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乙女ゲームの逆ハーレムが、こんなのだとか聞いてない。  作者: 浅春風花
第一章 ~幼少期~
7/9

Episode 1 

Episodeのときは番外編です。

三人称だったり一人称だったり、童話みたいだったり色々な書き方で書いてます。

サブタイトルが思いつかない…せめて番外編だけでも、と思うのですが…

番外編のサブタイトル募集中です。


 八月一日。

 その日は、彼――田辺(たなべ)幸太(こうた)の思い人の誕生日だ。

 五年前にいきなり消え、その子の父親と幸太だけしか記憶に残っていない、彼女。

 幸太は、彼女のことをまだ諦められずにいた。


「おじさん、おじゃまします」

「おお、今年も来てくれたんだね」

 彼女の誕生日――――彼女が消えてしまった日。

 その日に彼女の家に来るのが、毎年の事になっている。


 彼女が消えたのは、皮肉にも幸太が告白しようとした日だった。

 だが、バイトが長引き、夜に訪れたときにはもう居なかった。

 夏休みが終わったあと、学校の友人に尋ねてみても、皆知らないと口をそろえて言うのだった。


「……っ美琴」

 なぜ俺の前から居なくなったんだ、と小さくつぶやく。

 そのつぶやきは、誰にも聞こえることなく、蝉の声にかき消された。


「なんで、なんであいつなんだよ……!」

 後悔と懺悔、そして怒りが、幸太の中で渦巻く。

 涙が出そうになるが、幸太はその思いとは裏腹に、どうしようもない自分を笑った。悲しくて、悔しくて、何も出来ないのが腹立たしかったあの時の自分を思い出し、自嘲の笑いを浮かべた。

 幸太の鞄につけている、彼女からもらった不恰好なお守りが、揺れた。


 *


「もう、五年か……」

「長いようで、短かったねぇ」

 あの時高校三年生だった幸太は、もう大学生になった。

 美琴の父親は、五十歳を過ぎてしまっている。


「あの子には、辛い思いをさせてしまったよ」

 そう言った美琴の父は、どこか寂しそうだ。


「俺も……っ、あいつの事、なんも分かってなかった……!」

 ギュッと握り締めた拳。そこからでも、幸太の感情が良く分かる。


「中学んとき、あいつに『親友になってやる』って、言ったのに……! そんなもん……っ、なれてねーのに!」

 ダンッ、と、握り締めた拳を机に振りかざす。

 その様子を、美琴の父は黙って見ていた。


 暫くたって、その拳は、力なく緩められた。

「あいつは……『親友なんてすぐなれるもんじゃないよ』って笑ってたっけ。それでも、俺はあいつの笑顔を見たくて……頼ってほしくて、一人で悩んでほしくなくて!」

 また強く握り締められた拳。その拳に、ポタリ、ポタリと涙が零れ落ちる。

 拭っても拭っても、その涙は止まることを知らなかった。


「もう……戻らないかも知れない、いや、戻らないのに……なんででしょうね、どっかで信じてるんすよ……」

「あぁ……私も、だよ」

 そう言った美琴の父の目から、涙が零れ落ちた。


 蝉が、空しく鳴き続けた。


 *


「おじさん、最後に美琴の部屋見て行っていいっすか」

「ああ、あの時と何も変わらないままだから、持って帰りたいものがあれば持って行っていいよ」


 彼女の部屋の扉をそっとあけ、電気をつける。

 本当に何も変わらない、五年前のままだ。まるで、そこだけ時間が止まっているかのようだ。


「もう……本当に居ないんだよなぁ……」

 その声が、部屋の中に響く。

 ふと、幸太はあることに気づいた。


「あれ……このゲーム機、電源入ってる?」


 五年前は気が動転して気がつかなかったのだろうか、などと考えるが、五年も前から電源が入っているのなら、普通は充電が切れ、強制的に電源が落ちているはずだ。だが、画面横にある充電残量を示す光は、まだ充電をしなくていい、という光を放っていた。ゲーム画面は暗いままなのに、幸太が電源が入っていることに気づいたのは、それを見たからと言えるだろう。

 不思議に思ってゲーム機を覗き込むと、その瞬間にゲーム画面が光った。


「うわっ、なんだよこれ!」

 吃驚してゲーム機から手を離してしまう。その光は、三十秒足らずで消えた。

 疑問に思いもう一度手に取るが、もう何の反応もない。

「……これ……持って帰るか」

 そう呟いて、鞄の中に入れた。つっこんだといったほうが合っているか。


「おじさん、今日はもう帰ります。お邪魔しました」

「いや、きみが来てくれて美琴も喜んだと思うよ」

「いやいや、まだ死んでないはずですって、そんなこと(おっしゃ)らないでくださいよ」

 そんなやり取りをしたのち、幸太は帰っていった。


 その後、幸太を見た人は居なかった。幸太も、そして美琴も、完全に知っている人は居なくなっていた。



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