Episode 1
Episodeのときは番外編です。
三人称だったり一人称だったり、童話みたいだったり色々な書き方で書いてます。
サブタイトルが思いつかない…せめて番外編だけでも、と思うのですが…
番外編のサブタイトル募集中です。
八月一日。
その日は、彼――田辺幸太の思い人の誕生日だ。
五年前にいきなり消え、その子の父親と幸太だけしか記憶に残っていない、彼女。
幸太は、彼女のことをまだ諦められずにいた。
「おじさん、おじゃまします」
「おお、今年も来てくれたんだね」
彼女の誕生日――――彼女が消えてしまった日。
その日に彼女の家に来るのが、毎年の事になっている。
彼女が消えたのは、皮肉にも幸太が告白しようとした日だった。
だが、バイトが長引き、夜に訪れたときにはもう居なかった。
夏休みが終わったあと、学校の友人に尋ねてみても、皆知らないと口をそろえて言うのだった。
「……っ美琴」
なぜ俺の前から居なくなったんだ、と小さくつぶやく。
そのつぶやきは、誰にも聞こえることなく、蝉の声にかき消された。
「なんで、なんであいつなんだよ……!」
後悔と懺悔、そして怒りが、幸太の中で渦巻く。
涙が出そうになるが、幸太はその思いとは裏腹に、どうしようもない自分を笑った。悲しくて、悔しくて、何も出来ないのが腹立たしかったあの時の自分を思い出し、自嘲の笑いを浮かべた。
幸太の鞄につけている、彼女からもらった不恰好なお守りが、揺れた。
*
「もう、五年か……」
「長いようで、短かったねぇ」
あの時高校三年生だった幸太は、もう大学生になった。
美琴の父親は、五十歳を過ぎてしまっている。
「あの子には、辛い思いをさせてしまったよ」
そう言った美琴の父は、どこか寂しそうだ。
「俺も……っ、あいつの事、なんも分かってなかった……!」
ギュッと握り締めた拳。そこからでも、幸太の感情が良く分かる。
「中学んとき、あいつに『親友になってやる』って、言ったのに……! そんなもん……っ、なれてねーのに!」
ダンッ、と、握り締めた拳を机に振りかざす。
その様子を、美琴の父は黙って見ていた。
暫くたって、その拳は、力なく緩められた。
「あいつは……『親友なんてすぐなれるもんじゃないよ』って笑ってたっけ。それでも、俺はあいつの笑顔を見たくて……頼ってほしくて、一人で悩んでほしくなくて!」
また強く握り締められた拳。その拳に、ポタリ、ポタリと涙が零れ落ちる。
拭っても拭っても、その涙は止まることを知らなかった。
「もう……戻らないかも知れない、いや、戻らないのに……なんででしょうね、どっかで信じてるんすよ……」
「あぁ……私も、だよ」
そう言った美琴の父の目から、涙が零れ落ちた。
蝉が、空しく鳴き続けた。
*
「おじさん、最後に美琴の部屋見て行っていいっすか」
「ああ、あの時と何も変わらないままだから、持って帰りたいものがあれば持って行っていいよ」
彼女の部屋の扉をそっとあけ、電気をつける。
本当に何も変わらない、五年前のままだ。まるで、そこだけ時間が止まっているかのようだ。
「もう……本当に居ないんだよなぁ……」
その声が、部屋の中に響く。
ふと、幸太はあることに気づいた。
「あれ……このゲーム機、電源入ってる?」
五年前は気が動転して気がつかなかったのだろうか、などと考えるが、五年も前から電源が入っているのなら、普通は充電が切れ、強制的に電源が落ちているはずだ。だが、画面横にある充電残量を示す光は、まだ充電をしなくていい、という光を放っていた。ゲーム画面は暗いままなのに、幸太が電源が入っていることに気づいたのは、それを見たからと言えるだろう。
不思議に思ってゲーム機を覗き込むと、その瞬間にゲーム画面が光った。
「うわっ、なんだよこれ!」
吃驚してゲーム機から手を離してしまう。その光は、三十秒足らずで消えた。
疑問に思いもう一度手に取るが、もう何の反応もない。
「……これ……持って帰るか」
そう呟いて、鞄の中に入れた。つっこんだといったほうが合っているか。
「おじさん、今日はもう帰ります。お邪魔しました」
「いや、きみが来てくれて美琴も喜んだと思うよ」
「いやいや、まだ死んでないはずですって、そんなこと仰らないでくださいよ」
そんなやり取りをしたのち、幸太は帰っていった。
その後、幸太を見た人は居なかった。幸太も、そして美琴も、完全に知っている人は居なくなっていた。