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No title story ― プロローグ  作者: 菊月 或斗
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出会いはロマンチックではなくて。

 12月25日。クリスマス。

 朝凪柊汰は独り、とある場所に訪れていた。

 幼い頃に、よく訪れていた場所だ。

 朝凪の住む町にある、車通りの少ない橋。

 下には大きな川が流れており、その高さは思わず腰が引けるほどだ。

 その川の向こうは、丁度夕日が落ちる場所と重なっており、とても綺麗な夕景となる。

 とても美しい風景なのだが、ここにはあまり人が訪れない。

 数年前、一人の少女が、ここで自殺した。

 連鎖し、この橋から飛び降りる人間が増えていった。

 それ以来、ここは自殺の名所として有名になった。

 だからここには人が来ない。

 こんなにも美しい眺めなのに、と朝凪は思った。

 朝凪はこの眺めが大好きだった。

 バイトがない日には、ほぼ毎日訪れている。

 だが、今日朝凪がここに訪れたのは別の理由だ。

 朝凪は本気で自殺を考えていた――。

 

 

 朝凪は独り暮らしだ。

 中学三年生の3月。

 交通事故で両親が他界した。

 高校は、中学まで続けていた野球をするため、野球の名門校に進むことを決めていたのだが、自分独りで生活しなければいけなくなったが故に、野球は続けなかった。

 今はバイトでお金を稼ぎ、生活を送っている。

 朝凪は将来を期待される野球選手だった。そのため、高校でも活躍を期待されていたのだが、野球をやめることになったので、周りからは失望されてしまった。

 また、朝凪の性格も周囲に受け入れられなかった。朝凪はあまりにも世話焼きすぎた。誰かが困っているのを無視することができなかった。

 当初はまだましだった。

 だが、三ヶ月も経つと、周りには誰もいなくなっていた。

 朝凪柊汰は完全に独りとなった。

 そんな生活には嫌気がさしたのだ。

 もう、生きるのには少し疲れたんだ。

 

 

 ――悲しい人生だ。

 朝凪は橋の手すりに足をかけようとした。

 だが、それ以上の行動はできなかった。

 「……結局、死ぬ勇気すらないのか、僕は」

 知らずのうちに呟いていた。

 朝凪は立ち尽くした。

 地平線に沈む太陽が虚しかった。

 ――今日は帰ろうか。

 朝凪は家路につこうと歩きだした。

 と、向かいから人がこちらに歩いてくるのが見えた。

 朝凪と同じくらいの高校生にみえる女の子だ。

 人が通るなんて珍しいな、と朝凪は何気なく考え、少女の横を通り過ぎ――。

 

 ――目でわかった。

 

 その少女の目つきで、朝凪にはわかってしまった。

 ――ああ、死ぬんだな。

 と。

 咄嗟に、朝凪は振り向き、その少女の腕を掴んだ。

 「……君、死ぬつもりでしょ」

 声にでていた。

 少女は驚愕の表情をみせ――ることはなく、ただ、無表情のままだった。

 「なんのつもり」

 少女は言った。

 朝凪は返した。

 「止めるつもり」

 朝凪は内心呆れていた。

 ついさっきまで死のうとしてた男が、一体何を言っているんだ。

 「私に関わらないで。どうして初対面の相手にここまでするんだ」

 少女は吐き捨てた。

 そして、朝凪の手を振り解いた。

 朝凪は呼び止めた。

 そして、少女の手を強く握った。

 「どうしてだろう。ただ、目の前で誰かに死んで欲しくない。そう思っただけ」

 朝凪は再び呆れた。

 こういうところなんだよ、自分が嫌われる理由は。

 「話を聞かせてよ。君の話を。少しは気が楽になるかもしれない」

 朝凪がそう言うと、少女はさっきとはまた違う反応をみせた。

 「誰かに話すつもりはなかったけど。どうやらあんたは随分と世話焼きみたいだ」

 「自覚してるよ」

 「そうだろうね。じゃ、話してあげる。私の話」

 正直意外だった。

 まさか成功するとは。

 少女は少しだけ、表情が明るくなった。

 「私は辻本園花。あんたは?」

 「朝凪柊汰」

 

 

――12月25日。二人の自殺願望者が、運命的な出会いを果たした。

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