から見慣れない刀を振りかざすナニカがいた。
「……っ!!早く!」
桜は言われるがままナニカの死体を通り過ぎ
目指した方向へと足を走らせる。
"第三者"は舌打ちをしながら呟く。
「収穫は……天王星だけか」
第三者……霧島勇吾は自分の持っていた刀で鷂を斬りつけた。
だが鷂はそんな霧島を自身の力で具現化した刀で相殺させる。
ガキィンッッッッ!!
霧島勇吾の刀と天の神の剣、黄泉月鷂の刀は交わりそれは重く衝撃と
ともに地面を切り裂くほどの音をも鳴らしあげた。
「無駄だ、諦めろ」
息を一瞬だけ吸った霧島は鷂に刀の連打を繰り返し与えた。
鷂は自分の分身から天王星を取り出すと
それに応えて同じように構え向かう。
鷂は疲れきっているのかはぁはぁと息を垂らしながら遂には飛んだ。
それも翼を生やして。
「!」
霧島が驚くのも無理はない。
今まで翼を生やすというデータすらも
取れていなかったからだ。
「お前らが知らないだけで俺らは力を使える。
舐めるんじゃねぇよ、三流がッッ!!!!」
そう言うと鷂は自身の生える翼もまた分身させ、
また分身させた翼を神の剣に擬態化させる。
そうやって鷂の周りには、
無数の神の剣の分身を次々と生み出した。
だが霧島は依然としてその光景を見つめ続ける。
そしてニヤリと笑い
「三流……?ほう……俺が、か。」
「神の剣をよく知ってるのは俺らだ!!!
お前なんて今すぐに―――」
と霧島はそしてそれよりもにぃ、と笑うと
今すぐに攻撃すればよかったものを、と続き呟く。
「【能力停止】」
呟き霧島から放たれた謎の空気圧はブワッと鷂を襲う。
さっきまで分身、擬態化までさせた無数の剣は
綺麗サッパリ無くなりバタッと鷂は空中から地面に落ちた。
「なっ……?!……あぐっ!!」
驚きもう一度立ち上がろうとする鷂の背中に霧島は足を乗っけて踏む。
そして持っていた刀で鷂の心臓部に当たるところを突き刺した。
「―――…?!!!」
相当痛いのか悲鳴もろくな悲鳴にはなっていない。
だがそれでいい。
黙らせるには殺しに近い方法で生かせるのがよかった。
「痛いか、そうか。」
抜きかけた刀をぐりぐりと体内で回し内臓が見え始めている中
じたばたと激しく痙攣するそれを蹴りあげ
頭に靴を落とした。
「……残念だが俺はそこらの狩人とは違う。
天の神の剣、か。
契約をすればお前は黙るか?」
じたばたと痙攣を未だ続けるが段々と冷たく大人しくなる、
それの血を霧島は親指にすくうと、
それを自身の左手の中で錬成陣のようなものを書く。
そして同様に俺の血をそいつの左手の中に
書き手と手を合わせた。
「や……め……ろ…」
「拒否する。これは本契約の証ではないが
呪いとしてじっくりと本物の契約に変わる。
それまではせいぜいあがくと良い。」
光の柱がその合わせた手と手から漏れだそうとしていた。
そしてその光の柱が無くなると霧島はそれまでには負った傷が完全に回復し
契約した手で鷂の左手を掴むとその身体は刀となり霧島の横に
納刀された。そしてゆっくりと立ち上がりまた歩み始める。
その先は黄泉月桜の走っていった先だった。