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家出には成功したが……

異世界に来てから一ヶ月ほどが過ぎた。


最初の頃はトイレすらうまく出来なかったが、この頃になると普通にこなせるようになっていた。

街並みやこの世界の独特な雰囲気、そしてこの家の身分と今の容姿の自分としてのあり方にも慣れてきたこの頃、俺には一つの目標が出来ていた。


何って? 家出だよ。


庶民生まれの俺にはどうもこの貴族特有の、ビシッと厳格的な空気は合わないのだ。

なんというか、とても堅苦しい。

このままでは精神に異常をきたす気がする。

他にも許嫁とか、習い事とか、マナーのこととか、とにかく面倒くさいことしか無い。


それも、全部この家にいるせいだ。


窓の外にはにこやかに挨拶を交わす町商人や一般ピーポーたちの姿が広がっている。

この世界には自由が広がっているはずなのだ。


それに、俺は最近ある悩みがある。

もしかしたら、その悩みも外の世界に出れば治す方法を見つけることができるかもしれない。


そう思って俺は家出を決意していた。



「今日の朝食はスクランブルエッグ、ソーセージに……」


朝。メイドが朝食のメニューを読み上げる。


俺はそれにあまり耳を傾けずに思案に耽っていた。


決行日は今日だ。

前々から聞いていた予定では、確か今日はドアールが農園だかの視察でいないはずだ。

それに、今日はなんか祝日らしくて使用人も少ない。 家出するなら今日が絶好だろう。


「おい、ネミルヴァ。 前々から言っていたが今日は視察がある。 祝日だから使用人も少ないから自分のことはできる限り自分でやりなさい」

「わかっています」


わかっているとも。

今日に備えてこの家を出た後のことについても準備していたのだから。

決行時刻は夜。 夕飯を食べた後だ。

ただでさえ少ない使用人が片付けをしている時間帯を狙う。


「では、先に食べ終わったので部屋に戻ってますね」


そう言うとガタリ立ち上がって自室に向かう。

最初の頃はこの屋敷の広さに戸惑っていたが、今なら自分の部屋くらい迷わず行ける。

まぁ、まだわからん場所も多いが。


問題なく自分の部屋に着いたら、内側からガチャリと備え付けの鍵を掛ける。 念のためだ。


クローゼットのタンスの裏に隠してあった家出ように準備してあったバックを取り出して、最終確認をする。


「えー、とりあえず、水と保存食事に金。そして服一式に歯ブラシ。あとは……一応くしとかも持ってくか」


女の子は色々と大変なのはこの一ヶ月で実感したことだ。 髪の手入れやおめかしやら。 最初こそこの身体に興味はあったが、1週間くらい色々と弄ってみたり弄ったりしていたら流石に飽きる。 いや、別に俺はロリコンじゃないぞ……。


「男に戻りてぇなぁ……」


バックの中に詰めていくと実感するのだが、やっぱり女だから必要、というものが多い。

女って本当に面倒くさい。


「……まぁ、こんなもんで大丈夫だろう」


荷物を粗方整理してふっと一息つく。

あとは夜まで少し寝ておくとするか。


そうして俺は最後になるであろう安眠を得るため、フカフカのベッドに横になってやがて眠りについた。




屋敷の窓が夜風でカタカタと揺れている。


ついに夜になった。

屋敷の中はシーンと静まり返っている。


俺はベットからこっそりと起きると、クローゼットの中から比較的に動きやすそうな服を探す。


全体的に黒っぽいシャツと、七分丈の薄い青色のズボンを見つけ、それを下着の上から身につける。


よし。

一応、この世界のことについては大体を本で確認してある。

この身体の年齢は確か9歳。


この世界では、12歳から成人であり、10歳になれば冒険者ギルドなる物にも加入できると書いあった。 故に、9歳のこの体躯でもやっていけると考えている。


「……だが、やっぱり女だと危ないよな」


机の引き出しから美しい流線美を描く、如何にも業物そうなハサミを取り出す。


「髪切れば男っぽく見えるかな……」


月の光だけが窓から差し込む中、俺は自分の顔を見るため鏡に向かい合う。


うーむ、それにしても本当に可愛い顔をしている。 正直髪を切るには勿体無いが……


「しょうがねぇーよな……」


一言そう呟くと、髪束に掴んでバッサリと横髪を耳のところで切り揃える。


掴みきれていなかった髪が、パラリと床に落ちる。 月明かりを銀色に反射していて何処と無く儚く見えた。


そのまま左右共に耳の辺りに揃え、後ろ髪は襟の部分で揃える。 切った髪は束にしてベッドの下に隠しておこう。


そうしてから、一応ということでクローゼットの中から茶色い地味なベレー帽を取り出してかぶる。 うん、いい感じだ。


「よし。じゃあ、行くとするか」


準備もできた。トイレもしてきた。

あとは家を出るだけだ。


屋敷が夜の闇に包まれる中、小さな影がそろりと動き出した。



家出は想像よりも容易く成功した。


見張りは一人。

それも、この間書庫まで案内してもらうはずが迷子になった間抜けそうな兵士一人。

ヌルゲー過ぎ。


幾ら祝日で人が少ないからってもう少し厳重だと思っていた自分がアホらしい。


まぁ、そんな感じで簡単に家を抜け出した俺が一番最初に向かったのは冒険者ギルドだった。

冒険者ギルドで冒険者登録が出来るのは10歳からということだが、別に9歳なら詐称も簡単だろう。 いや、そんなことの心配より……


「…あー、あー。 子供だし大丈夫か?」


男に変装しているのに、妙に声が高い。

だか、10歳と言えばまだ第二次成長期前なので問題もないだろう。


そんな感じで、家出から20分くらいだっただろうか。 色々なことを考えながら走っていたの周りに意識が向いていなかったせいもあるだろう。 ……どうやら俺は迷ったらしい。


「何処だここ……」


おかしい。

自分の部屋の窓から見た感じ、一直線に行けば冒険者ギルドにつくと思っていたんだが……


周りは細い路地に挟まれている。

狭い小道だ。

何処だよここ……


完全に迷子になったことを悟ると全身からブワッと冷や汗が噴き出した。

場所が場所なだけに、怖い男の人が湧いてきそうなところだから。


気付いたら足がガクガク震えていた。


暗く、風が吹き込む路地。

何処からか、本当に幽霊でも出てきそうな……



っと、その時。


肩にポンっと、手を置かれた。


「!?」


驚いて振り返ると、そこには……





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