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《the mythical world online》  作者: 竜ヶ水 千尋
1.プロローグ
2/24

Quest.1 「紅月天華」

 ◆7月某日 《??の自室》 ????


 「やっとプレイ出来る」


 僕、紅月天華(アカツキテンカ)は今朝届いたばかりのゲーム用アイディール《オネイロス》とゲームパッケージである《the mythical world online》を前に呟いた。


 「これで長年の夢が叶う!」


 今は夏休み、両親も久々に揃って出かけて留守にしてるし、クーラー完備の自室は快適。

 絶好の機会だ。

 振り返れば、この2つを手に入れるまでのこの3ヶ月が長かった様で短くも感じる。


 ――僕は体が弱い。

 より正確に言えば、運動を余り行うことが出来ない体質っていったところかな?

 詳しい事は良く分からないけど、小学3年生頃に肺炎を煩ったことが原因で肺がかたくなって縮小、呼吸困難を起こし易いらしい。

 そのため軽い運動なら未だしも、短距離走などの無酸素運動は元より持久走などの有酸素運動も行うことが出来ない。

 やれば体感的には、陸上にいながら『溺れる』感覚を味わうこととなる。


 そのため、小中と体育の授業は見学が主だった。

 高校に入って3ヶ月たった今でもそうだ。

 そして何より辛いのは、友達と一緒に遊ぶことすら出来ない事だ。

 そのせいで僕は友達が少なかった。

 友達を作ろうとしても、一緒に体を動かして遊ぶことすら出来やしないからだ。

 無茶してしまったせいで呼吸困難を起こして病院に搬送されてしまい、他の子が僕と距離を取ってしまったことすらある。

 それ以来、僕は虚しさを紛らわすために読書と勉強、祖父から教わっていた武術の軽い運動を呼吸困難を起こさない程度に勤しんできた。


 そうして高校に入学した頃、たまたま読んだ経済誌の特集でゲーム用アイディール《オネイロス》が発売された事を知った。

 それほどゲームに興味はなかった僕だけど、革新的な進歩を遂げ続けているフルダイブシステムなら話は別だ。


 フルダイブシステムならば、この不自由な体でも自由に動き回れる!


 そう思い、手の届く位置まで実用化されるのをずっと待っていたから。

 しかし時既に遅し、この時点で僕は自分の甘さを悟る羽目になった。


 こんな新世代ゲーム機、ゲーマーが見逃すはずがないじゃないか!


 案の定、初回ロットは全て予約済みで購入することが出来ず、どこもかしこも品切れ状態。

 転売も横行し、プレミア価格が付くほど高騰してしまっていたのだ。

 両親から株や投資を学び、そこそこ稼いでいたので資金は潤沢、買えなくもなかったのだが…、転売品を買うのは仁義に劣ると思い、次のロットまで我慢を重ね、各種ゲームタイトルの情報を集めていたのだった。


 そんな僕が最終的にチョイスしたのは《the mythical world online》。

 完全スキル制の純国産VRMMORPGでつい最近、β版が終わったばかりのタイトルだ。

 内容はタイトル通り、幾つもの神話の世界をモチーフにしたVRMMORPG。

 システムは基本スキルから幾つもに派生するエクストラ(EX)スキル、異なるスキル同士が融合するユニゾン(UN)スキル、そしてこのゲーム最大の目玉は各神話の神々からの《加護》だ。

 プレイヤーは各神話における英雄という扱いになり、色々なクエストや冒険をこなしていく。

 その過程における立ち振る舞いが、神々の好みと一致すれば特定の神の《加護》を得るという物だ。

 この完全スキル制と派生要素、ランダム要素の強い《加護》によって公平性を保ちつつもオンリーワンなスタイルとなっていくらしい。

 まだ詳しい情報はネット上にアップされてないから、今分かっているのはこんな所だ。

 余りゲームをやらない僕がこのゲームをチョイスしたのは本を読み漁っていたので色々な神話を知っていて取っつきやすかったのもあるけど、それ以上に完全スキル制に惹かれたから。

 調べてみるとこの手のゲームはクラス制やLv制とかと違って武器や防具、各種パラメーターなどの自由度が高い。

 その自由度の高さ故に初心者はどうしたら良いか分からず、敷居が高いと言われているけど、そもそも僕はゲームの中だけでも良いから自由に体を動かしたいだけだ。

 そうなると必然的にどういう構成にすれば良いか大体分かる。

 全く問題無し、そんな訳で僕はこのゲームをチョイスしたのだ。


 「それじゃあ早速準備を始めるかな」


 一通り《オネイロス》の取り扱い説明書を読み終わると、説明書通りに《オネイロス》をパソコンにリンク。

 初回設定として身長や体重などのパーソナルデータを入力し、パソコン経由で《the mythical world online》を《オネイロス》へとインストールした。

 どうやらパーソナルデータの変更とゲームのインストールだけはパソコン経由でないと駄目らしい。

 後はパーソナルデータは出来るだけ正確に入力するよう注意書きがされてある。

 ここに齟齬が出るとVRスペースと現実世界との間で認識に齟齬が起こるため、非常に危険らしい。

 幾ら脳波や神経伝達を読み取るったって、身長なんかは《オネイロス》じゃ判別出来ないだろうしね…。

 出来るだけ正確に入力しておこう。


 そういえばパーソナルデータに性別の項目が無かったけど…、どうやら脳波や神経系を感知、アクセスした時に自動的に判別、登録されるみたいだね。

 これは下手にパーソナルデータの入力項目に盛り込むと、ネカマやネナベをやる人がいて危険だと判断したんだろう。

 きっと検証実験もされてるだろうし、《オネイロス》に任せておけば大丈夫だろうかな?


 その後、《オネイロス》とパソコンのリンクを解除し、《オネイロス》にネット回線や電源ケーブルを接続。

 これで後は《オネイロス》自身がインストールしたゲームのアップデートを自動でやってくれる。

 最後に《オネイロス》を被り、顔の形をスキャニングして準備完了っと。


 「これで準備は完了」


 早速プレイしたいけど、時間は…13時を少し回ったぐらいか。

 確かセッティングを始めたのが10頃だったから、此処までで3時間程度。

 パーソナルデータ登録時に軽くサンドイッチをつまんでてお腹も減ってない。

 父さん達は帰ってくるのは19時頃って言ってたハズ…。

 丁度良いし、このまま一度やってみよう

 僕はケーブルが首や互いに絡まないよう配慮しつつ、ベッドに寝転がった。

 そして起動コードを唱える。


 「《オネイロス》、PROGRAM DRIVE!」


 そう唱えると僕の意識は吸い込まれるように深く沈んでいった。

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