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1、事の起こりと旅支度

けっこう前になる旅行を思い出してのエッセイです。そのため記憶がおぼろげですがご容赦ください。






玄米さんへ捧げます。

 あれは私が学生だった頃の事。勉学のために、一度も行った事もないイタリアへ、ツアーも使わずたった一人で飛び出した。

 海外旅行素人が、わりと準備も不足したまま旅に出たのだ。

 それが、明るく元気で「人類みな兄弟、言葉は通じなくてもなんとかなるさ! ははは!」みたいな性格だったなら、あいつなら一人旅しそうだよねと思われるだろう。

 しかし私の性格は人見知りをするヘタレで、なんなら「ガイコクジンコワイ」ぐらいのだめっぷり。

 今思うと、無知無茶無謀。

 英語もイタリア語もまともにしゃべれない。海外旅行の経験もなく飛行機一人で乗った事もない。その上私は人見知りという名のコミュニケーション能力不足。

 経験、語学力、コミュニケーション能力、これらの欠如した一人旅のなんと無謀な事か!

 なんて事に、旅に出てから気づいたのだ。


 それでもなんとかなったのだから、いっそ、このエッセイを読んで「こんなヘタレの英語しゃべれないやつでも、海外一人で行けるんだ。ならおれも行けるかな」という自信を是非つけていってほしい。


 このいばらの道を選んだのにはもちろん理由がある。

 一つ目に、勉学のため。当時私はイタリア美術史を学んでおり、現地で本物を見る必要があった。この時ばかりは日本美術史を専攻すればよかったなと思った。私は国内旅行なら一人でも行ける(だって日本語通じるし)。だが残念ながら私の研究対象は海の外にあった。

 二つ目は、旅行会社のツアーではとんでもなくタイトなスケジュールが組まれており、一つの都市に半日しか滞在しないみたいな事になっていたから、一人で旅をするしかなかった。私の旅は、そんなスケジュールで行ってもまったくの無意味だった。なにしろ観光ではなく勉学のための旅なのだから……。




 事の起こりはこうだ。

 言い出したのは二月だった。

「イタリアいつか行きたいなあー」

 ふわふわした考えで、生きてるうちにでもイタリア行けたらいいやという程度の考えしか持たなかった私の周りに、海外旅行経験者がわらわらと寄り、

「こういう航空券とるサイトがあってー」

「ほらこの便安いよー」

「パスポート持ってないの? じゃあ先にとらないと航空券とれないねえー」

「あとホテルの予約もこういう便利なサイトがー」

 ちょっと待ってください私まだ本気で行くなんて一言も言ってないんですけど……!

 しかし気づくと私はパスポートを作りに都庁に来ていた。

 なんでだ。

 確かに自分の専攻のためにはイタリア行きは必要かもしれない、だが、別に、この便利な世の中本とかインターネットの図版あさるだけでもいいんじゃないかな?!

 と思ったけどいつの間にかパスポートが出来上がってしまったのであった……。

 ちなみに写真代をケチったら指名手配犯のような顔写真をパスポートに貼り付けるはめになった。


 とりあえず、旅慣れた友に教えてもらった航空券やホテル予約サイトで調べものもしつつ、念のため旅行会社にも行ってみた。

 この時はじめてツアーの本当に忙しいスケジュールを知る事になる。以前から海外旅行のツアー広告を見るのが好きだった私だが、そんなに詳しくスケジュールを見ていなかったのだ。

 私の専攻とするイタリア美術史の、取り上げる画家はヴェネツィアの画家で、私は特にヴェネツィアに長く滞在する必要があった。少なくとも二日はほしい。

「これこれこういう理由でーヴェネツィア行きたいんですけどー」

 旅行会社の人に聞いてみた。

「ツアーだとヴェネツィア滞在半日か一日くらいですね」

 すっくな! しかしその時の私はまだ一人旅をなんとか避ける方法を探していた。なにしろ私は人見知りかつヘタレなのだ。危ない橋は渡りたくない。今更だけど。

「もうちょっとヴェネツィア滞在するツアーってないですかね? さっきも言った通り、お勉強のために行くので」

「ないですね! 航空券とホテルだけうちで取れますけどあとは自分でうろつくか、各地のオプショナルツアーでも利用してください!」

 そんなばかな……。自分で行くのと変わらないじゃないか……。

 こうして私の最後の悪あがきは打ち砕かれた。


 さて、便利な世の中になったものでインターネットでいろんなものの予約が出来る。

 私は自分自身で飛行機と宿を取る事にした。

 ちなみに私は飛行機など、それまで一回しか乗った事がなく、しかも修学旅行で沖縄に行っただけである。完全に他人の力での飛行機予約、今度は自分一人で予約をしなければならない。

 まあ、予約自体は簡単だった。とにかく安い便を探していると、直行便より乗り換えのある便が安い事が多いと判明する。ただし、待ち時間が十時間以上などという便もあって、私は目を見開いた。

