Quest.7 「《時空の神殿前広場》」
◆《時空の神殿前広場》 ライカ
俺はユイに連れられ、《時空の神殿前広場》にやってきた。
ここは最初にあった神殿へと通じる門がある噴水前のエリアだ。
まさか、ここに帰ってくる羽目になるとは思わなかった。
「実はここ、チュートリアルが受けられるエリアなんですよ」
「え゛っ!?」
マジですか?
余りにアレだったんで素通りしちゃいましたよ…。
「あ、やっぱり分かり難いですよね。えーっと先輩プレイヤーが結構声掛けしてたと思うんですけど…、もしかしたら丁度全員レクチャー中だったのかも知れませんね」
「…タイミング悪いなぁ、俺」
いやまぁ、呆れ返ってて素通りしてたから、呼びかけが耳に届いてなかったのかも知れないけど…。
「おっ! ユイ嬢でござるか。となると、その子がレクチャーを受け損ねた新人でござるな?」
そう言って円形のテーブルの椅子に腰掛け、声を掛けてくる1人のプレイヤーが居た。
長い黒髪をポニーテールに結い、着姿は剣客風、時代劇めいた口調で話すその姿はいかにも女武者といった具合だ。
顔付きから見て、歳は20歳前後だろうか?
「拙者の名は《アオイ》。β版からの先発プレイヤーでござるよ」
そしてその横にはもう1人プレイヤーが座っていた。
俺と似たような身長で紅い髪に金色の瞳。
顔付きは女顔だが、体付きから性別は男だと分かる。
多分、同年代だろうか?
「そっちも今日からプレイかい?」
「そういうあんたも?」
「ああ、そうだね。っと先ずは自己紹介しておこうか。わたしの名前は《ミライ》」
「俺の名前は《ライカ》だ。よろしくな」
そう言って互いに簡単な自己紹介を済ませ、俺が椅子に座った後――。
「拙者は《時空の神殿前広場》には新人のチュートリアル役としてレクチャーしに来てるのでござる」
「レクチャー?」
「そうでござる。ユイ嬢から聞いたでござるが…チュートリアルが無くて困ってるクチでござろう?」
「ああ。それで困ってたところをユイに連れられてきたんだ」
「私の方は助けて貰った恩返しって形ね」
ユイがはにかみながら答える。
「アオイさん、この子達のレクチャーが終わったらちょっと相談に乗って貰いたい事があるのだけど…良い?」
「構わぬでござるよ。ついでに復習がてら、レクチャーを聞いていくと良いでござろう」
そう言って、アオイはユイにもレクチャーの受講を促した。
「ええ、そうさせて貰います」
そう言って、ユイも椅子に腰を下ろした。
「そういや、なんでプレイヤーがレクチャーなんてやってるんだ?」
そう疑問を口にした。
普通、運営側が用意するんじゃ?
「それに答えるには先ず、この問いからでござろうか? 《the mythical world online》はチュートリアルが無い。何故だと思うでござるか?」
「いや、俺にはサッパリ」
「わたしもだ」
これについてはサッパリ分からない。
それはミライも同じ様だ。
ユイは隣でクスクス笑っている。
どうやら、アオイがこの問いかけをしてくることを知っていた様だ。
「答えは簡単、コミュニケーションのためでござるよ」
「「コミュニケーション?」」
「VRとはいえ、折角のMMORPGでござろう? コミュニケーション取らないと面白くないではござらぬか。コミュニケーションを取りやすくするために、わざとチュートリアルが無いのでござる。その代わりに拙者達の様なβ版プレイヤーや少しでも先に進んだプレイヤーが教えに来る仕組みになっているのでござる」
「でもそれって俺達後発組にしてみれば有り難いけど、先発組はメリットが無いんじゃ?」
「いや、メリットはちゃーんとあるのでござる」
そう言ってアオイはニヤリと笑った。
アオイ曰く、元々β版にはチュートリアルはあったらしい。
しかし、正式オープン前に全プレイヤーに運営からあるメッセージが届いた。
メッセージ内容はコミュニケーションをより円満に行うため、正式版からは運営側が用意するチュートリアルを極力廃し、β版プレイヤーに新人プレイヤーの教育役を務めて欲しいとのこと。
また、教育役になったプレイヤーは新人プレイヤーが一定期間の間だけ所持している《ベルフラワー》というアイテムを受け取ることで、システム内部のある数値が加算され、特定の神々からの《加護》が受けられやすくなるということ。
「つまり、ちゃーんと見返りはあるのでござる。今は後発組が大勢来ている上、先発組も暇してるでござるからな。運営側が用意した、先発組へのボーナスタイムという訳でござるよ」
「アオイ達はその見返りが目的なのか?」
「そういう者もいれば、違う者もいるでござるな。ちなみに拙者は違う方でござる」
「じゃあアオイさんは何が目的なんだい?」
「単純にフレンド作りでござる。将来的には情報交換も頼みたいのでな。他の者はクラン作りのために新人を囲い込もう、って腹づもりでござろうな」
「『クラン』って…、別のゲームで言うところの『ギルド』のことか?」
ギルドってのは中世ヨーロッパで、技術の独占などのため、親方・職人・徒弟から組織された同業者の自治団体、クランは氏族なんかの集団を指す言葉だったハズだ。
MMORPGじゃ、ある一定の目的を持つ者の集団、って感じで同じ意味として使われてるハズだが…。
「その通りでござるよ。このゲームには運営側が用意した『ギルド』が有る故、『クラン』が『ギルド』に当たるのでござる。今は始まったばかり故、先を見据えてフレンドになっておこうって感じでござろうか?」
なるほど、みんな色々考えてやってるんだな。
「このゲームの『ギルド』は色々あって、各ギルド毎に扱う《クエスト》が違うなど、後々色んなことに関係してくる故、覚えておくと良いでござるよ」
「具体的にはどんな風に関係するんだい?」
そう言って今度はミライが質問してみた。
「色々でござる。…この辺を説明するには他の事を教えておかぬとややこしくなる故、そっちを先に説明したいが良いでござろうか?」
そう言ってアオイは難しそうな顔をしていた。
どう説明しようか、って感じで迷ってる表情だな。
「分かった、じゃあ後回しにしてくれて構わないよ」
「そうしてくれると助かるでござる。それじゃあ早速、レクチャーするでござるよ」
そう言って、アオイは俺達にレクチャーを開始したのだった。