表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《the mythical world online》  作者: 竜ヶ水 千尋
3.遅ればせながらのチュートリアル
8/24

Quest.7 「《時空の神殿前広場》」

 ◆《時空の神殿前広場》 ライカ


 俺はユイに連れられ、《時空の神殿前広場》にやってきた。

 ここは最初にあった神殿へと通じる門がある噴水前のエリアだ。

 まさか、ここに帰ってくる羽目になるとは思わなかった。


 「実はここ、チュートリアルが受けられるエリアなんですよ」

 「え゛っ!?」


 マジですか?

 余りにアレだったんで素通りしちゃいましたよ…。


 「あ、やっぱり分かり難いですよね。えーっと先輩プレイヤーが結構声掛けしてたと思うんですけど…、もしかしたら丁度全員レクチャー中だったのかも知れませんね」

 「…タイミング悪いなぁ、俺」


 いやまぁ、呆れ返ってて素通りしてたから、呼びかけが耳に届いてなかったのかも知れないけど…。


 「おっ! ユイ嬢でござるか。となると、その子がレクチャーを受け損ねた新人でござるな?」


 そう言って円形のテーブルの椅子に腰掛け、声を掛けてくる1人のプレイヤーが居た。

 長い黒髪をポニーテールに結い、着姿は剣客風、時代劇めいた口調で話すその姿はいかにも女武者といった具合だ。

 顔付きから見て、歳は20歳前後だろうか?


 「拙者の名は《アオイ》。β版からの先発プレイヤーでござるよ」


 そしてその横にはもう1人プレイヤーが座っていた。

 俺と似たような身長で紅い髪に金色の瞳。

 顔付きは女顔だが、体付きから性別は男だと分かる。

 多分、同年代だろうか?


 「そっちも今日からプレイかい?」

 「そういうあんたも?」

 「ああ、そうだね。っと先ずは自己紹介しておこうか。わたしの名前は《ミライ》」

 「俺の名前は《ライカ》だ。よろしくな」


 そう言って互いに簡単な自己紹介を済ませ、俺が椅子に座った後――。


 「拙者は《時空の神殿前広場(ここ)》には新人のチュートリアル役としてレクチャーしに来てるのでござる」

 「レクチャー?」

 「そうでござる。ユイ嬢から聞いたでござるが…チュートリアルが無くて困ってるクチでござろう?」

 「ああ。それで困ってたところをユイに連れられてきたんだ」

 「私の方は助けて貰った恩返しって形ね」


 ユイがはにかみながら答える。


 「アオイさん、この子達のレクチャーが終わったらちょっと相談に乗って貰いたい事があるのだけど…良い?」

 「構わぬでござるよ。ついでに復習がてら、レクチャーを聞いていくと良いでござろう」


 そう言って、アオイはユイにもレクチャーの受講を促した。


 「ええ、そうさせて貰います」


 そう言って、ユイも椅子に腰を下ろした。


 「そういや、なんでプレイヤーがレクチャーなんてやってるんだ?」


 そう疑問を口にした。

 普通、運営側が用意するんじゃ?


 「それに答えるには先ず、この問いからでござろうか? 《the mythical world online》はチュートリアルが無い。何故だと思うでござるか?」

 「いや、俺にはサッパリ」

 「わたしもだ」


 これについてはサッパリ分からない。

 それはミライも同じ様だ。

 ユイは隣でクスクス笑っている。

 どうやら、アオイがこの問いかけをしてくることを知っていた様だ。


 「答えは簡単、コミュニケーションのためでござるよ」

 「「コミュニケーション?」」

 「VRとはいえ、折角のMMORPGでござろう? コミュニケーション取らないと面白くないではござらぬか。コミュニケーションを取りやすくするために、わざとチュートリアルが無いのでござる。その代わりに拙者達の様なβ版プレイヤーや少しでも先に進んだプレイヤーが教えに来る仕組みになっているのでござる」

 「でもそれって俺達後発組にしてみれば有り難いけど、先発組はメリットが無いんじゃ?」

 「いや、メリットはちゃーんとあるのでござる」


 そう言ってアオイはニヤリと笑った。


 アオイ曰く、元々β版にはチュートリアルはあったらしい。

 しかし、正式オープン前に全プレイヤーに運営からあるメッセージが届いた。

 メッセージ内容はコミュニケーションをより円満に行うため、正式版からは運営側が用意するチュートリアルを極力廃し、β版プレイヤーに新人プレイヤーの教育役を務めて欲しいとのこと。

 また、教育役になったプレイヤーは新人プレイヤーが一定期間の間だけ所持している《ベルフラワー》というアイテムを受け取ることで、システム内部のある数値が加算され、特定の神々からの《加護》が受けられやすくなるということ。


 「つまり、ちゃーんと見返りはあるのでござる。今は後発組が大勢来ている上、先発組も暇してるでござるからな。運営側が用意した、先発組へのボーナスタイムという訳でござるよ」

 「アオイ達はその見返りが目的なのか?」

 「そういう者もいれば、違う者もいるでござるな。ちなみに拙者は違う方でござる」

 「じゃあアオイさんは何が目的なんだい?」

 「単純にフレンド作りでござる。将来的には情報交換も頼みたいのでな。他の者はクラン作りのために新人を囲い込もう、って腹づもりでござろうな」

 「『クラン』って…、別のゲームで言うところの『ギルド』のことか?」


 ギルドってのは中世ヨーロッパで、技術の独占などのため、親方・職人・徒弟から組織された同業者の自治団体、クランは氏族なんかの集団を指す言葉だったハズだ。

 MMORPGじゃ、ある一定の目的を持つ者の集団、って感じで同じ意味として使われてるハズだが…。


 「その通りでござるよ。このゲームには運営側が用意した『ギルド』が有る故、『クラン』が『ギルド』に当たるのでござる。今は始まったばかり故、先を見据えてフレンドになっておこうって感じでござろうか?」


 なるほど、みんな色々考えてやってるんだな。


 「このゲームの『ギルド』は色々あって、各ギルド毎に扱う《クエスト(依頼)》が違うなど、後々色んなことに関係してくる故、覚えておくと良いでござるよ」

 「具体的にはどんな風に関係するんだい?」


 そう言って今度はミライが質問してみた。


 「色々でござる。…この辺を説明するには他の事を教えておかぬとややこしくなる故、そっちを先に説明したいが良いでござろうか?」


 そう言ってアオイは難しそうな顔をしていた。

 どう説明しようか、って感じで迷ってる表情だな。


 「分かった、じゃあ後回しにしてくれて構わないよ」

 「そうしてくれると助かるでござる。それじゃあ早速、レクチャーするでござるよ」


 そう言って、アオイは俺達にレクチャーを開始したのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