 調べているうちに、そういう長い待ち時間をあえて利用して経由地の観光もしちゃう猛者もいると分かった。それって(旅慣れていれば)お得でよくね?! と私も少し思ったが、海外旅行素人はいろいろな理由で諦めた。まあ、疲れるし怖いし。

 なんとか乗り換えありでも待ち時間そんなに長くない便を見つけて予約した。経由地はドバイ、アラブ首長国連邦であった。元々、イスラーム美術史からイスラームの文化にも興味を持っていた私はドバイ経由、悪くないなと思っていた。しかし、あんな事になるとは……(とたいした事もないのに引っぱっておく)。


 とにかく、次はホテルの予約だ。日本はもとより、世界中のホテル予約が可能とかいうとんでもなくグローバルなサイトを教えてもらったので、それを利用した。そんなサイトがあるなんて、それまで知らなかった。

 当然の事ながら私は国内のホテルの予約をした事がなかった。国内旅行にはよく行くとは言ったが、いつも日帰りか身内の家を宿代わりにしての旅行だった。

 旅慣れた人なら鼻で笑うような事だろうが、当時の私にはなにからなにまで初めて尽くしだった。

 ホテルの予約も特に問題なく出来た。ヴェネツィアに行くのは決定だが、他の都市にも行きたかったので各都市ごとに予約をとるのは少し面倒ではあった。旅慣れた友に言われ、予約した時の情報画面やホテルの地図をプリントアウトした。そんな事も言われるまで分からなかった。


 クレジットカードを初めて作ったのもこの時だ。ホテルの予約にはクレジットカードが必要だったし、海外旅行ではクレジットカードがあると便利と聞いていたからだ。


 そして旅慣れた友の他に、素人の私にいろいろな協力をしてくれたのが実弟だ。

 彼は私より少し先に初海外を体験していた。学校のなんとかツアーとかに参加してアメリカ西海岸に行っていた。

 主にお世話になったのは、旅行道具を貸してくれた事にある。彼はアメリカ西海岸のために買った自分の大きなスーツケースを貸してくれた。そしてチェーン付き財布や首から下げるパスポート入れやらも添えてくれ、換金はどこそこでしろとか言う事を教えてくれた。

 実はその頃、出発日までさほど日にちはなかった。にも関わらず私は旅行鞄ひとつ買っていなかったのだ。なんというマイペース。ただのあほだ。

 そのため弟のスーツケースをありがたく使わせてもらう事にして、ユーロも弟の言っていたところで換金しようと思った。


 そして私の恐ろしいところは、出発日当日になってから、携帯電話をスマートフォンに替えるとかいう悠長な事をやらかすところにあった――。

 出発は夜だった。前日あたりから、途方もない不安に襲われた。この、時代遅れの携帯電話とかいうやつが旅のお供で本当に大丈夫なのだろうか? と。

 迷いに迷った末、出発日の昼間にショップに飛び込んだ。

「今日海外旅行行くんですけど! スマホの方が便利かなって!」

 ちょっと急すぎやしませんかお客さん……。

 海外旅行用の代用機みたいなものもある、みたいな話も聞いた気がする。海外ではどこどこを操作しないと料金がどうのとか言われた気がする。

 でも旅立つ当日でいろいろ準備間に合うのか? 荷造りもまだ怪しい! という状態でショップに行ったので、お店の人の話があまり聞こえてこなかった。

 とりあえず適当にスマートフォンをゲット。

 今思うのはもっと余裕を持って支度しましょう、だ。

 荷造りも怪しかった。飛行機で食べる用のお菓子を入れ忘れた。わざわざそのために買ってあったのに。

 しかしながら時間にも余裕はなかった。ギリギリというほどではないにせよ、余裕たっぷりとはとても言えなかった。

 私は空港に向かう電車に乗った。


 空港、そんなものは修学旅行以来訪れた事のない地だ。なおかつあの時は教師に誘導されていればよかった。

 つまり、空港って何するところなの? という状態。

 実はこの時、海外旅行経験のある友が私の見送りに来てくれた。ちなみにホテル予約のサイトなどを教えてくれた学校の友ではない。

 この心優しき友がいなければ私は空港とかいうだだっ広いダンジョンを抜けられなかった。今でも本当にありがたく思っていて、尊敬の念がたえない。ありがとうございました。

 私はただ彼女について行くだけでよかった。

 ちなみにここでも私のダサいエピソードがひとつある。スーツケースなど機内持ち込みしない荷物にはお金など貴重品を入れてはいけないのだ。海外旅行素人は覚えておこう。テストに出る。

 荷物預かり受け付けのお姉さんが冷た〜い感じで早く出して持ち込み荷物の方に入れて。って言ってきた時は少し悲しくなった。海外旅行素人に優しくしてッ。

 ともあれ私は荷物を預ける事に成功し、心優しき友と夕飯を共にし、搭乗の時間が近づいたので友と別れる事になった。

 ありがとう友よ、あなたの恩は忘れない。

 搭乗開始までの時間を一人で過ごし、そして、私は不安の渦に呑み込まれるのであった。

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