極楽の酒
ある昔、人を魅了する極楽の酒があった。
その酒は山を三つ越えた森の奥地に存在し、江戸の時代でそこへ辿り着けるものはなかなかいなかった。
呉服屋で働いていた小平は大の酒好きで、酒を飲まない日は一年を通して一度もなかった。
なので極楽酒をふと耳にした時は、居ても立ってもいられなくなり、おむすびとわらじ一つで身支度を整え、山へと向かった。
小平は難なくして森の奥地へと着いた。そこには黄金色に染まった泉があった。
「まさに極楽の地かな」
手ですくって飲んでみると、それはまさに酒なのだが、何倍でも飲み干せる。飽き足りず小平は取り憑かれたように飲み続けた。
後に小平の遺体がそこにあったのは言うまでもない。彼が気付いた時はもうそこは極楽の地であった。